ウェブ上の漱石                                         藤堂尚夫           

 

はじめに  


インターネットの普及はめざましく、教育現場でも、「情報」という科目が設定されることが決まり、メディアリテラシーの必要性が説かれることが多くなってきた。今や、インターネットをはじめとするメディアを使いこなせなければならない時代になってきたとも言える。コンピュータを使った授業の報告は、膨大な量に上っている。インターネットから情報を得て、調べ学習を行うのは、最も典型的な授業例なのであろう。インターネット上に公開されている情報を手に入れるのは容易だが、必ずしもすべてが有用なものとは言い難いし、時に誤った情報も流されさえする。 インターネット上の近代文学に関する情報は、近年、豊富になってきている。たとえば、日本近代文学会「日本近代文学」では、第59集(H10.10)に「近代文学研究に関するインターネットのインフラ整備を……」(木村功・信時哲郎)(http://www2a.biglobe.ne.jp/~kimura/papers/infra.htm木村・http://www.kobe-yamate.ac.jp/~tetsuro/infra.htl信時)第61集(H11.10)「インターネットと研究」(八木惠子)(http://www.kyy.saitama-u.ac.jp/~yagi/event/LECT4.html)第64集(H13.5)には「フェミニズム・インターネット・文学研究」(根岸康子)が「展望」欄に掲載されており、ホームページ(以下HPと略す)を作製している近代文学研究者のインターネット活用の提言がなされてきている。 実際、HPにおいても、質・量ともに充実してきてはいる。研究論文の一部や、参考文献リストを公開したり、写真などにより、文学作品関連のものを紹介したりしている。それとて、多くの場合、個人的な興味の範囲内であり、今のところも情報は、決して研究の現状を優れて映し出すものはないといってよいだろう。しかしながら、近代文学関係のHP作成者の営為によって、将来的には研究の現状を克明に反映した近代文学研究についての情報が、インターネットから得ることができるようになるに違いない。 本稿では、夏目漱石に関するインターネット上の情報を紹介し、研究や授業に役立つことを目的としたい。なお、稿者は、「ウェブ上の夏目漱石(暫定版)」(http://www.mitene.or.jp/~takalin/souseki.htm)を作製しており、このページの情報を元に稿をなす事をお断りしておきたい。また、HPはURLの変更、消失の可能性が多く、紹介する情報は、H13.7.9現在である事をご承知いただきたい。 
 

 漱石に関する情報量


  他の近代文学の作家に比して、漱石に関する情報を載せているHPは多いと言わざるをえない。このことは一面では、有益情報の多さを物語っているが、逆に無益な情報も多いということになる。試しに、代表的な検索エンジンで、その情報量を確かめてみたい。 ディレクトリー型で、登録制であるYAHOO JAPAN(以下YAHOOと記す)(http://www.yahoo.co.jp/)では、「漱石」22件「太宰治」22件「宮沢賢治」37件「芥川龍之介」11件であった。ロボット型の検索エンジンによる検索を行うgoo ( http://www.goo.ne.jp/)では、「漱石」20229件「太宰治」9219件「宮沢賢治」15440件「 芥川龍之介」7110件であった。YAHOOは、作成者もしくは推薦者が登録を申し込み、審査の上紹介コメントをYAHOO側でつけて登録するため、主たる情報によってしか検索されない傾向にある。「太宰治」「宮沢賢治」の場合は、太宰・賢治に内容を絞ったページが多く見られるため、漱石関連の情報はそれほど多くないように見える。しかし、gooのように、無作為に関連する内容が書かれているHPを探し出す場合には、一部に漱石が扱われている場合も拾い出してくる。(よって、情報の量は多いが、必ずしも有益なものばかりとはかぎらない。)何らかの形で漱石の情報を提供しているHPは、他の作家に関するものより多いことがわかる。他のロボット型の検索を行うものでも、ほぼ同様の結果を示している。(注1) いずれにしても漱石関連の情報の多さは納得されることであろうが、有益な情報を得るためには、一般的な検索だけでは、なかなかむずかしい(注2)ということも言えるのである。漱石関連の情報に関しては、交通整理が必要と思えてくる。 
注1
 他の検索は、exite「漱石」7156件「太宰治」  824件「宮沢賢治」14832件「芥川龍之介」6101件、フレッシュアイ「漱石」856件「太宰治」   583件「宮沢賢治」803件「芥川龍之介」360件  インフォシーク「漱石」18578件「太宰治」8688件「宮沢賢治」15996件「芥川龍之介」7395  件  exiteは漱石は他に比べ件数が少ないが、フレッシュアイとインフォシークはgooと同様の傾向である。
注2 
検索エンジンには、絞り込んだ検索ができるようになっているものが多い。たいていは、キーワードを複数使うものである。詳しくは、それぞれのHPを参照されたい。
 

漱石専門ページ 


 「漱石」に関してのまとまった情報を提供してくれるHPがある。まずそういう漱石専門ページを紹介しておきたい。 近代文学研究者のHPとしては、木村功「AREA SOSEKI」(http://www2a.biglobe.ne.jp/~kimura/)がある。題名にも漱石(SOSEKI)とあるが、漱石の情報を中心としながらも、漱石以外の情報も豊富である。その中の「漱石文学・その他の研究」(http://www2a.biglobe.ne.jp/~kimura/sosekistudy.htm)は、まとまった情報をもたらしてくれる。(このページからリンクを張られているページのURLは省略する。以下、同様の場合は、表紙・目次に当たるページのみURLを記すことにさせていただく)まず紹介しておきたいのが、「漱石文学のお勉強 REPORT&PAPER」である。副題からもわかるように、論文・レポート作成に当たって必要な事がまとめられている。研究において便利なのは、「研究論文のデータベース」であろう。1989年度より2001年度まで、発表月により、雑誌・紀要論文のデータを掲載している。インターネット上で公開されている論文にはリンクが貼られているものもある。他にも「夏目漱石年譜」「正岡子規年表」は活用に足るものである(このページのテクストデータ・既発表論文については、後述)また、情報交換の場である「掲示板」(http://www2a.biglobe.ne.jp/~kimura/board/board.cgi)では、漱石関連の話題が多い。 漱石留学の地ロンドンにはロンドン漱石記念館があるが、館長の恒松郁生作製のページ「ロンドン漱石記念館」(http://www.dircon.co.uk/soseki-museum/info.html)がある。ここでは、日本語版(http://www.dircon.co.uk/soseki-museum/j-menu.html)を紹介しておきたい。ここには漱石情報データベースとあり「漱石とロンドン」の項目の下に、「漱石と交流を結んだ人々」「漱石ロンドンの下宿」「漱石留学当時のロンドン」「漱石が描いたロンドン(エッセイ)」「その他」 、「漱石一般」の項目の下に「写真で綴る漱石の思ひ出」「画伯・漱石を訪ねて」「漱石の蔵書一覧」「漱石の作品翻訳書・研究書一覧」「『漱石研究』」「その他」がある。それぞれのコンテンツがまたいくつかのコンテンツに分かれており、全体として膨大なデータベースとなっている。特にロンドン時代の漱石を知る上で、非常に有用なページである。 熊本日々新聞のページの中には、「熊本漱石館」(http://www.kumanichi.co.jp/souseki/souseki.html)がある。1996年が漱石の来熊100年に当たり、熊本漱石博が開かれたが、それにちなむページであり、漱石に関する情報も数多く示されている。膨大なページ数に及ぶので、ここでは簡単な紹介にとどめるが、イベントを体験するような面白みもあるページである。大きな項目としては次のものがある。「漱石と熊本」「漱石のいる風景」「吾輩は漱石である」「夏目漱石を語る」「夏目漱石展から」「’96くまもと漱石博」「漱石inロンドン」。それぞれの下に、数多くの項目があり、漱石に関心を持つものには、見飽きることのないページである。 論文・エッセイ  一般の研究論文・エッセイであれば、雑誌掲載や単行書という形で発表されているのであるから、活字となる段階である程度信頼できるということになる。しかし、HPの場合、各人が自由に公開できるため、一般に活字よりも確固たる信頼度はないといえよう。それ故、取り上げる基準も実に難しいと言えるのであるが、稿者がある程度有用と感じたということで、紹介していきたい。 右のような事情から、活字になったものがHPとして公開されている場合には、ある程度の信頼性は確保していると言えるだろう。研究者のサイトには、雑誌再掲のものが多い。 まずまとまった数の論文・エッセイが公開されているものを紹介しておきたい。 専門ページで言及した木村功「AREA SOSEKI」の中に、「研究論文 Papers 1991〜2001」(http://www2a.biglobe.ne.jp/~kimura/papers/papers.htm)があり、氏の既発表論文の一覧があるが、その中に一部公開されているものがある。このページからリンクされているので、一つ一つのURLは省略するが、公開されているのは次の論文である。「「門」論ーー〈和合同棲〉の行方ーー」「 「こゝろ」論ーー先生・Kの形象に関する一考察ーー」「「虞美人草」論───小野の形象について───」「夏目漱石と丸善新築披露会」「「行人」論ーー一郎・お直の形象と二郎の〈語り〉についてーー」「夏目漱石におけるイプセン戯曲の受容ーー留学時代のイプセン読書(1)ーー」 武田充啓「研究に関するページ」(http://www.libe.nara-k.ac.jp/~takeda/tmri.html)もまとまった氏の論文の公開のページである。このページからリンクされているものは、「夏目漱石『吾輩は猫である』論「夏目漱石『草枕』の〈非人情美学〉」「『虞美人草』の「小供」たち」「夏目漱石『野分』の「文学者」 「夏目漱石『坑夫』の逃亡者」「夏目漱石『三四郎』の低徊家」「夏目漱石『それから』の「自然」」「「変化」について ?夏目漱石『それから』試論? 」「夏目漱石『彼岸過迄』論の前提」「夏目漱石『行人』の独身者 」「夏目漱石『道草』小論」である。また別ページには、「漱石とコンピュータ あるいは 電子情報とのつきあい方」(http://www.libe.nara-k.ac.jp/~takeda/soseki&computer.html)というエッセイを公開している。 小田島本有「研究業績」(http://w3.kushiro-ct.ac.jp/comp/ippan/personal/odajima/gyouseki.html)では、著書『語られる経験−夏目漱石・辻邦生をめぐって−』(近代文藝社、1994.7)の目次を掲げるほか、氏の論文の要約が置かれている。(「『彼岸過迄』論ノート――田川敬太郎と須永市蔵――」「『彼岸過迄』と池辺三山」) 山下浩「Edmund Spenser と夏目漱石の書誌学・本文研究」(http://www4.justnet.ne.jp/~hybiblio/)は、氏の書誌研究の成果が収められている。ここでは、テクストファイル・一太郎ファイルによって公開されているため、一般のHPを見るのとは少し感じが違うが、ダウンロードによって読むことができる。「『漱石雑誌小説復刻全集』『漱石新聞小説復刻全集』への解題、その他 」からは、『漱石新聞小説復刻全集』および『漱石新聞小説復刻全集』への解題と監修の言葉をダウンロードでき、「漱石・芥川その他の書誌学・本文研究 」には、「最近の漱石関係主要論考」というファイルが置かれている。 「渡部芳紀研究室」は、近代文学関係の情報が写真とともに豊富に載せられている見事なページであるが、その中に漱石関連の論文としては「硝子戸の中」(http://comet.tamacc.chuo-u.ac.jp/bungakusanpo/souseki/garasudo.HTML)がある。ここでは詳しくふれることはできないが、漱石関連の文学散歩情報もある。 ロンドン漱石記念館のページには、一冊の研究書が翻訳されて公開されている。『漱石研究』(http://www.dircon.co.uk/soseki-museum/kenkyuu.html)は、ウェイン州立大学で英文学を講じているビョンチャン・ユー準教授"Natasume Soseki"の翻訳。恒松氏によれば、単行本としての出版が予定されている。その他、雑誌掲載などの活字化が確認できるものには次のようなものがある。 江藤正顕「『夢十夜』成立期への一視点−<あまのじゃく>という方法−」(http://www.scs.kyushu-u.ac.jp/~eto/soseki.txt)関塚誠「夏目漱石『薤露行』論争―大岡昇平と江藤淳の見解」(http://village.infoweb.ne.jp/~sekizuka/etou.htm)宮澤淳一「触感と思索――グールド、そして……漱石」(http://www.geocities.com/Vienna/3739/tactile.html)屋宜盛秀「漱石とうつ病」(http://www.shiritu.okinawa.med.or.jp/member/yagi01.htm)藤堂尚夫「漱石の一断面 −〈金〉をめぐって−」(http://www.mitene.or.jp/~takalin/danmen.htm)「『野分』論 − 冒頭をめぐつて − 」(http://www.mitene.or.jp/~takalin/nowakibo.htm・/a>j「『野分』論−周作をめぐつて(1)−」(http://www.mitene.or.jp/~takalin/syuusaku1.html)       掲載紙等がHP上では必ずしも確認できなかったが、まとまった論考と思われるものを次に紹介したい。 赤嶺幹雄「夏目漱石論」(http://www2.odn.ne.jp/~cat45780/soseki.html)は、氏の著作『漱石作品論』の概観であるとの記述がある。単行書の再掲ではないが、それに準じたものということができよう。漱石の主要な作品について詳細な論考がある。 牧岡穣「漱石のテイスト・クリティーク−『文学論』およびその関連著作に関する考察」(http://www.valdes.titech.ac.jp/~ymakioka/MTframe.htm)は修士論文の公開である。 宇藤和彦「詩と批評」(http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Miyuki/9321/ なお、目次は index2.htmlがその後に続く。目次から以下にあげるものへのリンクがある。)は、題名通り氏の詩と批評を集めたページである。漱石に関連するものとしては、「先生はなぜ死んだか―『こゝろ』論」「隠された主題―『三四郎』論」「代助の「それから」―『それから』論」「「仄かに自覚しながら、わざと知らぬ顔」で―『門』論」「異邦人の行方―『道草』論」がある。 荒木淳子(ハンドルネーム あつこA)にも、多くの論考がある。氏のHP「文学の研究室 あつこAの部屋」(http://www.valdes.titech.ac.jp/~ymakioka/MTframe.htmhttp://www.valdes.titech.ac.jp/~ymakioka/MTframe.htm)には、ニフティサーブ文学フォーラムに発表した文章を一部修正し掲載しているということであるが、日・仏・露文学についての論考など幅広く扱われている。ここでは、「日本文学」(http://www1.odn.ne.jp/~cax58080/sakuron.htm)のページを起点とし、ここからリンクされている「『それから』論」「『それから』をめぐる議論」「漱石を巡る議論」を紹介しておきたい。また、同氏は大阪の国語科教員を中心とする「近代文学研究会のHome Page」(http://www.mars.dti.ne.jp/~akaki/index.html)でも「『それから』夏目漱石」を公開している。同ページには、平井薫「『三四郎』 夏目漱石」もある。 関場守良『夏目漱石の継承』(http://www5a.biglobe.ne.jp/~rjltof/new_page_2.htm)は、『明暗』『文学論』の未完の二作品から漱石を継承すべきと言う意欲を持ち書き継がれている評論で、現在のところ「行人」論まで公開されている。 漱石作品を扱った授業の発表もインターネット上には見える。そのいくつかを紹介しておく。 片桐史裕「こころ 夏目漱石」(http://www3.ocn.ne.jp/~niagara/kokoro/kokoro.htm)は、授業での読みをまとめたものである。情報量は非常に多く、本文が詳細に分析されている。 浅井和彦「夏目漱石 『こころ』」(http://www.kokugo.gr.jp/taikai/30/toyoda_2.html)は、全国連大会での研究授業・研究発表である。  
 

テクスト・データ


  コンピュータでの本文についての研究となれば、まずテクスト・データが必要になるであろう。最近は、テクストデータを納めたフロッピーディスク・CD−ROMも販売されているし、インターネット上でも有料でテキストデータを配布しているところもある。ここでは、インターネット上で無料のものだけを取り上げておきたい。ただし、テクストデータについては、著作権に留意することはもちろんであるが、場合によっては、データの制作者の権利、底本の作成者の権利にも留意しておかなければならない場合もある。また、データ自体の信頼度も関係有るだろうし、データのもととなる底本がなにかということも、研究目的の場合は考慮する必要もあるだろう。 テクストデータの場合、初期の頃はいろいろなHPで、それぞれの作製のものを公開することが多かったが、最近は個人での公開よりも専門のサイトに委託する場合が多くなっているようであり、公開されているデータ数は増えているものの公開場所は特定されてきている。たとえば、「青空文庫」(http://www.aozora.gr.jp/)「私立PDD図書館」(http://www.wao.or.jp/naniuji/)「書籍デジタル化委員会」(http://www.wao.or.jp/naniuji/)などが、かなりの数のデータを公開している。また、岡島昭浩「日本文学等テキストファイル」(http://kuzan.f-edu.fukui-u.ac.jp/bungaku.htm)菊池真一「日本文学関係テキストファイル等(作品別・五十音順)」(http://www.konan-wu.ac.jp/~kikuchi/linkd.html)などのようにテキストデータの在りかを探すのに便利なHPもある。 なんと言っても、一番多くのデータが集まっているのは、先述の「青空文庫」であろう。現在青空文庫で公開している作品をあげておく。(五十音順) 『一夜』『永日小品』『思い出す事など』『薤露行』『カーライル博物館』『硝子戸の中』『教育と文芸・『東洋美術図譜・イズムの功過』『京に着ける夕』『草枕』『虞美人草』『ケーベル先生』『ケーベル先生の告別・戦争からきた行き違い』『現代日本の開化』『行人』『坑夫』『こころ』『琴のそら音』『作物の批評』『三山居士』『三四郎』『子規の画』『自転車日記』『写生文』『趣味の遺伝』『初秋の一日』『人生』『創作家の態度』 『手紙』『道楽と職業』『中味と形式』『夏目漱石 評論集』『二百十日』『野分』『博士問題とマードック先生と余・マードック先生の『日本歴史』・博士問題の成行』『長谷川君と余』『彼岸過迄』『文芸委員は何をするか・学者と名誉』『文芸と道徳』『文芸の哲学的基礎』『文鳥』『変な音』(新字・新仮名)『變な音』(旧字・旧仮名)『坊っちゃん』『幻影の盾』『満韓ところどころ』『道草』『無題』『明暗』『模倣と独立』『門』『夢十夜』『倫敦消息』『倫敦塔』『吾輩は猫である』(新字・新仮名)『吾輩ハ猫デアル』(旧字・旧仮名)『私の個人主義』 漱石の主な作品はすべてデータになっていると言ってもよいだろう。ここでは、各作品ごとに図書カードがあり、底本や作品・著者についての情報が記されている。また、作品にもよるが、同じデータで、テキストファイル(ルビなし・ルビあり)HTML版・エキスパンドブック版がそろえられている。 青空文庫と近い趣旨で公開されている「書籍デジタル化委員会」では、「思い出す事など」「それから」「明暗」が納められている。 ロンドン漱石記念館のページには、「漱石の描いたロンドン(エッセー)」(http://www.dircon.co.uk/soseki-museum/essay.html)というページから、HTML版で「クレイグ先生」「印象」「下宿」「暖かい夢」「昔」「倫敦塔」がリンクされている。 「AREA SOSEKI」に掲載されているテキストデータは、現行本文と違った底本を用いており、本文について考えるときには有用性が高いと思われる。公開されているのは、「夏目漱石『心 先生の遺書』」(http://www2a.biglobe.ne.jp/~kimura/sensei.htm)と「『坊っちやん』」(http://www2a.biglobe.ne.jp/~kimura/bcn.htm)である。前者は、『漱石自筆原稿「心」』(岩波書店)をもとにしている。併せて「乃木希典『遺言条々』」を画像と翻刻で公開しており、資料的な価値も高い。「公開にあたって」で、編集著作権ということも述べられていて、安易な公開に警鐘を鳴らしているのも注意されて良いのではないか。後者は、復刻版「ホトトギス」第9巻第7号を底本としており、それと併せて、(未公開の部分があるが)「鶉籠」版(初版)を底本とするデータも公開している。原稿版のデータ公開も企図されているようであり、それが完成すれば、テクストクリティーク上も意味が深いと思われる。 公開されている多くの漱石作品テクストデータは、文庫本を底本にしていたり、底本が明記されていないものが多い。研究として有用というのであれば、現行本文として価値のあるもの、たとえば岩波版の全集・集英社版の漱石文学全集等によっているものが必要であろうし、初出誌(紙)等を底本としたものがもっと多く公開されても良いのではないかと思われる。藤堂尚夫作製「文鳥」(http://www.mitene.or.jp/~takalin/text/buncho.htm)が、『漱石近什 四篇』(春陽堂)を底本としているのは、本文としての価値を意識しているからである。 ほかでは、「坊っちゃん」が私立PDD図書館にあり、X. Jie Yang作製「吾輩は猫である」(途中まで)(http://www.ucalgary.ca/~xyang/waghi.s)もある。 基本的にはは有料であるが、いくつかのデータを無料で公開しているサイトもあるが、有料となる可能性もあり、ここではふれないことにする。  
 

おわりに 


 この稿をなすに当たって、現在公開している「ウェブ上の夏目漱石(暫定版)」をもとに、WWW上の漱石情報がどれくらいあるか改めて調査をしたのであるが、その数は膨大な量に及ぶ。検索エンジンを変えて検索するごとに新しいものが出てくるという有様である。その中から、有意義なものを選ぼうとしても、その判断基準が自分でわからなくなるような気さえした。本来ならば、ウェブで公開している暫定版にある資料や案内といった項目でも紹介すべきものが山のようにあるし、WWWの情報は、日々変わっていくものであるから、紙媒体での紹介は、あるいは徒労にすぎないのかもしれない。資料・案内に関しては、紹介を他日に回すこととし、その際には、新しい情報の紹介も併せて行うこととしたい。 また、ウェッブの性格上、私のページは(最近更新を怠っていて恥ずかしいが)新しい情報が有れば更新し、次の紹介が充実したものとなるようにしていきたいと思う。また、紹介漏れなども多々あることと思うので、情報を提供していただける方は、私のページをごらんいただき、掲示板に書き込むか、メールしていただくとありがたい。 

(「金沢大学 語学・文学研究」第二十九号 2001年9月 掲載)   

 
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