「ゆとん油団づくり」



 私は、少年野球チームを指導している。
これに携わったのは、職業柄かも知れない。それは、朝が早いが午後からはほぼ開放されるからである。薄明かりがさす頃、各玄関先に牛乳を配達しているのである。
とにかく、健康と体力と闘志には自信がある。ここが見込まれたのだろうか、10数年前から子供たちと付き合いをしている。もう、いい加減に交代が必要と目ぼしい人にあたっているが、どうしてかグルグルめぐって、再びみたび三度お鉢が回ってくる。

3年前から不思議な人間と付き合いだした。
平気で相手の心に傷の付くようなことを言う。
さらに、なんの遠慮もなしに回りに課題を押し付ける。
そして、結果についてサラリとケチをつける。
この男こそ、当神明公民館に居している変わり者の一人、すなわち私と付き合っている男である。

 3年前の最初の夏、なんでも鑑定団ならぬ「神明お宝拝見」と銘打ってわが家の骨董披露を企画した。
 2年目は「神明エジソン大会」を実施して、小学児童の発明展と北陸のエジソンと言われている酒井弥博士の講演会を企画した。
 昨年は、神明の地開祖"松平忠直卿"を取り上げ、「松平忠直卿」物語を企画した。そして、忠直卿の没後350年の節目を記念して、50年後の開封を約し忠直甕(タイムカプセル)を埋設した。
 忠直竹炭もやった。
このときも、ようー使われた。

 さて今年は " 「松平忠直卿」物語 PRAT−U" をやるという。
 昨年の炎天下のもと下での重労働(穴掘りから窯焚き)が、まだ鮮明に刻まれているので、もう何を言われても知らん振りをきめようとしていたが・・・
 ところが今年も、あるときは優しく、あるときは頭越しに、またあるときは褒めそやしノセられた。
 私は、4年目のこの夏、4回目の憂き目を見る羽目に陥ってしまいました。結局は、彼の術中に落ちたのかもしれない。
 
 さて、その押し付けられた課題とは・・・「油団」をつくれという。
国語辞典には・・・
"油団"(ゆとん)[「とん」は字の唐音]紙に油(漆)を一面に塗った夏向きの敷物。小さいものは座布団として使った。
とある。
さて、またこれからどうなることやら・・・


仙人堂仙人 山本 武夫




油団の作り方

いろいろな伝統工芸があるなかで、油団はこの広い日本でたったの一軒、鯖江市田村町紅屋紅陽堂(表具店)牧野輝芳氏と長男友美氏のみである。



 当の牧野氏は、長身で色白さらに会話は穏やか。とても、日本でたった一人の名人とは思えない。
 さて、当仙人堂の主旨を話し、一体どんな仕様で油団が作られるのか?・・・緊張しながら訊ねた。
 概要を記すと・・・
@ 鳥の子和紙を畳を敷くようにつなぎ合わせ、これを油団台(和紙に渋を引いたもの)の上に、表を下にして張り上げます。
A 紙(こうぞ楮100%のきずき生漉和紙1尺5寸×2尺)を6ミリから7ミリの糊代でつなぎ合わせ、目指す大きさ(6畳から8畳)に仕上げる。
8畳もので、1回分の張り合わせに使う和紙は50枚くらいとなる。
13枚から14枚を重ねてだいたい4ミリくらいの厚さにする。
B Aは生麩糊を刷毛で塗り、なで刷毛で皺にならないように貼り、そのうえでうち刷毛を使って叩きます。(小さな穴があき通気性をよくなるため)
C Bが概ね乾いたら、油団台から起こして墨打ちの外側の部分を端の補強に包むように折り曲げます。
D Cの裏に柿渋を吹き付けます。(防虫、防腐、ケバ押さえのため)
E 最後は耳そぎをして・・・


F 表に荏胡麻油を塗る。

・ 熱してから、やっと手が入れられるくらいになったとき、一気に手で塗り上げる。
・ ムラが出ないように2回塗る。
G 油がよく染み込んだら、屋根に上げて一日天日干しをする。
H 表面を仕上げは、つぶした豆腐を木綿の布ですり込んで、この後直ぐに乾いた布で磨き込んでいく。
(ゴマ油は、手が入れられないほどの熱さに煮て、素手で塗る)
I 最後の仕上げは、豆腐をタオルに沁み込ませて艶出しのために、すり込む。
   参考 三交社「職人」

これで完成!

 しかし、これは机上のことであり・・・はたして、高価な和紙を使って挑戦できるか?当然のことであるが、紅屋のご主人が " まぁっ やってみればいいが お勧めはできませんなー " とのこと・・・
これには、イップク!
 
 ところが、ご主人がもう一つの案(助け舟)を提示してくれた。
それは " 「 ゆ たん油單」をやってみないか? "の最後の言葉。
簡単には、油団の小さい(座布団)ものを ゆ たん油單というらしい。
 これなら @ 作業場所をとらない
      A 利用の頻度が期待できる
      B 一人でできる
      D 安上がりである

 ヒョットモすると、5枚や7枚はできるような気がしてきた。
 ゆとん油団は「 ゆ たん油單」に切り替えて、この夏を仙人の感覚で燃えるぞー!