久しぶりに歩いて通勤。暑くもなく寒くもなく、ちょうどいい季節の五月曇り。脇三ヶが近づくにつれ雨がぽつりぽつり。玄関を目の前にして大降りになってきた。あわてて建物に飛び込んだ。
 事務室にくつろぐ間もなく、
「今日くる団体は、雨だから室内での活動だ。プラホビーの準備をしなければ」
 の声。早速準備にかかる。ひとテーブルごとにプラスチック板、はさみ、カラーペンセット、くさりを置いていく。150人分だと結構時間がかかる。
 焼くためのオーブンやペンチ、軍手。そして、黒板に手順を書いていく。ふと、耳を済ますとざわざわと話し声が聞こえる。
 準備を終え玄関をのぞくと雨の中を子供たちが到着している。子供たちは元気だ。この雨でも歩くらしい。午後はオリエンテーリングを決行するといっている。
 プラホビーはそのままにして、オリエンテーリングの準備にかかる。雨はさらに大降りになってきた。多分、午後はダメだろうなあと思いつつも、トランシーバーや地図を揃える。
 まもなく、子供がひとり先生に抱えられて帰ってきた。寒気がするというので医務室に寝かせる。こんな子が何人もいると大変だと心配する。
 そのうちに次々と子供たちが戻ってきた。案の定、カッパを着てはいるが下半身はみんなびしょぬれだ。
 着替えは持っているが、濡れた衣類を乾かすところがない。
 研修室を使うということで、暖房を入れ先ほどのプラホビーを片付ける。研修室はオレンジ色のジャージで華やかな花畑のようだ。
 子供の状態を見て午後は野外活動は中止になる。屋内活動のスポーツチャンバラに決定する。
 子供たちが着替えている間に、今度はスポーツチャンバラの準備に飛んでいく。なんとまあ、あわただしい雨の一日である。



高校生



 オリエンテーリングの説明の時間だ。ポストとゼッケン、地図に記入用紙。マイクのセッテングもOK。準備は万端だ。
 しかし、多くの生徒はまだ集まってこない。先ほど、3階から唾を吐いていた生徒もまだ来ていない。集まってきても周囲にぶらぶらしている。指導の先生も半ば開直りの感じで指示を与えている。
 こっちも下ばらに力を入れて、臨戦体制だ。矢でも鉄砲でも持ってこい。生徒を睨みつけて、ドスのきいた声で説明に入る。
 一通りの説明を終える。班長に渡した地図と記入用紙を手に入れると、こっちの話はそっちのけ。何を言っても聞いているのか、聞いていないのかさっぱり解らない。騒めきに向かって最後の注意事項をいう。
 さあ、スタートだ。行ってらっしゃい、グッドラック。



花壇



 うちの指導員は花が好きだ。校長先生として退官され、今年で2年目の先生だ。
 今日は天気がいいので玄関付近の花壇をいじられている。昨年きちっと整備したのに、冬期間の除雪作業ですっかり壊されてしまった。賽の河原になるかもしれないと言いつつも、今年も花壇を修理されている。
 もしかすると、教育というのはそんなものかも知れないと思う。何回も何回もあきらめず指導していく。こんな粘りこそが、子供を育てていく力なのだろうか。



夕べのつどい



 午後4時15分。体育館やレクレーションホールで遊んでいたこどもが一人二人とつどいの広場に集まってくる。
 宿泊学習のしおりを手に手に持っている。表紙は自分たちでそれぞれ色付けしたのだろう。きれいに色塗られている。学級長らしいしっかりした子供の司会者がつどいを進める。
「一同礼」
「市民憲章唱和」
 代表のひとりが前へ出て言いなれぬ市民憲章の前文を読みだす。きっちりとしっかり読んでいる。 本文に入る。
「いち、進んで・・・」
 誰もついてこない。職員と代表だけの唱和。しょうがない。子供達ははじめてみる市民憲章かも知れない。もう一度やり直す。今度は大丈夫。
 国旗、所旗、校名旗の降納。3人づつ計9名がポールの前に立つ。一人の掛け声で礼。ひもを解いて、国歌とともに国旗を降ろす。テープの音量が大きすぎると歌いにくい。今日は少し小さ目で流す。
 小学生の元気な君が代とともに、日の丸がぎこちなく下りてくる。畳みかたはオリエンテーションのときに説明するのだが、一度では覚えられないのだろう。もたもたしている。そっと横でアドバイス。「ほら、折り目があるだろ。そのとおりするといいよ」
 ようやく畳み終えた旗を所長に手渡す。
「ゆうべの話をしていただきます」 
と司会の声。夕日が掲揚塔の後の山を染めている。しずしずと中央に進んで、子供たちを座らせ、自分も座り込む。
 いつも、理論的にバリバリと話す所長。今日はいつもと感じが違う。
「この前、裏の山を散歩していたら、うさぎにあってね。どうしたのと声をかけると、うさぎも優しそうにこっちをみていて...」
 生きものは優しい気持ちで対応すると、やさしく応えてくれるとか。全てのものは生きている。わたしたちはそれらを食べて生きている。感謝して大切に食べなければいけない。残しては駄目だよ。等と、とつとつと話をする。子供の向こうに見える先生もうなずいている。
 今日の所長の話はとてもいいと思う。相手も50人程度の小学生。肩に力が入らなかった分だけいい話が聞けたようである。今日の子供達は得したかな。



けむり



 町中の大きな小学校である。生徒数は一学年で160人を越えている。
 二日目の昼は野外すいさんだ。雨が降っているのでピロッティーで集合がかかる。
「ピッ」
 一人の先生の笛の合図で集合する。集まった班から腰をおろし班長が報告している。  報告のやり方が悪かったらしい。「ピッ」
 全員はじめからやりなおしをさせる。
 趣味の家へ移動してすいさんの説明をはじめる。途中でわかりましたかの問いかけに、訓練されているのか「はい」と返事が返ってくる。
 しかし、子供達の視線は定まらない。窓のほうを見たり、先生を見たりしている。もしかするとこの団体はてこずるかもしれないなと直感する。
 いよいよすいさんが始まる。屋外と違ってかまどの間隔がせまく、余分のスペースがほとんどない。かまどの周りは子供で埋まっている。
 かまどを前に火のつけ方や薪のくべかたなどを説明するが、手応えがない。
 いよいよ火が入る。薪に火がつかず新聞ばかり燃やしているかまど。はんごうの準備ができていないのにすでに半分ほど薪を使っているかまど。折角燃えているのにはんごうが炎のところに置いてないもの。さまざまだ。
 窓は開け放してあるのだが、うまく煙が逃げていかない。かまどをのぞく自分も子供も目は真っ赤だ。それぞれに対して大声で助言?いや手助けをしてあるく。
 本来、かまどは男先生の出番なのだが、この学校は役割を分けているようだ。
 男先生は記録担当で離れたところからカメラを覗いている。女先生は子供を叱っている場面が多いようだ。遠慮がちに自分達のかまどにかかっている先生もいる。
 普通、だいたい軌道にのれば我々はその場を離れるのだが、今日はもう少し時間がかかりそうだ。



目のかがやき



 今日入ってきた団体は日頃厳しくされているらしく、自由時間になると無茶区茶をする。
 走り回る、飛び回る。くさむらには何の抵抗もなくずかずかと入り込むし、動物を捕まえては玩具にしたりしている。
 そして、また叱られている。
 こういう団体に限って活動は注意散漫。我々の話などほとんど聞いていない。
 なにをするにしても、自分から興味を持てないのか。目の輝きがない。班としてのまとまりも悪いし、分担仕事の責任感がない。
 ここ自然の家で、いつもとは違う非日常的な活動である。
 無難にこなすより、少し失敗してもいいからのびのびやってほしい。自分で興味を持って、生き生きした目で活動させてほしい。その方が結果的に早くできる。
 また、自分で工夫しながらの活動は、いつ迄も覚えていてくれるのではないだろうか。
 子供が生き生きする活動。自然の家ではまずこれを基準に考えたい。



木星



 指導者研修会の夜。指導員の先生が木星を見ようと騒ぎだした。 さっそく、屋上に口径15センチの天体望遠鏡を2機。久しぶりの天体観測なので、なかなか望遠鏡の調節に時間がかかる。
 四月の下旬、湯上がりの体も次第に冷えてくる。10分ほどして、
「みえたぞ」
 と先生の声。膝を折って目を当てる。明るい天体がレンズの中央に見える。
 これが木星か。はじめてみる木星である。太陽と月以外に丸い天体を見るのははじめてである。そして、ほぼ直線上に並ぶ4つの衛生がくっきりとみえる。これは感動的であった。
 後を振り替えると夜景がこれまた素晴らしい。市内の夜景もさることながら、福井インターの照明や街路燈などがとてきれいだ。
 事務所に戻っても、しばらく体の震えがとまらなかったが、感動的なひとときであった。



藤の花



 藤の花はきれいだと思う。小雨に濡れる新緑に咲く藤は、上品でとくに美しいと思う。
 夏本番に向けて、草木たちも着々と準備を進めている今日この頃。若葉の緑が日増しに濃くなっていくのがわかる。
 そんな5月のある日。自然の家までの登り道を歩くと、まるで来客を迎えるように、うす紫色の藤の花を見ることができる。さらに近付いて見上げれば、10メートルほど上にも藤の花が数房。
 新緑に映えるこの時期の藤の花は本当にいいものだが、家具にも利用されているこの藤、古いものは樹齢が1000年を越えるという。
 注意深く見ると、自然の家の裏手の山には数多くの藤が自生している。これらの藤もこれから1000年生き延びるのだろうか。
 そう思えば何ともいえず、感慨深いものを感じる美しき藤の花達である。



紙飛行機



 一回も経験しないでは指導出来ないと言いつつ、一人で紙飛行機を作り出す。胴体がバルサで出来ている競技用のもので、いかにも飛びそうな奴である。
 まず、セットの袋から取り出して、主翼や尾翼を紙からきりはなす。
 主翼は強化のために2枚張り合わせる。乾くまでの時間に、胴体の先端部分に両側から補強紙を貼り、垂直尾翼と水平尾翼を接着剤で取付ける。フックを付け、主翼を取付けて完成だ。
 乾燥を待って、主翼に揚力をつけるためのRをつける。翼はねじれのないように、尾翼も折れ曲がらないように真っ直にする。
 そっと、試験飛行。左へ傾きながら、すっと流れるように飛んでいく。左へ飛ぶのは主翼がねじれているからだ。ねじれを直して、外で飛ばすことにする。
 上へ向けて放しても、宙返りして、地面に衝突してしまう。機体を傾けてやや上方に放せば、高く舞い上がる。輪ゴムをフックにかけ、先のように飛ばせば4〜5秒ほどの飛行時間はかせげる。
 さすが、機体の設計がしっかりしているので、調整さえ出来ていれば素直に良く飛ぶ。
 誰でも作れるが、どれだけ丁寧に作るかで飛び方も決まってくるようだ。工夫の余地はそれほどないが、小学生でも出来るし、中学生や大人でもそれなりに楽しめる紙飛行機ではある。



標識



 やまゆりを探しに山へ入っていた指導員が戻ってきた。
「峠の標識が外されていたぞ」
 との声。
 少年自然の家は御茸山の中腹にある。展望台や朝倉氏遺跡までの遊歩道が整備されており、多くの学校が利用している。
 尾根からは、南山や安波賀へおりる道がついており、それぞれには、しっかりした案内板が道案内の役割を果たしている。
 先生が見つけたのは、自然の家から10分ほど登ったところのものである。安波賀駅へおりる峠の案内板で、自然の家から一番近く、手軽に登れる場所だ。
 さっそく金槌、ドライバー、釘等をもって、先生と2人で修理に出かける。
 峠までの距離は短いが、道そのものは本格的な山道風で楽しい。この周辺に多く咲くやまうつぎの花がここにも見られる。採り忘れられたわらびも何本か見られる。
 さて、峠へ着くとこれはまあ、棒だけが立っている。誰かがいたずらで蹴落としたのだろう。案内板は3枚とも足もとだ。
 よほど気持ちが荒んでいる連中だろうなと思いつつ、ねじ釘で留めなおす。取付け口が欠けたところは釘を打ち込む。
 修理を終え、安波賀駅の方を見下ろせば、今日入所予定の生徒達が歩いている。今晩は、あの生徒たちと一緒に宿直だ。特に急ぐことはないのだが、気持ちだけはあわただしくなってくる。ゆっくり休むまもなく、峠をおりた。


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