町の模型屋さん

夏休みの宿題の定番,動く貯金箱.
智(小4)は今年は接触するスイッチの仕組みを作って豆電球を光らせたい,という.

どこで聞いてきたかは知らないが,ビールのアルミ缶の表面を削って接点の工夫をした.意外と器用にはんだを使うのには父脱帽.
しかし,どうも,接触が悪い.サンドペーパーで削った物だから,どうしても不具合が起こる.
智「ねえ,なんか絶対に電気を通す材料ないかなあ」
さっそく,二人で模型屋さんに出かける.

建物の外見は模型やさんとは見えない.古い平屋の住宅.
古臭い窓に面して展示してある鉄道模型やプラモデル,かすれた看板で模型やさんとわかる.
ガラガラと開きの悪いひらき戸を開けて中へ入ると,ほこりっぽい狭く暗い店内に見上げるように並んだプラモデル.
反対側にはやっぱり古臭いショーケースに,各種のジオラマを作るためのパーツが手書きの値札とともに並んでいる.
ショーケースの後ろには見覚えのあるじいさんと,おばさん.

さっそく,智に「・・・・こんなのないですか?」と説明させると,じいさん,しばらく考えている・・・・・,と,おばさんがはっと気がついたように.店の奥に入っていってしんちゅうの板を持ってきた.すると,じいさん,「これでもいいかな」,といくつもある古い引きだしのなかから太い銅線を出してきた.
智は何か魔法を見るような眼で見つめ,父もさすがと納得.
じいさん「はんだがうまくつくかはわからんが,どっちかでなんとかなるだろ.
これでなんか工夫してみい」と指南している.
それと電池ホルダと線と豆電球を買う.電池ホルダだって,どんなのがほしい?と説明させて,「これかな」とまた古い引出しから出してきた.

お金を払うとき,おばさんが,「この時期,こういう(変わった)買い物する人が多いですよ.」と笑う.
いや,ちがうよ.こんなことしたいけど,何使えばいいかわからないなんてときここへ来るのは父が子供のころからのこと.

子供のころ,プラモデルを買いにいくときの高揚した気持ちを思い出す.
普段持ちなれない額のお金を握り,いつもは渡たらない国道を自転車で渡ってやってきたものだ.
手の届かない高い棚にある高級なプラモデルを見上げる子供の目はあのころのまま.大人だってあのころの姿に戻る.
変わったのは,みせの主役が鉄道模型やガンダムになったことか.

昔は近所に必ずあったプラモデルやさん,最近はめっきりと減ってしまった.
こんなパーツ,ホームセンターの「工作コーナー」にもあるかも知れないが,
汚いままでいいから,ずっとあってほしい店とじいさん.

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