Magic の世界観を楽しむために 
 
 掲示板で Magic 日本語版の翻訳、特にカード名の翻訳が話題になっています。日本語版の翻訳については以前にも Magic 関連の記事で取り上げたと思うのですが、こういう機会なので改めて考えてみます。

  Magic はハリーポッターのような小説と異なり、英語のオリジナル原文と日本語訳が常に密接にリンクしています。実際に英語版と日本語版を混ぜて遊びデュエリストも多いですし、また英語版のみのユーザーと日本語版のみのユーザーがデュエルをする場面も多いはずです。つまり“英語名←→日本語名の相関関係”がもの凄く大事になります。日本語版のカード名で英語版のカード名が連想できないのはゲームシステム的にかなり厳しく、そのため日本語版のカード名を“直訳”あるいは“音訳”に近い物にせざるを得ない事情があります。

 ところが我々デュエリスト、特に日本語版ユーザーは日本語版のカード名からそのゲームのイメージを膨らませます。英語版と日本語版のカード名をリンクさせるだけなら、極端な話カード名は英語版表記の片仮名読みでいいのです(笑)。でもそれではどう考えても Magic の世界観は表現できないし、あまつさえ見た目にセンスがないし格好悪いのです。少し前から Magic では「カードイラストが不気味で手を出さない人が結構いる。」という意見が聞かれます。(特に女性にそういう傾向が多く見られるようです。過去にもそういう意見はあったのでしょうけど、以前はそういう話題は競技の話題に押されて世に出る機会がなかった気もします。)これと同じ事が日本語版のカード名にも当てはまるのです。特に Magic に西洋ファンタシーの世界観を求める人にとって、日本語版のカード名は Magic 全体のイメージを決めかねない重要な要素になります。

 しかし実際問題として日本語版の内容は決して評判が良くない。それはなぜなのでしょうか。当然ながら翻訳者のスキルの問題もあるのでしょう。ただそれと同時に我々遊ぶ側の好みの問題も大きいのではないでしょうか。例えば《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》というカード名1つ取ってもそうです。これを書いている今現在 Magic には“Llanowar 〜”というカード名が10種類もあります。それをいちいち“ラノワールの住人・精霊エルフ”とか表記していたら、それこそカード名の総テキスト量が倍あるいはそれ以上になってしまいます。しかも日本語名から“ Llanowar Elves ”というカード名に辿り着くためには、それこそ“ラノワールのエルフ”という表記がベストだとも言えます。しかし「それでは Magic の世界観が表現できない。」という意見があるのも事実なのです。

 じゃあそういう問題点は一体どこから来るのか。それはそもそも我々日本のデュエリストが“Llanowar 〜”という言葉に対して持つイメージが貧弱だからなのではないでしょうか。そもそもラノワールとはどこなのか。山なのか森なのか高原なのか。そしてそれはどういう雰囲気の場所で他にどういう生き物が住んでいるのか。そういうイメージが我々の中にある程度できあがっていれば、実を言うとカード名としては“ラノワールの”で十分事足りるのです。(ファンタシー系の知識が多少ある方なら「エルフが住んでいるんだから森に決まってるだろう。」となるのですが、少なくとも Magic はそういう予備知識がない方にも遊んでもらうべく作られたゲームだと考えられます。)そして実は創生期の Magic はそういう疑問にちゃんと答えを用意していました。かつての Duelist 誌にも掲載されたドミニア(あるいはドミナリア)年代記を読めば、我々にはそういう疑問を自分で解決させられるだけの必要最低限の情報は与えられていたのです。

 しかしウェザーライト以降、どういう訳か Magic はそういう情報をすべてカードに盛り込もうとします。これがマロー氏が述べた“ウェザーライト・サーガの実験”です。ところが我々日本人デュエリストには、なぜかそういう充実したフレイバーテキストを楽しむという気運がほとんど育ちませんでした。これは言うまでもなく“競技偏重”の弊害の1つです。またその実験によるカードイラストの無個性化や画一化、ぶっちゃけて言うと質の低下が Magic のカードを鑑賞するという遊び方そのものを失わせたのです。きれいな呪文書であったはずの Magic のカードが単なるゲームのパーツになってしまった。それ故 Magic の世界観みたいな物もデュエリストに伝わらなくなってしまったのです。(あとHJはそういう一見すると売り上げにならない情報はほとんど扱わなかったと思われます。たまに扱ってもほとんどを有料で買わせていましたし。)こうして結果的に Magic というゲームそのものの魅力が大きく失われ、ウェザーライト・サーガに始まる一連の実験は失敗したのです。

 日本の Magic 創生期の頃、それこそデュエリストに取って必要だったのは「この世界にはウルザとミシュラという兄弟がいて、自らあるいはその弟子が発明したアーティファクトを駆使して“壮大なる兄弟喧嘩”をしているらしい。」という情報だけだったのです。そしてそのストーリーの断片が書かれたカードを見て「こんなへっぽこなアーティファクトで本当に勝つ気なのか?」とか「弟子の方がよっぽどまともな発明をしてるよなあ。」といって盛り上がる(笑)。それで良かったのです。それこそその“壮大なる兄弟喧嘩”がより具体的に語られたウルザサイクルの頃よりも、むしろ第4版辺りの頃の方がその物語の話題は盛り上がっていたと思います。そういう世界観がデュエリストの中にちゃんと根付いていれば、それこそカード名なんて《ウルザの報復者/Urza's Avenger》とか《ミシュラの工廠/Mishra's Factory》で十分なのです。だって足りない部分はデュエリストが頭の中で勝手に補っちゃうのですから。

 日本語版 Magic でよく問題になるのは「HJは二言目には競技 Magic を推進するが、実際にHJが発売する日本語版は誤訳が多くて競技には使えない。」という物です。私に言わせるとこれってそもそも日本語版の売り方、プロモーションの基本方針を間違えた結果だと思います。本来日本語版は“英語は苦手だけど西洋ファンタシーの世界感や Magic というゲームに接したいデュエリスト向け”に売るべきだったのです。そしてデュエリストには競技に関わる情報以上に Magic や西洋ファンタシーに関する情報を提供すべきだったのです。HJは Duelist Japan という雑誌を出しているはずなのですが、あれが本当の意味でオリジナルの Duelist 誌と同様の内容、要するに Magic というゲームの世界観を理解して楽しむ手助けになる雑誌であったならば、日本の Magic は今の何倍も盛り上がっていただろうと思います。少なくとも競技偏重に息が詰まって多くのデュエリストが逃げ出すような悲惨な状況にはなっていなかったでしょう。それこそ Duelist Japan が西洋ファンタシーを理解するためのバイブル的な存在になり得ていたならば、そこから西洋ファンタシーの世界に入って Magic にも手を出したデュエリストが大勢現れたでしょう。もちろんその結果として女性デュエリストも大勢獲得できていたでしょうし。

 英語名の Llanowar Elves には出なかったであろうクレームが、日本語名の ラノワールのエルフ には少なからず出る。それにはちゃんと理由があり解決策があるのです。ましてやデュエリストに世界観の情報も予備知識も何もない プーラージ とか レベル といった言葉をいきなり片仮名表記で使えば、そりゃあ「こいつ頭悪いんじゃねえのか? > 翻訳担当」とか言いたくもなるんですよ。デュエリストが Magic を楽しむために必要な情報を与えて育てようとせずに、競技指向に偏った情報を与えて闇雲にパックを買わせようとする。そういうHJのやり方がこういう面においても日本の Magic を遊びにくい物にしてきたのです。まあ取りあえずWoCは一連の販売方針の失敗に気が付いて方針転換を始めるようですが、果たしてHJはどうなんでしょうか。

 あ、ちなみに Duelist Japan って今も雑誌として存続してるんですよね? (^^; ここしばらく最新刊が出たという話題をとんと聞かなくなっている気がするのですが。

あいせんの“本音の部分”

 はっきり言いますが、こういう問題はそれこそ Magic で日本語版を発売するという時点で検討され、その後は一貫した方針で日本語版が製作されるべきだったと思います。しかし実際は内部的にも日本語版の方針は未だ定まっていない印象があります。ジャッジメント以降の日本語版はWoCスタッフによって製作されているらしいのですが、最新のレギオンにおいても誤植の問題が完全には解決していません。そろそろWoCは「日本語版のクオリティを上げるべく英語版よりも発売時期を遅らせる。」という決断をしてもいいんじゃないでしょうか。それで日本語版の売り上げが減るというのは、私に言わせると単なる言い訳に過ぎません。要するに競技を煽りすぎてそういうパックの買い方しかしないデュエリストを大量に育てちゃったから、英語版の発売と同時に日本語版も出さないと買ってもらえない。そういう事ですよね。だったらそういう販売方針そのものを革新して、遅れて出てくる日本語版を待ってのんびり末永く買ってくれるデュエリストをたくさん育てればいい。それだけの事なんですよ。

  えええっ!?

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