シベリアの理髪師

1999年 フランス=ロシア=イタリア=チェコ合作     上映時間 2時間42分

監督:  Nikita Mikhalkov ニキータ・ミハルコフ

キャスト:Julia Ormond  ジュリア・オーモンド

     Oleg Menshikov オレグ・メンシコフ

     Alexey Petrenko アレクセイ・ペトレンコ

     Richard Harris  リチャード・ハリス

     Vladimir Ilyin  ウラジミール・イリーイン

     Daniel Olbrychski ダニエル・オブリフスキー

 

時代は1885年、帝政ロシア崩壊直前でありモスクワでは政治テロが頻発していた。シベリアからモスクワへ向かう列車の中でアメリカ人のジェーン(ジュリア・オーモンド)は士官候補生トルストイ(オレグ・メエンシコフ)と出会う。トルストイはジェーンに恋するが、ジェーンは年若いトルストイをからかうだけでまともに相手にしない。そのジェーンに横恋慕するラドロフ将軍(アレクセイ・ペトレンコ)。まさしくモーツアルト「フィガロの結婚」である。ジェーンはトルストイの一途な思いに心動かされ愛を交わすが、士官学校の卒業の日に演ずるオペラ「フィガロの結婚」の場で悲劇は起きる。フイガロを熱演するトルストイはジェーンの気持ちを思い違え嫉妬にかられ将軍を殴打してしまう。そして、トルストイはシベリア送りとなり、その時ジェーンのお腹には…。

映画においてニキータ・ミハルコフ監督自身は馬にまたがったアレクサンドロフ三世役で士官候補生の前に颯爽と登場する。映画は20年後の1905年のアメリカから過去を回想する形で展開する。1905年は日露戦争の年であり、あの「血の日曜日」の年であり、エイゼンシュタインの「戦艦ポチョムキン」の年でもある。監督も意識してこの20年を設定しているのであろうが、映画の中ではそのような政治性は全く感じない。冬の広大なシベリア、そしてこの映画最大の見所であるモスクワで繰り広げられる春の祭り「マースレンニツァ」のばか騒ぎ、クレムリン内での皇帝による閲兵シーン、紅葉するシベリア(そこに場違いな、自然を破壊し森を切り倒す化け物機械・機関車のお化け「シベリアの理髪師」が登場する。)、アメリカの士官学校生が軍事教練を受けるシーンのロケ地ポルトガルの断崖等々実に映画ならではの広大な美しい風景がモーツアルトの音楽とともに展開し、ジェーンへの一途なトルストイの思いも、風景とモーツアルトとともに最高潮にまで盛り上がり、そして静かに消えていく。

ところで、映画では士官学校生がロシア語とともに英語を流暢に話す。実際は当時のロシアの貴族社会ではフランス語が必須言語であり、学問上の必要性からドイツ語を学ぶものも多かったであろうが、英語を解する者はほとんどいなかったであろう。しかし、英語が通じるという設定によってこのラヴストーリーが成り立ちうるのであり、恋と打算に揺れ動くジェーン役のジュリア・オーモンドをより魅惑的に仕上げている。

また、ラドロフ将軍役のアレクセイ・ペトレンコは感傷的な知性と品位にかける無邪気な将軍を演じきっている。ロシア人の代表として、プーチン大統領を左の端に置くとすれば、右の端にはペトレンコが置かれるのではないかと思うほどの功演技である。こうしたロシア人が本当にいそうな、そんな思いに取り付かれてしまう。

 

 

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