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クワイとオビ
      
#1が全体としてやや暗く、悲劇的色調を帯びているのには原因があるのでしょうか。この陰鬱なオープニングは、 結果的にJAシリーズの全体の基調を定めたと先に書きましたが、更に言えば、このシリーズはEp.1の結末抜きには語れないので 必然的に哀調を帯びる運命にあるのだと思われます。
JAシリーズの読者は誰もがマスター・クワイの最期の任務を知っており、全ての物語はそこに収束することを既決のこととして認めているので、 未来に限りがある二人の物語を少しでも過去へ伸ばし、詳細に語り、結果的に無限のバリエーションを求めずにはいられないからなのです。 つまり大前提がネガティヴなのですから、話全体が翳りを持つのも仕方がないことで、それが却って話を単なる活劇に終わらせずに、 時折胸を突かれるような深みを持たせることになったと言えましょう。

オビ=ワンとクワィ=ゴンの出会いは順風満帆とはいい難く、かたや数週間内にジェダイマスターに「拾われ」ないとジェダイナイトになる道が断たれてしまう 最年長のはみ出し生徒。かたやパダワンをなくして「独り身」の、有能ではあるが挫折感を抱いたマスター。本来ならここで劇的巡り会いがあって二人はめでたく師弟関係に入る、 というのがおおよその予想ですが、実は正反対の経過を辿ります。

宇宙に出るまでのオビ=ワン心理経過をたどると、時間切れに対する焦り、マスター・クワィに選ばれるかも知れないという淡い期待、 ブルックの奸計に踊らされて私闘を行い、しかもその責任を負わされて愕然とし、疑いは晴れたもののブルックとの試合での勝利の喜びも束の間で、 クワィ=ゴンから叱責を受け、事もあろうにダークサイドのにおいがするとまで言われます。パダワンにしてほしいという捨て身の懇願にも関わらずきっぱりと拒否されて、 追い打ちを掛けるように直ちに任地バンドメーアの農業団に向かって発つように指示を受け、やっと気持ちに整理を付けてジェダイナイトではなくても、 ジェダイらしく去っていこうと決心する……

このように希望と絶望の間を二転三転した揚げ句にオビ=ワンは失意の内にジェダイ聖堂を去っていくのです。もちろん、読者はその間に挿話的に挟まれたヨーダの予言や、 クワィ=ゴンがいみじくも呟く「あの子が農夫になるなんて、あれだけの素質を、何と惜しい……」、それらの言葉にオビ=ワンの未来が全く閉ざされてしまったわけではない事を 知るのですが、クワィ=ゴンとオビ=ワンの接点が途切れてしまったこと、余りに頑ななクワィ=ゴンの態度に戸惑いを禁じ得ないでしょう。

余談ですが、オビ=ワンが任務を与えられたのはAgri -Corps (発音は アグリ・コアです) うっかりコープスと発音すると corpse(死体)の意味になってしまうのでご用心下さい。Peace Corps (ピースコア=平和部隊)などでお馴染みの言葉です。

 ザナトスの影

話をクワィ=ゴンの方に戻しましょう。オビ=ワン12才に対して(Ep.1から遡ること13年)クワィ=ゴン54才または41才(Ep.1元脚本では67才設定、 撮影時にリーアム・ニーソンとの実年齢の差を埋めるために 55才に変更したとの一説有り)。どちらかというとクワィ=ゴンは年功を経た人物というより、壮年の最盛期のジェダイとしてのイメージで描かれているので、 多分設定は後者―――40代初めと考えた方がいいでしょう。

クワィ=ゴンはこの時点までに二人のパダワンを持ったとされています。最初のパダワンは不詳(一説に女性だったともいう)、二人目がザナトス。
ザナトスについてはストーリーの展開と共に正体が明かされていきますが、最初の時点では、とにかく優秀なパダワンであったこと、しかし何らかの事件で死んだ、 としか述べられません。しかもクワィ=ゴンはザナトスの死に責任があるような事を匂わせ、ザナトスを心から振り切れずに、何年もの間新しいパダワンを持たず孤高のナイト として任務に当たっていること、再三のジェダイ評議会の勧告をさすがに無視できず、毎年聖堂を訪れるが一通りパダワン候補生を見て、そのまま去っていくこと、 などが問わず語りに述べられます。

注意すればヨーダとクワィ=ゴンの会話からザナトスは死んだのではなく、失踪したこと、その去就にクワィ=ゴンが深い憂慮と挫折感を持っていることが分かります。 #2以降#8に至るまで、ザナトスの影は、時に表に時に裏になりながらクワィ=ゴンとオビ=ワンに付きまとうことになります。
ただ、#1で作者が、ザナトスとの苦い経験がクワィ=ゴンを必要以上に懐疑的、厭世的、消極的にさせていると設定していることには疑問を抱きます。 マスター・クワィの性格とは異質の、忸怩たるものがあるからです。しかし、マスターが、ちょくちょく悪さをし仕掛けてくるザナトスに自分の手で制裁を加えようと 心に決めているなら、新しいパダワンは足手まといで、更にそのパダワンに満足な教育を施せないであろうといった理由で新しいパダワンを持つこと自体を問題外と しているのかも知れません。

しかしオビ=ワンについては、再三拒否したことに罪悪感を抱いていたことも確かです。星図室でオビ=ワンの面影が頭から去らず思わず「あの子のことは私の責任じゃない」 などと一人言ちたりします。ややむきになってヨーダに、オビ=ワンの戦い方は感情にまかせた激しすぎるものだったと訴えて、「誰かさんもそうだったな」と軽くいなされたりします。

かくして運命の糸に操られて(けっこうヨーダの差し金だったりする)失意の農夫候補生オビ=ワンと元老院からの任務を帯びたクワィ=ゴンは同じ宇宙船に 乗船して辺境の辺境の惑星、バンドメーアに向かうことになります。                                                       
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