アテンションプリーズ


 中学生の英語研修会、何回も打ち合せを持った団体である。中学生と外国人が十数名で英語の学習を行なう。自然の家のメニューはほとんど利用せず、独自のメニューで行なう。  入所式からすでに勝手が違う。オープニングと称して、開会式が行なわれ、所長の話も英訳されている。中学生の三年程度の英語だから、それ程難しくはないはずなのだが、日頃英語を耳にしない我々にはほとんど理解できない。  一泊二日のこの研修はすべて英語でこなすらしい。指導の先生たちの間でも英語を使っている。もちろん、館内放送も英語である。「アテンションプリーズ・・・」指導の先生も、外国人も流暢な英語で館内放送を入れている。まるで、飛行機のなかか、エアーポートのなかにいるみたいである。  食堂を「カフェテリア」などと言っているので、はじめは珍しがって楽しんでいたのだが、半日ほど聞いていると耳についてきた。自然の家がよそものに乗っ取られた気分になっている。  キャンプファイヤーのやり方もまったく違う。女神も営火長もあったもんではない。焚火の前での日本人と外国人の交流会である。こんなファイヤーもあってもいいだろう。お手伝いのキャンプカウンセラーも戸惑い気味である。  火を分けて、マシュマロを焼いている。こんな習慣があるのだろうか。自分も含めて自然の家の職員には新しいことばかり。  最後の昼は体育館でお分かれパーティ。かかっている音楽はアメリカでの流行しているもの。コカコーラが持ち込まれ、中では踊っているようだ。どうみてもアメリカ文化そのものだ。  英語を学習する機会なのだから仕方がないか。自然の家もこれからの国際交流時代にむけて、その対応が必要なのかもしれない。そう思わせる英語のサマーキャンプであった。



ニイハオの国から



 シルバーバレーの友好団が中国からやってきた。  昨年、福井のシルバーバレーの団体が杭州市へバレーの交流に出かけた。そのお返しとして、14名の中国人が福井にやってきた。指導員のT先生が昨年そのメンバーに入っていることもあり、最終日は少年自然の家で宿泊することになった。  午後の3時頃、自然の家に一行が到着した。体育館で地元のシルバーバレーのチームと親善試合を行ない汗を流したあと、夜は日中友好協会の主催で夕食会となった。いつもは子供達が椅子を並べて食事をとる食堂も今日ばかりは会食会場だ。  日中の友好を深めた夕食会は、話が弾んだのか予定の9時をおおきくオーバーして終了した。  そのあと、中国の人たちはロビーでくつろいでいたのだが、先生は囲碁をたしなんでいる。日中友好を兼ねて、中国の人と囲碁を打つことになった。囲碁は中国から伝わったものだから、ルールに違いはないはずだ。日本と中国との打ち方はどう違うのか楽しみである。  中で、一番強い人が先生の相手をすることになった。相手の強さがまったくわからないので対ですることになった。始めは和気あいあいで始まった。  先生は日本流の正当な穏当な碁。相手は少しでも隙があると攻め込んでくる碁だ。それに今日は先生はかなり酒が入っている。序盤の戦いで負けてしまって、苦戦しているようだ。  結局3番勝負して、3番とも敗けてしまった。悔しかったのか朝も一番挑戦した様子である。結果はまだ聞いていない。  九時すぎにマイクロバスにて、「再見」とともに去っていった。本国ではある程度高い地位につき、選ばれてきた人たちである。自然の家としては、それ程おもてなしはできなかったが、どうであっただろうか。豊かな日本の印象はどうであっただろうか。中国の厳しい現状を知っているだけにちょっと気になっている。



警備員のMさん



 元国鉄マン。機関車の運転手として長いあいだ活躍した。いまは自然の家の警備員。定休日の水曜日以外は毎日この自然の家で警備にあたっている。こんな生活もう7、8年になるらしい。  出勤は毎日午後4時前、定時の一時間前にはすでにもう出てきている。時間を厳守する国鉄マンらしい。  宿泊団体があるときは我々職員が宿直にあたる。キャンプファイアーが終わり、入浴、就寝の10時30分までは宿直者の守備範囲だが、それ以降は警備員の役目となる。全館の施錠や館内の点検は100メートルほど下の趣味の家も含まれ、施設が大きいので大変である。  見回りの他に、風呂の湯の管理なども任されている。夏場はほとんど毎日入所団体があり、その対応は大変だろう。  また、年末年始や祝日などは、昼夜連続で警備をすることになる。なかなか重責である。  この警備員さん、動きがきびきびしているのではじめは60才前後の人かと思ったが、聞いてみると71才を越えたという。  仕事とはいえその働きに感謝するとともに、本当に体に気をつけて頑張ってほしいと思っている。



ピアノ



 自然の家の体育館には古いピアノが一台置いてある。朝すこし早めに出勤すると、体育館からこのピアノの音が聞こえてくることがある。さわやかな山の朝にひびくピアノの音は、私たちの気持ちを和ませてくれる。  この弾き主は同僚のM氏である。だいたい何にでも興味を示す人なのだが、最近はピアノの練習をはじめたらしい。バイエルの教習本を使って独学でやっているのだが、まだ、日が浅いのでそれほど上手ではない。  でも、この場合は上手下手ではない。この人は既に40代半ば。けっして練習をはじめるのに適した年齢ではない。手もそれほどスムーズには動かないだろう。その苦労には察するものがある。  しかし、その学ぼうとする姿は学ぶべきである。近年、生涯学習の必要性が言われている。働きすぎの日本人もここへ来てやっと余暇を利用できる立場になった。多くの人が自分の向上のために何かを学んでいる。カルチャーセンターや地区の公民館は習いものをする人でいっぱいだ。  ここは少年自然の家だから青少年が訪れる。まだ生涯学習がどうのこうのという年齢ではないが、「いつになっても学ぶ」という心は育ててあげたい。学ぶということが本来楽しいことだということをまずもって教えたい。  そういう意味ではこのピアノの練習は生涯学習の見本となるべき素晴らしいことであると考えている。



朝顔



 元生物がご専門のT先生、今年は別館の回りに数種類の朝顔の苗を植えられた。珍しい種類も含めて、その数は数十本にのぼる。朝顔は支柱がなければ上へは伸びられない。屋上の金網から荷作り用のロープをたらし、それに添わせることにした。屋上での作業の途中、この高さはどれくらいあるかな。果たしてここまで登ってくるだろうか。などと話し合っていたところである。  それから数日、梅雨の時期である。朝顔の成長は驚くほどはやい。あれよあれよという間に5、6メートルは伸びてきてしまった。  まるで、競争でもしているようなその勢いから、この分ならすぐ屋上まで行きそうだと思わせたが、やはり限度があるのだろう。西側に植えた朝顔は7、8メートル行ったところで一腹してしまった。栄養がよくないのか葉の色もちょっと悪い。残念ながらどうもここまでのようだ。  それに比べると南側の葉の色は緑色が濃く、まだまだ伸びそうな感じである。数日して、このうちの一本が屋上まで届くことが出来た。先生とも 「やっと届いたね」  と喜んでいる。10メートルの高さまでこのような短期間に成長したことに驚きを感じている。  この朝顔については夕べの話しの中に何回か出したことがある。そして、子供たちに、生き物の素晴らしさをこの朝顔の生命力を例にして伝えている。  今はこの朝顔、2本のつるが屋上の金網にまで巻きつき、ほこらしげに周りを見渡している。つぼみも大きくなり、毎日多くの花を咲かせて私たちの目を楽しませてくれている。



テント乾し



 今年の夏は梅雨明けが遅れたのと、台風がいくつか来たので長雨が続いた。8月の終わりになってやっとまともな晴れ間が見えるようになった。今日は久しぶりに全国的に快晴。全国的な快晴は3ヵ月ぶりらしい。  その青空の下に、玄関前の広場にところせましと広げられたテントがその数約40。オレンジ色の華やかな色は玄関先を華やかにしている。今日は年に一度のテント洗いの日。  少年自然の家は建物に宿泊する研修が主であるが、夏の期間はキャンプ出来るようになっており、200人の子供たちが宿泊出来るようになっている。これらのテント生活を支えているのが40組のテントである。  一夏使ったテントやグランドシートは汚れが目だってくる。また、使わないものでもプレハブの倉庫に置いてあるので、湿気を帯びている。  それで、使っても使わなくても年に一度はテントの汚れ落としと乾燥をする作業を設けている。時期的にはいつも夏休みも終わりかける8月の下旬。夏のテント活動もそろそろ終わりかけ、しかもカウンセラーの手がまだあるときにこの作業を設けている。  午前中いっぱいかかって洗って乾し、午後がテントたたみと後始末。カウンセラーと職員が全員総出の大作業だ。夜は夏の活動の反省会となる。  よる遅くまで若いカウンセラーの話がつきない、年に1度のテント乾しの日である。
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