偶然と運命 ハムナプトラ2の物語中で最も前作ハムナプトラ1と設定上違うことの一つはイヴリンとリックの素性が徐々に明らかになることです。 1ではイヴリンは高名なイギリス人エジプト学者(ハワード・カーナハン博士)の娘、リックはアメリカ人でフランス傭兵隊員。それまでの過去は述べられていません。 しかし2では二人とも実はBC.1900年代の古代エジプトと密接な関係を持っていたという予定説、運命論的なスタンスを取っています。これには賛否両論はありますが、新しい展開として、まあ大目に見る事にしましょう。 ![]() イムホテップがルクソール神殿でアナクスナムンの魂を蘇らせ、ミーラに憑依させる儀式を執り行っている頃、飛行船に乗ったイヴリンもその波動に共鳴して自分の前世を思い出していました。 イヴリンの前世はセティ1世の娘、ネフェルティリ、イムホテップともアナクスナムンとも極近い間柄で、王女ネフェルティリは父王からアヌビスの腕輪の守り人を言いつかります。(ここで最初の神殿で見た幻影の女性はイヴリンの前世の姿だったことがはっきりします) ネフェルティリはイムホテップとアナクスナムンの密会を目撃し、父王の危機にメジャイを呼びますが時既に遅く、セティ1世は彼女の目撃する中で暗殺されてしまいます。 ネフェルティリを襲った衝撃は3000年の時を超えてイヴリンを震撼させ、イヴリンは覚えず舷側を越えて中空に飛び出します。 しばらくその箇所を引用します。 Rick O'Connnell looked up from where he and the Med-jai chieftain were locking and loading weapons of war, and saw his lovely wife swaying, dangerously, at the rail of the ship. "Evy!" he cried, scrambling to his feet. But she did not hear him. And he had not reached her when she went tumbling over the side, lost in her trace, aloft in the past, and the sky. He dove for her, grabbed for her hand, and at that moment, she snapped out of it --- not in time to stop her fall, she was well over the side by then, but to latch onto her husband's hand... ...pulling him overboard with her! ────リック・オコンネルはメジャイの長とともに、銃をロックして弾を込めている手元からふと目を上げた。そして愛する妻が、いかにも危なげに舷側でゆらゆら揺れているのを目撃した。 「エヴィ!」叫ぶともつれるように立ち上がった。 しかしイヴリンに彼の声は聞こえないようだった。 そしてイヴリンが記憶の幻影に囚われて過去に浮かされたようになって、船の舷側を越えて空中へと体のバランスを崩す所へ手を伸ばしたが届かなかった。 リックは身を躍らせると、彼女の手をつかもうとしたが、その手は彼の手をするりと抜け出してしまった。同時に彼女は船から身を泳がせた・・・落下を止めるのは間に合わなかった、エヴィは完全に舷側を越えていた、しかし夫の手にすがる時間はあった。 そして一瞬後には、リック自身も船外に身をさらし自分と彼女の二人分の重さを支えていたのだ! O'Connell felt himself sliding over a rough surface, realized it was a fishing net, slung alongside the decrepit trawler, and with his free hand grabbed hold of a fistful of netting, catching himself and his wife, breaking their fall, temporarily at least. ────オコンネルは体がごつごつした物の上を滑っていくのを感じた。老朽漁船の舷側に垂れている漁網だと覚ると同時に空いている手は力一杯網をつかんでいた。その片手で自分とイヴリンの二人の落下をほんの一時食い止めていた。 ...Straining under the weight, fighting gravity, holding on to the netting with a fist that screamed for relief, O'Connell looked down to his wife's huge eyes and casually asked, "Going somewhere?" ────(中略)重みに耐えて重力にあがらいながら、ちぎれそうな片手で網にぶら下がってオコンネルはイヴリンの大きく見開かれた目をのぞき込んでどこ吹く風というようにきいた。 「どこかへ行くのかい?」 Soon, Ardeth Bay and Jonathan had hauled the couple back up onto the deck, like two big fish, and within minutes, they were all gathered around a barrel, glowing fire licking up from within, painting all of their faces a warm orangeish red, and Evy told them what she had seen, and experienced. ────すぐにアーデス・ベイとジョナサンは二人を大きな魚のように甲板に引き上げた。そして時をおかずに全員が火を焚いている樽の周りに集まった。 明るい炎の舌が樽の内からちろちろ見えて周りの顔を暖かい橙色に染めていた。 そして・・・エヴィは自分が見たこと、経験したことについて語り出した。 ![]() なかなか度肝を抜かれる場面でしたね。いくら敏捷に動いても重力による落下物を捕らえられないと思うのですが、愛する人のためならたとえ空中にでも飛び出していくリックの潔さ(もしくは後先見ずの行為か?)にはただただ感心(溜息) 移動手段の飛行船をただの籠のついた気球にせずに老朽漁船(かなり重量があると思われる)と言う設定にしたのは、一つには5人という人数を一度に運べること、それとこのイヴリンの落下を止める重要な小道具の「網」の存在が不自然でないこと、(後一つ下世話なことを言えば、タイタニックとスタトレのパロディを成功させるため)などが理由だと思います。 さてイヴリンの信じられないような話を聞いて、リックは真に受けることができません。映画ではほんの少し「彼女が王女で僕がメジャイだって? そりゃ都合のいいことだ」みたいな台詞を言っていますがノベライズではもう少し理性的な反論をしています。しかしそれはアーデス・ベイの運命論によってやんわりと否定されるのです。 The fright behind her, Evy seemed exited, almost giddy. "Does this mean," she asked, posing her question to the Med-jai warrior, "that I am the reincarnated Princess Nefertiri?" "Yes," Ardeth Bay said, not a tinge of doubt in his voice. "And the woman, Meela, is Imhotep's beloved, Anck-su-namun, reborn." "Three thousand years ago?" O'Connell asked, both eyebrows up. "There thousand years ago." Ardeth Bay said, nodding solemnly. "That makes me the brother of a princess," Jonathan noted. "I don't suppose an inheritance is involved...or that there are reparations to seek---" ────大変怖ろしい思いをして、エヴィは却って興奮して憑かれたように饒舌だった。「ということは、」メジャイの戦士の方を向いて質問を投げかけた。「私は王女ネフェルティリの生まれ変わりだということ?」 「その通りだ」アーデス・ベイの声には一部の疑いもなかった。「あの女、ミーラはイムホテップの愛人のアナクスナムンの生まれ変わりだ」 「3000年も前のか?」両眉を上げてオコンネルが聞いた。 「そう、3000年前のだ」重々しく頷いてアーデス・ベイが答えた。 「じゃ、僕は王女様の兄貴ということになるのかい?」とジョナサン、「まあ、遺産相続問題には関わらないと思うけどね...それとも損害賠償を求められるのかな...」 ジョナサンの合いの手は誰にも相手にされません No one bothered to respond to that, though O'Connell, gently, said to his wife, "Forgive me, dear, but... should you accept all of this so, wholeheartedly? So matter-of-fact?" Her big eyes shrugged. "Why not?" ────誰もそれに応ずる者はなかった。オコンネルは優しく妻に語りかけた。 「ねえ、こんな事を言って気を悪くするかもしれないが、君はそれを心の底から全部そのとおりだと信じているのかな?全くの事実だと思ってるのかい?」 エヴィの大きな目が驚いたように開いた。 「どうして信じちゃいけないの?」 "Evy, you've been having those dreams, those visions, and---" "Exactly! and those dreams and visions all make sense, now ---they're memories of a previous life." "You grow up the daughter of an Egyptologist--- our entire life has been steeped in the facts and lore of this land. Couldn't that knowledge, and your interests, have fed these visions?" ────「エヴィ、君はずっとこんな夢を見たり、こんな幻覚を味わったりしてきたんだ・・・」 「そのとおりよ、その夢も幻覚もやっと今になって意味があったのが分かった・・・全部前世の記憶だったのよ」 「君はエジプト学者の娘に生まれ育った、それに僕らの暮らしだってこの国の歴史や伝承にどっぷり浸かってきたんだ。君の溢れるほどの知識と関心のせいで、そんな幻想を見たとは考えられないかい?」 Just the faintest bit cross, she asked, "You're saying, I'm deluded? Obsessed?" "No...it's just--- think of what we went through, ten years ago. The living nightmares we experienced. Why be surprized that your subconscious fed those experiences into your dreams?" "Calling Dr.O'Connell,"Jonathan said. ────ほんのちょっと苛ついてイヴリンは尋ねた。「私が思い込みに取り憑かれてでもいるというの? 」 「いや・・・ただ・・・10年前に僕らが経験したことを考えていたんだ。まさに生きた悪夢だったろう。だから君の無意識のうちにこの経験が夢に反映されたと考えても驚く事じゃないよ」 「ごりっぱ!オコンネル博士」ジョナサンが口を挟んだ。 "Rick," Evelyn said patiently, taking his hands into hers. "This explains everything--- ite all makes sense, now." "You mean, this is why we found the Bracelet of Anubis?" "Precisely! Princess Nefertiri was the guardian of the bracelet---which is exactly why I was led to find it." ────「リック、」夫の手を自分の手に包み込みながら辛抱強くイヴリンは言った。 「全て説明が付くのよ・・・・全部意味が通るわ」 「だから僕らがアヌビスの腕輪を見つけたってことかい?」 「そのとおりよ! ネフェルティリ王女は腕輪の守護者だったのよ・・・だからこの私が発見することになっていたのよ」 ここまで説明されてもリックはまだ懐疑的です、今度は符丁が合いすぎていると思うからです。その時アーデス・ベイがイヴリンの言葉を裏書きするような発言をします。 Somberly, Ardeth Bay said, "Perhaps you were both led to find it. Surely now you believe, my friend!" He gestured with both hands to Evelyn. "Clearly your destiny is to love and protect this woman." ────重苦しくアーデス、ベイが言った。 「多分君たち二人があれを見つけることになっていたのだろう、さあ、もう信じる気になっただろう」 両手でイヴリンの方を指し示しながら続けた。 「明らかに君の運命はこの女性を愛して守ることだ」 O'Connell shook his head, smirking. "Yeah, right--- she's a reincarnated princess, and I'm a warrior for God." "Such would be the response I would expect from you, if you were not, for the second time, seeking to do battle with a resurredted mummy." O'Connell couldn't say much to it. ────オコンネルは苦笑しながらかぶりを振った。 「ああ、君の言う通りだ・・・彼女は王女様の生まれ変わりで、僕は神の戦士だよ」 「それこそ君の口から聞きたかった答えだ。もし君がまた甦ったミイラと自分から好きで戦いたいと思っているのでなければな」 これにはオコンネルも何も言い返せなかった。 Ardeth Bay continued: "How else do you explain your wife's dream and visions---not to mention her newly acquired combat skills? And how do you explain that you have worn, since your childhood, the mark of the Knight Templar?" The red sky was darkening into night. ────アーデス・ベイは先を続けた。 「急に身に付いた戦闘術は言うまでもない、他にどうやって君の奥さんの夢と幻覚を説明する? それに小さい頃に入れられた君の聖堂の騎士の聖印(*)は?」 茜色の空は徐々に暗みを帯びて夜になっていく。 O'Connell shurugged. "Where I come from we call it coincidence." "Where I come from," Ardeth bay said, "we call it Kismet." "Fate, you mean." "Fate." Ardeth Bay put a hand on O'Connell's shoulder. "You may say they are not the same, my friend---but in any language, in any culture, there is a fine line betweeen coincidence, and fate." ────オコンネルは肩をすくめた。 「僕の国ではそれは偶然と言うんだ」 「我々の国では」とアーデス・ベイが後を続けた、 「それをキズメットと呼ぶ」 「運命のことだな」 「そうだ、運命だ」アーデス・ベイはオコンネルの肩に手を置いて言った。 「君はこの二つが同じではないと言うかもしれないが・・・どんな言葉でもどんな文化でも、偶然と運命の間に横たわるのは細い線に過ぎないのだ」 ここは見せるいいシーンでしたね。これは3000年に渡って一族で使命を全うしてきた者だからこそ言える言葉で、それ故に重みを持つ言葉です。 (オコンネルの様な現実的な実証主義者には理解できない、またはしたくない観念かもしれないですが・・・) アーデス・ベイにとっては自分の一生はメジャイとしての勤めを全うすることの一点に収束しています。それは運命以外の何ものでもありません。 しかし彼はその生き方に疑問を差し挟まず、誇りを持っています。額と頬の刺青は部族諸共、自らを他の人々と隔絶して運命に殉じる決意の現れとも読めます。 ![]() 今回のアヌビス軍との対決で集結したメジャイの部族は12、戦士は1万人、どこにこれだけの秘密を奉じる人々が待機していたかは謎ですが、その一糸乱れぬ統制と滅私の使命感は見る者に感動を与え、圧倒的な敵の大軍に向かって思わず"God help us. "と洩らしながらも "'til Death"と叫んで、皆がそれに従うクライマックスは何度見ても胸が熱くなる思いでした。 (*)印の"Knight Templar" についての説明は別項にします (2001/07/26(木) 記) |