中国の飛行機でのこと

今からもう10年以上も前,新婚旅行でのこと.上海から中国に入り,蘇州−抗州−桂林の一週間の中国旅行を楽しみ,水墨画の世界でおなじみの漓江下りを終えて翌朝には帰国すべく夜間飛行で再び上海へ移動したときのお話です.お世辞にも立派とは言えない中国民航の旅客機で,妻と私はなぜか別々の席になり,妻はファーストクラス,私はエコノミーになり,ファーストクラスとを仕切る壁に向った窓際の席に座って暗い窓の外を見ていました.

離陸してまもなく,同じツアーのおっちゃんたちが私を呼びます.なんでも後ろの白人の団体の一人が,“ファーストクラスにいるハネムーンの婦人(つまり妻のこと)の夫はだれか?”と聞くというのです.怪訝に思って後ろを見回すと,やや後ろの席の老紳士が私を見てうなずき,スチュワーデスを呼びよせて私を指差しながら何か話しています.そして今度は,ファーストクラスから老婦人が出てきてかの老紳士ところへ行き,その老紳士私に向かって“おまえはファーストクラスへ行け”と言います.いや,英語だったから言ったらしい,というべきでしょうか.躊躇していると,今度は私達のツアーのおっちゃんおばちゃんが“いいから行け”と言います.ファーストクラスとを仕切るカーテンをくぐる時に後ろを振り返ると,かの老夫婦は窮屈そうに狭い座席におさまってにこにこ笑い,私達のツアーの人々もにこにこしています.妻に事情を聞くと,隣になった白人の老婦人と話していると,その夫婦も私達同様席が別々になったとか.まもなく夫の老紳士が様子を見に来て私たちが新婚旅行と聞いて,このような計らいをしてくださったとのことです.(あとで妻に“さすが外国の人は奥さんを気使って様子を見に来るのね”といわれました.)

いくらおんぼろの中国民航の旅客機でも,ファーストクラスはソファーのようにやや広い座席で飲み物のサービスもあり,ちょっと得をした気分.どうやってお礼をしようかと考えていたら,ファーストクラスの乗客には今度はおみやげに白檀の扇子を配りはじめたのでそれを贈る事にしました.何て言えばいいのかなと話しているうちに上海へ着陸.タラップを降りるとその老夫婦に追いつき,片言の英語で礼を言い,扇子を渡しました.あちらは驚き高価なものと思ってか,なかなか受け取りません.“No,no. This is gift from airline."と言ったら通じたのか受け取ってくれ,互いに礼を言い握手をして別れました.暗い滑走路の片隅の一瞬の出来事でしたが帰国直前にまたいい思い出ができました.

天安門事件の前のややおだやかな時代の中国での出来事でした.

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