雨降り



小雨なら山越えを決行しようとしていた学校だ。
 しかし、朝からの雨で、村中の道を歩いて来所した。子供達が食堂で昼食をとっている間も、雨が容赦なく降りつづく。
 指導の先生がロビーのベランダから空を見上げている。午後の外でのオリエンテーリングをどうするか迷っている。小雨の中でもオリエンテーリングを、それも午前中は下道を通ってきたので、出来れば山道を含んだコースを使いたいようだ。降りがひどければ、室内の創作活動も考えている。
 結局、着替えを持ってきているという理由で、山道を含んだコースを決行することになった。先生方の事前説明を、雨の日の注意も含めて入念にする。別の人が説明していた子供達も、雨のなかに散っていった。
 子供達をみると仕方なくやるという感じ。先生たちもそれ程乗り気ではない。こんなときは無理をしないほうが懸命なのだが・・。
 出発して約1時間。スキー場の下のほうから子供達の声がきこえてくる。気になっていたのでさっそくベランダから覗くと、元気そうになんとかやっている。こっちを見付けて、一人の子が手を振っている。
「がんばれよー」
 と、つい声をかけた。
 本部の先生も心配なのか、先程から本部の席を離れて、ずっと子供の動きを追っている。自分も雨傘を持って様子を見に出た。
 玄関を出るまでもなく、2つの班が競争でゴールに向かって走ってきた。とても元気だ。多少衣服が濡れている子もいるが、体が暖まっているのか全く気になっていないようだ。
 子供達が思ったより元気なので気が楽になった。この分だと全員元気で戻ってきそうな気がする。
主幹が気をきかせて風呂を沸かせておいたので、これが終わればすぐ入浴だ。
 しかし、よく汚れたものだ。足元は泥だらけ。体操服からは、汗で濡れたのか雨で濡れたのか、湯気があがっている。
 雨の中の活動ではあったが、これだけ子供が元気なら、これはこれで良かったのかなと自分で自分を納得させている。



もりあおがえる その2



 昨日は雨。前から気になっていた池の周辺のもりあおがえるの卵を見に行くことにした。
 1週間前には13個だった卵が2、3個増えている。昨日の雨で泡の表面がやわらかくなっていて、いまにも下の水面に垂れ落ちそうだ。
 よく見ると、腹に卵を抱えた5ミリほどのおたまじゃくしが、ちょろちょろと泡のなかでうごめいている。下の水面では別のおたまじゃくしが育っている。数日中にはそれらの仲間入りの予定だ。
 我々がよく見かけるあまがえるをそのまま大きくしたようなもりあおがえる。町中ではなかなか見かけることは出来ないだろう。
 自然の家生まれのこのもりあおがえる。元気に大きくなって、来年もまたこの池に卵を産み付けてほしい。



霧の中のつばめ



 今朝は珍しく霧がかかっている。いかにも山の朝という感じで気分がいい。朝の天気予報では快晴を告げていた。今日は素晴らしいいい天気になるだろう。
 この霧の中をつばめが数羽飛び回っている。この自然の家の玄関前のピロッティーの隅に、つばめの巣に格好の場所がある。今年も子づくりのために南の国からやってきた。今日は下見なのか、あちこちピロッティー内を飛び回っている。そのうちに巣づくりをはじめることだろう。
 自然の家の来客のうちでは一番遠くから、そして、一番の長期滞在者だ。毎日の集いのマイクの音が少々うるさいかもしれないが、町中では見られないその凛凛しい姿を、来所する子供達に見せてほしいと思っている。



寝不足



 オリエンテーリングの事前説明のときである。反応が今一つ弱く、出発近くなっても盛り上がりがない。子供の顔がいつものように生き生きしていない。
 子供にきくと2時頃に目がさめてしまって寝れなかったとか。2時3時にどんどんとベッドから飛び降りる音がしたとか聞く。どうも寝不足らしい。
 おまけにこの活動の後にバーベキューがあるので、ポストを探す時間は1時間しか取っていない。大丈夫だろうかと心配になる。
 出発して40〜50分経った。バーベキューの準備が終わったので、趣味の家の前を通りかかった班に聞くと、まだ一つも見つけていないという。地図をまともに読まずに、行き当たりばったりでばらばらと歩いているようだ。かわいそうなので、すぐそばのポストをそっと教えてやる。他の班も同じように高いポイントを上げていないようだ。
 こんどは帰るときである。退所式を終えて、ロビーの荷物を運びだした後の忘れものの多いこと。水筒が三つに帽子が数個。鉛筆や消しゴムもある。先生も、にが笑いながら袋に入れて集めている。
 たまの宿泊学習だから厳しいばかりが良いとは思えないが、翌日の活動に差し支えるような睡眠の取り方はやめたほうがいい。せっかくの宿泊学習が意識もうろうではもったいない気がする。



ホタル



 6月の雨は、子供たちが楽しみにしているキャンプファイアーを台無しにしてしまう。こんな日のファイアー場は人けもなく、閑散としている。そんな夜にファイアー場の横を通って、その下の山際の道路を歩くと、とっても素晴らしい情景に出あう。
 ここは、御茸山の清らかな谷川で育ったホタルの格好の棲みかになっており、雨でしっとりと濡れた杉の林の中や川縁の草むらに数多くのホタルの成虫をを見付けることが出来る。
 今日は息子達にこのホタルを見せようと、夕食後にここへ連れてきたところだ。到着するまもなく、数匹のホタルが目の前を青い光を発しながら舞っている。飛び去る訳でもなく、目的地へ向かってとんでいる訳でもない。ふわっと手でつかめるほどの速さで宙に浮いている。
 小川のほとりで舞うホタルがこんなに神秘的で、素晴らしいものだったのかと改めて感じいる。
 おもわず手を伸ばし、そっと手の平にホタルを置く子供。じっと見つめている。ライトで照らせばなんの変哲もない小さい虫だが、その後部から発する青白い光はなんとも不思議で、しかも美しい。
 注意深く見ると、道沿いの杉の枝の中にも数匹、草むらにも数匹、見渡せば20匹近くを数えることが出来る。子供たちもこれだけたくさんの天然の螢を見るのは初めてだ。感動したのかとても神妙な態度になっている。
 今は螢を捕まえて持って帰る時代ではない。数少なくなった貴重な螢とその環境を保護すべきもの。この場所だっていつダメになるかもしれない。大切に扱って欲しい宝物のような場所である。
 帰りに車に乗るときに、
「ドアで螢をはさまないようにしろよ」
 という子供の声に、思わず嬉しさが込み上げてきた。もちろん、持って帰ったのは脳裏にやきついたホタルの舞いの姿だけである。



スポーツチャンバラ



 山鳩だよりで紹介したせいか、最近雨の日の活動にスポーツチャンバラが多くなってきた。今日も朝からの雨で、100名近くの5年生がこのチャンバラを行うことになった。
 場所は体育館。整列している子供たちの前に器具室から道具を出してきて、この競技の意義や大体の進め方を説明する。
 道具は剣と面と小手。剣道と似通っているが、軽くしかも安全面を重視しているようになっている。剣はグラスファイバーの芯にウレタンが巻いてあり、直接体を打っても怪我をすることはない。透明のプラスチックで出来た面と小手も子供用に軽くできている。
 二手に分かれて互いに向かいあう。道具を付けた後、職員が打ち方を説明し、そのあと子供が真似る。2人づつ組になり、面で5分。胴で5分。小手で5分。足払いをすることもある。
 20分近く打ったり、防御したりすると、かなりの運動量になる。汗だくの子や、もう疲れたといってくる子もいる。
 最後はフリーに打ち合う。やはり、男の子はおもしろがってバンバン打ち合っている。面白そうである。
 しかし、女の子は慣れないのか、乱暴なのは嫌いなのかちょんと当てるだけ。かわいいというか、何と言うか、良しとすべきか悪しとすべきかよくわからない。
 思うに、今の子供たちに一番欠けているのは温室育ちの植物と同じで力強さ、言い替えれば自信とパワーではないだろうか。
 このスポーツチャンバラは、手軽に子供自身が持っている本能的な力を引出し、子供の本来の生き生きした精神と体を取り戻すことが出来る。
 子供の中にひそむ自然を引き出す。これも自然の家の活動の一つと考えれば、スポーツチャンバラの指導のし甲斐もある。



くず



 キャンプ場へ降りるときには、桜の木の横の長い階段を降りる。初夏になるとこの階段の両側からくずの蔓が伸びてくる。
 歩くじゃまになるので伸びた蔓を切り取るのだが、その繁殖力は強く、2、3日すると別の蔓が伸びてくる。伸びるのがはやい上に、其の三枚に分かれた大きなは葉は周囲の景観を崩すし、絡みついた植物を弱らせる。
 5月に咲いていたつつじにも、これから主役のあじさいにも、そして、植林された桧の枝にも、容赦なく絡みつく。この時期のくずはじゃまな雑草以外何物でもない。 それが、この前来た趣味のグループがこのくずの蔓を使ってカゴを作っていた。自分も見よう見真似で作ってみた。一年目の蔓はもろくてダメだが、2年以上経つ蔓は丈夫で使いやすい。この蔓を使って丸い輪を2つ作り、十文字に組み合わせる。あとは、底の部分を経や横に通しながら、手下げ風のカゴを編んでいく。
 竹や藤とちがってそれほどきれいには出来ないが、其の分ダイナミックで野生的な感じに仕上がる。実用には向かないが、果物を入れたり花といれて飾る分には十分だろう。
 自然の家の山肌には、藤もたくさんあるのだが、これはもったいなくてとてもつかえない。その点、このくずはとってもとってもすぐ伸びてくる。放っておくと電柱や杉の木に絡みつき、どうしても取らなくてはならない。くずには申し訳ないが、気分的には楽に取ることが出来る。
 いままでは、じゃまな雑草にしか見えなかったくずだが、こんな利用方法を見つけてからは、貴重な材料に見えてきた。出来るだけ大きく伸ばしてから、切り取ってカゴにしたいと考えている。



焼き杉



 分神社から展望台へ登る山道が一本ある。オリエンテーリング用のポストが3つ設置してあるが、その登り口はわかりにくい。初めてここへ来た子供たちにとっては苦労することだろう。案内板が必要であると指導員の先生と話しをしたことがある。
 今日は先生の出番の日。この案内板を作ろうということになった。材料の板はキャンプファイアーのとき井桁の中に入れる長い板の切れ端(我々はコアと呼んでいる)の中から捜しだす。
 さっそく、趣味の家へ降りる。ここには木工用の道具が揃えてあり、以前は巣箱なども作ったようである。杉板は先に先生がコア置場からとってきてあった。長さ1メートル50センチ、厚さが約5センチのしっかりした杉の板である。これを焼いて黒焦げにし、表面を金タワシで磨く。いわゆる焼き杉と呼ばれる工法である。
 ガスバーナーでもあれば焼くのは簡単だが、ここには置いてない。仕方がないので、児童がすいはん用に利用している薪用のかまどで焼くことになった。
 まず、板を電動丸鋸で2つにしようと思ったら、端から3分の1ぐらいのところに裂け目がみえる。本来これくらいの大きな板がコア用にされるのは珍しい。どうもこの裂け目があるためにコアにされたらしい。仕方がないので裂け目で切ったら3つになった。切り終わったらちょうど昼になった。
 午後にかまどで焼こうといっていたのだが、自分は午後はプラホビーの指導があるので出来ない旨を伝えて、後は先生にお願いすることにした。
 午後のプラホビー指導が終わったのは4時30分過ぎ。事務所に戻るときれいに仕上がった焼き板が机の上においてある。年輪の模様がきれいでとても感じが良い。自前で作ったとは思えないほど素晴らしい出来である。
 焼く前ののこぎりの跡が残る杉板とはまったく別ものの、存在感のあるものに仕上がっている。屋外で雨ざらしで使用するのがもったいないぐらいで、室内の飾りにも十分つかえそうだ。
 先生のゴシゴシ擦っている姿を思い浮かべ、その努力に感謝している。また、室内用にも何枚か欲しいと思っていたところ。近いうちにこの方法で何枚か作ってみたいと考えている。
もどる