Section 3 ケチャダンス
夕方はケチャダンスを見に出かける.妻の友人はバリ旅行で,とにかく各種のダンスを絶賛していた.(その御主人はポロブド−ルを絶賛していた.)車はテンパサ−ル近くの村へむかっているようだ.村の路地を入っていくと泥道に私たち同様の観光客を送ってきたような車がたくさんいる.何か,日本のふた昔ほど前の,村にある電車の駅前の農協の倉庫の前のような所だった.うっそうとした森の方に”こっちだ”と案内され,ケチャダンスの会場へ入って行く.森の中に石をひきつめたステ−ジがあり,その周りを囲むように3方に座席がある.座席といっても,やはり石段のようなもので,10cmくらいの階段状になっている.ステ−ジも座席もこけがはえそうな古い造りだ.ステ−ジの中央の後には例の空を割るような割れ門があり,その後ろにも藁吹きの屋根とかが見える.ステ−ジ中央には,ろうそくをたてるらしい石柱が建っている.50人もくれば満席だろう.ところどころにかとりせんこうがおいてあり,煙りをあげている.観客は,白人系が多い.この自然の舞台効果はかなりのものだ.観察しているだけでちょっとした興奮状態になる.ステ−ジの石柱にたくさんのろうそくが灯されると,もう気持ちはステ−ジに吸込まれている.”ひゅ−っ”と声を出しながら,数十人の歌い手(踊り手)がステ−ジへ出てくる.そして,全員石柱の方をむき,円形(八角形)で4列くらいで小学生座りで座る.ひとりの合図で例の”ケチャケチャケチャ・・・・”のスタ−トだ.一定のリズムかと思えば,急にテンポと言葉(言葉なのかな?)を変えてつずく.リズムにあわせ,歌い手が体をゆする.しばらくすると歌がソロとなり,2人の女性の踊り手が登場,それから,サルのような踊り手,ガル−ダが登場.スト−リ−に従って展開していく.おおぜいの歌い手の輪の中で登場人物の踊り手が踊る,という感じだ.ただし,さるは,後の木に登っているところから登場した.そのころは森のなかはすっかり暗闇となり,ろうそくの光のなかでダンス,ダンスというより,オペラの一種が続いていく.言葉のわからない私たちにも話の展開がわかってくる.森の中の神秘的なドラマに引き込まれ,クライマックスの頃には,夜もすっかり暮れていた.ボウッとした気分で森を出ると村の道は観光客を送迎する車でごったがえしていた.クラクションをならしながらすれちがう車たちに現実にもどされた.
その足で夕食のレストランへ向かう.外観が竹で作ったシ−フ−ドのレストランだった.日本でいう”民芸調”といったところだろう.玄関からまっすぐ入ってゆくが,右側は冷凍ショ−ケ−スに魚貝類が並び左側にはステ−ジがある.魚貝類はエビや緑色をしていた熱帯魚のような魚がならんでいる.”これを食べるのかな?”とちょっと不安になる.ステ−ジの目の前の2人の席に案内される.まもなく日本人の十数人の団体(おんちゃんおばはんばっかし)が斜上あたりの席を占める.こちらのほうがずっといい席だ.ちょっと気はずかしいような,すぐに宴会を始めてしまうおんちゃんたちが逆に気はずかしい.