五次元世界の冒険 Virtual Library2


Mrs.ワトシット : Mrs.Whatsit

嵐の夜に起き出したメグは階下のキッチンでチャールズが自分を待っていてくれたことを知ります。母親のミューリ婦人も加わってチャールズは最近会った人の話を始めます。


「ワトシット夫人て、なんのこと?」とミューリ夫人がきいた。
「それが彼女の名前なんです」とチャールズ・ウォレスが答え始めた。「森の中にこけら板で屋根を葺いた、古い家があるでしょう。お化け屋敷だといって、子供達も近寄らない、あの家だよ。そこにあの人たちは住んでいるのさ」
「あの人たちって?」
「うん、ワトシット夫人とそれからワトシット夫人の二人の友達だよ、二日前にぼくとフォーティンブラスと外へいったんだ。メグ姉さんが学校へ行っていたときだよ。ぼくらは森の中に散歩に行ったんだ。すると急にフォーティンブラスが、リスを追って走り出したので、ぼくは、あとを追って走っていたら、あのお化け屋敷の所に着いたんだ。そこで、ほら、ぐうぜんというの?そのぐうぜんに、あの人たちに会ったんだよ」


フォーティンブラスが唸り出して、メグは午後に郵便局で皆がうわさしていた浮浪者のことを思い出します。何でもシーツを盗んだらしいのです。メグは少し怖くなりますがミューリ夫人とチャールズは落ち着いたものです。外に様子を見に行ったミューリ夫人が連れてきた人は何とも奇妙な姿をしていました。すっぽりオーバーをかぶり年齢不詳、性別不明、幾枚ものスカーフをまとい、黒いゴム長を履き・・これがワトシット夫人でした。サンドイッチをご馳走になったワトシット夫人と奇妙な会話が続いて立ち去る前に夫人は言い残します。


「・・・そうそう、通り道のことなんですけど、五次元運動ってやり方があるんですよ」
ミューリ夫人はそれを聞くと、さっと血の気が引き、片手を後ろに伸ばしていすをつかみ、かろうじて体を支えた。
「なんとおっしゃったの?」彼女の声は震えていた。・・・・
ミューリ夫人はおばあさんを送ろうともせず、じっと立ちすくんだままだった。ドアが開き、フォートが滑り込んできた。荒い息をはき、体は雨に濡れてアザラシのように光っていた。フォートはミューリ夫人を見上げて鼻をならした。
ドアが音を立てて閉まった。
「お母さん、どうしたの?」
メグは叫んだ。「あの人はなんて言ったの? いったい何なの?」
「五次元運動ですって」ミューリ夫人はささやいた。「何と言おうとしたのかしら? どうして知っているのかしら?」


この部分は意味深長です。ここまでは普通の現代の物語として読み進んできたのに「五次元運動」なる言葉が飛び出して様相が一転します。実は原文では「五次元運動」は"tesserac
t"となっていて、これはラングルの造語です。
翌日校長に呼び出されたメグは父のことで当てこすりを言われますが、彼女はきっぱりと、「科学者のお母さんは事実を見ることが仕事だ、そのお母さんがお父さんは帰ってくると言っているから私も、それを信じます」と公言します。これでますますメグの学校での印象が悪くなりました。
帰宅するとチャールズが待ち構えています。前夜の奇妙な訪問者ワトシット夫人の家へ行こうと気後れするメグを誘います。


れからしばらく二人は、よい香りのする松林の中を歩いていった。枯れた松葉を踏んで歩くのは気持ちがいい。頭の上では、枝の間を風が音をたてて、吹き抜けていく。チャールズがだいじょうぶというように、そっとメグの手をにぎった。やさしい、小さな弟が、なぐさめてくれるのを感じてメグの心の中のしこりが消えていった。チャールズはわたしのことを愛してくれているのだ。とメグは思った。


何気なく読み飛ばしそうな情景の描写ですがメグが弟を愛し、チャールズが姉を愛し、二人がいかに強い絆で結ばれているかがこの後もリフレインで繰り返し述べられます。

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