五次元世界の冒険 Virtual Library 1                       あかね書房 1965 渡辺茂男 訳


メグとチャールズ : Meg and Charles

暗い嵐の夜だった。マーガレット・ミューリは屋根裏の寝室で古いキルトにくるまってベッドの足下にすわって狂気のように吹きつける風に大揺れに揺れる木々を眺めていた。乱れ飛ぶ雲が木々越しに見え、月が、雲間から時たま姿を見せて、光を投げかけ、地面をかすめ去って飛び幽霊のような影をつくっていた。
家は激しく揺れた。キルトに身を包んでメグは身震いした。メグはいつもは天気などを恐れなかったのだが──これは天気のせいではないのだ。──いろいろなことが重なって、その上、この嵐なのだ。

学校がそもそもの始まりだった。学校では全てがうまくいかなかった。彼女は学年中で一番成績の悪いクラスに落とされてしまった。昼休みの時間に、気晴らしをしようとメグは少しばかり羽目を外して騒いだが、その時にも友達の一人がとがめるように言った。
「メグ、どうしたのよ。私達はもう小学生じゃないのよ。どうしていつもそんなに子供っぽいことをするの?」
そして学校からの帰り道、メグが両手にいっぱい本を抱えて歩いていると、男の生徒が一人、メグの「すこし足りない、ちびの弟」の悪口を言った。これを聞くとメグは抱えていた本を、道ばたに放りなげて、力いっぱいその男の子にかかっていった。その結果彼女は、ブラウスは破れ、片一方の目の下に青あざを作って家に帰ったというわけだった。

──不良少女、そうだ、それがわたしなんだ。──みんなはわたしのことをこれからきっとそう呼ぶに違いないわ。もちろん、おかあさんは違うけれど、他の人たちはみんな、わたしのことを。ああ、おとうさんがいてくれれば──
けれどもおとうさんのことを考えるとどうしても悲しくなってしまうのだった。



とまあ、このようにして物語は始まります。
ミューリー夫妻は、父親は物理学者、母親は生物学者という学者一家、メグは長女で学年は明記してありませんがハイスクール生(アメリカでは州によって学校制度が違う、ここでは多分5年制のハイスクール)、そのしたに10歳の双子の弟、5歳の末の弟チャールズ・ウォレスがいます

双子のサンディーとデニーはごく普通の少年なのですがメグとチャールズは普通という基準からは外れていました。

メグはどこから見ても可愛い女の子ではありませんでした。眼鏡がなければものは正確な形に見えないし、歯並びも悪ければ髪はネズミがかった茶色の癖毛、しかも余りに自分の感情をストレートに出すので学校では教師達から反抗的な劣等生の烙印を押されています。素晴らしい数学的才能とセンスを持っているのに学校の回りくどいやり方に辟易して先生に従わないし、地理、文学といった分野は全く苦手で、アンバランスです。つまり常人から見るとで全く「普通じゃない」ということになるのです。

弟のチャールズ・ウォレスはもっと普通ではありませんでした。5歳になりますが一言も話さなかったので人は彼を「少しおかしい」と噂していました。しかし父のミューリ博士は「この子はいろいろなことを自分のペースで自分なりの方法でやるんだ」と見極めていました。ミューリ博士が行方不明になってすぐ後にチャールズは幼児語を全く話さずにいきなり正確に完全な言葉で話し出しました。それに母親のミューリ夫人とメグの心を恐ろしいほど的確に言い当てます。他人は相変わらずチャールズを発達遅れの子供と見ていますが、実は物事の本質を見抜く力では人間には比べる者がないほどの直感を持っています、やはり普通じゃないのです。



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