紅茫ーkoubouー後編
「コーチ、起きるさ」
「ん………」
いささか乱暴に身体を揺すられ、道徳は涙に彩られた眼をうっすらと開く。
あの後、天化はやはり自分の部屋に訪れた。
そして……いつもより手酷く抱かれた所為で、全身が気だるさと苦痛に悲鳴を上げている。
「……な、に………もう……」
辛いから休ませてほしい。
そう口にする前に、突然荒々しく手首を返され、寝台に抑えつけられた。
「……な……天化……?」
抗う気力もなく、道徳は疲れた声だけで異議を唱える。
師を組み敷く弟子は、そんな彼の様に冷徹な笑みを浮かべながら、
「俺っち、まだ一度しかしてないさ?……でも、この頃コーチ弱ってるから、今日はそれだけで済ませてあげようと思ったんだけど……」
だけど、と。
そう淡々と語る彼の眼に、道徳は酷く恐ろしい光を見定めた。
意思に反して、痛めつけられた体が小刻みに震え出す。
「………ねぇ、コーチ。太乙真人サマと、何話してたさ?」
耳元に、静かに告げられた言葉。
それを理解した途端、すっと道徳の顔が青ざめる。
天化は不自然に笑ったまま、道徳の耳朶を舐めて、
「一服しようと思って洞府に帰ったとき……丁度太乙真人サマが来てて……それからずっと見てたさ」
「……天………」
「何話してんのかまではわかんなかったけど……それでもコーチ。俺っちがどれだけ腹立ったか、わかる?」
「天化……違う……違うんだ……」
追い詰められたように弱々しく取り乱して、道徳は天化の腕から抜け出そうとかぶりを振る。しかし彼はそれを許してはくれなかった。
「何が違うさ。抱き締められて……口づけまでされて」
「痛………ッ!!」
ぎりっと右の掌に容赦なく爪をたてられた。
癒えきっていない傷口から、じわりとまた包帯に血が滲み出す。
「天化……いた……痛い……!」
「他のやつに触らせたら許さないって……何度も、何度も言ったのに・・・・・・」
「っ!ぁぁあっ!」
強い力で手を広げられ、ピッと傷に貼っていた薄皮が破れる。それが引き金となったのか、またおびただしい鮮血が敷き布を染めていった。
「ぅ………ぅぅ……っ……」
がたがたと身体を竦ませて震える道徳の首筋に、天化はつっと唇を寄せる。血塗れの手は力を緩めず抑えつけたまま、
「許さねぇ……そう言ったさ、コーチ」
冷たい指があらわな腰に滑る。
その感覚に身体を強張らせる間もなく、肢の奥に堅い何かを押し付けられた。
「ぁ………」
憔悴した道徳の表情が、それでもなお恐怖に歪められる。
天化はくすりと荒んだ顔で微笑して、
「………大人しくしてるさ。今日は抑えが効かねぇ……」
「コーチ、まださ。ちゃんと起きて」
「ぅ………」
幾度も幾度も加減なく犯されて、力の抜け果てた疲労の激しい身体を、それでもぐい、と無理に起こされる。
内に収まりきらなかった残滓の伝う肢の間に、熱を失わぬ昂ぶりを再びあてがわれて、道徳はびくりと肩を上下させた。
「て……天化……も、許し……」
「駄目さ、コーチ……ほら、ちゃんとこっち向いて」
「ん………っ」
強引に背後から顎を引かれ。濡れた唇を重ねられる。その優しい口付けに、道徳が身体の緊張を解いた瞬間、無情に天化は己を最奥まで進めた。
「………ひっ…!ぁぁっ!」
その衝撃にびくんっと道徳の上体が跳ねる。枯れかけた眦から、また新たな涙が溢れ出た。
「っ………ふ、ぅっ……」
許容を超えた欲望を繰り返し受け入れさせられて、元々弱っていた道徳の身体は限界に近づいていく。
苦痛に喘がされ、自身を塞き止めたまま犯されて………気絶してもすぐに頬を叩かれ現実に引き戻される。
いつ果てるともない虐待のような交わり。拒めば手足を戒められてでも嬲られた。
「いやっ……てん、か………もう嫌だ……」
ぐちゅぐちゅと彼の吐き出したものの残る内部を抉るように擦られて、道徳はたまらずに悲痛な泣き声をもらす。
しかしそんな願いも虚しく、繋がったまま乱暴に身体を返された。
「ッ!ァ………!」
無理な体勢を強いられ、襲ってきた灼けつくような痛みに、道徳の視界はくらりと暗転しそうになる。だがその前に激しく突き上げられ、酷い痛覚にまた引き戻された。
「ぁぁ、ぅ……っ、ぅ………」
泣きたくなんてないのに、不自然に接ぐ息に呼応してぼろぼろと涙が零れ落ちる。体の苦痛以上に精神が崩れかけていた。
「………ッ、ハァ………ぁ……天、化……」
「コーチ……すごいイイさ。……もう、出してもいい?」
幾分熱を含んだ声で囁かれたかと思うと、その言葉に竦む間もなく、自分の内に熱い精液が注がれる。
「ん…………ッ!!」
慣れない、どろりとした不快な感覚に道徳は指を噛んで耐えた。
「……ふ、ぅ………」
ズルッと濡れそぼった天化の欲望が引き抜かれる。同時に道徳のソコからも名残が溢れ出して腿を伝い落ちた。
「………は、ぁッ………ハッ……は……」
ほとんど噎ぶようにして、道徳が辛そうに喘ぐ。そんな彼の苦態を、しかし天化は満足そうに見つめながら再び覆い被さった。それにびくっと怯える道徳を無視し、天化は結合部から流れ出た液体を掬い、半開きになった彼の唇にぐい、と二本の指で押しつける。
「舐めて、コーチ………ほら」
「う………」
鼻を突く匂いに顔をしかめて首を振るが、指の力はなお強くなっただけだ。
何も返せずに無言でいれば、苛ついたような仕草で口唇を無理にこじ開けられて、喉につくほど深くその指を銜えさせられる。
「ぐ………ッ」
「おいしいさ、コーチ………ほら、もっと綺麗に舐めて」
顎を掴まれて指が無遠慮に口腔を這い回る。道徳が息苦しさに天化の胸を押し返す素振りを見せると、腰にあった手指が蠢き、ぐり、と秘部に突き入れられた。
「ひ………ぁっ!」
「もうべたべたさ、コーチのここ………もう一回挿れてもいい?」
「な………!」
呟きとともに、驚愕して力ない抵抗を見せる道徳の肢を、天化が乱暴に割った。
ズルリと指が抜かれて息を吐く間もなく、また深い繋がりを強いられる。
「………ああぁぁっ!」
掠れ、疲れた悲鳴が、まとわりつくような闇に響いた。
そんな道徳の姿を目の当たりにしても、天化はむしろ愉悦を持って殊更彼の身体を苛む。
「ぁ………ぅ……ぁ……」
布を掻き毟るようにして胸に抱き、道徳はひきつった喉で声にならない嗚咽をあげ続ける。既に涙で眼の焦点はあっていなかった。
………終わりのない苦しみに、揺れた意識が少しずつ削り取られてゆく。
抵抗を諦め、疲弊しきった師の身体を、それでも天化は愛しげに見つめながら抱き続けた。
あなただけがいればいいと。
あなただけにいてほしいのだと。
望んでいるのは、たったひとつのことなのに。
愛しく憎い想い人は、いつも簡単に自分を裏切ってゆく。
………どうすれば、あの人を己の腕の中だけに戒めておくことが出来るのだろう。
手足を落とし、目を削ぎ、羽根をもいで………すべてを奪ってしまえば………
「………そうすりゃコーチは、ずっと俺っちの側だけにいてくれるかなぁ………」
………え〜と………どんな言いつくろいをしようかしら(死)
何一つ解決してない終わり方で申し訳在りません!
天化が壊れすぎてて、これ以上進むと無理心中しかねなかったので……(すげえ言い訳)
とりあえず痛いHを目指しました(笑)