映画とノヴェライゼーション  「お前」と「相棒」

さて、今回もノヴェライゼーションと映画のクロスマッチ、パート2です

まず、いくつかストーリーを追うのに役立つと思われる箇所を...

新しいキャラクター(と言うべきかどうかは問題ですが)ミーラが登場します。ハムナプトラの遺跡で、いかにも怪しげな赤ターバンの一味・・・大英博物館の館長(と後で分かる)や、ロック・ナーと共に、何かを発掘している。
サブタイトルに「ハムナプトラ」と表示されるので、前作では人を寄せ付けない秘密の都市が、わずか8年でこれほど大がかりな発掘を許すまでになったのかと、前作のイメージを引きずっている観客には、いささか驚きのシーン。

いかにも、曰くありげな、しかも見覚えのあるミーラの、これも思わせぶりな台詞が、話の進行を把握できていない観客に焦燥感をあおります。やっとストーリーが繋がりを見せるのが、発掘現場にアレックス達を襲った例の3人組が現れたところです。
ここでミーラの正体を覚らせる台詞がちゃんとありましたが理解しにくかったようです。

Then Meela approached the Curator and touched his arm, saying, "I advised you to allow Lock-nah and myself to handle this... acquisition."
"Yes, I know, my lady,"the Curator said, sheepish, "but I did not want your... shall we say, past history?... to cloud the issue."

────するとミーラは館長に近づいて腕に触れながら言った。
「だから私とロック・ナーにこの件を...あれを手に入れるのを任せてと言ったでしょう?」
「ああ、分かっておりますよ、」館長は従順な様子で言った。
「だがあなたの、その、昔の事が、問題をややこしくして欲しくないんだ」

確か字幕では"この前も騒ぎをを起こしたし"みたいな感じでした。
これは、館長が、『前世でも恋愛事件から王を殺して』問題を紛糾させた、と皮肉っているところで、これでミーラがアヌクスナムンの生まれ変わりだと暗示する重要な台詞でした。こういった字幕は、ぜひきちんと表示して欲しいものです。
ただし何の前触れもなく、いきなり「前世」とやっては劇中ネタバレになりますから、字数の関係もあって「前に」でお茶を濁したのでしょうか。

ハム1に続いて2でも「イムホテップ」の名前はなかなか出てきません。
ミイラとして封印されている間は"He Who Shall Not Be Named"(名をつけられない者)と呼ばれています。
しかもメジャイからは名を呼ばれることは決して無く、creatureと呼ばれています。
陰陽師じゃないけれど、名前=呪なんですね、名付けることで存在を認めることになる、名前がある物は力を持つ、
この心性は万国共通の不可知の物への対処法のようです。
近い例では、ハリー・ポッターの中のヴァルデモートも"You Kow Who"(ほら、あの人)と呼ばれていましたね。

エヴィがさらわれてリックとアーデス・ベイが劇的再会を果たします。そのくだりを少し。

That was when O'Connell saw an old friend walking toward him across the grass, having exited the manor house moments after Alex---an old friend ... former adversary...with dark flowing robes and a trimly bearded face whose cheeks were decorated with bizarre ritualistic tattos.

────その時のことだった、オコンネルは昔の友人が芝を踏んで近づいてくるのを見た。先ほどの館での活劇の興奮さめやらぬ様子で...旧友で...その前は敵だった男が黒い長衣を翻して来る。刈り込んだ髭の顔には、額と頬に儀式的な不思議な刺青がはいっている。

O'Connell stood, easing his son to one side, saying, "Ardeth Bay ...long time no see."
A serious smile flicked on the Med-jai's face.
"That is what your wife predicted you would say."
O'Connell strolled up to his friend, said caasuslly, "Did she?"
Then he clutched the front of the Arab's garment and practically lifted him from the grass , all but screaming into the man's face: "Who the hell kidnapped Evy? And what the hell do they want with her?"
Ardeth Bay's eyes were more woeful than alarmed, "My friend, please..."

────オコンネルは立ちはだかって息子を片側に寄せながら言った。
「アーデス・ベイ...久しぶりだな」
メジャイの顔に硬い笑いがちらりと走った。
「会ったら君が言うだろうと奥さんが言ってた通りだ」
オコンネルは旧友の元につかつかと歩み寄るとくだけた調子で言った。
「そうかい」
やおらアーデスの胸元をつかむと、足も浮かんばかりに持ち上げて、いや実際に芝から足が浮いていたのだが、その顔に向かってわめき立てた。
「一体誰がエヴィをさらったんだ? 彼女に何をしようと言うんだ!」
アーデス・ベイの目は驚いていると言うより悲しげだった。
「友よ、頼むから...」


相手への呼びかけですが、アーデスは律儀にリックに話し掛けるたびに"my friend "と繰り返しています。例えば、

"My friend, something terrible is afoot, something we cannnot prevenrt until we grasp entirely what this cult intends. "

────「(友よ)怖ろしいことが起こっている、こいつらが何をしようとしているのかはっきり分かるまでは阻止しようにもできないことだ」

"My friend," Ardeth Bay said, his tone grave, "you dop not understand. By putting that bracelet on, your son has started a chain reaction that could bring the Apocalypse upon this world."

────「友よ」アーデス・ベイは重々しい声で言った。
「君はわかっていない。この腕輪をはめることで君の息子はこの世に終わりをもたらすかもしれない扉の鍵を開けたのだ」


余談ですが先日ムービー・ヘッドラインニューズのミス探しを訳したときには第二の黙示録の世界とありましたがここではただのApocalypse(世界の終わり)になっていました。映画で確認しようと思いましたが身構えてないときにとても速い台詞回しだったので、Apocalypseはちゃんと聞こえたのですが肝心のその前は聞き漏らしてしまいました。

さてアーデスの「友よ」と言う呼びかけに対してリックはと言うと最初は呼びかけ無しで"you"とだけいっています。車に乗ってから

"I tell you what, pal," O'Connell said tightly, "this time I'm gonna leave all the reawakening creatures to you and the rest of the Med-jai. All I want is to get my wife back."


────「おい、いいかこれだけは言っておく」オコンネルは表情も硬く言った。
「今度という今度は蘇った化け物は全部お前と仲間のメジャイの受け持ちだ。おれは妻を取り戻したいだけだ」

"pal"は、余り親しくない人への呼びかけです。「おい、きみ」くらいでしょうか。
この辺りではまだお前達の騒動を持ち込むな、と言わんばかりなのですが、それが説明を聞くうちに自分たちが発掘したアヌビスの腕輪が深く絡んでいると知ると、リックの頑なさも溶けてきます。
更にイヴリンを救うという共通の目的のために、仲間意識が戻ってくるのが会話からも窺えます。

これは大英博物館の中に潜入する前に車の後部で武器の束を開いてどれを持っていくか好きな物を選んでいるところ

"You seem prepared for more than just a ride in the British countryside," the Med-jai observed.
"Yeah ---after what we went through, last time around, I like to stay prepared. You want the twelvegauge?"
"Thank you, no---I have become enamored of the repeating weapon."
"The Tompson? Take it."

────「イギリスの田舎をドライブするのには似つかわしくない準備の良さだな」メジャイが言った 
「この前あんな事があったからな、おれは用心深くなったよ、お前は12口径がいいか?」
「いや、やめておく...あれから連続発射のできる銃がすきになったのさ」
「トンプソン機銃か? とれよ」


このやり取り、ハム1を見ている人は思わずにやりとするところ。ハヴロックの飛行機に乗り(アーデスは主翼に括り付けられていたが)墜落後はルイス機関銃を外して運び、イムホテップの部下の僧侶のミイラを撃退するのに一役買った経緯があります。 アーデスというと騎馬の偃月刀のイメージもありますが、同じくマシンガンをぶっ放す豪快なイメージもあります、その出典はここです。

次の場面は2階建てバスに乗ったものの後ろから戦士のミイラが追いかけてきてリックの新車を踏みつける、その後のシーン。

Devastated, O'Connnell muttered, "Goddamn mummies, anyway."
Ardeth Bay was suddenly at his side, and a white smile flashed in the dark beared. "Now are you glad to see me?".......
O'Connell gave the Med-jai chieftain a quick look, a mixture of apprehension and fondness. "Like old times, boddy...Good luck to us both."
Then, as he was heading up the rear staircase, O'Connell heard the Med-jai--- positioned at the back window with the machione gun poised---say, "Allah be with you, my friend."

────困惑してオコンネルは口の中で呟いた。
「ミイラのくそったれめ!」
アーデス・ベイが降って湧いたように隣に立った。濃いひげの中に白い歯が笑った。
「今度はおれの顔を見てうれしいか?」
オコンネルはメジャイの長にちらと理解と好意の入り交じった視線を投げた。
「いつかのように、幸運はおれたちの側にあるように」
後部階段に向かうオコンネルの耳に、最後部の窓にマシンガンを構えて位置に着いたメジャイが言うのが聞こえた。
「アラーが共にあらん事を。(友よ)」 

訳出はしませんでしたがオコンネルは"buddy"という友人を指す言葉で呼びかけています、アーデスの"my friend"と同じです。
バスでの大立ち回りが終わってリックがアーデスに声を掛けるところ。

O'Connell helped Ardeth Bay, his clothing soaked with blood, to his feet. "Are you all right, buddy?"
"Yes," the Med-jai chiftain said, wincing in pain, "but I admit preferring travel by camel."

 
────オコンネルはアーデス・ベイに手を貸して立たせた。アーデスの服は血に染まって足元まで重く湿っていた。
「大丈夫か?」
「ああ」メジャイの長は痛みに顔をしかめながら言った。
「だが、乗るならバスより駱駝の方がいい」

これ以来リックはアーデスをbuddyと呼び続けることになります。余談ですが最後の引用部分は映画では
"This was my first bus ride."でした。字幕は「バスに初めて乗った...」でした。

2001/06/30(土) 記)