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東欧の小国ブルガリアの農業と
普及事業

平成7年11月19日から12月2日にかけて農業技術協力(普及情報システム) ということで、ブルガリアへ行って来ました。そのときの印象などをまとめまし たので掲載します。


<バルカン半島の農業国ブルガリア>

昨年の11月下旬から約2週間、東欧諸国との技術協力ということで茨城大学 の町田先生と2人でブルガリア国を訪れました。ブルガリアといわれてもヨーグ ルトを思い出すくらいで、東欧のどの辺に位置するのか我々日本人にはあまりな じみのない国ですが、北はルーマニア、南はギリシャとトルコ、東は黒海に面し、 西は内戦の絶えないボスニアヘルツェゴビナと国境を接しているバルカン半島の 小国で、旧ソ連と仲の良かった旧社会主義国です。

 国土面積は北海道の約1.3倍、人口は約900万人、人口密度はほぼ北海道 並といったところです。また、農地は国土面積の35%(385万ha)、放牧地 ・樹園地は21%(232万ha)を占め、54万3千人(経済活動人口の12.2%、 1990年)が農業に従事し、農業が国の中で大きなウエイトを占めている国です。

<土地の私有化と小規模個別農家の出現>

 ブルガリアも他の東欧諸国同様、社会主義体制の崩壊によって、国内のあらゆ るシステムが大きく変わり、大変な状況にあるようです。しかし、一時の超イン フレもようやく落ちつきを取り戻し、新しい社会体制もようやく根付こうとして います。GNPもようやく上向きになるだろうという明るい予測も出ている反面、 国民一人当たりのGNPを西欧と比較してみると、フランスを始め西欧諸国の平 均が2万ドル(約200万円)であるのに対しブルガリアでは 1,840ドル(約1 8万円)と1割にも満たない状況になっており、何をやるにも資金不足で困って いるというのが現状のようです。

 社会主義体制が崩壊したことによって生じた農業面での最も大きな変化は、農 地の私有化への移行だと思われます。これまで協同農場という形で共有していた 農地を旧地主へ返還し、土地を私有化するという作業が急ピッチで進められ、そ れにともなって小規模の個人農家が急速に増加しています。

 旧台帳では一人の土地であったものが、半世紀を経た今日、相続人である複数 の子どもに分けられるため、土地が細分化するという問題が生じてきています。 例えば旧台帳に登録してある2haの土地を3人の子どもで分けると一人約0.7haに しかなりません。このような小規模農家は、トラクターも持たず、小面積の農地 で作物栽培と牛を一頭飼育というような状況であり、とても近代的農業にはほど 遠い状況です。また、大規模な旧国営農場の解体により、農場に帰属していた大 型機械を小規模な個人農家が利用して耕作することは、利用するための資金が調 達できないことから困難になっており、この面でも新たに生まれた個別農家は不 利な状況になっています。

 果樹が植えてある農地を返還された場合は、問題がもっと複雑になります。農 地は返還されても、その土地が果樹園として使われていた場合、その土地に植栽 されている資本としての果樹を購入する資金がないため、多くの果樹園が荒れ、 果樹としての資本価値がなくなるのを待っているようなところもあり、実際に果 樹の生産はここの所大幅に減少しているとのことです。

 また、被相続人が都市で生活している場合でも土地が返還されるため、耕作の 手段を持たず農地が荒れているというのも事実です。都会に住んでいる農地所有 者が農業者に農地を売却するにも、農地を買えるだけの資本を持っている農民が 少ないのと、土地の価格がはっきりしないため、十分な土地売買の市場ができて いるとはいえない。しかし、ここ1、2年すれば農地の取引が可能となるように 思われる。

 個人農家が土地を集めるには土地の購入ばかりでなく、借地による規模拡大と いう方法もある。今後はこのような方法で個別小規模農家の規模拡大を資金援助 などにより政策的に進めていくことも考えているようである。

このように、土地の私有化に伴って小規模な個人農家が増加してきているが、 これとは別に、旧協同組合農場が私有化された土地を借り、新しい体制のもとで 民営協同組合農場を運営しているものも多く、全国には約 2,500ヶ所のこういっ た農場があり、全体の60%にも達しているという。

<普及事業の開始>

 こういった中、これら新体制下での農業に対する普及活動が必要になってきて おり、特に個人農家に対する普及指導が、農業国として競争力を維持するために は欠かせないものとなっているわけです。しかしながら、農業省による普及事業 は1995年の10月に始まったばかりで、我々が訪れたときにはまだ1カ月し かたっていなという状況でした。具体的には、全国20ヶ所の試験場の職員に普 及員の辞令を出すというもので、各試験場ほぼ5人、全国で約100人が普及員 としてスタートしたことになります。ある試験場の普及員の専門は、農学、経営、 畜産、農業機械、化学分析の5人でした。しかし、この普及員も100%普及活動で なく、5人のうち、3人は研究活動にも関与しているとのことでした。まだこの 普及システムもきちんと固まったものではなく、これからどのような方向に持っ ていくのか議論の最中なのです。この議論のポイントは、日本と同じように行政 (農業省)組織と強いかかわりを持っていくのか、アメリカのように研究組織 (農業アカデミー)と強いかかわりを持っていくかという点です。このことにつ いては、今年(1996年)中には結論を出すとのことでした。

<農業情報システム>

農業情報システムについてもまだ緒についたばかりで、主に統計情報や市場情 報を集計して提供しています。また、土地返還の過渡的段階にあり、誰がどこの 農地で何をどれだけ作っているのかという情報を性格につかんでおらず、地方の 事務所を通じてデータを集め、農場登録のデータベース化作業を進めているとこ ろです。

 こういった中、普及組織の情報ネットワークは、まだ完成しておらず、これか らといったところですが、パソコン通信で情報の交換を考えると、公衆電話回線 での雑音が多く、現状ではインフラがまだ整備されていないということもあり、 とても大変なような気がしました。また、パソコンやモデムといった情報機器も 不足しており、EUや日本の支援が重要な役割を担っているようです。

 しかし、こういったときだからこそ、普及情報センターを作るなどして、情報 の一元的収集に着手する絶好の機会ではないかと思っています。

<新しい農業を担う人々>

 今回のブルガリア訪問は、農業省での調査が主でしたが、普及事業を担う地方 の試験場、研究所、飛行場を持つという新しい協同組合農場、海外に直接生産物 を輸出している大規模の個人農場を視察する機会もあった。特に個人農場の女性 オーナーは、元試験場の職員で、ドイツへのイチゴの苗輸出で結構もうけており、 また将来はイチゴとトマトの加工に取り組み、さらに経営を拡大したいといって いたのが印象的であった。計画経済から自由経済へと代わり、努力すれば報われ るというシステムが定着してきたようである。これらの視察先でお会いした人々 の農業に対する意欲を通し、東欧諸国がそれぞれ独自の農業施策をとる中、この 国の将来の農業を左右する新しい制度を作っているのだという農業省やアカデミ ーの職員の熱気を感じることができました。また、現地においても新しい制度に 中で、どうしたらうまく所得を増やすような農業ができるか、農業者がそれぞれ アイデアを出して、市場経済の中の農業に挑戦している姿を見ることができた。 こういった人々がブルガリアの農業を支えている限り、ブルガリアの農業は発展 していくであろう。

ブルガリア旅行のスナップ写真

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