ミユビシギの個体数変動

○奴賀俊光(千葉大学海洋バイオシステム研究センター)・桑原和之(千葉県立中央博物館)・箕輪義隆・田邊以久雄・綾 富美子・泉 宏子・本間征(千葉県立中央博物館友の会)

ミユビシギCalidris albaの極東地方で繁殖する個体群は、DelanyScott,2002によると22,000羽であるという。何羽が国内に飛来しているのだろうか? 2000年から2003年にかけ、記録されている個体数が最も多い九十九里浜や鹿島灘にかける砂浜、東京湾、利根川など約50カ所の湿地で個体数の観察を行った。本報告では、特に個体数の変動に関して報告したい。
 本種は、砂浜だけではなく、岩礁、干潟、埋立地で記録されたが、河川、水田地帯では記録されなかった。関東地方では、砂浜・干潟だけではなく磯でも越冬していることが確認されたが、個体数は少なかった。また、干潟を主な採食場所にしていた個体は、埋立地や人工護岸などで休息していた。東京湾岸の干潟では9月頃に多く、1つの調査地で多くても250羽ほどでしかなかった。主に8月から5月に記録され、九十九里浜では、周年みられ、6月に越夏個体も確認された。秋と春の渡りの季節に多かったが、冬期は少ない傾向があった。
 九十九里浜では、春の渡りの時期は4月が多く、秋の渡りの時期は8月から9月に個体数が多かった。2003年は、93日から4日に最多の4,352羽がみられ、特に4日に木戸川と栗山川の間の砂浜では2,959羽が、一宮川河口干潟では746羽が記録された。鹿島灘でも9月に個体数が多く2003年9月14日青塚から新押合(平井)まで108羽、日川浜から須田浜まで105羽、9月3日須田浜から波崎新港まで363羽、合計576羽が記録された。このように、鹿島灘から九十九里にかける砂浜でも地域により、個体数には偏りがあった。
 2003年幼羽は、鹿島灘では9月3日、九十九里では9月4日に記録された。東京湾では、千葉市幕張メッセ大駐車場で9月30日に成鳥冬羽140羽とともに幼羽6羽が初めて確認された。成鳥は、7月に飛来するが、幼羽は、やや遅れて9月になり確認されるので、渡りの時期が異なると言えた。10月中旬以降は、幼羽が第1回冬羽に換羽するため、望遠鏡による成鳥冬羽と第1回冬羽の識別はできなかった。
 2003年は、カラーレッグフラッグやメタルリングを標識された個体は8月に多く観察された。8月22日に標識個体3羽を確認した。九十九里町作田南川岸作田海岸で1605-20に成鳥97羽の中の1個体に右脚ふしょに@黄色フラッグ、右脛にオレンジ・フラッグ、左脚ふしょにメタルリングを確認した。木戸川河口南の砂浜で15:22-27に成鳥43羽の中にA左脛に黄色レッグーフラッグ、左脚ふしょにメタルリングを標識された1羽成鳥を確認した。蓮沼村殿下殿下海岸で15:05-11に成鳥31羽の中にB右脚ふしょ上に黄色レッグーフラッグ、ふしょにメタルリングを確認した。鹿島灘では、日川浜から須田浜までの砂浜に8月3日15:50〜16:48ミユビシギ成鳥130羽の中に、標識された3羽を確認した。@右足すねオレンジフラッグ、右足ふしょ黄色フラッグ、左足メタルリングA右足すねオレンジフラッグ、右足ふしょメタルリングB右足すね黄色フラッグ、左足メタルリング以上3羽であるが、この3羽は20-30羽の群れの中で採食していた。幕張メッセ大駐車場でも2003919日に記録された成鳥冬羽38羽の中に右ふしょにメタルリングを標識された1羽が観察されたが、東京湾ではカラーフラッグで標識した個体を確認することができなかった。冬期のカラーフラッグ標識個体の観察例は得られていない。
 シギ・チドリ類のほとんどの種が、その数を激減させている。砂浜でも個体数の変動に違いが見られ、分布にも偏りがある。このような種の保護対策を検討するためにも、飛来状況の把握をするために標識調査が必要である。

もどる