以前といっても、ずっと昔、アクション映画に海賊映画とというジャンルがありました。エロール・フリンといった人が活躍した頃のことです。財宝を(多くの場合は美しい女性も)積み込んだ船が海賊の標的になる、海賊船は外洋で商船を取り囲むと接舷してマストから吊ったロープに、ターザンよろしく掴まって(腰には大刀とピストル、口にはナイフ!)隣接する船に電光石火で乗り込みます。 トゴリアの宇宙海賊の攻撃を見ているとどうも昔のこの海賊の常套手段を思い出してしまいます。 まず宇宙船の航路に機雷を仕掛けておき、船の通過にあわせて爆発させる、そしてハイパースペースから船を叩き出します。一方、自分たちは近くの通常空間に潜んでいて船が現れるとそれっとばかりにドッキングして略奪行為に移る。手向かう者は皆殺し。何ともクラシックな海賊のパターンです。エアロックをこじ開けて侵入するときの金属音の描写……Ep4:ANHの冒頭、C-3POの狼狽ぶりを思い出して懐かしくなるような記述です。 即座に海賊と覚ったクワィ=ゴンは船を守るためにオビ=ワンの協力を頼まなければならなくなります。 しかしここの記述はいささか異様です。いかにオビ=ワンとは距離を置きたがっていたとしても、ハット族やアーコナ人と、いやしくもジェダイの教育を受けた(それもかなり優秀な生徒の)オビ=ワンを比べるまでもないでしょうに。 思うにクワィ=ゴンの脳裏をかすめたのは、あの"ザナトス"がいてくれたら、という思いです。それほどまでにザナトスは卓越した能力の持ち主で、クワィ=ゴンの信頼も厚かったのでしょう。危機に瀕してまで、(裏切った)ザナトスへちらりと思いを掛けるクワィ=ゴン、マスター、あなたはかなり思い切りが悪く未練が残るタイプなんですね。 オビ=ワンにはクワィ=ゴンの心の中は分かりませんが、読者には眼前で協力したいと熱望しているオビ=ワンを無視してザナトスを思うマスターの心根が恨めしくなる一節です。 一人で海賊の侵入を阻止する決意をしたマスターは、オビ=ワンに操縦室へ行って船をこの場から動かすように指示します。共に戦いたいというオビ=ワンの懇願も聞き入れられず、船の移動が全員の生死を決めると言われ、オビ=ワンは意を決して走り去ります。 その後ろ姿を見て初めてクワィ=ゴンは現実を認めて、「ああ、この子はまだほんの子供なのだ」と、年端もない少年に過大な責務を負わせてしまった一抹の後悔と憐憫を覚えるのですが……。 クワィ=ゴンの前に立ちはだかったのはトゴリア人の海賊、この描写が何というかパルプアメコミのB級宇宙物に登場する、如何にもという悪役タイプです。この辺りの詰めの甘さがわたしがこの作品中で余り気に入らない所の一つです。違法行為を効率よく成功裏に行うためには一切の装飾性は不要、対抗勢力とは極力戦闘を避けて略奪行為に専念する、それが王道でしょうに。 過去に屠った好敵手の頭蓋骨を首に掛けて……?これはチベットラマ教の閻魔に相当する像がこのような姿をしていませんでしたか? ともかく格好のチープさと実力は別らしくクワィ=ゴンはかなりの苦戦を強いられます。Ep.1の20年後の老いたクワィ=ゴンのイメージがあったのでしょうか? 少なくともJA1の頃クワィ=ゴンは全盛期のはずなのでシスなど強敵は別として一般人の(!)宇宙海賊を相手に手こずるとは内心やきもきしてしまいます。 Ep.1公開と前後して刊行されたJA第1巻なので登場人物のキャラクターが固定していないようです。1巻では読者層の狙いもかなり低年齢からに設定されていたようで子供受けする内容、わかりやすい展開をことさら心がけているようです。こういった事情でクワィ=ゴンの負傷という余りイメージの湧かない展開になったのだとすると納得です。 万難を排してこの空域から脱出せよとクワィ=ゴンから命を受けたオビ=ワンは操縦したこともない大型輸送船をともかくも飛ばし、付近の名もない地球型惑星へ不時着させます。 この惑星、描写はJAシリーズの中でも一、二を争う美しいものです。地表を覆う大洋、五つの色様々な月、そして空の高みを悠々と風に乗って漂う銀の鱗を持ったDraigonの群れ。 Draigon、これは作者の造語ですが欧米の子供にはすぐにdragon(ドラゴン、龍)を連想させるでしょう。しかし描写を読んでいると、あの典型的なコウモリ式の翼を持った大きな蛇、口からは火を吐きかぎ爪で人や家畜を襲い、セント・ジョージに退治される、あのドラゴンのイメージとちょっと違うのです。そこで敢えてドラゴンを連想させるドレイゴンを使わないほうがいいかも知れないと思います。高空に漂う巨大な銀色の流線型の生物……これはわたしには巨大飛行船(ヒンデンブルグやツェッペリンといった)か、鯨のようなイメージで迫ってきました。恣意的ながら「魚龍」というイメージです。ただ中生代に繁栄した恐竜の一種である魚龍とはまったく異なったものです。 ← 前のページ JA Roomへ戻る |