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農業経営通信(2001.10)に投稿した原稿を掲載しました。なお、詳細な内容の論文は近刊の日本農業経営学会誌に掲載予定です。
成果紹介
低米価時代における稲作農家の経営意向
−福井県におけるアンケート調査より−

山田正美
1.はじめに
 ここ数年の急激な米価下落は稲作経営に大きな影響を与えている。そこで稲作に大きく依存している福井県における稲作農家の経営意向や農業経営に対する基本的考え方についてアンケート分析を行った。具体的には、今後の稲作経営の展開方向を検討する際にポイントになると思われる経営者の農業観、経営改善の方法、農地管理に関する考え方等について検討し、回答者の年齢や耕作規模による違いを明らかにした。

2.アンケート調査の概要

 アンケートは福井県内の認定農業者、中核的農家、集落リーダーなどのうち、稲作を経営の中心においている農家623戸を対象とした。調査は1999年12月から 2000年1月にかけて郵送法により実施し、456通の回答(回収率73.2%)を得た。回答者の性別は男性95%、女性5%、年齢は40歳未満4%、40歳代17%、50歳代34%、60歳代33%、70歳代以上12%であった。耕作面積別では、1ha未満12%、1ha〜5ha未満54%、5ha〜10ha未満19%、10ha以上15%であった。

3.結果の集計と同意指数

 アンケートの意向調査は、設問に対し「そう思う」「ややそう思う」「どちらともいえない」「あまりそうは思わない」「そうは思わない」の中から択一選択する方式で行った。
 アンケート結果を数値で把握しやすくするため、回答の「そう思う」「ややそう思う」「どちらともいえない」「あまりそうは思わない」「そうは思わない」という項目に対し、それぞれ +10、+5、 0、−5、−10 の得点を与え、その階層別平均値を設問に対する同意指数とした。この同意指数は「そう思う」と答えた人が多いほど+10に近い正の数値となり、「そう思う」と「そうは思わない」が拮抗している場合はゼロに近く、「そうは思わない」とする人が多いほど負の数値-10に近くなる。

4.経営上の問題点

 経営の問題点として、高い同意指数を示したのは「農機具などの投資が大きい」の+8.6と「米価水準が低すぎる」の+8.1であった。
 次いで同意指数が高くなった項目には「圃場が分散し作業効率が悪い」、「支払い地代が米価の割に高すぎる」「農地集積が困難」の順であり、いずれも正の同意指数を示し、これらが経営上の大きな問題点として捉えられていた。

5.農業観


 年齢や耕作規模による農業観の違いを表している「農業はやり方次第で、所得を向上させることができる職業である」と「農地を守るため自分の生活が若干犠牲になっても仕方がない」という2つの設問に対する年齢別、規模別の同意指数の違いを図1に示した。年齢別では、若い人ほど農業は所得向上可能な職業であると考える人が多く、自分の生活を犠牲にしてまで農地を守りたいとは思っていないことが示されたのに対し、高齢者は自分の生活が若干犠牲になっても農地を守っていきたいと考えていることが示された。この様な考え方の違いは、55歳〜59歳層が境となり、54歳以下と60歳以上の2つの階層に大きく分かれた。
 規模階層別に見ると、
1ha〜3ha規模では農地保全のため生活が犠牲になっても良いとする人が多く、安定兼業の中で農地を守りながら農業を続けていこうとする規模であることがうかがえる。さらに規模が大きくなると、農業を続けるために生活を犠牲にしても良いとする人は少なくなる。所得向上の可能性についての考え方を見ると、最も低い同意指数を示した7〜10ha規模を含む15ha未満規模の階層と、15ha以上の階層で大きく異なることが示された。このことから、15ha以上の大規模層では、それ以下の中・小規模階層に比べ、農業がやり方次第で所得を上げられる職業であると積極的に捉えられていることがうかがえた。

6.経営改善手法

 現在の経営を改善する手法(作業受託、全面受託などは除く)として、同意指数の高い順にみると「有機・無農薬等付加価値米の生産」の+1.9、「生産物の個人販売」の+1.3、「直播栽培の導入」の-1.0、「生産物の加工」の-4.2であった。これらの同意指数は、最も小規模な1ha未満層では全て負の値であるが、耕作規模が大きくなるほど高い値を示した。これらの指数がゼロを上回る規模は「有機・無農薬等付加価値米の生産」の場合1ha〜2ha規模以上、「生産物の個人販売」は2ha〜3ha規模以上、「直播栽培の導入」は10ha〜15ha規模以上となり、経営改善手法の導入意向が規模により異なることを示した。

7.耕作不能時の農地管理と地代

 何らかの理由で耕作ができなくなったと仮定した場合、「地代ゼロでも水利費と土地改良費を耕作者が負担すれば委託する」で同意指数が正の値+1.9となっているのに対し、「地代ゼロで水利費と土地改良費を地主が払ってでも委託する」とか、「耕作者に管理料を支払ってでも委託する」では同意指数が負の値-1.7と-1.9となった。これは平均的な考えとして、土地改良費と水利費を耕作者が払ってくれれば地代ゼロでも委託するが、完全な地代ゼロや管理料の支払いまでして委託しようとは思っていないことを示している。
 このような地代に対する考え方を、耕作圃場条件の違う地域別に見ると、悪条件の平坦地では「地代ゼロでも委託」の同意指数が0.0を示し、悪条件の中山間地では「管理料を払ってでも委託」で+0.8となり、圃場条件の悪い地域では地代ゼロあるいはマイナス地代もあり得ることを示している。このことは、「地代条件が合わなければ耕作放棄」で、同意指数が負となっていることとも概ね整合的であり、地代条件が合わなくても何とか農地を保全しようとする意向の強いことが推察され、今後の地代低下の可能性を示唆した。

8.農地保全に対する考え方

 農地保全に対する考え方を耕作規模や年齢別に示したものが図2である。
 この図のx軸は規模拡大意向を表し、y軸は農地保全に対して個別大規模農家を中心に行うべきか、地縁的組織としての集落営農を中心に行うべきかという考え方の違いを示している。なお、福井県における集落営農は、安定兼業農家が構成員となった集落ぐるみ型営農集団を示すことが多く、個別農家の突出を敬遠することが多い。
 この図から、規模拡大意向が強い若い年齢(概ね55歳以下)の人や大規模農家(概ね7ha以上)ほど、個別大規模農家による農地保全を指向しているが、規模拡大意向が弱い高齢者や小規模農家では、集落営農による農地保全を指向する人が多くなるという特徴を示しており、年齢や規模による考え方の違いがここでもはっきりと現れた。

9.まとめ

 本稿では、福井県内の中核的稲作農家に対して行ったアンケート調査に基づき、最近の急激な米価低下の中での農業経営者の農業や農業経営に対する意向を分析し、農業収入を主としている大規模農家や働き盛りの若手と、兼業収入を主としている小規模農家や高齢者では大きな違いがあることが明らかになった。すなわち、若手や大規模農家では、規模拡大や経営改善に対する意欲が強く、地域の農業も個別大規模農家を育成して保全すべきだとしているのに対し、高齢者や小規模農家では現状維持あるいは縮小意向が強く、農地を守るためなら生活の犠牲も止むなしと考え、また地域の農地保全については、集落ぐるみ営農集団のような集落営農を指向していることが示された。
 地域農業の推進を考えるにあたって、一方は個別大規模農家の育成を指向し、他方は個別農家の突出を敬遠する集落営農を指向していることから、これらの考えを高齢者や小規模農家の離農が進行する中で、さらなる地代低下の可能性も考慮し、これらをどう調和させて地域農業の発展につなげていくのかが今後の課題となっている。
                    (やまだ・まさみ、福井県農林水産部・農産園芸課)

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