Music Column
絵はここからもらいました。

歪み音の魅力 The groovy distortion sound.



 だいたいこんなことを文章であれこれ書くこと自体ナンセンスなのである。理屈で魅力を云々するって言うのはクリアーなオトの世界なのだ!「クラシック音楽の解釈は・・・」、「天上の響きとも言えるあのきらびやかなモーツァルトの旋律は・・・」、「弦楽器の発音の仕組みは弦の振動をいかに曇りなく共鳴箱が増幅して響かせるかが・・・」、オーディオの世界に至っては「こんなダイナミックレンジの広い音源を再生するにはやはりもっと口径の大きなスピーカーを使わないと、まあ磁石の強さにもよるけど、ボイスコイルが必要以上に大きく振動してコーンの振幅が大きくなりすぎると、再生される音がクリアさに欠けるものに・・・」、さらには「やっぱサンプリングは20bit相当と言われるSONYのスーパー・ビット・マッピングじゃないと、音の艶って言うのかなぁ・・・」。きれいな音の音楽の理屈には、ホントさまざまなむずかしい話があるわけです。

 ここにあえて、”きれいな音”ではない音の理屈をこねてみようというわけです。しかし、やっぱ、歪んだ音に理屈はいらない気がしてくるのです。なぜなら、ジミ・ヘンかなんか聞いとけばいいからです。そうです、ジミ・ヘンです。これでおわかりのように、ここではいわゆるギターのディストーションサウンドについて書きたいと言うわけです。

 何年か前、高校生バンドでジミ・ヘンの曲をコピーしているバンドを見ました。オリジナルのジミ・ヘンのようなワイルドさはないものの、彼のあのギターをなんとツインギター、つまりふたりで弾くようにアレンジしているのです。アレンジの妙もですが、しっかりと腹に響くいい音を出しているんです、また。「パープル・ヘイズ」をいい塩梅で演ってくれました。ギターのリフをギター二人でうまく分けて、また後半のギターソロの部分もうまく2小節ごとにかけ合いで弾いたりして、いや、だからアレンジがどうこう言いたいわけじゃなく、ちゃんといい音だしてたということです。で、終わったあとMCとのやりとり、「ずっとジミ・ヘンのコピーとかをやってるの?」、「はい」、「ジミ・ヘン好きなの?」、「メンバー全員が好き!」、「へえー、ジミ・ヘンのどういうとこが好きなの?」、「なんていうか・・・、ギターを・・、こう・・、バーンと弾くと・・・、もうそれがいい!」(ギターを掻き鳴らす仕草で)。なんと、きょうび高校生でジミ・ヘンをやってるヤツらって何考えてるんだろうかと思ってたら、わかってるじゃないか!、よくわかってるじゃないかキミタチ、そう、理屈はいらない、あのサウンド、つまりはあの音質が胸を掴むのだ!(と理屈を言いたがる私)。(しかし少々補足しとくと、ジミ・ヘンの本当のファンから見ればこれは邪道と言えるだろう。なぜなら、彼の生き方、そして、思想、とは言わないが、社会を破壊したともいえる彼のパワーこそが本当の彼の魅力、ロックの魅力だと思うからだ。やはり音が云々というのは、一音楽ファンの台詞でしかないのですね。いや私のことですよ!)

絵はここからもらいました。

 歪んだ音、なぜ人を惹きつける魅力があるのだろう?きれいな音の方がいいに決まってるのに!ビールの苦味(にがみ)やコーヒーの苦味のようなものだろうか!?。”苦味”なんていってもこういうのは飲み付けると苦いなんて全く思わないもので、むしろ苦いコーヒーなんてのはマズイものの代表だと思うわけで、あのあじわいこそがビールやコーヒーの、まさに”ウマさ”だと思うでしょあなたも!。まあそれはさておき・・・ということは、であるから、歪んだ音もやはりそれが、それ自身が魅力、なのですね。うんうん。(まあジミ・ヘンの話の続きなのだから、ビールだコーヒーだというよりは、歪んだ音の魅力?そりゃぁドラッグに常習性があるようなモンさ(オイオイ)、とさらりと言っておきたいとこなんだけどね。)

 さてロックのギターにディストーションというともう当たり前ですが、歪んだベースもカッコイイのです。さてここで名前を挙げるのは誰あろう、その昔、カルメン・マキ&OZでプログレッシブなベースを弾いた川上シゲさんです。シゲさんのベースはなぜか歪んでいるのです。なぜ歪んでいるのか?数年前シゲさんが里帰りして福井でセッションしたのを見る機会がありました。その辺にあるベースでその辺にあるベースアンプにシールド一本でつっこんで弾くんだけど、ナゼか?いい感じで歪んでるんです!ボリュームコントロール?そんな単純なモンじゃないよ、それなら誰でも出せるはずだけど、他の誰が弾いてもそんな音は出ない!やっぱピッキングかなぁ・・・

 ボリュームと言えば、先日週間プレイボーイ(いつも読んでるわけじゃないよ)にCharの記事が載ってて、60年代にアニマルズがやって来たって話が載ってました。日本公演と騙されて横浜のどっかの店で連夜ライブをやらされてたらしいんですが、ある夜イヤになってなんと楽器を置いて逃げ出したらしく、その後、なんであんなエレピの歪んだ音が出るんだろうと思ってローズ(フェンダーのエレピ)のセッティング見たら、ボリュームが全部10だったっていう話で、さもありなんと思ったわけですが、最初に歪んだ音を発見した人はさしずめ、ボリュームがまちがってインプットが馬鹿でかくなってるのに気がつかずに、アウトプットのボリュームで下げて調節したらなんだか変わった割れた音がして、オッこれちょっとイイじゃん!てな感じだったのかも知れないね!
 かと思えば、楽器屋の友達に聞いたことがありますが、マーシャルのアンプ、○○とおんなじギターにおんなじアンプ揃えたんだけど、なかなかおんなじ音が出ないんですよ、っていう客がたまにいるそうで、そりゃそうだよ、マーシャルのアンプなんてボリューム全部フルテン(全部10の目いっぱい右まわし)で使うといい音出るようになってるんだから!、150ワットのアンプをフルテンで音出すくらいの気合いで練習しないと、狭いスタジオやましてや自分ちじゃそんな音出せっこないから・・・。まあ、バック・トゥ・ザ・フューチャーの1で、ドクが作った、ひとたびその前でギターを掻き鳴らすと、音圧で体が吹っ飛ぶようなオバケアンプってわけじゃないからね!!

 ってことで、とにかく、ドスのきいた、腹にずんとくるような、あのサウンド。これはまさに麻薬のような、一度シビれだすと、また味わわずにいられない音なのである。やっぱディストーションサウンドに理屈はいらないのだ、 なぜ歪んだ音は人を惹き付けるか?・・・、それは歪んでいるからなのである。
(陳腐な結論だこと)

'96.11.21





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