第21回ちょっといって講座  「三位一体改革の行方と地方分権」

澤井勝 奈良女子大学教授 

2003年9月26日 国際交流会館

(1)地方財政規模の圧縮

三位一体改革とはなにかということですが、議論としてはかなり出ています。手元に「地方財務」9月号がありますが、伊東弘文氏、池上健彦氏、小西砂千夫氏などが書いています。8月号には神野直彦氏と岡本全勝氏との対談などもあります。

700兆円におよぶ政府債務の存在、そのための財政構造改革というのが大前提にあります。まず金がないということです。もう1つが分権改革の問題です。この二つが合わさって三位一体改革の議論が出ています。三位一体改革というのは国庫補助金と地方交付税、地方税の3つです。これを一体的に改革しようというものです。もともとは小泉首相自身のキャッチコピーです。四位一体改革という言い方をするひともいますが、それは地方債改革です。地方債の元利償還金を交付税で面倒を見るからです。

四位一体改革の入り口は何かというと、分権改革からいえば、国庫補助金の廃止ないし縮減をどうするかです。東大の神野直彦氏などが地方分権推進委員会で提言されていることです。三位一体改革の一つの主役が地方分権改革の流れで、一応、総務省が担っています。もう一つの流れは財務省です。財務省の三位一体改革の切り口は地方交付税の廃止ないしは縮小の流れです。財政制度審議会というのが財務相の諮問機関としてあります。財政制度審議会の基調は交付税制度の廃止です。これは強力です。京都大学の吉田和男 氏や東大経済学部の各氏がこの流れです。アメリカの経済学の流れをくむ人です。過疎地に住まなくて、みんな東京に集まれば経済効率はいいという考えです。これが財政学会や現代経済学会の主流です。「交付税を守れ」と言うのは学会では守旧派です。東京では圧倒的にこの考えが強いわけです。

その三位一体改革の流れの中で、どうにか妥協ができました。経済財政諮問会議で6月18日に「骨太方針」の第三弾がでて、それが、翌日閣議で決定されました。

(2)国庫補助金の削減

そこで国庫補助負担金4兆円削減がでました。これは大成果です。片山総務大臣が頑張ったこともあり、小泉首相の鶴の一声で決まりました。平成18年までに4兆円を削減する。その分を地方税に切り替えるということです。財務省もこれを飲んだわけです。基幹税を移譲する。基幹税というのは、言葉の素直な意味では所得税というのが筋です。国税の中心である所得税を住民税の所得割に移管するということです。神野氏たちの主張もそうです。しかし、財務省はこの税目を飲んでいるわけではありません。消費税という話もあります。基幹税といえば消費税も入るでしょう。消費税は5%で12兆円あります。そのうち県税の地方消費税が1%あります。1%で約2兆円超ぐらいです。その場合消費税の税率を引上げて、社会保障の財源に当てるという考え方が先週の財制度審議会からでました。消費税を10%引上げないと間に合わない。10兆円増税になります。10兆円増税して、所得税を減税するという考えはどうでしょうか。これにはいろいろな議論があります。総選挙があり、各党とも増税のことをいわなくなりました。

国も地方も赤字で国債と地方債で食っています。歳出と歳入が合っていない。歳出規模は100兆円あるのに歳入は50兆円しかない。後の50兆円は国債・地方債とその他の借金でまかなっている。赤字をなくそうとすれば、100兆円の歳出を50兆円に削るか、50兆円の税を増税して100兆円にして歳出に合わせるかしかありません。今回の自民党の総裁選では小泉首相は構造改革を進め、財政出動による景気対策はしないといっていましたが、残り3候補者は大規模な財政出動で景気回復といっていました。3候補者の意見は、さらに赤字国債を増やし、景気回復させて税収を増やし、それで借金を返すということです。しかし、実際にそうなるかは分かりません。現状は収入がないので借金が積み上がる状況です。最初の小泉内閣では国債30兆円枠ということでがんばりましたが、30兆円枠ははじけ、40兆円以上になっています。来年はそれ以上になるでしょう。この事態をどうするかです。

(3)歳出のコントロール

もう一つの問題である市町村合併も元は同じです。市町村合併が出てきた元は国の財政がもたないということからです。いままでのような3200の市町村に金を配れない。できれば1000にしてという発想がある。長期的には財政的余裕を作りたいというわけです。なぜ市町村合併かというのは、国の財政の都合から出てきた議論です。もちろんそこに分権改革の議論もからんでいます。

私たち自身の判断はといえば総選挙ということですが、そこまで政策がクリアに出てくるかどうかは分かりません。 増税是か非かがクリアな課題ですが、選挙では両方とも言わない。

三位一体改革の柱は4兆円の補助金の削減です。しかし、4兆円は全部各省の金ですから名指しができなかった。結論は毎年度の国の予算によって決まる。今度の11月総選挙後の12月の内閣で、通常国会にでる16年度予算案にどの程度削減の中身が織り込まれるかで、三位一体改革の「最初の成果」がでるかどうかです。一番のねらい目は義務教育費国庫負担金の削減です。これは一昨年から議論がでています。特に教職員給与費負担金3兆円・これを削減して地方財源に移そうということです。これはじわじわと切られてきており、今年度は退職金の一部 が2000億円程度削減されて、交付税措置されました。みなさんはこれに賛成しますか、反対しますが。具体的には小中学校の教職員の給与費を県が1/2,国が1/2負担しているわけです。教職員組合は絶対反対です。全国知事会は反対論が強い。義務教育だし、県に負担を押しつけられるということです。

4兆円のうち一番大きな3兆円がにっちもさっちもいかない。そうすると、細かいところが切られる。今年度は先の教職員退職金の他、200億円ほどの細かい補助金が廃止されています。保育所保育士加配分の廃止、障害児保育事業、精神障害者の日常生活支援事業が廃止され一般財源化されました。4兆円を18年度までに削減するとなると、こうした細かい補助事業にもとばっちりがきます。国交省関係の公共事業関係補助金、厚労省関係など細かい補助金が削られてくる。そうすると、現場が困る。削られる対象となる細かい補助金は新しい事業についている補助金が多い。子育て支援事業など応援団がついていない事業です。市民の関心が高くない。その場合どう判断するか。地方特例交付金でその財源は来るわけですが、そこまで議論がいかないわけです。学者は国庫補助負担金廃止・4兆円削減はいいことだとなりますが、現場はそうではない。国庫補助金を廃止されたときには、補助金が無くても地方特例交付金などで財源配分を変えていく取り組み・交渉が必要となります。事業を守ろうとすればそのための財源を確保しなければなりません。もちろん補助金がついてくれば事業はやりやすいわけです。改めて事業の説明をする必要がないからです。三位一体改革というのは霞ヶ関の話ではなく現場の話なわけです。そうしないと霞ヶ関で頑張っている話が生きてこないわけです。

一般財源の割り振りをどうするかを議論していかなければなりません。一番大きなところは公共事業に張り付いている財源をはがすことです。しかし、公共事業にもそれほど一般財源は注ぎ込んでいるわけではありません。補助金と起債がほとんどですから。そこに新しい税がついてくればいいわけです。

(4)地方税への財源移譲の方向性

新しい税が移ってくるとすれば、税50兆円のうち現在、国税30兆円を地方税20兆円ですが、これを国税30兆円を20兆円に、地方税20兆円を30兆円にしてというのが分権改革の流れです。そうすると、国税は減税になり、地方税は増税になります。地方税の増税の方法には二つあり、現在の税の税率を引上げるというものです。もう一つは新しい税をつくることです。現行の地方税の税目は尽きています。課税する対象は限られている。基幹的な住民税の引き上げしかありません。その準備ができているかです。地方税法を改正し、国税を2%減税してその分県民税と市町村民税を引上げるという法案が通ったとして、それですんなり行くかです。各県議会、各市町村議会で条例改正をしなければならない。説明がうまくいくかです。説明しなければなりません。何をやってくれるのだとなります。増税のアカウンタビリティです。増税によって何をするかを県民・市町村民にきちんと訴えて、条例を可決成立させなければなりません。これができれば地方分権は進むでしょう。しかし、それが難しい。中身がない。何をやりますかといっても説明しにくい。

(5)自主課税権の活用

もう一つのやり方として新しい税をつくることです。自主課税です。地方税法に定めのない新税を法定外普通税・法定外目的税としてつくる。法定外普通税としては福井県では核燃料税があります。市町村では山砂利採取税などがあります。昔は法定外普通税というのは沢山あり、犬税というのがありました。リヤカー税、自転車税、ミシン税などもありました。リヤカー税は軽自動車税になりました。これは大分整理されました。そのような法定外普通税を設立してもいいわけです。携帯電話税とか新しいものにかけると経済学的には困る。伸びてくる産業をたたくことになります。電気税の復活などはいいとおもいます。消費税導入時に電気税は統合廃止されました。 電気消費は所得と比例して動くわけです。税の徴収を委託すればよい。ほとんどコストがかからない。電力消費の抑制にもあります。環境税と同じです。原発所在地から大阪にかけてもいい。水源税と同じ考えです。

最近のはやりは法定外目的税です。東京都のホテル税、河口湖(周辺4町村)の遊漁税、産廃税は三重県が導入し2億円程度の収入があり環境目的に使うということです。奈良、和歌山なども検討しています。広島など中国地方の県でも導入予定です。最近一番評判がいいのは高知県の森林環境税です。県民税に森林環境税割を200円、法人にも200円掛けます。年間2億円くらいの税収になりますが、これを森林環境基金にプールして、間伐の資金の財源にします。これについては三十数県で検討が始まっています。これは非常に良い税だと思います。これまでの課税はよそ者課税です。東京都のホテル税もそうですが、他県の人にかける。産廃税なども他県の業者にかける。自分にはかけない。それは税としてはおかしい。自分で事業をやるのだったら、自分でお金を出さないとおかしわけです。

もう1つ水源税という考え方があります。水源を守るために水源で恩恵をこうむっている下流からもらう。それは奈良県・京都府の奥とかの淀川の上流の森林を守るために大阪市民の水道料に上乗せする考えです。神奈川県の水源税もかなりのところまできています。受益者負担の考え方です。この考え方は、既に琵琶湖総合開発に生かされています。琵琶湖開発の財源を京都府、大阪府、兵庫県が出して、それを琵琶湖総合開発交付金として使ったわけです。電源の場合には電源開発交付金が来ているので二重には取れません。

(6)権限と予算の地域への移譲

三位一体改革で補助金が削減される場合、その事業が必要だとするならばその財源を守るためにどうするかです。先端的福祉としてやっている障害者福祉などが切られると窮地に立たされます。そのための財源をどう確保するかです。そして、財源移譲で地方税増税になりますから増税を訴えてきちんと納得してもらえるかどうか。そのための政策の中身が必要です。法律が決まったから増税するというのでは寂しいし、むき出しの権力になってしまいます。分権改革の中で財源が欲しいといっているのですから、分権改革の中身を充実させるべきです。2000年4月から分権一括法が施行されておりもう3年半になります。改革の効果はどこに出ているかです。「変わっていないじゃないか」というのがみなさんの実感ではないかと思いますが、改革が見えにくいからです。今年の6月13日に参議院で職安法の改正案が可決成立しました。即日交付されています。昨日9月25日に労政審が開催されました。職安法改正に係る政令・省令案が提案されているのではないかと思います。中身は、雇用労働行政の主体として県、市町村が位置づけられたことです。地方分権一括法の中で国の機関として各県に労働局ができ、その中に職業安定所も入り、地方事務官制度が廃止されました。そのため、雇用労働行政は国に一元化されたわけです。一方、雇用対策法もこのとき改正され、地方公共団体は国の施策とあいまって、地域の雇用政策を実施しなければならないと規定されました。これは画期的な規定です。雇用労働政策の中心は国ですが、地方公共団体も雇用労働をやる機関として位置づけされたわけです。県の方は最初混乱しました。職安が国の機関になったことで、県はなにをやっていいのか分からない状態が1、2年続きました。しかし、大阪府や福岡県などでも新しい府県としての労働行政のあり方が模索がされています。自治事務なのです。

6月13日の職安法の改正で無料職業紹介事業が出来るようになりました。つまり、ハローワークの斡旋事業ができることになります。県、市町村もできることになります。雇用労働行政の主体として分権化されたわけです。京都市で研究会をしていますが、権限が来ても、労働課といった受け皿がないわけです。担当課の設置が必要です。 雇用労働政策の窓口をつくることです。現場では余計な仕事が来たという感じなのです。町村は難しいですが、広域連合を作って、地域の雇用労働政策を考えて欲しい。福祉政策と絡んでいる。雇用なくして福祉なしです。高齢者福祉・母子福祉もそうですが働く場がない。働く場、ワーク・アンド・コレクティブなどのように自分たちで金を出し合って、働くという自営業・NPOもありますが、それらも雇用労働政策の一環です。福祉政策と雇用政策を結びつける。いままでは情報の提供だけしかできなかった。福祉的な雇用政策がハローワークにできるでしょうか。カバーする範囲が広すぎて、世帯主の雇用をどうするかが中心になります。

この間、経済産業省・文部科学省・内閣府が乗り出してきているのが若者対策です。特にフリーター対策が5月に4省庁合意で始まりました。失業率は全国は5.4%、福井の失業率は3%台で低い方でしょうが、大阪は7%、京都は6.6%です。20代は12〜3%、失業率はもっと高いわけです。20%を超えるという議論もあります。この割合は英独なみです。それに対する危機感がない。こういう領域は市町村がやれる領域です。「定住」。どうにか就職口を確保するというのが市町村の活性化政策の中心のはずです。

岡山県津山市は人口7万人の市ですが、ここに1市14町村でつくった津山圏域雇用労働センターというのがあります。1978年に設立されました。求職求人情報を提供する仕事をしていました。これまでは斡旋が出来なかったが、今回、斡旋ができるようになって喜んでいます。若者定住が最大テーマです。中国自動車道ができ工場団地をつくり松下の第一下請などの工場もできましたが、若者はストロー効果で大阪へ吸い取られるようになりました。雇用がないから若者が出て行ってしまう。雇用をつくるのが行政責任ということで市長が頑張った。大山さんという人が市長にアドバイスした。テーマは「雇用無くして定住なし」というスローガンです。

分権改革で権限が市町村へ来る。その権限をつかってなにをなるかです。無料職業紹介所は届出でいいわけです。「もっぱら」無料紹介事業をやってはいけない。「もっぱら」やるのは国の仕事ですが、市町村・都道府県の政策の一環としてやるのはいい。住民の福祉の向上でもなんでも理屈がつけばいいわけです。税源移譲で税率を上げる。それを雇用政策に使うということです。

人を雇うかどうか。臨時雇用補助金はきっかけですが、道路の清掃をしたり、駅前の自転車の整理をしたりに使われています。そのためにどう金を使うか。人件費が中心になります。福祉系統は重要です。それに若者対策です。民間事業者と競合しない、就職の場にアクセスできない人をどう支援するかが行政としてやるべきことではないかと思います。高齢者、障害者、母子家庭とかは動ける範囲が限られており、市町村の範囲で相談業務をやって斡旋をすることです。まず相談業務、コーディネーター業務です。そのためには人が必要です。人件費800万円、その他の経費を含めて12,000千円程度の予算が必要です。これをやっているのが大阪府です。地域就労支援事業を2002年度からやっています。元々は同和対策事業で、同和対策事業の一般事業化により設けられたものです。昨年は16市町村に交付しています。コーディネーターの設置費を1人500万円で、その1/2を補助しています。500万円ですから正規職員ではないのですが、非常に評判がいいので今年から全市町村に広げることになりました。部落解放同盟の評価もいい。一人一人の名前と顔がわかり、この人はこうした仕事に向いているといった方法です。介護保険のケアマネージャーの方法と同じです。ケアマネージャーは1人1人にケアプランを作る。同じ考え方を失業者に適用する。こうしたお金の使い方は認めてもらえると思う。これまでの失対事業とは違う。

(7)行政の専門性

国庫補助負担金の削減による税源移譲の財源を新しい不可欠の分野にちゃんと展開できるかどうかが、分権改革で住民と職員の新しい関係をつくるきっかけになると思います。行政に不信感がある。だから増税しようとしてもうんといわない。分権改革は現場にある。これはすごく大変です。法の解釈を自分でしなければならない。分権改革の一番の柱は通達の廃棄です。法の解釈の責任が都道府県・市町村に来ている。主査・係長(課長補佐)クラスにその権限が来ている。起案するのは主査・係長クラスです。そこで法律を解釈しなければならないわけです。通達は失効しているわけです。行政実例判例集は廃棄すべきものです。あるのは本法と政令だけです。それを読んで解釈して運用していくことが第一線の職員に求められています。この法律は何でできたか、どういう目的で作ったのか。どういう政策意図で作られたかを勉強してはじめて法律の解釈ができるわけです。ところが法律の「目的」を読んでいない。目的が大事です。「通達」は知恵の固まりですから参考資料として使えばよい。しかし、通達にこう書いてあるからというのではだめです。通達には何の効力もありません。法律を適用しようとすると、地域にどんなニーズがあって、法律をどう使えるかを考えることです。津山の雇用労働センターは職安法第11条の拡大解釈でいくことにしました。機関委任事務としての求職情報の取次業務という条項がありました。だれも使っていなかったわけですが、それを雇用労働センターまで発展させたわけです。そうした地域の課題を捉え、ニーズ調査をやって欲しい。地域の将来像を描いて、それを徹底的に議論して欲しい。地域福祉計画を堺市と菟田野町という小さな町でやっていますが、集落・区ごとの意識調査、座談会をやり、地区ごとの行動目標を立てていく。そのためにはコンサルへの丸投げをやめてほしい。

(8)小学校単位での地域づくり

市町村合併はいいチャンスです。今年、私は「自治体改革第二ステージ」という本を「ぎょうせい」という出版社から出しました。その中で新市建設計画への提案ということで考え方を示していますが、今のところ新市建設計画はそれぞれの市町村の持ってきた事業の寄せ集めとなっています。どういう町をつくっていくかというイメージはコンサルに投げています。中身は従来事業の寄せ集めになっているわけです。本当の意味の合併はどういう市を作るかということですから、どういう新しい町をつくるかを考えるいいチャンスです。具体的現場としては丹後6町の合併をモデルとしています。来年4月に発足します。なぜ合併がうまくいかないかというと町の計画づくりがでていない。従来の集権型のイメージだから、役場をどこにするかでもめる。我々は分散型・分権型合併を提案しています。旧町村の主体性・伝統を守りながら新しい町をつくる。役場機能を分散する。中心は峯山というところですからそこに強力な本庁を置く。特に企画・政策法務など国や県と対等に議論できる部署を置く。地域担当職員制をとる。新しい町は分散型・分権型の都市をつくるということです。これは合併しない町も同様の課題があります。もし仮に福井市が合併しないとしても福井市はもっと分散型・分権型であるべきです。地域に権限を下ろす。 校区ごとの自治区に再編成する。地方自治法が改正され「地域自治組織」の規定ができますが、問題はその使い方です。中身は我々が決めればいい。「地域自治組織とは何ですか」と総務省に聞くようなばかなことはやめてほしい。いろいろなタイプがあってよい。たとえば福井市を5つのブロックに分けて、そこに総合支所を置いて、校区ごとに地域自治組織を作ってというのでもいい。歩いていける校区を単位とすべきです。そこでコミュニティーの再生を図っていく。住民参画でコミュニティーを運営していく。行政はコーディネーターとして一歩下がる。

(9)市民と行政、事業者のパートナーシップ

今後行政の職員数は減っていく。行政のやる範囲は縮小していくでしょう。しかし、公共サービスは増える。どうしたらいいかというと、行政のやり方を変える必要がある。行政は直営でやらない。住民・参加者・利用者を主体にしていく。住民自身が新しい市民になる。自分たちで統治・管理する。これまでは行政が出しゃばりすぎていてじゃましていたわけです。「ガバナンス」といいますが、日本では1990年代後半に言われ出しました。住民・行政が一緒に統治する・「パートナーシップ」・協働して管理するということです。

しかし、これは大変なことです。私どもの国立大学も大変です。独立行政法人なるので、労安法の適用とか様々な問題があります。仕事のやり方、ニーズの立て方を含め、取捨選択を厳しくやる必要があります。敬老見舞金の廃止とかです。分権改革を推進する形で、職員と住民との新しい関係・働く者とサービスを利用する者との新しい関係をつくる方向で頑張って頂きたい。

 

質問

(10)市町村合併と財政の問題

福井市は5市町村で合併を目指していますが、市民が関心を持っていない。これまで何度か合併協議会の傍聴もしていますが、協議会でも事務局案に対して意見が出てこない。その中でも特に財政の問題が分かりにくい。

 

澤井

福井市は合併しなくてもやっていけます。過疎山村・人口1万以下とかは厳しいかもしれません。交付税が減っていますから。合併しないという選択肢もありますが、それはもっときつい覚悟が必要です。職員数は1/2以下。行政サービスも大幅に削らないとやっていけない。長野県栄村は「下駄履きヘルパー」でということで住民が担っていくということです。資源が縮小する中で公共サービスを担うのは誰かということです。これは合併しても同じ議論がつきまといます。合併しても合併の交付税優遇措置は10年間で優遇措置がなくなる16年以降は同じ問題が出てきます。そこに向かって緩やかに職員数を減らしていくことをしなければパンクします。合併する場合は時間で余裕はある。合併する意味は、新しい町をつくり、縮小していく財政資源に対応できて、公共サービスを市民と共に作っていくための時間的余裕稼ぎです。合併のもう一つの意義は、町村の職員は一人で何の仕事もこなすというマルチ職員なのですが、専門性を作れない。分権では専門性が必要です。国の役人と対等に渡り合えることです。問題が起きたとき市町村や県が国を訴えることが出来る。法の解釈を争うことができる。しかし、国と対等に判事の前に証拠と論理を提出し勝たなければなりません。それは今の段階で出来るか。100人の職員ではなく、500人の職員となればそのような職員も貼り付けることができます。

金の問題では情報公開して数字で丁寧に説明する必要があります。職員数をこのように減らす、合併後の福井市では類似団体の33万人の都市の職員数に近づくことを率直に出すことです。議員の数ですが、丹後の場合には早い段階で30名に決めてしまいました。現在は120名ですから9億円浮く勘定です。三役も減ります。そのような効果もある。財政では苦しくなりますが、市民の力をどう作ってかを出していかないと、行政の中で減る議論だけでは展望がない。そのような議論を法定協議会でやって欲しいのですが、法定協議会はマニュアルどおりやっていますから。各町の自治労の組合と連合地協が企画しシンポジウムで提案するかたちにし、町村長や京都府の地域振興局も乗ってきました。そうした議論の場が必要でしょう。

(11)税源移譲と地方消費税の税率引上げ

                                                                                                                                 

義務教育費の3兆円ですが、現在使っている金ですからどう考えたらいいのか。地方税となると東京に集中してしまうのではないのか。地方税として相当大きな税額を徴収することは難しいのではないでしょうか。また、消費税は逆進性があるのでは。

 

澤井

地方消費税の税率引き上げという案です。3兆円は県です。県税ですから消費税の2%を県税にする。そうすれば1兆2千億円くらいになる。残りは地方特例交付金で財源は当面は赤字国債を発行するしかないでしょう。

もう一つは規制緩和で定数を外す。特区でいろいろやっていますが、教員定数の弾力化が必要です。教育システムをどうするかです。市町村が自分の金で教員の加配を行う。そのように市町村の出す金と県費をどうするかです。

教育の中身をどうするのか。大阪府は加配で来ており職員定数の1.2倍くらいの職員が配置されています。実質首切りをしなければなりません。そこで1年間の無給の長期休暇でウルトラCをすることになりました。リカレント休暇です。問題は教員の新陳代謝が出来ないことです。若い人が入れないわけです。100人休暇を取れば新しい人が入って来れます。

所得の再配分機能と消費税とは逆に作用します。所得が多くても少なくてもだれでも5%の税を払うことになりますから。所得逆進性については福祉政策でカバーしようということです。消費税タイプでやっていかないとできないわけです。ヨーロッパ諸国の高福祉・高負担の中身は20%の付加価値税です。私たちが高福祉・高負担を望むならば付加価値税タイプでないと支えきれない。所得のない人は福祉政策、雇用政策、住宅政策という形で所得がなくても暮らしていけるようにしなければ国民的統合はできない。

 

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