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#8 The Day of Reckoning      by Jude Watson
#8 表紙
解題は運命の日、決算の日、つまり今までの成り行きの総決算、ザナトスとクワィ=ゴンの長年の確執に落とし前のつく日、運命の決まる日という意味です。

前巻であわや聖堂を破壊せんとしたものの、クワィ=ゴンとオビ=ワンの捨て身の活躍で、内通していたブルックは墜死し首謀者のザナトスも目標を達成せずに逃げ出しました。聖堂の危機は去ったもののザナトスという脅威の問題は未解決のままです。
マスタークワィ=ゴンは、いよいよザナトスとの決着を付けるべき時が来たと悟り、自分の方からザナトスの母星、テロスへ向かう決意をします。

公式にはまだパダワンの地位に戻っていないオビ=ワンも当然マスターに従うつもりでしたが、まだ「保護観察処分」中の身で評議会からは積極的に許可はもらえません。下手をすれば今後の身の去就にも影響があるかも知れませんが、オビ=ワンには心にはそのような保身の考えはちらりとも浮かびません。
この人について行くと心に決めたのには、マスターは当然独力でザナトスを打ち負かすことができるのは必至とは思っても、何かできることがあったら力になりたいというその一心の故でした。こうして師弟は共にテロスへと出発したのです。

しかし共に旅をしながら、身近にいながら心が通い合わないもどかしさ、最初からオビ=ワンは共に来たことが正解だったか悩みます。これからどのような状況が待っているのか全く不明、定期旅客船の中では無聊をかこつものの、心の安寧は得られません。自分の今後はどうなるのか、ブルックの死は自分のせいだろうか、そしてザナトスとの確執に心を捕らわれているマスターへの慮り。
一方クワィ=ゴンの方もオビ=ワンを放任して置いたわけではありません。心はこれから決着をつけるべき相手ザナトスに向きながら、オビ=ワンを伴ってきたことにいささか後悔の念を感じています。オビ=ワンの一途さをよく知っているので来るなと言っても聞かないだろう、状況が悪くなればその時点で聖堂に送り返すと考えていますが、かなり甘い見通しと言わざるを得ません。

まったくこの師弟は、こと闘う段になるとぴったりと息のあったコンビプレーをするくせに、オフ状態になるととたんに消極的で決断力がなくなり始めます。もっと率直に話し合ったらいいのに、と思うのですが、これは主にクワィ=ゴンの方に原因がありそうです。

テロス到着の直前に一般旅客にも身分証を提示するよう指示が出て公安警察の動きが慌ただしくなります。二人のジェダイが旅客に紛れていることが発覚、水際で挙げようという目論見です。いかに一般市民に紛れていてもザナトスは二人の追跡を当然予想しているわけですから、バレバレだったわけです。
まあ、彼らの能力からしたらその辺の公安などに捕まるわけはありません。すんなり別の所から下船しますが、その折りにもクワィ=ゴンはオビ=ワンに、こういう場合はどこから逃げるかとかどうやって偽装するかなどちゃっかり教えを垂れています。根っから真面目人間なんですね。

カタルシス

テロス全星を巻き込んで行われる公営ギャンブル、カタルシス。
いわゆるギリシア悲劇で言う"浄化作用"というまでの深遠な意味はないでしょうが、ローマ時代の剣闘士の試合のように、公開で合法的な殺し合いを娯楽としてスポーツ観戦さながらに見物する事で群衆の嗜虐性を満足させ、しかも最終勝利者を競馬のように賭けることで試合の勝者ではなく、賭けた一般市民が大金を手にする二重の娯楽性をもたしているあたり、道徳倫理を無視して実際にあったら結構面白いかもしれません。
クワィ=ゴンは以前テロスにいた頃にはこんなシステム化された娯楽はなかったと言っています。これはザナトス絡みでテロスを訪れたころの事であると思われます。
クリオンの独裁政権が倒れて一旦逃亡したザナトスが、オフワールドの力を背景に地元企業のユニファイという隠れ蓑を被ってテロスを再び支配せんとし、カタルシスの差配を振るう者として公の場にザナトスの本名と出自を明らかにして堂々と現れます。
市民は以前の独裁政権の苦い経験を忘れてしまったかのように熱狂的にザナトスを支持します。

カタルシスの美辞麗句、カタルシスでの収益金は全て環境保全のために使われる・・・・・・のだそうですが、かなりこの設定は辛いですね。目的が穏当なものならばギャンブルありですか?環境保護という心優しい目的のために公開殺し合いもOKですか?
いかにテロス人が好戦的で嗜虐的だとしても、全世界を上げて堅持するエコロジー精神とそぐわないこと甚だしい限りです。
それとも集団催眠よろしくテロス人全てが異様な熱気に包まれているところを見ると、明らかにはなっていないもののザナトスの下工作があったのかもしれませんが。

デン

今回のローカルなゲスト・スターはアンドラとデンの二人組です。
ちなみに今までのゲストを見てみますと、1のシ・トレンバ、2,3のゲラとパクシィ、4のジョノ、5,6のニールドとセラシィ、7のブルックとバント、全てオビ=ワンと同年代の青少年もしくはその兄弟という設定でしたが、今回のアンドラとデンは青年、多少年長者です。
二人はテロス政府の方針に疑問を抱き、特にカタルシスによって生じた利益を「聖なる泉」を含む広大な世界公園の保護保全に充てるという美辞麗句が信じられません。理想肌のアンドラが疑惑を暴くことを目的にパワー党を結成して初めのうちこそ志を同じくする人々が集まるのですが、徐々に有形無形の弾圧が強まり、「聖泉」地域へ情報収集のために潜入した仲間が行方不明になってしまう事態に至って脱退者が増えてパワー党は分解してしまいます。ところでデンは元々はパワー党のプロパガンダに共鳴して自発的に参画した人間ではありませんでした。ユニファイが政府と癒着してカタルシスをコントロールしているのではないかとの疑惑を暴くためにコンピューター関連に詳しい人間が必要だとして、報酬を約束されてビジネスとして一味に加わった計算高い人間でした。

デンの性格は、ギャンブル好き、目立ちたがり屋、お調子者、表面悪ぶっていますが、その実アンドラに思いを寄せていて理想主義で熱血のアンドラを一人にしておけないので、他の仲間が皆いなくなった後もアンドラを支えています。
カタルシス会場でクワィ=ゴンとオビ=ワンに声を掛けたのは偶然だったのか、それとも公安に追われている他星者だと一目で見て、自分と同じ"犯罪者"のにおいを嗅ぎ取って、とっさに助けの手を差し伸べたのか。どうも後者のように思われます。

おもしろい事ですが、このデンの性格は登場した頃のハン・ソロのそれに類似したところがあります。アウトローではあっても根っからの極悪人ではない、詐欺などの悪事はしているが強盗殺しはしない、軽挙に過ぎるところはあっても好意を寄せる女性の頼みは文句を言いつつも結局聞いてしまうお人好しでもあります。

デンの最初の方の台詞です(仮にAとします)。ちょっとその下の台詞(B)と比べてみてください。
A 「そこのお二人、席がご入り用ですか。こちらのボックス席にはまだうんと空きがありますよ」
B 「おい、そこの二人、座りたいのか? こっちへ来いよ、ボックス席にはまだ空きがあるぜ」

A 「そうでしょうとも」男は抜け目のない顔つきだった。「殊に公安に追われているとなればね。お二人とも、ぼくと一緒で、これでもう安心だと思ったらとんだ思い違いですよ」
B 「そうだろうよ」・・・・・・「殊に公安に追われているとなりゃあな。おいお前ら、おれと一緒で安心だと思ったらそうは問屋がおろさねえぜ」

実際にはデンには人の良さと頼りなさもあるのでA方式で訳してみましたが、もし全編B方式で訳していたら、とてもガラの悪いデンになってしまったと思います。ソロをもっとお行儀悪くしたような(笑 

これでお解りになるようにキャラクターの設定はどういう言葉遣いを選択するかでおおむね決まってしまうような恐ろしいところがあります。アンドラだってわたしの頭には毅然としたレイアのイメージが少しかぶったのですが、もっと姐御の伝法なアンドラも面白かったかも知れません。そのときはアンドラとデンの会話はものすごく違った物になったことでしょう。
試しに遊んでみましょう。(#8-11より)

「それくらいにしときな、デン」アンドラが唸った。「仕方なしに仲間がいるふりしたのさ、お前の手が要ったから」
「おおさ、よく言うよ」 デンは深く頷いた。
「この星を救おうってんだから、目的のためには人をコケにしても目じゃないよな。 はっ!了解だぜ。動機さえまっとうならどんなこともありってわけか!」
「だれがそんなこと言ったのさ」 アンドラは怒って激しく言い返した。「てめえのことだけに血道をあげやがって。よくその目をひん剥いて見てりゃわかることじゃないか」
「わかってるさ。お前は欲しい物を手に入れるためならどんなことでもやるんだ。アンドラ、お前とおれとは腐れ縁の似たもの同士さ」
 アンドラはデンをにらみつけた。「てめえとつるむくらいなら、ディンコと○たほうがましさ」
「いい度胸だ」デンは意気込んで言った。
「ディンコってのは牙のある根性悪の化け物さ。問題はだ、お前とディンコをどこで見分けたらいいかだ。おい、歯を見せろよ」
「その辺でいい加減にしておきな、デン」 アンドラが警告を発した。


本当にこれくらいにしておきましょう。どのあたりで妥協するか、訳者の良識とセンスが問われてきますね。
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