(毎週金曜日/朝日新聞地方版に連載)

涼しげな器にハモ料理が -第7話-

2000年7月14日掲載

 七月に入ると暑い京都は祇園祭り一色で、大勢さんのお客さんがお越しになり太鼓持ちも呼ばれます。

 山鉾巡行の前日十六日は宵山(よいやま)で、夕方になると山鉾の提灯に火が入りコンチキチンの祇園囃子が流れる中、旧家では秘蔵の屏風飾りをしてお座敷を開放される所もございまして、子供の頃から良くあちこち見て歩きましたネ〜。

 京の町家のお座敷は襖障子が外されて、向こうが何やら見えそうな簾戸(すど)簾(すだれ)となり、畳の上には網代(あじろ)や籐筵(とうむしろ)なんぞが敷かれ坪庭や玄関に打ち水しますが、やっぱり京の盆地は単衣のお着物でも体にまつわり付く様で、暑つ〜て暑つ〜てかないません。 

 仕出し屋さんからのお料理も、涼しげなガラスの器に盛られた鱧(はも)づくしや賀茂茄子の田楽を、美味し頂くお客様を見ている係りが太鼓持ちでして、唾を飲み込んで「あれは美味しいだろう〜ナ〜」と思いながら、噛まなくても良いお酒やおビールを頂くのです。

 太鼓持ちはお客様と同じお座敷には居りますが、お扇子を前に置き結界(けっかい)とし、心のけじめとして一段下がった意識で、正座して居りますしので、当然御一緒にお食事は出来ない決まりですが、唯一お飲み物とご祝儀は頂く事になっておりますのですハイ。

 しかし、太鼓持ちと言えども人間の端くれ、お腹も空きますし美味しい物は食べたいし、美人にはチョッカイ出したくなるて〜もんですが、それをグッーと堪えるのがお仕事なんですから、辛いものですヨ。

 でも、良い所のお座敷では控えの間に「お腹の虫抑え」としてお食事がご祝儀と共に用意されて居りましたり、無礼講ではお客様や芸妓さん達全員でお料理を頂きながらお遊びする事もございます...と書いておけば、読んだ人はそうしてくれるかな〜?。


蚊帳張って内輪の宴楽し -第8話-

2000年7月28日掲載

 夏になると子供の頃はク-ラ-など無い時代、お布団も薄い「夏布団」となり敷き布団の上にい草の敷御座が敷かれ、上に寝転んではヒンヤリ感にサラリとした感触を楽しんでおりました。

 窓を閉めると暑いし、開けると虫や蚊が入って来るし蚊取り線香位ではとても追い付きかなくなると、いよいよ蚊帳の出番となります。

 お部屋の四隅に金具が取り付けてあり、そこに蚊帳を蚊が中に入らない様にそ〜っと広げて、布団に引っ掛かったり隙間が出来ない様に周りを四つん這いになって押さえ付けるお手伝いをしながら掛けて行きます。

 蚊帳の中に入る時は、蚊帳になるべく引っ付き蚊帳の裾をパタパタ扇いでから入るか、団扇で扇いで蚊を追いやってから身体を丸めて素早く入りました、離れて入ったり中腰だったり扇がずに入ると、蚊も一緒に入ってしまうので叱られました、でも寝相が悪くて蚊屋に引っ付いて寝いる時は、朝起きると手などが蚊に喰われておりましたネ。

 蚊帳に入るのは何だかお家の中に別のお家が出来たようで、楽しくて楽しくて出たり入ったりしておりましたのが今でも忘れられませんネ。

 夕暮れに好みの奥様のご自宅に呼ばれ、打ち水した庭に面した戸のみを明け放し、お部屋に蚊帳を釣って中で二人だけのご宴会は楽しいですヨ。

 二人で何だか小さなお家での新婚家庭みたいで、浴衣の裾を気にしながらの出入りは艶かしく、つい太鼓持ちのお仕事を忘れそうです。

 玄関のチャイムや電話が掛かって来ると、ドキッとしてお互いに顔を見合わせてにっこり微笑み静かにしておりますと、ますます二人の距離が無くなって来るのを感じますネ。

 太鼓持ちはお客様の玩具、呼ばれれば何処へでもお伴致しますが、私も人の子、好きなタイプで無い時には、お断りしたり上手に逃げるのに苦労しております。

 


 

 


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