創作猫物語

第4話 もう振り返らない!

 

 春がやってきた。
 暖かい春の日差しを縁側で浴びていると、ときどきこのままここにいてもいいのかなぁと考えることもある。

からしは元気で2日に一度くらいこの家に遊びに来る。御主人様に中に入れてもらって、えさを食べ、ちょっぴりごろごろして、また外へ帰っていく。内猫と外猫のいいとこ取りをしているようでうらやましかったりする。ほかのわさび姉さんとしょうが兄さんは、最近見かけない。どこかで飼ってもらっているのかな?それとも・・・

テレビで兼六園の桜が映った。やっぱり帰りたい。さんざん考えたあげく、明日決行することにした。チャンスは夜御主人様が帰ってきて玄関の扉を開く瞬間だ。最後の夜、御主人様に今までのお礼も兼ねて目いっぱい顔にすりすりした。

 次の日、これが食べ納めとばかり、お気に入りの「ねこ元気 おととミックス(かつおと小魚入り)」をお腹いっぱいに詰め込んだ。

そして、いよいよその時が来た。
 「ただいま。」今だ!御主人様の足元をすり抜け、矢のように走った。

「きむちっ!」と呼ぶ声がするが、もう振り返ることはできない。とりあえず、目指すは磯庭園の猫神様。何となくあそこに行けば活路が見出せる気がする。桜島の噴煙を目印にして・・・と思ったが、星一つない夜では、いくら猫の目の眼底にタペーツムという反射板があるといってもよくわからない。遠くから聞こえる「フンギャー」というメス猫の誘惑にも負けず、ひとまず近くの茂みで眠ることにした。

初めての「野宿」だ。ノラの皆さんなら毎日こんな感じで寝るのかな。案外寝る場所というのは何箇所か確保しているんだろうなと思う。こんなことなら、からしに外の生活のことをいろいろ聞いておけば良かった。

明日は、猿岩石やドロンズのようにヒッチハイクでもするか。でも、猫が親指を立てていても誰も止まってくれないだろうな。それに親指といわれてもあんまり目立たないしなあ。

翌朝、煙を目印に、猫神様を目指し始めた。外に出ると地上15cmという視界が妙に新鮮だ。そうそう「車」に気をつけないと・・・「ねこせんべい」になっちゃうよ。それに道路の右側を歩かないと・・・そんなことどうでもいいか。

そして、数日後、思いのほか早く磯庭園が視界に飛び込んできたのだった。


創作猫物語案内図へ     わくわくの大冒険は次回から。