創作猫物語

第3話 やっぱりそうでしょう!

 また朝が来た。今日は何をしなければ・・・というのがないのはいいような、悪いようなだが、実際定年後の生活というのは、人間社会でもこんなようなものなのかもしれない。

 自分でもだいぶ大きくなったと思う。昨日は、「やもりくん」が歩いていたので、無意識のうちに捕まえて食べてしまった。思ったほど違和感がない。なかなか噛み切れなかったけど。

そして、これまでお母さんになめてもらっていたが、御主人さまが作ってくれたトイレも使えるようになった。人間のときは3歳ぐらいまでの記憶ってほとんど残っていないけど、生まれてすぐからのことを全部覚えているなんて変な感じだ・・・。

 「あれ、わさびは? からしは? しょうがは?」

 御主人様が探し回っている。そういえば、お母さんがさっきくわえて歩いていたなぁ。もしかして、引越しってやつ?みんなどこ行ったんだろう?もうすぐ、ぼくも迎えにきてくれるかなぁ。さぁ、故郷に帰る第一歩だっ・・・と思っていたところ、何と家に入ってきたお母さんは、えさを食べて、そのまま行ってしまった。“あんたはここにいなさい。”と言わんばかりに。

 かくして、兄弟のうち、自分だけがこの家の「飼い猫」になり、赤い首輪をされ、お母さんが通っていた扉も閉ざされてしまった。お母さんはときどきドアの開閉にまぎれて、えさを食べに入ってくるけど、これでは故郷に帰るどころではない。外へ出られないではないか。

 「さあ、きむち、お出かけだよ。」

 次の日は、御主人様にキャリングボックスに入れられ、車に乗せられ、近くの動物病院に連れて行かれた。この隙に何とか脱出したいものだが、そう簡単にはいかない。

受付の人「猫の名前は?」

御主人様「きむちです。」

受付の人「はい、きむちちゃんね。種類は?」

 名前で笑われるかと思ったが、受付の人は事務的に進めている。まぁ、猫の名前なんていろんなのがあるから、ちょっとのことでは動じないのだろう。

御主人様「雑種です。」

 雑種で悪かったなと思っていると、カルテには「Mixed」と書かれた。いい言葉だ。

受付の人「性別は?」

御主人様「メスです。」

受付の人「はい、じゃ診察室へどうぞ。」

 診察室に入るのは、人間時代もそうだったが、やはり緊張するものだ。あの白衣というやつもその緊張を倍加させる。体重を測ったり、全身をチェックされたりしていると、先生はこう言った。

「あれっ、男の子ですねぇ。」

 こうして、この日からぼくの首輪は青いものへと変わったのであった。やっぱりそうでしょう! 


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