21世紀を拓く分権改革シンポジュウム

地方分権改革の現段階と今後の課題

1994.11.29

     於:ホテルニューオータニ

記念講演     西尾勝 東京大学教授

パネル・ディスッカッション

「分権改革と政治の責任ー今世紀最後の改革のチャンスをどう生かすか」

 コーディネーター 進藤宗幸立教大学教授

 パネラー     加藤紘一自民党政調会長

          五島正規社会党副書記長

          菅 直人さきがけ政調会長

          中野寛成改革政策委員長(当時)

          坂口 力新党準備会基本政策委員会委員長(当時)

主催    地方自治総合研究所

共催    行革国民会議 連合 自治労

後援    全国知事会 経団連 関経連 経済同友会 民間政治臨調

(上記講演、パネルディスカッションを「福井県地方自治研究センター)」が編集したものです。) 

 

地方分権改革の現段階と今後の課題

 

記念講演  西尾勝 東京大学教授

 

T.地方分権推進の基本論点

1.受皿論の棚上げ・・現行の都道府県・市町村制度を前提

@第3次行政改革推進審議会の最終答申

 地方6団体の意志は完全に一致しています。内閣の地方分権部会でも幸いにして道州制の議論はありませんでした。

 昨年10月の第三次行政改革推進審議会の最終答申を受けて、これを政府に実行するためのプランを審議している。最終答申には機構改革の問題で、いまさら道州制の議論を蒸返すことはないといえます。

A各界の意見・各党の政策綱領

 肝心の政界ですが、現在の政党のこの問題について与党三党での合意が、さらには国会に於ける合意がなされなければなりません。内閣の地方分権部会でこの問題を議論した時に、私たち8人の専門委員がこの点について完全に一致していることを察知された議長をしておられる内閣官房長官は、「それではこの部会としてはこれを前提に議論を進めることとしましょう」いったわけですが、そこで事務局が「ちょっと待った」といったわけです。

B市町村の自主合併の障害除去か支援か、それとも全面再編成?

 市町村の問題については、1つは自主合併論です。それ以上は合併をしろと進めない消極論です。合併をすれば議会は1つになるし、議員の任期もそこで切れてしまうわけです。そこで議会の抵抗があるわけですが、そこで合併をしたときには議員の定数を決めてしばらくは定数を増やすとかして、自主合併に障害となることを取り除くというやり方です。障害除去論です。

 2つはこの際全面的に合併しようという論です。明治の大合併、昭和の大合併に続いて平成の大合併を進めるべきだというのです。小沢一郎氏などは300に合併することを提唱しています。

 3つ目の中間の意見としては、半ば強制をすることは地方分権の主旨に反する。合併をすべきかどうかはその住民が決めることである。あくまでも自主合併であるべきである。しかし、もう少しまとまった方がいい。合併をしたら少し得になることをして合併を進めようということです。合併支援論です。

 私し個人としては消極論ですが、大勢としては合併支援論です。地方制度調査会の答申も内閣の地方分権部会も概ねそのような意見です。

2.推進体制

@推進計画の策定

 受皿論の棚上げは一応成功しましたが、推進体制の問題です。なぜ、推進体制が問題になったかというと、内閣は年内に地方分権大綱を決めるということで公約しています。6団体の審議は昨年12月からですから1年間ぐらいの期間がある。地方制度調査会、内閣の地方分権部会が発足したのは5月です。7月に公約として出して12月に決めるとなると5ケ月しかないわけです。提言を受けて内閣側は地方分権の具体的な提言プランを作らなければなりません。時間的に見て内閣の地方分権大綱というのは、またまた抽象的な作文に終わるのではないかということです。具体的な分権の中身に関わる事項は全て来年(1995年)以降になるのではないかということです。そうだとすると、来年以降に内閣が具体的な議論ができる体制を考えておく必要があるということです。

推進計画を策定してことを進める仕組みにしなければならない。タイムリーに進めるというやりかたにしなければことが進まないのではないかという判断です。地方6団体の場合には時限立法とし10年としたわけです。地方制度調査会の場合には概ね5年としました。内閣調査会では5年程度としています。いずれにしても、その間に集中的にということです。

 その中のスケジュールにもタイムリミットを設定しなければならないとして、推進計画で区割りをするということです。どの程度細かいものになるかは分りませんが、わたくし個人としては、短期課題、中期課題、長期課題に分け、短期課題はこれから3年程度でやってもらいたい、中期課題は4〜5・6年で、そうしたことが具体的に進んだ段階で、根本的な問題については5〜10年かけるのが良いのではないかと思います。年度計画という考えもあります。そうして、政府の尻を押す、国会の尻を押すというのでなければだめだということです。

 ところで、地方六団体は10年としたわけですが、地方交付税の抜本的見直しや、安定した税財政制度、機関委任事務の廃止後の新しいルールの議論など、5年のうちに全てが行われるとは考えられないからです。地方制度調査会が5年としたのは宇野会長の強い意向でした。5年で全てのことができるとはとても考えられない。しかし、はじめから10年とすると、政府も国会も動かない。もっと期間をしぼってともかく動きださせようということのようです。

 細かいことですが、推進計画を作るときに、内閣が策定し国会が議決するのか、内閣が策定し国会が承認するのか等、どこが策定するのかについては若干の意見の食い違いがあります。

A推進機関の創設

 推進計画を策定すればそれで安心かといえばそうではない。内閣、国会にそれだけの信頼は置けません。意見を述べ、提言をし、監視する第三者機関が必要です。その機関は内閣からかなり強力な権限を受け取り、内閣から一定の自主性を持つ機関でなければなりません。これについてはほとんど意見の相違はありません。

 推進機関をどうするかですが、国家行政組織法の第3条の行政委員会とするのか、法第8条の審議会とするのかですが、意見の食い違いがあります。6団体は3条機関とすべきだとしましたが、調査会はそのことに触れずに答申しました。

3.推進手法

@国の役割の限定列挙

 推進体制については概ね意見の一致が見られたので、それでは推進手法について議論しようということになってきました。どういう分権の進め方をするかです。地方6団体では事務の委譲、国の関与の縮小とかは繰り返しいってきたました。地方制度調査会も何度も同じ様なことをいってきたわけです。しかし、何も実態は変らなかった。そこで、今回こそ何か新しい手法を生みださなければならないのではないかということです。結果出てきた若干新しい手法というのが、国の役割を限定列挙することです。

 連邦制国家の場合には、全権は州が持つわけです。しかし、州がばらばらに国際社会で行動したのでは不便であるということで、対外的事項については連邦制が代表するというようになっています。つまり、連邦制国家では連邦政府が担当する仕事というのは、外交、軍事、郵便等と限定列挙されているわけです。

 そのように、国の各省庁の役割を限定することは、いろいろ議論があります。国会は国権の最高機関であるから憲法違反であるという意見である。あるいは国会が決めれば憲法違反ではないという意見。国会自身が自分の権能について自己抑制することである。限定列挙といっても、地方6団体は16項目にわたって、地方制度調査会は大雑把に3つの類型に分けています。調査会の書き方は6団体に比べるとはるかに後退しています。しかし、16項目で明快かです。どうしてもグレーゾーンがあります。新しい社会問題が出てきた時、国の機関は何等かの関与をせざるお得ないことがあることを予測することはできません。

 それでは限定列挙が無意味かというとそうではない。これまでは自治体側が国から権限の委譲を求めるものでした。受け取る側である県が、国の事務にはに何の支障も無く、より事務が良くなるということを立証しなければならなかったわけです。これに対し、明らかに国がというものを限定してしまおうということです。一応全て都道府県に委ねることが可能なものであると決めてしまう。原則それ以外のものは都道府県あるいは市町村でやるということです。しかし、そうはいかないものがある。やはり国が関与しなければならないものがある。国の方が国がやらなければならないものがある(グレーゾーン)というのならば、国の方がそれを数え上げ、列挙し証明しなさいよということです。論理を逆転したわけです。

 地方制度調査会は3項目の大雑把な分類にしたかといえば、宇野会長の意向が強く反映されています。宇野会長は第3次行革審にも参画していました。調査会の3項目は第3次行革審のそれとほとんど同じです。そこで、もっと細かく限定列挙しようとしたのですが、そうしたら各省から一斉に反対の声が上がったわけです。そこで細かく列挙すると、また今回もということになる。離陸でつまずいてしまう。今回は入口の所でつまずくのではなく、ともかく動きださせなければならないというお考えの様でした。

A機関委任事務の廃止

 概念から廃止し、全廃するという考え方と極力縮小するという考え方のニュアンスの違いがあります。概念から廃止し、学会の用語としても使われないようにする。つまり、知事に委任するというのを都道府県に委ねるというような書きかたに改めるわけです。

 全廃といっても本当に全廃なのか。明らかに国の仕事というのは残るわけです。国の仕事でありながら、国の機関が直接やっていくのは不合理である、今まで通りに都道府県なり市町村なりに担当してもらった方が遥かに効率的でよいというものが残るわけです。典型的なものとしては国政選挙の選挙管理事務などがあります。国会議員を選ぶ仕事ですからどう考えても国の仕事です。しかし、市町村選挙管理委員会でやったほうがよいわけです。外国人登録法、旅券の発給、国勢調査などもそうです。全員一致していることはこの種の仕事を極力限定してしまおうということです。

 したがって、全廃論と極力縮小論とはあまり違いはないわけですが、全廃論を主張する人は名称そのものも廃止しルールも異なったものにしようということです。地方6団体も機関委任事務について全廃論を打出しました。

B包括的法改正と立法権の委譲

 これまでは、○○法の第○条に書かれている大臣の権限を、たとえば都市計画法第○条に書かれている権限を、今後は都道府県、市町村に委譲するというようなことでした。1つ1つの権限の委譲を明記していたわけです。しかし、そういうやり方では進まない。全面的に法改正して、国の法律を必要最小限の簡素なものにして変えてしまう。立法権を都道府県、市町村に委ねるということです。欧米と比べて市町村に権限のない顕著なものは土地利用規制関係の権限です。国土庁所管の全国総合開発計画、建設省所管の都市計画法、土地収用法、農林省所管の農地法、農振法等です。たとえば土地利用規制については、このジャンルの法律に全面的に統合し、そして、その中で機関委任事務を廃止してしまう。

Cその他・国の関与の限定、補助負担金の整理、財政自主権

国の関与を整理、縮小してしまう。補助金等についても、この法律の中で整理を合せて行ってしまう。その際にこれまでの建築基準法よりも簡素なものにしてしまう。さらに最も重要なことは、政省令には非常に細かなことが書かれていますが、この辺を廃止し、従来政省令の中で決めていたものの中でどうしても今後も決めなければならないものは、今後は都道府県の条例の中で決めることとする。

D地方6団体の独創的な提言

   国の関与に対する不服の裁決と条例無効宣言訴訟

 地方6団体の提言の中ではきわめて独創的な提言がなされています。自治体が国の関与に対して不服の申し立てをし、その制度・機関(地方分権委員会)をつくるべきであるとしています。もう1つは条例無効宣言訴訟制度を作るべきだというものです。条例の実質的な制定権を拡大したという考えで、たとえば都市計画法が簡素になったとして、これ以上のことについては条例で定めると法律で書いてくれればいいわけですが、そうすれば法律で委任された条例ということになります。しかし、そうした個別の根拠の無い一般的な条例を作らなければならないときには、依然として、「こうしたことは条例で決められるであろうか」という問題が残ります。法律に違反した条例が許されるはずが無いことは明らかです。法律と条例の関係をめぐる問題は永遠に残るわけです。各省がそれは法令違反だというと途端に元気がなくなってしまう。そこで、全く発想を変え、今度は自治体は法律を畏れずどんどん条例を作っていこう、それが、現行の法律に違反していると国側が考えるならば裁判所に国側から訴えればよいということです。そこで、あの条例は無効だと宣言してくださいということです。裁判所に判例を示してもらう。そうした判例の積み重ねによる方が、実質的な条例の制定権に繋がるのではないかということです。しかし、地方制度調査会の答申の中ではこのことは触れられていません。

 

U.残されている基本論点

1.都道府県と市町村の関係

 今回の論議は国から都道府県に分権させようということが主眼がありました。都道府県から市町村への分権については徐々にではありますが、ゆるゆると進んできています。しかし、今度は国から都道府県へ分権させることが肝心要のことと誰しもが思っていいるところです。だから、地方6団体の意見でも都道府県と市町村の今後の課題・在り方についてはあまりふれていません。

2.税財政制度の再編成

 税財政制度の再編成についてもどこの提言も基本的なことは触れていますが、あまり具体的なことは書いていません。何故書かなかったのか。書くということは中々難しい問題です。細かく書けば書くほど、地方自治体間の足並はなかなか揃わない。都道府県と市町村の、市と町村の利害関係が対立するわけです。

3.地方分権と行政改革の関係

 地方分権と行政改革の関係ですが、財界は国・地方を通じてスリムになってもらいたいと思っている。分権を進めれば簡素化に繋がると期待してる。しかし、果たしてそうだろうかということです。まず、国がやってきたことを地方に下ろすわけですからその分仕事が増えます。仕事が増えれば人も増える。最終的には国の出先機関が整理されれば、その人員も引き受けなければならない。それを、ダメだといわれれば分権はできない。さらに、分権と行政改革は次元の違う問題です。

 国の規制を緩和する・権限を縮小するというのは財界も賛成ですが、それを自治体の立法権に委ねる、各都道府県の条例に委ねるとうことになると、都道府県での規制の違いが出てくる。国の法律で一本で統一されている方が遥かに便利だからです。

4.地方自治の自己制御システム

 分権が進むということは地方自治体の責任が拡大することです。これまでは最終的な権限は国にあるという言い訳ができたわけですが、そうはいかなくなります。市町村、都道府県は自分の全責任において行政を行わなければならなくなります。そうすると現在のシステムで果たしてよいのかということも出てきます。

V.当面する難関

1.内閣の地方分権推進大綱方針の策定・主体

 当面する難関ですが、年内に内閣の地方分権大綱を作成することです。いまだにこれを作文する担当機関が決まっていません。内閣官房長官に早く決めて頂きたいとお願いしたわけですが、いまだにそういう指示は出ていないということです。関係省庁の間でもめているというのが今日的状況です。どこの省庁が担当するかでかなり変わるであろうということは想像できます。

2.地方分権推進法(仮称)の立案・内閣提出案か議員立法か

 それが出来たとして、次に出す地方分権推進法の立案はどこがするかです。これも決まっていませんし、自明のことでもありません。関係の深い自治省でと自治省がいったら全省庁がソッポを向くでしょう。では自治省と総務庁の共管でということにもなかなかならないのではないか。

 それが出来たとして、閣議決定ができるかです。全省庁が合意しないかぎり閣議決定できない従来の慣習では閣議決定が出来ないかもしれない。とすれば、この法律は議員立法で立案して頂かなければならない。

3.地方分権推進委員会の設置・事務局

 地方分権委員会の事務局ですが、この事務局の人員が充実していなければ意味が無いわけです。しかし、各省は事務局に十分な人員を出してくれるであろうか。事務局長は誰になどということを考えれば頭が痛くなってきます。

4.地方分権推進計画の策定・手順

 そして、地方分権推進計画の策定までいったとします。その手順をどういうふうに進めていくか、土地利用関係についてはまとめて包括的にということが考えられます。次に保健福祉関係についてまとめてというようなスケジュールになるのではないでしょうか。

 

宇野収地方制度調査会会長(関経連相談役)挨拶

 地方分権が政官財そして労働組合、一般市民を巻き込んだ大きな流れになろうとしています。地方制度調査会は1994年の4月にスタートしました。96年の3月までの任期です。4ケ月の間に地方分権の問題と市町村の合併の問題などを審議してきました。地方分権の問題はそうのんびり審議している問題ではないと主張し、11月22日に分権の問題と市町村合併の問題で答申を出しました。任期24ケ月の1/3ぐらいで出したわけです。何故そんなに急いだかですが、この年末までが非常に大事なところでそれに間に合うようにと急いだわけです。問題はこれを受けて、内閣の地方行政推進本部地方分権部会でどう進めるかですが、地方分権はポイント・オブ・ノーリターン、もう後ろへ戻れない所まで来たということはいえます。しかし、どう進めるかがポイントになっています。地方制度調査会としてどういう答申をしたかの2、3のポイントを申し上げたい。

 21世紀の日本はどういう形で行政をやっていくことが望ましいかです。日本の行政はこれまで中央集権の行政システムで運営されてきました。それで非常な成果が上がってきたことはご承知の通りですが、21世紀にはこの通りでは進まないというのが世界の情勢であり、日本国内でも中央集権の弊害が出ています。分権型の行政に変えないと21世紀に対応できないわけです。国では国民全体に関わる大事な問題だけをやってほしいということです。外交、財政、年金の問題等々、それ以外の問題は地方に任すということです。それを地方分権基本法という法律で担保しないと、いままで何遍かこの問題は議論されながら実行にいかないという空しい繰り返しをまた繰り返すことになるからです。そして、地方分権推進委員会を作り、委員会が中心になってやる。

 基本法案は政府提案という形で国会に出すような方向で努力していますが、もし、そこで政府提案が難しいということになると、議員立法でお願いするということもありうるわけです。地方制度調査会は任期の1/3ほどで答申を出しましたが、あと2/3はこのフォローアップをやっていきます。

 

パネル・ディスッカッション

「分権改革と政治の責任ー今世紀最後の改革のチャンスをどう生かすか」

コーディネーター 進藤宗幸立教大学教授

パネラー     加藤紘一自民党政調会長

         五島正規社会党副書記長

         菅 直人さきがけ政調会長

         中野寛成改革政策委員長(当時)

         坂口 力新党準備会基本政策委員会委員長(当時)

 

進藤宗幸立教大学教授 

 92年段階から地方分権という問題が多様に議論されてきましたが、93年6月には衆参両議院で分権の決議が行われるという、日本の近代においては始めての国権の最高機関による決意が示されたわけです。11月18日には行政改革推進本部の地方分権部会の専門委員意見の取りまとめというのも行われ、22日には第24次地方制度調査会の答申も出ました。12中旬には地方分権大綱が、1月20日過ぎに召集される通常国会にには地方分権推進法といったものが提出される予定になっています。今日のシンポジュウムでは何故分権が必要であるのかは了解事項であることを前提にとして、具体的にどう進めるかを話していきたいと思っています。

 特殊法人の整理問題について各省に意向を調査したところ、廃止を必要とするとしたものは1つもありませんでした。よりいっそうの活動が必要であるという回答すらあったとのことです。行政改革面においてすらそうですが、この分権問題においても行政に対する政治の闘いであると思っています。日本の政党関係者はみなさん責任ある政党政治である、官僚制あるいは行政に対する政治の優位の確立というのをおしゃっています。その決意、真偽のほどを試されているのがこの地方分権ではないかと思っています。分権推進体制の具体的在り方から話を進めてまいりたいと思います。分権推進法に基づいて推進計画を策定し、それを実施する、推進計画の指針を勧告しあるいは進捗状況を監視する独立制の高い機関を設けよう、そして、21世紀までのあと5、6年の間に日本の集権体制に新たな方向をだそうというのが基本的フレームとしてはあるのではないかと思います。

T.地方分権にどう取り組むか・各党の姿勢

 そこで、この枠組みをどう評価されているのか、どのように取り組もうとされているのかを社会党の五島さんからお聞きした。その後、野党新新党(12月10日より「新進党」)のお二人から中央政府の最高機関の一員として、新新党の最高幹部としてこの枠組みにどのように取り組まれるのかをお聞きしたい。

 

社会党 五島正規副書記長 地方分権推進法案をどのような格好で作っていくかが重要な問題です。地方分権のプロゼクトを設置し進めている最中です。一方において政府に大綱を作らせていくという作業をしているわけですが、非常に心配することは、中央官僚としては抵抗があるというのは常識です。それに対しては議員立法ということも当然必要であると考えています。社会党としては地方6団体の案が一番近いものと考えて進めております。

 

坂口 力 新新党準備会基本政策委員会委員長 新新党としては、地方分権を最重点課題として位置付けています。地方分権法を作らなければならないということには全く賛成です。しかし、時限立法として5年というのは個人としては少し短いのではないかと思っています。地方分権推進委員会などを中に含めるべきですが、内容としてはシンプルなものとすべきです。委員に誰を選ぶかも念頭に置きながら作るべきです。

 

中野 寛成改革政策委員長 何故地方分権かという問題は既にクリアしていますが、同時に環境が整っているといえます。国でどうしてもやらなければ仕事というのは、外交やエコロジーのための省資源型経済への移行、地方自治体同志のネットワークなどに主眼を置いて進めることではないかと思います。

 

進藤 分権大綱について野党の案をご提示になる考えはありますか。

 

中野 何時でも出す準備は出来ていますが、新党としての手続は12月10日以降になります。

 

進藤 与党としてはどのようにすすめるのか。

 

五島 与党で合意してというのがベストだが、推進法を作り、その上で推進計画を作るというのがどの程度のものになるか、理想案を作り上げてやっていくというのではだめで、同時平行的にやっていかねばないません。基本法というきっちりしたものは時間がかかるとして、まず議員立法で時限立法という形で先行させながら可能なところから走っていくことが考えられます。基本的なところでは与野党に大きな隔たりがあるとは思いません。与野党がまとまった形で作られるのが望ましいと思っています。

 

進藤 推進体制の基本的フレームである分権大綱に対して、与党の分権大綱案は。

 

五島 社会党としてはまとまっていますが、与党としてはまだまとまっていません。プロゼクトチームについてはさきがけとは旧連立時代からもやっていましたが、村山政権下で自民党にも入って頂き現在進行中です。

 

菅 直人さきがけ政調会長 フレームが見えてきたと言いますが、ぐるぐる回りのフレームなのか、前に行くフレームなのかわかりません。

 地方分権の問題は私が知る限りでも、20、30年前からかなり答申がいろいろなところから何度も出されてきたわけです。故鈴木栄二さんの第三次行革審の答申を受けて、今度は答申では終わらないのだ、今度は実行機関として細川政権下で政府に行政改革推進本部を設けて、さらにそれを監視する為に行政改革委員会を設けるという仕組みまでもうスターとしているわけです。しかし、現実にはその行政改革推進本部でまた大綱をまとめるとか、調査会の報告に基づいてさらに地方分権推進の委員会を作るというのは、どうも卵が鶏になってまた卵に戻るような気がします。

 政府に対する答申を何回書いてもそれだけでは地方分権は進まないのではないかと思います。政府というのは一言でいえば霞ヶ関ですから、霞ヶ関から権力を奪取するのに霞ヶ関にいくら答申を書いてもそれだけでは変わらない。もう一つ別の道を考える必要がある。地方議会が政府、国会に対して意見書を出す。こういう地方分権を進めるべきだという案を出すとか、何らかの政治的プロセスが必要です。法案を作ることには賛成ですが法案を作ればよいだけとは全く思わないわけです。法案はいくつかの手段の1つであって、気をつけなければ地方分権推進委員会設置法案になってしまいます。法律というのは霞ヶ関を通さなくても作れるわけです。こういう法律を作れということで国会での動きが並行的にあることが効果的ではないか。

 

新藤 武村大蔵大臣は道州制論を主張されているのではないのか。

 

菅 武村氏が道州制論を主張されているかどうかは知らない。しかし、さきがけの中の議論では、現在通った法律に広域自治体構想があるが、その中で自治体同志がいろんなテーマで連合を組むことが出来るわけですが、その法律を生かして東北4県なり5県がトータルな意味での連合体を作って一部事務組合のような県の連合を作るやり方は純理論的には可能になりつつあるわけです。今までの道州制論のように日本列島を7つに切った10に切ったというような発想で物事を考えることは必ずしも適当ではないと思いますが、これからの自治体のあり方として場合によっては国の権限を受けとめる1つの手法として、自治体が自主的に1つの連合体を作って受けとめるという考えもある。しかし、さきがけとしては道州制論を考えてはいません。

 

U.地方分権推進法に何を盛り込むか

新藤 分権推進法にこれだけは盛り込ませるというものは何でしょうか。

 

中野 地方分権の目的と理念、目標年度の設定と報告、権限の再配分、地方自主財源の確保、市町村の規模の適性化、広域行政の推進、地方分権推進機関の設置などが必要です。連立政権政権の場合確かに難しい点はありますが、たとえば旧西ドイツの場合には全には全閣僚を山荘に閉じこめて行革を行なったことがありますが、そうした決意とリーダーシップが必要です。

 

坂口 気を付けなければならないことは、分権は形だけ進むが中央からのコントロールは依然としてなくならないことです。コントロールの仕方を変えて地方の選択の幅を与えれば中央からのコントロールがあってもよいかということです。

 

新藤 分権推進法の中に国の仕事を限定列挙するなどをしなければならないのではないでしょうか。

 

五島 きちっと述べなければならないことは、まず、国と地方自治体の役割、それに関連して権限委譲の問題とか、税財源の問題とかです。そうしたことを実際に述べていくと推進法から中央官庁を説得して各法として出させていくほうがもっと大変なわけです。しかし、内閣と無関係に国会だけで法律を出して行ってそれで有効に機能出来るかと考えると疑問があります。一方において議員立法を用意しながらその力において官僚を追いあげていくことが必要です。

 

菅 何が地方分権を妨げているかですが、たとえば、どの党から出た大臣でも大臣になった途端その役所の代弁を始めるわけです。細川内閣になって当時の公明党、民社党からも大臣が、現政権では社会党からも大臣が出ていますが、中央の行政官庁の持っている権限はそれに基づいていろいろな構造が根を張っているわけです。だから、中央にある権力を地方が取る国民的な力が必要です。

 

新藤 与党第一党としてはどういう態度で望むのかですが、

 

加藤紘一自民党政調会長 自民党の歴代の内閣はまじめにやったんだとは思いますが、この課題を解決できませんでした。東京で仕切りすぎるのではないかと思います。分権というのは権限と財源と財政面があるし、なぜ出来ないかですが、我々国会議員が中央役人とどう精神的な距離間を持つかではないかと思います。ずーっと国会議員をやっていると、役所の人達と裏表を話し合うことになります。ほんとうに地方分権をしてもこうした点が駄目ですよ駄目ですよといわれると我々の心の中に説得力を持ってしまう場合がある。1億円を地方に配ったとき、どうやって使うかを電通がシンポジュウムを開くと参加する自治体があるわけです。結局中央権力が分権をしない理由づけがあるわけですが、それへの堂々と我々が反論しなければならない。その反論する距離間をこの1年の野党生活で出来てきました。これまでは永遠に切れることの無い運命共同体だったわけです。

 

中野 霞ヶ関を心配しないでいいのではないか。野党側としては少なくとも足を引っ張るつもりはありません。

 

V.分権推進計画を国会議決するのか

新藤 分権推進計画を国会の議決を要するとするのか内閣の計画でいいのかですが。

 

坂口 推進計画も国会の議決を経るというのは当然のことです。

 

加藤 自民党としてはまだ確定的にはなっておりません。自民党というのはどちらかというと中央と地方、中央から地方へ私の力で持ってきましたというようにづーっと選挙をやってきたわけです。たとえば農林省の哺場整備の予算などを地方へ持っていくわけです。自民党というのはかなり中央集権的色彩を持った政党ですが、それだけではすまないだろうとは我々も思っています。1つ1つ合理的な理由のあるものだけをを地方に移していく必要があると思いますが、議員立法で合理的理由なしになんでもかんでも移してしまえという立場には立てません。

 

新藤 加藤さんのお話しを聞いているといつまでも分権が進まないような気がしますが。

 

五島 地方分権推進計画が策定された段階で当然関連法案の改正が必要となり、そこで国会審議が必要となる。必ずしも固定的に考える必要はない。これらの法律の中で国がが勝手に決めていいのか、地方分権推進委員会の意見が必要なのかどうかの問題がある。国会決議は基本をやっている。

 

新藤 議決することに意味が有るのではないか。

 

菅 推進計画を決議する仕組みがあるかどうかはわからない。しかし、それから先が問題である。法がからむ。文部省がいらないとすると文部省設置法からやらねばならない。規制緩和ならターゲットをはっきりすることができるが、地方分権は森羅万象に係ることですから、何百本の法律が必要となる。そこを真正面から行くのか。機関委任事務の全廃を推進計画で決議して直接するのか、そうすると各役所は自分のところに係わる機関委任事務を国が直接やるのか地方かの選択をする。どっちにするかによって法律を替えてくる。そうして色んなところの蝶番のピンを抜いて行って、1つ1つ分解しながら細工をして行くイメージである。

 

中野 国会は決議の仕方はいろいろある。国会の承認が後戻り出来ない歯止めにこなる。手順で我々の意志表明が求められる。

 

新藤 官僚に選択の自由を与えるのは分権に繋がらない。そういう自由を認めないことを政府にやってもらわないと。

 

加藤 中央役所の人と地方分権以外でも仕事をしている。これまでは理屈を越えて何がなんでもやるということを自民党はやってこなかった。これはと説得をしてきた。内容を詰める段階で、理屈は兎も角といって国会議員が法は作れない。とにかく役人を説得しなければならない。その説得のときに負けてしまう。我々は負けてきた。インデペンデントを持てるか。我々以上に細川政権はなかった。我々以上に官僚のいうことを聞いたからだ。官僚と対決する理論的構築が必要である。

 

W.分権推進委員会の法的性格は

新藤 分権推進委員会の法的性格はどうお考えか。国家行政組織法の3条か8条か。

 

菅 3条でも8条でも駄目である。何故かというと8条機関は行政に対して答申を出すだけであり、3条機関は独立した機関ということであるが、基本法が無いと宙に浮いてしまう。公正取引委員会には独占禁止法という基準がある。大臣の上に大臣を置くことは出来ない。それが国民に繋がる権力構造を持たなければいくら霞ヶ関に答申を出してもそれだけでは動かない。国民との繋がりとして自治体、自治体連合の審議会が、あるいは政党へも新しい法をつくれというような要請が出来る審議会という形態でないとなかなか進まないのではないか。

 

中野 実際上は3条か8条しかない。国会の監視の下に審議会において霞ヶ関の意向も聞く。

 

新藤 野党としては3条機関として求めて行くのですか。

 

中野 我々としてはその方向です。

 

五島 理想としては3条機関である。しかし、それが実行ある機関として行動して行くには疑問である。

 

新藤 推進会の委員としては自治体の連合体の代表あるいは推薦を受けたものをいれることにするのか。

 

中野 民社党の案として考えたのは、国と地方の権限および財源の再配分という観点から国と地方の関係者ではなくできるだけ別の人選をするべきです。国民の立場に立って地方分権を考える人、立場を主張しあってぶつかり合わない人がいいのではないか。

 

新藤 自民党としてはどうですか。

 

加藤 議論していないが、これからプロゼクトチームで12月にかけて議論する。

 

新藤 プロゼクトチームの中身は

 

菅 行革プロゼクトチームを自社さでスタートさせた。当初はこの中に地方分権も入れたかった。しかし、このテーマは大きいばかりでなく専門的分野の人にも参加して欲しいということで、行革プロゼクト、地方分権プロゼクトで再スタートした。自社さの大筋の共通項、違いの対照表ベースに議論することになる。

 

新藤 分権という大事業をする上での国会改革をしたいという考えは。たとえば地方分権特別委員会レベルで話しをしていくのか、もっと常任委員会への組み込みとか編成を変えるのか。

 

菅 規制緩和特別委員会のように城南電気の社長の話しを聞いて終わりになるのではだめだ。必ずしも特別委員会を作ればテーマが進むわけではない。アメリカではラオ制度というのがあり、会計検査院と行政監察局がいっしょになったような組織があり、政策的中身にも踏み込んでいる国会に付属している機関が有る。国会レベルでかなりの案を作れるような体制というのは欲しいとは思うが、もうちょっと国民の理解が得られるような国会あるいは国会議員でなければと思う。

 

中野 年限を切ってやるんだろうと思いますが、国会の中ではやはり特定の委員会ではなく特別委員会だと思う、省庁のまたがる問題ですからそれをひっくるめて議論するべきです。

 

X.中央の行政改革と各党の決意

新藤 地方分権は中央の行政機構の改革と表裏の関係ではないかと思うが各党の決意は、

 

加藤 我々国会議員は議員に権限が有ったほうがよい。我々は中央集権で持っている権限を出来るだけ放さないようにする本性を持っている。しかし、それでは住民のためにはならない。自己実現 こんなかっこうでは忙しすぎる。住民の心の中にズドンと落ちなければならない。県会議員の人達から陳情を受けたとき、県で考えなければならないことを陳情を受けたりするとがっかりする。住民自身が自分で決めて責任を持つことが議員を含めて出来なければ本当の地方分権はできない。

 

坂口 中央官庁の果たす役割を考えなおす。中央官庁にはさらに大きな仕事が待っている。仕事の中身を整理して中央官庁には新しいこうしたことをいままでのこのことは地方に、議員の役割はこうだと。そうした住みわけやり直すことだ。

地方でバラバラのことをやりだすと旧ソ連のようになる。調整能力を合わせて作ってもらわねばならない。

 

新藤 日本は今の政治や行政では成り立っていかないのだとは今日お集まり頂いた全員の方がご認識だと思います。元気のある政治とは与党ばかりではなく野党も元気のある政治であると思います。