第9回ちょっといって講座

外国人労働者問題とは何か

本多淳亮 大阪市立大学名誉教授

1993年7月24日

於:県民会館305号室

 

岡崎地区労センター議長あいさつ

 福井県でも多くの外国人労働者が就労しているところですが人権の侵害も数多く見られ、また福井市では昨年より一定の職種に限定してではあるが職員の採用を決めている。今日は本多先生にこれらの点に視野を向けて頂いて講義をお願いしたいと思っています。

 

T.外国人労働者の現状

 不況が深刻化し、外国人労働者を直撃している。路頭に迷い、全国に流れている。首は切られなくても残業が減り、収入減という深刻な問題になっている。外国人労働者が増えるにつれ排斥運動も問題になっている。ドイツノトルコ人焼打ちという悲惨な事件や東京などでは代々木公園を日本人の手に取り戻せという内容のビラが撒かれる。

@定住外国人と短期出稼ぎ型外国人

 日本政府は政策として単純労働者の受入れをしない。しかし、外国人労働者は増える一方で、法務省統計でも30万人はいる。ところが、実体を掴んでいない。入国拒否、強制送還ということで有効な対策をとらない。

 外国労働者問題と言うのは毎日の様に動いているホットな問題である。長期定住外国人(在日韓国・中国人)が80万人いるが、指紋押捺問題、公務員の国籍条項の問題、選挙権の問題など様々な問題があり、これをひっくるめて議論するには無理があり、視野から除きたい。

A合法就労者と不法就労者

 「不法」とは何かだが、入管法に照しての行政的取締法の法定犯ということである。国のたてた目的に反するということで、自然犯のようにそれ自体が道徳的にものではなく、行政の方針によって動いて行くものである。大衆感覚的には悪いことをした人の人権を何故守らなければならないのかということだが、不法というのは政策的に作りだされたものであり、国際法的には不法就労者の人権は守らなければならないという方向になってきている。

U.外国人労働者流入の背景

@受け入れについての積極論・消極論・必然論

 日本は出生率が1.5であり、2.1なら人口が維持されるが、90年代後半からは若手の労働力不足になる。政府や資本はこれを外国人労働力でと思っている。 フイリピンやタイでは、国民の1/2が失業している。中東でも米国でも日本でもどこでも働きたいと思っている。日本の置かれている国際的地位からすればシャットアウトはできない。日本との経済格差は5(韓国)〜70倍(バングラディシュ)もある。これだけあると、どうしても水が低きに流れるように障壁をふっとばしてやってくる。たとえば、福建省の出身者は月100元(日本円で2,500〜2,600円)だったが、日本の佐川急便で就学生として夜の仕分作業で働いて月30万円を稼いだ。これは中国の10年分に当たるわけで、こうした格差があれば国際的な労働力移動は必然である。

A経済格差・所得格差

 南北問題がある。アジア諸国で具体的に産業になってきたのは、1次産品、具体的にはコーヒー、ココア、茶、バナナ、穀物、砂糖、綿花、木材、ゴム、天然ガス、銅、鉄鉱石などである。昨年、フイリピンのミンダナオ島でバナナのプランテーションを大分見てきた。バナナ農園で働いている労働者の賃金は非常に安い。長い間の植民地支配の結果、外国資本に収奪されている。

 日本はそこへ工業製品を輸出している。これはものすごく高く売れる。タイでは日本車に乗るのがステータスシンボルとなっている。この工業製品と1次産品との格差は非常に大きい。新しい国際分業と称して、日本の多国籍企業が低賃金を目当てにアジアに進出している。

 ODAなども本当に住民の為に使われず、例えば、開発援助のはずのダムが環境破壊に繋がっているものもある。フイリピンでは300億ドルもの債務を抱えている。これは国家予算の40%にもなる。

 アジア諸国の貧困を招いた責任は日本にもある。バナナ資本にはデルモンテといったアメリカ資本の他に日本の住友資本が入っている。外国人労働者問題を考える時も発展途上国との格差が背景にあると言うことを認識しなければならない。

B人出不足

 プラス面としては中小企業を中心とした人手不足の緩和である。建設業、製造業、サービス業などは外国人労働者に頼らなければならない。彼等が引き上げてしまえば労務倒産してしまう。将来にわたって深刻化していく。

 日本は単純労働者は受入れないという政策をとっているが、暴力団と結びついたリクルーターによる苛酷な人権侵害が起きている。賃金の不払い、ピンハネ、売春の強要などです。不法のレッテルを張られるがゆえに益々人権侵害が酷くなっているという事実がある。前向きの受入れ体制をとることも考えねばならない。

 しかし、マイナス面もある。外国人労働者というのは、単なる労働力ではなく生身の人間である。日本の社会に定着し、結婚をし、子供を生み、家族を呼び寄せる。住宅、教育、医療、失業保障、社会保障の面倒を見なければならない。かなり高い社会的費用がかかる。労働組合の立場からは日本国内の失業者から雇用の機会を奪う。日本の労働者の沈め石となるのではないかということである。職の奪いあいで競合し益々賃金が低下する。

 外国人労働者を入れるとその会社あるいは産業全体が労働条件を改善しようとしないということがおきる。低い生産性のまま放置されるということがおきる。ある、東京の会社では10人ほどパキスタン人を雇っていたが、何かの事情で10人とも帰国してしまった。背に腹を変えられないということで、新しい機械を購入したらかえって生産性が上がったとい話もある。低賃金の労働者に頼ると機械化・生産性がどうしても遅れる。

 日本の社会は規制の強い閉鎖社会である。米国などは全くの多民族社会であるが、日本は同質性が強い社会であり、閉鎖的であることは否定できず、外国人労働者を排除する対象として見がちなわけである。外国人労働者が一箇所に集まり、集団的に住んでいる地域ができると、言葉とか生活習慣でトラブルが起こったりする。犯罪が起こったりすると反発する気持ちが強くなる。こうした、マイナス面も計算に入れておかねばならない。

 日本の国際的に置かれている地位からはシャットアウトしろというのはとても無理で、必然論しかありません。すでに相当数入っている。しかし、どんどん入れろという考え方はどうかというと、これも無理な面がある。中国には現在2億人の失業者がいる。アジア全体では数億人の失業者がおり、虎視眈眈と日本を狙っている。もし、門戸解放すると、それこそ日本の労働市場は大混乱に陥る。もし、受入れるとすれば2国間協定をきちんと結んで、人数とか、職種とか、期間とかを協定で約束したうえでしなければならない。それでも、不法に入ってくる人を防ぎ切れないのではないかという心配は残る。相当秩序ある受入れ体制を作らないと無理ではないか。しかし、来ることは必然であり、住宅とか教育とか社会保障とかの条件整備が自治体の大きな役割になるのではないか。条件整備をどうするかが今後の大きな課題である。

V.不法就労と人権侵害の実態

@性産業

 それから、人権をどうするか、人権侵害が余りにも多い中で、最低限の人権をどう守るか。この体制をどうととのえていくか。性産業の問題は深刻である。タイ、フイリッピンが中心で、手配師は農村の角ずみまで行って、ウエイトレスの仕事があるからなどといって集めてくる。貧しい人達はそれに引かれる。パスポートも航空券も取上げられてしまい、働かされる。日本の性産業は10兆円産業と言われ、隆盛を極めている。日本は売買春にきわめて寛容な社会である。

A労働災害

 労働災害については、土木作業などに働いている男性労働者が多いところから、相当な災害が起こっているはずである。しかも、日本の労働者災害法は外国人労働者にも適用されることになっているが、補償の請求件数は極めて少ない。何故なら、雇い主が外国人労働者を雇っていたことがバレルと摘発されるし、労働者も不法就労がバレルと強制退去になることを畏れるからである。雇い主は僅かばかりの見舞金を払って誤魔化そうとする。

B医療問題・生活保護

 医療問題では健康保険に加入していない。病院も不払いを畏れて診療を拒否するということがある。売薬で済ませるということもある。尼崎市などでは自治体が見かねて援助するということや、互助組織を作るということもある。経済大国だが、医療費さえもきちんと保障できない。これは、厚生省の口頭通達に問題がある。90年6月に出された不法就労者には生活保護を適用するなということである。京都の八幡市であったことで、フイリピンの女性がくも膜下出血で倒れ、開頭手術を受け、幸い手術は成功したものの、半身不髄となった。しかし、手術費に330万円かかった。市民が救援運動をやり、弁護士が福祉事務所長に生活保護の代理申請をした。ところが、不法就労を理由に拒否された。90年12月に採択された移民労働者条約によば、不法に在住するする労働者の医療費も受入れ国は保障しろと明記している。ギリギリの人権が日本では保障されていない。

C結婚・離婚問題

 結婚・離婚問題だが、日本人と結婚していても強制退去にする。米独などではそうした処分はない。1〜2年で永住権を取得できる。日本人との結婚の場合、偽装結婚の疑いがかかる。非常に取扱が厳しい。不法就労だとなかなか結婚届が出せず、生まれてきた子供が無国籍になってしまう。学校へも行けない。離婚すると在留資格を失う。親子の生活が非常に脅かされる。

W.政府の外国人労働者管理政策

@日系人

 日系人の問題だが、ブラジル、ペルーの二世、三世などだが、入管法に定住者、日本人の配偶者等という項目があり、これに該当するというのである。日本民族の血が流れているから、断るにしのびないというだけの理由である。ペルーでは1/4の日本人の血が流れていればOKで、偽装結婚や養子縁組なども行なわれる。日本の戸籍謄本が十数万円で売買され、インスタント・ジャパニーズになる。少なくとも15万人が就労している。

A留学生・就学生

 留学生・就学生はいま合わせて5〜6万人いると思われる。留学生・就学生は1日4時間までアルバイトができる。中国人は観光ビザはでない、フイリピン人などは観光ビザや興行ビザで入ってきて、オバー・ステイする。中国・台湾・韓国人は留学生、就学生、研修生の名目で入ってくる。私の大学では、講義にも若干は来ているようだが、殆どは大阪の街の中へ行って働いている。これを、見て見ぬふりをしている。

B研修生

 日本では研修生制度に力を入れている。問題点は技能者の養成と技術移転が建前であるが、実態は人手不足に悩む中小企業の強い要望に押されてどんどん受入れ枠を増やしてきた。去年辺りから、技術実習制度を取り入れ、2年間日本に滞在して働けるよになった。研修生は労働者ではないから労働法規は適用されないという建前である。しかし、現実は全く逆である。偽装就労に他ならない。OJTということで、現場で就労させながら技術取得をさせるという名目で単純労働をさせている。民間の研修は全体の1/3は学科研修をやらなければならない。座学である。ところが、中小企業の場合はそんなことはやっておれない。しかも、研修生ということで、研修手当という名目の非常に安い賃金で働かされている。1日:2,000円とか3,000円、月額5万円とか6万円という金額でである。

X.日本の外国人労働者管理政策

@治安・防蝶の立場からの管理・取り締まり

 一方では単純労働はさせないということで禁止していて、他方で日系人、研修生、就学生という名目で単純労働に従事することを公然と認めている。矛盾もはなはだしい。不法就労の人々は、その為、益々人権侵害がひどくなる。いざとなれば役所に訴えていきたいわけだが、訴えれば不法がばれて強制送還されるという弱味につけこんで、益々水面化でひどい人権侵害がはびこる。

 基本問題は、日本の外国人に対する政策が明治以来変っていない。治安、防謀という警察の取締の対象にしてきた。1910年に朝鮮を併合し、在日朝鮮人を非常に厳しい管理と排外、差別の対象下においた。同じく「ロシア人」、「支那人」ということで、敵がい心、差別の対象としてきた。

A改正入管法と不法就労助長罪

 1990年に入管法が改正されたが、その中にもその流れがある。不法就労助長罪などを作り、ブローカーや雇主を罰する 。

B国際動向との比較

 欧米諸国フランスやドイツなどでは、日本よりは十数年前だが、外国人労働者の入国をどう防ぐかをやるとともに、一方では外国人労働者の権利を守るため、雇用、職業訓練、社会保障、教育、住宅、選挙権まで認めている。

 ILOの134号条約(1975年)、国連の移民労働者条約(1990年)では、外国人も自国民と同じように権利を守れ、特に不法就労者の権利を守れとしている。日本は批准をしていないが、不法就労者であっても、その国の産業の発展には何程かは貢献しているはずであり、人間なので最低限の人権を守るのは当たり前だという考えである。そうした、国際的な人権感覚が日本の政府には微塵もない。とにかく、締め出して追い返す。すごい人権侵害がはびこっていても何等手を打とうとはしない。

Cローテーション政策

 ローテンション政策であるが、2年くらいの期限を切って帰ってもらうという政策である。受入れを認める積極論でもこうした意見がある。単身で来る外国人をうまく回転させていけばいいという考えである。ドイツ、スイス、シンガポール、台湾などで行なわれている。これは、長期定住をして欲しくない、労働のコストを節約したいという低賃金による使い捨て政策である。日本は移民は認めない、外国人は人間としてではなく労働力としてか認めないという伝統的な日本の入管政策の延長線上にある。

 外国で働く場合でも、家族と暮らしたい、家族を呼び寄せたいというのは自然の人情である。それを、さかなでることを政策ですべきではない。ドイツはローテーション政策を取ったが失敗している。ドイツ国内に外国人労働者家族が定住している。スイスは成功したが、国の規模が小さく、国民の中に相互監視体制ができている。日本はスイスほどに小さくないから、定住化が進むと考えられる。雇われる方は同じところへ行きたいと思うし、雇う方も同じ長期に雇いたいと思う。

Y.結び

@相談機関の設置

 今後如何にあるべきかだが、相談機関が大変である。アジアだけでも20以上の言葉がある。スワヒリ語、タイ語、タガログ語などと言われても通訳するものがいない。裁判などでは一番困る。公の機関で対応すべきで、弁護士会など民間の機関に任せていてもとても間に合わない。

A公務員の守秘義務

 公務員の通報義務の問題であるが、役所に相談に行きたくても不法就労がバレてしまうので行けない。法務省は通報義務は免除するとしているが、労働省は通達で、労働法規は外国人労働者にも適用するが、事件を扱ったら入管当局に通報しろとしている。根本的な矛盾がある。公務員としても人権を最優先させるべきであろう。事実を知っても人権侵害という事実を認める以上は違法と言う事実については守秘義務を負うという割り切りをしなければならない。そうすれば、安心して役所にやってくる。裁判を起こす例が増えているが、裁判が終わるまでは特別の在留権を認める体制を作るべきではないか。

B日本社会の閉鎖性と異文化の受容

 教育の問題だが、日本の社会は閉鎖的で、福沢諭吉以来、脱亜入欧で欧米文化を尊重し、アジアを蔑視する意識が有る。在日韓国人・朝鮮人に対する意識に特にそれが出ている。それぞれの文化をありのままに評価することが、必要である。外国人は日本の社会に順応しようと出来るだけの努力をしているのに、日本人の我々が差別眼で見るというのではだめである。アジア諸国にはそれぞれ独特の文化がある。それを日本に同化させるというではだめで、共に生きる、共生ということが必要である。異文化を背負った彼等の固有の姿を、異質なものを異質なものとして正面から見つめるということが必要ではないか。国際化の姿勢としては、日本に同化しろ、同化しないやつは帰れという対応ではだめだ。アジア諸国に対する歴史認識というのが、いまだに日本がきちんと謝罪しない、慰安婦の問題、強制連行の問題にしろ、まともにそれを認めようとしない対応ではとてもやっていけない。日本人の若者は特に無知でフイリピンやマレーシアへ行ったときなど、向こうの人々は教科書できちんと教えられているのに、マレーシアの教科書などには日本の兵隊が赤ん坊を銃剣で突き刺している写真が載っている。しかし、日本人の若者は太平洋戦争の事実さえ知らないで向こうへ行っている。この認識のギャップを埋める努力をしなければならない。

 

質問

ローテーション政策について

本多

 前向きで受入れるという方針になれば、これ以外の方策はないと思う。しかし、単身で家族は絶対呼ぶなというのは人権の問題が有る。家族連れで、たとえば2年間のこういう条件だということは受入れの第一歩としてはやむを得ないと思う。

 現実的には定住化しないか、基本を逸脱したりりしないかということだが、ドイツに比べて、シンガポールなどがうまく行っているのは、鞭打ちの刑など厳しい罰則があったり、送り返したりということがあるからではないか。うまく行くのか。

本多

 2年間の就労しか認めないんだ、それ以上滞在したら不法滞在になるんだという扱いをするかである。たとえば、関西新空港を作るために2年間来てもらうんだ、仕事が終わったら帰ってもらってもいいし、日本に居りたければ別の仕事を探してもいいということをして、地下に潜らないようにすることは出来る。ある条件は付けなければならないかも知れないが。関西新空港では外国人労働者を船の中に住まわせて、2年たったら船ごと送り返すということを考えていた経営団体の人もいたが、それはあまりにも酷い。家族を呼び寄せなくても日本国内で住み続けるという可能性は有る。それは縛れないのではないか、縛ったら人権侵害になる。

 家族が来たら教育設備一つをとっても様々な問題が有り、そこまで対応できるのか。また、地下に潜ってしまって暴力団と結びついたりするといくととになると、かえって不幸な結果になるのではないかと思うが。シンガポールのように厳しい対応をしたほうが良いのではないか。

本多

 シンガポールは小さな国であり、日本ではそのような政策は取り得ないのではないか。本人が是非とも残りたいといった場合、労働力不足ということもあり、そのような条件がでてくるのではないか。そのとき、自治体などは、教育や社会保障、住宅などの整備充実を図るべきではないか。大阪あたりでは何百人単位で住んでいる。  

 

◆◆◆◆◆◆講師のプロフイール◆◆◆◆◆◆

ほんだ・じゅんりょう

 1926年生まれ、大阪市立大学法学部名誉教授、現在大阪経済法科大学教授。著書に『労働組合と法律』『外国人労働者の人権』など多数ある。