酒に関するうんちくを集めてみました。

 

三倍増醸造酒

 

昭和18年、中国北東部は満州国と呼ばれ、日本の関東軍が駐屯し支配していた。この寒くて不毛の 荒れ地を開拓していたのが、日本の農村から移ってきた開拓義勇軍と呼ばれる人達でした。この人達にとってお酒は、生活必需品でした。しかし日本の内地ですら、供給量が少なく配給制であった日本酒は、その2倍以上の消費量がある満州国ではとても足りませんでした。

そこで軍部からの命令で考え出されたのが、清酒もろみ 醸造用アルコールブドウ糖乳酸コハク酸等を加えた第二次酒というわけです。三倍量のお酒ができるので俗に言う三増酒の誕生です。

そして終戦後、食糧難のなか昭和24年、国はこの第二次酒の技術を、三倍増醸法という名で、国策として打ち出、全国から200軒あまりの選ばれた酒蔵蔵に試験的に造らせた。それが”原料が安い・人件費は節約できる”ということで、翌年からは、ほとんどの蔵でこの酒造りが始められた。

三倍醸造法は、白米1トンの清酒醪に100パーセント換算のアルコール720リットルと醸造用糖類(ブドウ糖・水飴等340〜400kg、酸味料(乳酸・コハク酸・クエン酸等、化学調味料(グルタミン酸ソーダ・アラニン・グリシン等)、加水用の水などを加えることによって、純米酒製成量(白米1トンからアルコール分15度換算で、2400リットル前後)の約三倍の清酒(アルコール分15度換算で、7200リットル前後)を、造り出す方法である。

ちなみに現在売られている醸造用糖類添加の一般普通酒は 三増酒そのものではないが、三増酒とアルコール添加したお酒をブレンドしたものである。

 

 

醸造用アルコール

 

正しくは「酒類原料用アルコール」。サトウキビから砂糖を作る時に、副産物として生ずる廃糖蜜が原料である。現在はほとんど、廃糖蜜を徹底的に精溜してできる、粗留アルコールとして輸入している。供給量の多い国としては、ブラジル、アルゼンチンがあげられる。ちなみに石油の採れないブラジルでは、醸造用アルコールを自動車の燃料として使用している。

 

酵母

 

酵母は、大きさ六〜七ミクロンの微生物。昔は蔵に住みついている酵母を利用したが、現在 は育種、培養された酵母を使用している。 酒質を安定させるには優秀な酵母が不可欠である。 そのため、醸造試験所(平成77月に醸造研究所と改称)が設立され、優秀な酵母の分離、 育種、培養が行なわれてきている。優良酵母は日本醸造協会が発売するので、協会酵母と名づけられている。

 

以下、一覧表にてまとめてみました。

 

 

 

*=協会酵母一覧表=

1号〜5号は現在一般に頒布されていない

注:分離年度は,参考資料により多少異なるかもしれません。

協会酵母

発見分離蔵元

分離年度

特色

1

櫻正宗(兵庫)

明治 39

濃醇強健

2 号

月桂冠(京都)

明治 41年

くい切りよく濃い酒

3 号

酔心(広島)

大正 3年

特になし

4 号

酒造場不明

大正 13

経過良好

5 号

賀茂鶴(広島)

大正14年

果実より芳香

6 号

新政(秋田)

昭和 10年

おだやかで澄んだ香りの淡麗酒質

7 号

真澄(長野)

昭和 21年

華やかな香りで吟醸 普通酒用に適す

8 号

醸造試験所

昭和 37

高温 多酸性 濃醇酒向

9 号

香露(熊本)

昭和 28年

短期もろみで華やかな吟醸香

10号

八鶴(青森)

昭和 27年

低温長期もろみで酸少なく吟醸香

11号

醸造試験所

昭和 50年

長期もろみで切れよく、アミノ酸少なくりんご酸多い

12号

浦霞(宮城)

昭和 41年

低温でよく発酵 吟醸香高い

13号

醸造試験所

昭和 56年

9号と10号の交配で、双方の特徴を持ち吟醸香高い

1 4

金沢国税局

平成 6年

酸少なく吟醸香高い

601号

醸造試験所

昭和 48年

6号の泡なし酵母

701号

醸造試験所

昭和 44年

7号の泡なし酵母

901号

醸造試験所

昭和 50年

9号の泡なし酵母

1001号

日本醸造協会

昭和 59年

10号の泡なし酵母

 

 

 

酒造好適米

 

私たちが普段食べている飯米でも、酒は造ることはできますが、より酒が造りやすいように品種改良したのが酒米です。酒米の中でもとりわけその品種と産地について、農林水産省の指定を受けたものが酒造好適米とよばれています。

その中でもっとも多く使用されているのが、五百万石山田錦美山錦の三銘柄で、この三種が好適米の大半を占めている。その特性として次の三つが上げられる。

 大粒であること

 心白(米粒の中央部分の澱粉質で、白く半透明に見えるところ)があること

 蛋白質や脂肪が少ないこと(この二つは米粒の表層部に多い)

これらのことによって、高精白によく耐え、米の芯の部分にある純粋なデンプン質を酒にすることができるのです。また心白は細胞の組織が柔らかいので、麹菌の菌糸が中によく入り込み、そのことで酒に変わる率が高くなります。

タンパク質の多少は酒の味に関係し、多いと雑味が出やすく、含有量が少ないほうがよい。逆に飯米の方は、タンパク質・脂肪・灰分が多くて、食べて粘りのある旨い米に人気が集まります。

酒造好適米ではないが、酒造りに利用されて効果を上げている米もあります。

新潟、山形県の亀の尾漫画・夏子の酒に使用された酒米)、福島県の京の華、茨城県の渡船(わたりぶね)、香川県のオオセト、愛媛県の松山三井(まつやまみい)などがそれである。

 

米のサンプル画像

 

山田錦の玄米が上で、下が日本晴の玄米。大きさに違いのある事が分かる。

米の大きさ比較図

 

 

この画像では、判りにくいかもしれませんが、白濁した部分が心白です。

心白の画像

 

上が山田錦の玄米、左が70%精米したもの、右が40%精米したもの

精米度が高くなっても割れにくいのが特徴である。

 精米歩合の比較図

 

 

宮水

 

19世紀に入り文化・文政の頃になると、江戸に入る灘の酒の量が俄然多くなる。この事の理由に挙げられるのに「水車精米」と「宮水の発見」がある。

灘の宮水は1840年「櫻正宗」の祖、山邑太左衛門(やまむらたざえもん)によって発見されたといわれている。最初は「西宮の水」と呼ばれていたが、いつのまにか略して「宮水」になってしまう。他の水と比べて麹菌や酵母の繁殖を促がすりん酸塩と、酵母の養分となるカリウムの含有量が多い。この水を使用した灘の酒が伸び、それまで名醸地と呼ばれていた奈良伊丹鴻池池田が衰退していった。

伊丹では現在残っているのは白雪大手柄(御免酒)老松誉鶴の四銘柄である。池田にいたっては呉春ただ一つしか残っていない。

 

 

硬水・軟水

 

水には、硬水と軟水があることは広く知られている。水の硬度は、カルシウムマグネシウムイオン含有量で表示される。硬度の高い水にはナトリウムカリウムカルシウムマグネシウムを多く含んでいる。飲んでおいしいのは、ミネラルの多い硬水の方である。日本の水は、軟水もしくは軽い硬水が多く、ヨーロッパには硬水が多いといわれている。

「灘の宮水」は硬水で、発酵が強くて酸が多めの辛口酒になり男酒と呼ばれる。新酒のころ、荒々しい舌触りでおし味のあるところから、その名がつくようにようになった。また夏過ぎから、丸みが出て飲みやすくなるという特徴もあり、俗にいう「秋あがり」のする酒と呼ばれるのがそれである。

一方、京都伏見や広島西条の湧き水からできる軟水の酒は、女酒と呼ばれている。おだやかに発酵させる、酸が少な目の甘口酒である。新酒の頃は、きめの細かいなめらかな味わいを持ち、男酒に比べると秋落ちしやすいのが特徴である。

 

 

YK35

 

酒の鑑評会で、金賞を受賞するコツをマニュアル化した言葉で、からかいの意味合いが込められている。Yは山田錦、Kは協会酵母35は精米歩合が35%であるということで、つまり「米の65%を、糠として捨てた山田錦で、協会酵母を使用して仕込んだ吟醸酒は、金賞が取れますよ」と皮肉っている。

ちなみに鑑評会に出品する酒というのは、それ用に特別に造られた吟醸酒である。よって酒の瓶に「金賞受賞」とラベルが貼ってあっても、その酒そのものが金賞を取ったということではない。金賞を取る実力のある蔵が、造った酒だということです。つまり出品用の吟醸酒が美味しくても、それ以外の本醸造酒や純米酒が、旨いとは限らないということです。

 

精白歩合・精米歩合

 

精米歩合というのは、米を磨いてその後に残った部分の割合で、精白歩合というのは、取り除いた糠の割合である。たとえば精米歩合が40%といえば、糠を取り除いて残ったお米が、全体の40%ということで、精白歩合でいえば60%ということになります。ちなみに、私たちが日常食べている飯米の精米歩合は90〜91%ぐらいである。

 

 

 

日本酒とワインの有機酸比較表

1リットル中に含まれるグラム数

 

酒石酸

リンゴ酸

クエン酸

乳酸

コハク酸

清酒

0

0.41

0.08

0.31

0.59

吟醸酒

0

0.5

0.06

0.5

0.40

仏・赤ワイン

2.16

0.08

0.05

1.61

0.66

独・白ワイン

2.51

3.41

0.08

0.82

0.40

ボージョレヌーボ

2.19

1.85

0.06

1.18

0.83

 

酒類に含まれる有機酸の中で、温めると味が出る温旨系の酸は、「コハク酸」・「乳酸」で、冷旨系の酸は、「酒石酸」・「リンゴ酸」・「クエン酸」である。

この表でお判り頂けると思いますが、日本酒には含まれていない「酒石酸」が、ワインにはたくさん含まれています。これはどういう事かと申しますと、ワインは基本的には、冷やして飲む酒であるということです。しかしよく見てみると、ボージョレを含めた赤ワイン系には、他と比較して「乳酸」・「コハク酸」が多い。白ワインの方はどうかといえば、リンゴ酸がかなり多く含まれ、クエン酸も多めである。

しかし「乳酸」・「コハク酸」が、赤ワインより少ない。という事は、一応は冷やしたほうが良いとされるワインだが、赤ワインは常温もしくは、軽く冷やしたほうがが美味しくいただけ、白ワインは、よく冷やしたほうが良いというのが結論づけられる。また普通清酒と比較して「リンゴ酸」・「クエン酸」の多い吟醸酒は、冷やしたほうが良いというのもこの事でうなずける。

とは言うものの、渋味や酸味の多い仏・赤ワインを常温で飲めば、どんな料理も不味く感じられます。牛肉、チーズ等のこってりした食事をする、狩猟・牧畜民族のフランス人だから合うのであって、淡白な食生活する、農耕・漁猟民族である日本人には、赤ワインは馴染めません。現に日本の消費の約90%は、日本酒に似かよった淡白な白ワインの方です。

赤ワインは常温というのは、フランスの気候・風土の上でのことであって、それをそっくりそのまま日本に持ち込むことは、ナンセンスなことなのです。個人的に言わせてもらいますと、赤ワインはよく冷やさないと「とても飲めたものではない」ということです。それに「グリコーゲンの多い白身魚や蛸・貝などには白ワインが、赤ワインにはハマチ・大トロ・鰯・牛肉など、乳酸や脂肪の多い食べ物が合う」と、このこともよく言われることですが、白ワインの方ならまだしも、赤ワインは、到底合うとは思えません。これは良い赤ワインを飲んだことのない、私の偏見だと思っていただいても結構です。

ワイン党の皆様すみません!

 

 

 

生一本

 

俗に言う大手蔵、ナショナルブランドメーカの酒には、桶買酒が多い。自分の蔵のラベルを貼って、出荷する酒の大部分が、他所の蔵で製造した酒であるということです。最近「灘の生一本」とラベルに冠した酒に殆どお目にかからなくなりました。

これは即ち、「米および米麹のみを原料とした、自醸酒であること」という「生一本」の定義からはずれた酒を造っている為、このネーミングを付けたくても、付けることができないというのが実情です。

 

 

地酒の味分布

 

よく関東は辛口、関西はやや甘口、そして全国的に淡麗辛口傾向にあるといわれている地酒ですが、実際はどうなのであろうか。ここに一つの判断材料となる資料図を掲載しておきます。

 

全国の甘辛分布・目安地図

 

 

 

杜氏について

 

正月に蔵人を帰郷させても、帰らない杜氏は多い。3月末から五月にかけて地元・県・所轄国税局・国税庁醸造研究所の順にと開催される新酒鑑評会に、出品する吟醸酒を仕込むためである。

全国新酒鑑評会で「金賞」を勝ち取ることは、杜氏の夢であり最高の栄誉であるからです。高精白の山田錦を使用し、丹念に仕込みをしても、必ずしもフルーティな吟醸香が確実にでるとは限りません。この吟醸香を、間違いなく出させる勘所を会得した杜氏は、「吟醸杜氏」と呼ばれます。

現在でも生きている階級制度に次のようなものがあります。

この内、杜氏・頭・衛門は蔵の三役と呼ばれている。

高齢化が進み、後継者不足に悩む杜氏だが、飲む人にロマンを与えるような酒を飲めるのも今の内だけで、この後十年・二十年すると、すべて機械化された蔵が造った酒しか飲めないという時代が来るかもしれません。そのような事にならない為にも、私たちは日本の伝統文化でもある酒造りを真剣に見つめていきたいものです。

 

全国杜氏マップ

 

 

 

 

上戸・下戸

 

酒飲みのことを「上戸」、飲めない人のことを「下戸」と言いますが、元々の由来は秦の始皇帝が、万里の長城の寒い山上の門(上戸)の番兵には酒を、平地の門(下戸)の歩哨には甘いものを加給したことから来ていると言われている。

 

下らぬ酒・下る酒

 

江戸時代には、灘を含めた上方が酒造りの中心であり、江戸で飲まれる酒も、上方から船に積まれて江戸まで運ばれた。この江戸に運ばれる酒が、上方〜江戸に下るということで「下り酒」と呼ばれるようになった。当時の大消費地であった江戸に下って行く酒は、酒質も良く旨い酒であった。

一方、地方で造られたその土地だけで飲まれる酒や、江戸周辺で造られた酒は江戸には下れない酒であった。下れない酒つまり「下らぬ酒」と言うところから、不味い・つまらない・価値がないと言う意味の「くだらない」と言う言葉が生まれた。

 

 

日本酒の銘柄名

 

日本全国には約2000の蔵があり、その中での主要銘柄は約4500種類あるといわれている。日本酒センター調査の銘柄4500種類の内訳で、酒名として最も多く使われているのは、「」(226種)である。次に多いのが「」(220種)、三番目が「○○正宗(184種)、元祖は兵庫の櫻正宗と言われている。まさむねと読むが、音読みするとセイシュウと語呂合わせにもなる。以下、4位「菊」、5位「金」、6位「白」、7位「泉」、8位「松」、9位「大」、10位「千」と続く。

 

 

酒林(さかばやし)

 

造り酒屋以外、今では殆ど見られなくなった酒林だが、江戸時代は杉の葉を丸く束ねて軒下につるし、酒屋の看板に使われた。「ここはお酒を売っている処ですよ」という、印であったと言われている。

本来は酒の神様を祭る、奈良県三輪神社の御神木である杉の木を、いただいてきて造ったお守りであるとも言われ、酒屋では大神の御霊が宿るものとして、杉玉をつるし良いお酒ができるように願った。酒屋の軒下につるされた酒林が、新しい青々とした杉玉に代わると「新酒ができましたよ」というお知らせである。

 

酒林のいろいろ

 

暖気樽(だきだる)

 

湯たんぽみたいなもので、中にお湯を入れ酒母の中に沈め、酒母の温度を上げて蒸し米の溶解糖化を進めるもの。

 

おかみさん

 

弥生時代の酒は、炊いた米を口で噛んで造る・「噛み酒」だと言われている。

口で噛む役目は、若い女性もしくは主婦が担当していた。古代の「母長家族性」のもとでは、一家の長は女性であり、子育てを始め食糧管理と配分、祭事の酒造り等はすべて女性の役目で、今よりも女性が重要な役割を果たしていた。よって結婚も男が、妻の家に通うという形をとっていたものと、想像される。酒造りでは蔵の最高責任者を「杜氏・とうじ」と言うが、この言葉も実は「刀自・とじ」と言う言葉からきている。刀自とは老婆・主婦・年長けた婦人とという意味で、やはり女性を指すものである。「おかみさん」という言葉の語源には「噛み」という言葉が込められている。

 

 

山田錦

 

 

日本酒造りに欠かせない酒米の雄・「雄町」と「山田錦」であるが、雄町が自然発生的に生まれた酒米に対し、山田錦は人工的に作り出された酒米といえる。大正12年、兵庫県立農業試験場で山田穂を母とし、短稈渡船(たんかんわたりぶね)を父として人工交配を行ったのが始まりであった。山田穂は大粒の品種だが、欠点は稈(イネ科植物の中空茎のことをいう)が細いため、穂の重みで倒れやすいということ。かたや短稈渡船のほうは、心拍率が高く稈も丈夫だが、収穫の少ないのが難であった。共に酒米として優れた品種であるが、両者の欠点を少なくし、長所を引き出す選抜交配が続けられた。その結果・昭和11年に山田錦と命名され、奨励品種として編入された。その後・何度か品種改良も試みられ、その間・他の酒造好適米の開発もされたが、依然として酒米の王者の座を守り続けている。このことはすなわち品質として優秀なのはもちろんのことだが、酒米振興会、そして灘の酒造家と農家の、たゆまない努力があってのたまものと言っても過言ではない。

 

 

 

酒のうまさは何で決まるのか

 

 

日本酒の成分は、何百種類にものぼり、アルコール度を調節する前の原酒の成分構成は、アルコールが約20%・糖類が4%・その他各種の酸や窒素化合物・エステル類(有機酸または無機酸とアルコールが脱水反応により結合して生成する化合物の総称。アルカリを作用させると、酸のアルカリ塩とアルコールとに分解され、酢酸エチルや油、脂肪の類をいう)等である。主な成分として米や水に含まれている、カルシウム・マグネシウム・カリウム・ナトリウムや微量の重金属である。これらの成分は、酒の濃醇味と関係ある。一方、鉄・マンガン・銅などは、酒質を劣化させる働きをもっている。米のでんぷんから造られるグリコースなどの糖類は、甘味に関係し、デキストリン・オリゴサッカライド等は、濃味に影響を与えるものとして、よく知られている。

日本酒の香りの成分は、酵母のアルコール発酵によって生成されるエチルアルコールが持っており、これが酒特有の香りを発する。酵母によって作り出された有機酸は、コハク酸や乳酸など約50種類にも及び、コハク酸はうま味・乳酸やりんご酸は酸味に関係する。また米中のタンパク質が、麹の酵素によって分解されてできるアミノ酸やペプチドも、日本酒の味に影響を与えており、甘味・酸味・苦味・うま味に関係している。苦さの元であるアミノ酸やペプチドは、量が増えるとしつこい味が出て雑味になる。しかしこの苦味成分を完全に取り除けば、味もそっけもないつまらない酒となる。苦味はいわば日本酒の「隠し味」と、言えるのではではないでしょうか。

 

 

酸度とアミノ酸度

 

日本酒の味わいに微妙な影響をあたえるのが、酸度である。日本酒には、この三種類で酸の90%を占める、コハク酸・リンゴ酸・乳酸をはじめとし、その他多くの酸が含まれている。酸は、酒母ができる過程において約20%が、また醪(もろみ)の発酵中に、約80%が形成される。酒の酸の総量をあらわしたものが、「酸度」で、10ミリリットルの酒を中和するのに要する、水酸化ナトリウム溶液のミリリットル数を指しています。日本酒度が同じ場合、酸度の高い方が一般的に辛く、また濃く感じられるものである。一方、日本酒中のアミノ酸の総量を表すものが「アミノ酸度」である。10ミリリットルの日本酒に対し、水酸化ナトリウム溶液にホルマリン溶液を加えて測定した時の、ミリリットル数をいうのである。一般的にはアミノ酸度が多いと酒の味が濃くなり、多すぎると雑味となってしまう。雑味というのは「味のきたなさ」のことである。酸度やアミノ酸度は、ラベルに表示されることが少ないため、一般的には知ることができない。

 

 

日本酒度

 

 

一口に日本酒といっても、甘口の酒もあれば辛口の酒もある。糖分が多いと甘く感じ、逆に少なければ辛く感じる。そこで、日本酒の比重を計り、その基準を表示するものに「日本酒度」がある。四度の純粋な水(比重一)と同じ重さの摂氏十五度の日本酒を、日本酒度±〇と設定して、比重計を使って設定をあらわす。糖分が多いものはマイナス、反対に糖分が少ないものはプラスとなる。つまりマイナスの度合いが高ければ甘口になり、プラスの度合いが高いと辛口になる。しかしこれはあくまでも目安であって、酸の含有量やアルコール度によって微妙に変化することがある。酸は人間が感じる甘味を減殺する作用があるので、たとえば同じ量の糖分含有量がある、2種類の酒を比較し場合酸度の高い方が辛く感じられる。一般的には一部の県を除き、西日本は甘く・東日本は辛いといわれている。

 

 

唎き酒

 

 

唎き酒をするときには、一般的に底に藍色の二本線が入った、白磁の蛇の目猪口が使用される。唎き酒は、色・香り・味の順で見ていく。その為には自分自身で、多くのタイプの違った酒を味わい、自分なりの甘辛・濃淡の具合を舌で覚えることが第一である。要は数多くの酒を味わい、自分で経験をつむ以外に達人への近道はないのである。ここで唎き酒で使用される用語を、紹介しておきます。()内は逆に、問題があるときに使用する用語である。

 

<香り>

調和  … 上立ち香と含み香の調和が良い。(不調和)

上立ち香… 口に含む前に酒から立ち昇る香り(酸臭)

含み香 … 口に含んで感じる香り(ツワリ)

ソフト … おだやか、やわらか、軽快な香り(木香様臭)

華やか … 豊かできわ立つ香り(酸エチ臭)

優雅  … 華やかに加えて、上品さ、落ち着きのある香り(濾過臭) 

個性的 … 原料米、酵母、製法などに由来する特徴的な香り(生老香)

 

<味>

ふくらみ… まろやかさと幅のある味(うすい)

濃醇  … 「ふくらみ」よりさらにコクと幅のある味(くどい)

軽快  … 軽やかで心地よい味(雑味)

きれい … 澄んで、淡麗な味(酸うす)

なめらか… まろやか、調和のとれた味(渋み)

後味良 … 後口に余分な味の残らないキレの良い味(苦味)

適塾  … 荒さ、だれ味、老ねのない味(味だれ)

また吟醸酒については「フレッシュ」「フルーティ」「ソフト」「エレガント」という風な形容が使われる。

 

 

ヤコマン

 

付け香(人工的に付ける香りを、業界ではこう呼ぶ)もろみの高泡の時に、リンゴ香つまり吟醸香の強い芳香ガスが蒸散される。このガスをヤコマンと称する冷却装置で冷やすと、香りの高いドレンが採集でき、酒に混ぜることによって、吟醸香のある酒に仕上げることが可能となる。発明者の山田正一氏・共に研究に携わった菰田氏・真野氏の頭文字(YA・KO・MA)をとって、ヤコマンと呼ばれる。

 

 

日本酒の日

 

 

十月一日は「日本酒の日」です。酒の文字はサンズイに酉(とり)と書く。酉は十二支の十番目の「トリ」の事であるが、もともとは、酉は壺の形・それも酒壺を表す象形文字であって、それと同時に酒を意味していた。後に液体を表す「氵」がついて「酒」となった。昔は一年の始まりを冬至に置いていた。酉の月に当たるのは現在でいえば、九月の末から十月頃となる。ちょうどその時期は、米の収穫が終わり新酒を仕込む頃となり、酉の月は「酒の月」でもあった。明治期に酒税法が創設されて以来、十月から翌年の九月にかけてを、酒造年度としていた。酒造元にとって十月一日は、一年の始まりであり「酒造元旦」として祝うところもある。この酒造年度は昭和四十一年に、七月一日から翌年六月三十日と改定されたが、現在でも十月一日が「日本酒の日」として残されている。

 

 

柿を食べると悪酔いしない

 

 

昔から深酒をした後には、良く熟した柿を食べると悪酔いしないと言われている。これは柿に含まれるタンニンが、アルコールの吸収を遅らせるためである。よって酒を飲む前に柿を食べればもっと効果が上がる。またこれとは別に牛乳を予め飲んでおくと、アルコールを代謝するために必要な、タンパク質や脂肪を補うことができ、同時に胃壁に保護膜を形成してくれる。それと最近の研究では、お茶に含まれる成分にもアルコール吸収を抑える効果があるということが、判ってきた。これまでお茶の成分には、殺菌・消臭の効果があることは広く知られていたが、サポニンという成分が、アルコール吸収抑制の性質をもっている。しかしこの成分は、お茶に微量しか含まれていないため、通常・私達が飲むお茶の状態では、あまり効果が期待できない。酒を飲んだときには、普段の状態よりもビタミンの必要量が増えるため、緑黄色野菜やフルーツなどを取るように、常日頃から心がけたいものである。余談になりますが、粋を気どる・升で塩を傍らにおいて飲む酒のスタイルは、健康には一番悪いです。

 

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