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第2回欧州農業情報会議出席と
ドイツ視察旅行
平成11年の9月23日から10月3日の11日間、農業情報利用研究会で企画された欧州農業情報視察旅行でドイツを訪れるチャンスに恵まれました。ボンで開催された第2回欧州農業情報会議 (Second European Conference of the European Federation for Information Technology in Agriculture, Food and the Environment, EFITA 99) に合わせて企画されたものですが、その前後に農家を訪れるなど、ドイツ人の暮らし、文化に触れる機会がありましたので掲載します。
<概要>
 今回の欧州視察旅行への参加メンバーは、町田武美先生(団長:茨城大学)、中村典裕先生(副団長:愛国学園大学)、篠崎紘一氏(ソリマチ)、反町秀樹氏(〃)、平石武氏(〃)、神野昭一氏(農林統計協会)、井上直樹氏(〃)、森剛一氏(アイルネット)、田上隆一事務局長(農業情報利用研究会)、滝岸誠一氏(かながわ農業アカデミー講師)それに私の総勢11名で、このうち滝岸氏とはミュンヘンで、中村副団長とはボンで合流することになりました。
今さらドイツといってもそう珍しくないのですが、田舎ものの私にとっては、目を見張ることばかりで、いささかカルチャーショックを受けて帰ってきました。
 この視察記では第2回欧州農業情報会議の概要と私が感じたドイツの印象をレポートします。
<第2回欧州農業情報会議(EFITA/99)>
 今回の視察旅行の主目的だった第2回EFITAは、9月27日から30日までの4日間、旧西ドイツの首都であったボンの中心にあるボン大学で開催されました。会場となったボン大学はボンの旧市街地にあり、もとは宮殿だったということもあり、壮麗な校舎とホフガルテンという広大な庭園があり由緒ある大学という感じがしました。
 この会議はヨーロッパ各国を始め、世界各国の農業情報に携わっている約330 名の参加を得て開催されました。会議の大部分を占める個別発表のジャンルは、以下のようなものでした。
・ネットワーク、普及および教育(28:講演数以下同じ):グローバルシステム/知識ネットワークの設計/品質生産/意志決定支援とインターネット/情報システムネットワーク/コンピュータ支援技術
・農場経営(16):農場経営と情報技術/管理支援システム/畜産飼養における意志決定支援システム/作物栽培における意志決定支援システム
・情報技術の適用(4)
・国際的開発(14):情報サービス/プロジェクト・地域管理支援システム/開発における意志決定支援サービス/情報技術の社会基盤/開発における情報技術の推進と未来
・モデルの作成とデータ管理(20):先進的モデル作成/データ管理/土地利用
・政策支援(8):情報技術と政策支援/政策情報・支援システム
・精密農業と関連事項(8):情報技術を精密農業/地理情報システム(GIS)
・連鎖管理(14):情報技術と連鎖管理/産業における経験/情報・支援システム
・遺伝資源の分析管理(4)
 こうしてみると普及関係やデータ管理、農場経営に関係する発表が多いという印象があります。
 発表者を地域別、国別に見てみますと、ヨーロッパが圧倒的に多く、全体の約8割を占めています。中でも開催国のドイツは80課題と、全体の1/3になっていました。また、ヨーロッパ諸国を除けば、日本は6課題とブラジルに次いで多く、アメリカと同じになっています。アジアからは日本以外にも、イスラエル、タイ、中国、インド、韓国、ベトナムからの報告がありました。
 今回の視察団の参加者は、それぞれの興味がある分野の発表を聴きに行ったのですが、私は普及関係の講演を中心に聴いていました。その中で農家へのパソコンの普及率は国によって異なりますが、20%から50%くらいの範囲で、日本とそれほど大きな差があるとは思われませんでしたが、むしろ部門間での差が大きいことを強調されていました。例えばオランダでは、園芸部門で高く、作物部門ではその一割くらいとかなり差があるようです。  また、パソコンソフトへの要望も、普及が有料化し、あるいはアドバイザー的な方向へシフトしていっているヨーロッパでは、農民の利益に直結する分野に重点が移りつつあるそうです。具体的には、分野ごとの開発ソフトの本数の変化などを使って、すでに技術の確立している穀物生産に関するソフトよりも、より利益に直結する畜産飼養や農業経営に関するソフトの開発に重点が移ってきていることが示されていました。
 日本も普及事業がどんどん変わっていっている中で、ヨーロッパの事例に学ぶところもずいぶんあるのではないかと思いました。
 それから発表について感じたのは、ユーモアを交え、大きなアクションで聴衆を引きつける堂々とした態度には、見習うべき所が多いなと感じました。
 ほかの参加者もそれぞれ興味のある分野で、それぞれの収穫をしっかりと得ることができたのではないかと思います。
 会議の中の一連の行事で行われたレセプションと晩餐会では、韓国のハン先生を始め、来年の第2回AFITA開催をひかえた韓国の視察団との交流を図ることができ、旧知の間柄の人も多く、ヨーロッパでの楽しいひとときを過ごすことができました。
<エクスカーション>
 EFITA/99の三日目の午後にエクスカージョンがあり、用意されていた6つのコースのうち我々は“ZMP”、“aid”、“ZADI”という農業情報サービス機関を訪問するコースに参加しました。
 “ZMP”はドイツ国内の農業、食料、林業、材木の市場情報を永続的に収集している民間会社ですが、政府からこの仕事を委託されており、中立の立場で最新の情報を提供しています。ボンに本部があり、4カ所に地域事務所、1カ所に支店があります。農家など顧客に対する情報提供は独自のニューズレター、オンラインサービス、FAXなどを使って行われています。日本の全国生鮮食料品流通情報センターのような役割を担っているようです。
 “aid”は、戦後ドイツの復興を掲げたマーシャルプランによって始められた事業の頭文字であり、文字通り「援助」という意味もあります。これは戦後の混乱期にあって健康維持のための適切な栄養摂取の指導や、農家に対する教育に大きく貢献し、その活動が連邦政府の財政支援により現在も続いているものです。
 しかし現在では、従来の適切な栄養摂取をどうするかという課題がほぼ達成されたことから、新たに“自然と環境保全”、“農村地域”、“ガーデニング”という課題についても1977年より必要な情報を提供しているとのことです。
 情報提供の対象となる人は、消費者や農家といった直接の関係者、それに先生、指導員、報道といった間接的に影響力のある人たちで、新聞、ポスター、書籍、スライド、ビデオ、テレビ番組、子供向けゲームなどを使って情報提供を行っています。我々が説明をうかがった小ホールのような展示室にはこれらの出版物が所狭しと並んでいました。また、1995年からはインターネットによる情報提供も始めているとのことでした。
 最後に訪れた“ZADI”は、ドイツ農業情報ネットワークサービスで、食料農業省の情報機関に属し、DAINetという名称でインターネットを通し情報を提供しています。情報は政府独自のものはもちろん、ドイツ国内の研究機関や普及などと連携を取りながら収集しており、栽培、飼養管理、栄養、園芸、林業、漁業の分野を扱っています。
 説明会の中では、いろんな研究情報や普及に関する情報を提供しているということで、参加者からは多くの質問がありましたが、時間不足で十分な議論ができず残念でした。  以上がEFITA/99に参加した私の感想と報告です。以下は会議の前後に訪れた農家や会社のこと、ドイツの印象についての私の感想です。
<グリーンツーリズム農家訪問>
 ミュンヘンから南東へ列車で1時間ほど行ったところにローゼンハイムという駅があり、そこから車でしばらく行ったところにあるグリーンツーリズムの実践農家を訪ねました。夫婦と父母それに三人のまだ小さなお子さんがいる農家です。
 農家にはお客を迎える寝室が五部屋あり、通常は一週間から10日くらい滞在する人たちが多いのですが、家族連れで40日ほど滞在する人もいるそうで、夏の期間に迎える客は、延べ人数で1,000人にもなるということでした。宿泊客の目的は水泳、乗馬、ハイキングなどでのんびり過ごして休養をとり、リフレッシュすることにあるようです。広々とした緑の草原、森と湖、静かなたたずまいというこの辺の格別の景色と、彼らを暖かく迎える農家は、長期滞在するには打ってつけで、こんなすばらしい環境の中で夏を過ごせるドイツ人をうらやましくさえ思えました。
 受け入れる農家としては、基本的にベッドと朝食のサービスをするということだそうです。この農家は民泊だけではなく、若者の趣味として人気の高い乗馬用の馬をオーナーから預かり、これを管理することと、森の木を切り暖炉用のまきを作ることで収入を得ています。
 乗馬用の馬は15の個人とかグループから35頭預かっており、飼育のための23ヘクタールの草地と、まき用に50ヘクタールの森林を所有しているとのことでした。
 話を伺ったあと、農場を案内していただいたのですが、ご主人が廃材を利用して何から何まで自分で作り上げたばかりの立派な二階建ての馬小屋も見せてもらい、その器用さには本当に驚かされました。
 丘陵や山岳が多いドイツ南部の村々では、今回訪問した農家を始め、一見して同じ様な外観の家が目に付きます。赤褐色の屋根に白い壁、そしてその窓辺には花の鉢。集落の回りのゆるやかな斜面には牧草があり、牛や馬がのんびりと草を噛んでいます。我々旅行者にはヨーロッパの典型的な原風景として目に焼き付いてきます。これも住民一人一人が自分の家の手入れを怠っていないことで維持されているように思われました。きっと政府としても、こういった地域の過疎化防止と景観保全のため、政策的支援を行っているのでしょう。
<改札口のないドイツ国鉄>
 ドイツ国内の移動には、5日間列車に乗り放題というユーロパスを使って鉄道の旅を楽しみました。
 まず驚いたのは、小さな田舎町の駅ならともかく、ミュンヘンとかフランクフルトのような大きな都市の中央駅にも、改札口が見あたらないことです。日本でいえばホームへの連絡通路のようなところを誰でも自由に行き来できますし、そこから直接列車に乗り込むことができます。無賃乗車しようと思えば、できないこともないでしょう。車掌も30分に1度くらいしか検札に来ませんから、短い距離だったらバレずに済むかもしれません。
 聞いた話ですが、検札で切符がないと理由の如何を問わず高額の罰金を取られ、車掌から買う切符は通常の何割か増しということになるらしいです。罰金の有無は別として、改札口がいらないということで人件費の削減ができるのは間違いなく、合理的な感じがしました。それよりも、きっとドイツ人はお互いを信じている性善説の国なのでしょう。
 また、列車の中の席が相対になっているため、長時間の旅だと一緒になった人との会話が弾むのも楽しいものです。ソリマチの篠崎さんが、「流暢」というドイツ語への翻訳マシンを持参し、列車の中で、黙って本を読んでいた現地の人との会話が弾み、和やかな雰囲気で旅ができたとのことでした。また、若い人は結構英語をしゃべることができます。私たちの前に座って、最初はまじめに勉強していた人も、話を始めるとミュンヘンで教師をしており、なんと「忍術」の段を持っており、毎日練習しているとのことでした。私の知らないような忍術の型や指導者のことを聞かれ、話に花が咲いたということもありました。列車の旅って楽しいですね。
<ケルンの大聖堂>
 私たちが訪れたグリーンツーリズムの農家がある小さな田舎にも、集落の中心とか、目立つところに必ずと言っていいほど教会があります。少し大きな町になりますと、その町の目立ったところに他の建物よりも一段と高い尖塔が目に付きます。
 会議のあったボンからライン川沿いに列車で約20分ほどのところにケルンがあり、その駅前には、高さが157mもある大聖堂がそびえ立っています。大きさもさることながら、建設のいきさつを知ってまた驚かされました。着工が今から750年前の1248年で、途中300年にわたり工事が中断され、600年以上経った1880年にようやく完成したということだそうです。日本では、一つの建物を600年以上もかかって建てたということを聞いたことがありません。
 ドイツ人というのは計画的で、一度こうだと決めたら何百年かけてもやり遂げるという強い意志を持った人が多いのでしょうか。とにかく時間の捉え方が、自分の生きている現在だけでなく、長い先の未来をしっかりとらえ、そのために何をいまなすべきかということを把握できる民族ではないかと考えずにはいられませんでした。
 ドイツ人の合理的で未来を見据えた物の考え方は、農業政策にも現れています。それは環境問題と条件不利地の保全に取り組んでいることです。
 たとえば環境保全でいいますと、環境に負荷を与えない農業を積極的に推進しています。多くの州では減農薬栽培を推進していますが、ドイツ南部に位置するバイエルン州では、どの程度実施されているかはわかりませんが、農地や緑地に対する農薬・殺虫剤の使用停止まで政策としているそうです。
 また、農村と都市の調和のとれた発展のため、農業や耕作景観の保護、グリーンツーリズムの農村や農家に対する補助などによって農村から都市への人口流出を抑える政策を採っていますが、これらの政策費用は当然税金でまかなわれることですから、国民がこれを支持しているということが基本になっているのでしょう。
 ここでもドイツ国民の、百年、二百年先を意識した、未来志向の考え方をかいま見た気がしました。
<最後に>
 今回の視察旅行に関して私なりの印象を書かせてもらいましたが、参加された方一人一人がそれぞれに違った印象を持たれて帰国されたと思います。
 いずれにしても、今回の視察旅行を先頭になって引っ張っていただきました団長の町田武美先生、また計画から航空券の手配まで準備でお世話になりました中村典裕先生には心からお礼を申し上げ、私の視察記をひとまず終わりたいと思います。

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