あぜみちの会ミニコミ紙

みち31号

(2001年秋号)


絵と文 木下洋子


シグナル31

福井市 中川 清

 「喉もと過ぎれば暑さ忘れる」というが、自分が稲刈りをしている間は、今日明日の天気が気になるが、稲刈りが終わってしまうと何となく…となる。
 今年の秋の天気は残暑が続いた昨年とは違って、九月に入って気温が下がって急に秋らしくなって、台風も来たが台風一過の秋晴れもなかった。農作業中で稲刈りほど天気に左右されるものはない。同じ農家でありながら、それでも自分が終わってしまうと「喉もと過ぎれば…」の心境になる。
 だから無関係の農家以外の人に、農家のこの苦労を知ってもらうのはなかなかだと思うことがある。
 最近、地産地消を合い言葉に各地で産直の店舗の展開が盛んである。きけば県内には六十余の産直店があるという。これが消費者と生産者の距離を近づける「かけはし」になれればと思う。私達もこの夏、市内に「ファームビレッジさんさん」を開店したところである。
 私事ですが、家内を亡くしてこの初冬七回忌を迎える。亡くなる一週間ほど前、あぜみちの会の収穫祭が見谷ナーセリで開催され、家内も不自由な身で嬉しそうに参加していたのが忘れられない。その直後突如帰らぬ人となった。
 その思い出の地で「ファームビレッジさんさん」が八月オープンした。私には特別な何か思い入れがあって仕方がない。それはそれとしてこうした産直の店が成功するには有能な人確保と、多くの消費者のご理解を得ることである。
 そのために、生産者としての何時までも初心を忘れず、誠実な努力や対応が大切だと思う。消費者の皆さんも息の長いご支援をお願いします。そして、初期の目的を達成するように願っている。


はじめまして喜ね屋愛菜館です
脇 浩之


 JA福井市の農産物直売所愛菜館二号店として、今年の七月一日に、福井市河増町にオープンしました。
 女性や高齢者が生産、収穫した農産物を消費者に直接販売する施設であり、現在、五十名の農家が登録しています。これまでの主な商品は、越のルビー、切り花、トマト、メロン、西瓜、生しいたけ、鶏卵、まい茸、なす、ねぎなどの野菜が上位販売品目になります。
 他に、女性部員による日替りお惣菜、お弁当、お菓子を製造・販売しています。現在のグループ数は八グループで行っています。これまでの主な商品は、クッキー、ちらしずし、焼きそば弁当、山菜おこわ、ひじき豆、フルーツ大福などです。
 あと「喜ね舎もち」は、契約栽培されたもち米を原料にマイナスイオンを与えて作っています。何か耳慣れないマイナスイオンですが、私もはっきり言ってよくわかりません。これをすることで、素材本来の味を引き出し、粘りとまろやかさを出すそうです。現在、丸もち、赤飯、あべかわ、かきもちなとを製造。販売しています。これから、お正月用のもち加工準備にかかっています。
 最後に、JA福井市管内で生産されたお米を販売しています。玄米をキロ単位で販売していますが、斑点米、茶米、胴割米、小石等には特に気を使っています。米を売ることでJA福井市産の状況がよくわかりましたので、さらなる福井米のハイグレード化に取り組みたいと思います。
 以上が、私たちの喜ね舎愛菜館です。
 私は営農指導員で、これまで商売をしたことがなく毎日が不安ですが、生産者や女性部員が消費者とふれあい、お互いの理解を深めることで地産地消という運動を今後も頑張っていきたいと思います。今後ともご指導ご鞭撻をお願いします。
 


狂牛病が発生して

福井市 名津井 萬


 畜産農家が最も恐れていた狂牛病が日本でも発生してしまった。狂牛病の最初の発生地の英国では逸速く肉骨粉の生産と使用を禁止した。しかし肉骨粉の輸出は続けたというから呆れる限りだ。
 ヨ−ロッパから日本にも狂年病の恐れありと指摘されていたそうだが、大きな油断をおかしてしまった。合わせて日本人の過剰判断も少し度が過ぎると思う。
 昨年は九二年ぶりに日本で口蹄疫が発生し畜産農家を恐怖におとしいれた。これは中国よりの輸入稲ワラが原因と言われている。中国は発生していても発表しない国柄である。
 稲の国「日本」が稲ワラを輸入するとは馬鹿殿様である。昨年の口蹄疫、今年の狂年病は共に輸入製品からである。
 これ等を教訓として、改めて「身上不二」「地産地消」の言葉の意味を肝に銘ずべきである。私の農業経営は水稲五ha(福井三三○a、大野一七○a)と酪農(搾乳牛二十八頭、育成年十二頭)の複合経営である。
 水稲と酪農を立体的に組み合わせ、米作り、乳しぼり、土づくりを基本とし、労力を年間を通じ満偏なく配分出来るように努力している。
 年々の収入は米で、月々の収入は牛乳で家族経営で生活している。目標は無化学肥料、減農薬の米作りとアイスクリーム等の牛乳加工品を生産したい。


武生産直センター「あぐり」

関本 新右エ門


 いろんな産直の形、そしてまた沢山の産直店舗があって当然です。元来、農家は自由に時間と労力と生産と販売に汗を流すのがこれまた当然だと思っています。
 自分も脱サラする一年前から農業をしたいと計画をするときにも、より消費者に近い流通は大前提でした。
 系統に出して市況に一喜一憂するのも良いですが、より楽しい農業は苦しみも多いですが、農家が主体的に消費者に働きかけていく喜びを共有する仲間作りをしようと産直店舗を開設しました。加えて、一人でもいいから元気な農家が育てばこの目的は達成されます。これが第一の本音です。加えて、食と健康が近年危ないのではないですか。仕事や余暇が家庭の食卓に手抜きにしているようです。冷凍食品やコンビニ弁当、調理済みの食材や輸入農畜産物とその安全基準の大幅緩和=改悪等々。文化が発達して豊かな生活と健康と食に対して反対の方向に進もうとしているような危機感を感じます。
 野菜を刻む時間がもったいないのでしょうか、仕事から帰って家族のみんなで高い安いでなく、良い食材でおいしい食卓が囲めなければ寂しすぎます。豊かさ日本一はまずは健康からです。こうした観点からも産直店舗の動きは大切になると思います。
 たけふ産直センターのあぐりも消費者に対してこうした問題提起も積極的に取り組もうと考えています。こうした店だからこそ出来る長所でもあります。
 このあぐりは、利益は一切目標としません。農家のふところが少しでも潤えばいいと考えています。でも運営は甘くありません。今は単月収支では欠損金が出ています。手数料のほかに半ば強制的にもうつるカンパ=特別控除を販売代金から頂きました。それでもついてきてくれる仲間を一人一人増やしていきたいと考えています。
 現在の販売品は、露地野菜各種、米、大豆、味噌、自然卵を含む鶏卵、花の各種、畜産農家のケーキ、菓子、こだわり醤油、おかず豆、漬物各種、そば各種、ヘしこ、梅干等です。産直店舗間の情報交換と物流交換を急ぎたいとも思います。


読者の声


梅雨と猛暑、毎年のことですが、それぞれを乗り越えなければ秋の実りに到達しません。みち二十九号をお送り下さいまして相当の日数が経ちましたが、とっても気になっていました。二十九号には私の拙文けいさいに深く謝します。六月十八日付福井新間に「ファームビレッジさんさん」の記事、普通やれない事をやる先生の姿に敬意を表します。今年の大豆圃は長雨で培土もままならぬ日々。七月四、五日の猛暑でやっと培土、五日夕刻から再び梅雨、間一髪です。梅雨は大地への給水装置、日本ならではの気象です。中国の内陸ではありません。
 田んぼの稲もこの梅雨で育つのです。同封の私の拙文「寒暖物語」にもありますが、冬の寒さと今の暑さ両極端、また長雨と干天の両極端、二つ共大変な力をもっています。北陸は背後に三千米級の山々、冬期の幾米の積雪は天然のダム、春の雪どけで稲を育ててくれます。やっぱり水です。同じ材料を東京でつくる越前そばは東京では合わないそうです。それは水にあるとの事です。もくもくと湧く地下水これ程の宝はないのです。


農業情報方ネットワーク全国大会in北九州開催

 農業情報ネットワーク大会といってもぴんとこない人も多いかと思いますが、これは農業情報にかかわる農業者、研究者、技術者、役人が一堂に会し、農業の情報化に関する議論を尽くすことで農業活性化の一助とすることを目的とした大会です。
 来年は福井で第十四回全国大会の開催を予定してしますが、北陸はもちろん日本海側の県では初めての大会となります。福井大会を機会に、皆が協力して福井の農業情報化を推進しようではありませんか。


さんさん奮闘記

福井市  屋敷 紘美


 振り返れば五年ほど前から温めてきた構想が実際に実現するとは、当時思いもしなかったのではないだろうか。
 昨年の11月28日、収穫祭に構想を公表して約9ヶ月、8月26日の開店以来1ヶ月あまり、周囲からそれなりの反響を得て過ごしてきた。
 1つ1つの仕事のルールづくり、その間の整合性などなど、てんてこまいの毎日である。家に帰るとアルコールをひっかけて寝るだけ。生活としてこんなに単純な日々を送ったことはかってなかった。本を読むどころか、新聞も拾い読み、好きな時代劇や推理物のテレビドラマも途中で眠ってしまうていたらくである。
 さて、私生活のグチはこのくらいにして、さんさんの現状を報告しよう。
 まず、利用してくださる消費者の感想のうち、僕が一番印象に残った言葉は、「こういうお店が必要な時代だよね」というものだ。また、「ここのお野菜はおいしさがぜんぜんちがう」という言葉もありがたい。僕たちはまさにこの言葉を頂くために此処まで来たのだから。
 失敗も準備不足もいっぱいあって、まだ解決していないこともたくさんある。失敗の最たるものは米パンの設備だ。当初の計画では、供給高を2〜3万、個数で2百〜3百個と予想して設備の大きさを設定した。実際は毎日5百〜6百個、供給で6万円余である。現場で働いてくれる職員さんから、日々苦情をいただいている。
 そのA 米の供給が当初の予想より大幅に少ないことだ。まず、店頭で買っていただく量が小さく3〜5キロだ。配達は今のところゼロ、大口需要者の開拓も手がつけられていない。これでは出品者はどれだけさんさのために米を確保しておけばよいのか判断できない。初年度のこととはいえ、難しい判断だ。
 そのB 利用会員の組織化が大幅に遅れ、やっと緒についたばかりだ。これは少し希望があって、利用者の反応はよいようだ。店内の問題点としては前川君から批判をもらっている。出品物の生産者名が必ずしも掲示板の名前と一致しない、出品物に添付しているプライスカードに名前の表示をしたほうがよかったかもしれない。ただこの点については僕にも考えがあって、栽培方法等を記したカードを定型化して出品物に表示したいと考えている。また、秋に入って軟弱野菜が多くなったが、冷蔵設備がないためにスーパーのそれのようにみずみずしく保てないという問題点もある。今、勝山の土田さんと工夫をこらした実験をしているところだ。
 いずれにしても、開店以来1ヶ月余り、当初構想した「ファームビレッジさんさん」の3分の1程度が実現しているだけに過ぎない。一方で、上記のような問題点を抱えながら、さんさんに対する期待や評価は日々感じている。その反応に接していると仕事をやっていても楽しいし、エネルギーにもなる。
 1日150人の利用者と出来るだけ会話を心がけているし、出勤した組合員と利用者の対話も頻繁だ。狭い店が米を精米すると音と重なる普通の声では会話が成り立たない。一種騒然とした雰囲気だ。これがいい。生産者と消費者の日常的な会話が地域の共生をつくりだす。農業や食に対する共通認識が芽生えれば、農業も健康も回復する端緒を得ることになる。先日、運動公園からおいでになるという常連さんに「ここにくるといつも新しい発見がある」という過大な評価をいただいた。この言葉は僕らにとって重荷であるとともに、日々緊張感を与えてくれる励ましの言葉でもある。明日も同じ言葉が頂けるようにいつも自分たちも新しい発見をしていかなければならない。マスコミの反応も予想以上に大きかった。これまで関連の報道がどれほどあっただろう。生産者がだれも頼らず、自ら起業する新しさ、消費者を同じ目線でとらえようとする新規性、米パンの初取り組みと意外なおいしさ、これらがマスコミ受けをする要因だろう。しかし、この騒ぎがおさまった時が僕らがもう1段ステップアップできるかどうかのポイントであることは間違いない。
 朝7時15分、店舗の床掃除、店舗前の清掃、ガラス拭き、チェックアウトの準備、出品の受け入れ、開店、と息つくまもなく時間が経過する。パン加工室ではその間、絶え間なくパンが焼き上がっていく。

 


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