第10集 退職あとに




   第1章 
退職者

   退職者

年金が下りぬ世代の定年は選ぶ余地なく再任業かな

五年間気楽に仕事が出来るはずプライド捨てて初心戻れば

いきなりの無職稼業は厳しいと週に四日のソフトランディング

スポーツで名を知られたる退職者六十六で逝くには早し

例年の確定申告賑わいて寂しき支所にも活気が戻る

   気力

定年を間近に控え迷い道 何をするにもマイナス思考

送別の吾の写真の影薄し孤高いつしか気力を奪う

発想も自由な見方も何処か消え 気力落ちては未来も見えぬ

陽光の野原歩いて気をもらう天から地からすべて忘れて

   富士詣で

お彼岸の三連休に夢託し何はともあれ福井飛び出す

出発は季節はずれの大吹雪 木之本越すまで冷や汗続く

浜名湖の風と緑と朝日浴び我がキャンパーが光り輝く

富士山をバックに遊ぶ家族連れ真珠のような春の牧場

月末に定年控える熟夫婦 貴き富士より気力をもらう

蒼き空白き頂写す五湖 疲れし二人の心を洗う

関東の車番が目立つ湖畔道 華やかなれど落ち着きはなし

高規格新東名の走り初め 山中ばかりで趣向に欠ける

難越えて久方振りの小旅行 開放感が身体を満たす

   定年になって

退職も思いの外に多忙にて題材あれど短歌進まず

通院も保険証が間に合わず費用全額現金払い

毎朝にタオルを干してごみを出す退職しても何も変わらず

週休に思う存分畑仕事 気持ちあれども二時間限度

ネクタイと紺のスーツは捨て去って通勤姿はブレザー主体

通院と親の介護を先に入れ退職あとの白カレンダー

   第二の職場

再任で十年ぶりの起案にも勝手分からず知識も不足

本年の満開桜見事にて吾が退職を祝ってくれる

連絡や現場回りは徒歩使う解消するか運動不足

催しは観光客呼ぶ手段でも史跡が故に手続き多し

再任の通勤手段は軽トラよ周り山では威厳が要らず

史跡には桜目当てのカメラマン一眼レフ持つ老人ばかり

平日に二人で周る遺跡群 退職夫婦の姿が目立つ

整備にて城山遺跡へ登りしも体力勝負の半日仕事

イノシシの掘り返したる穴多く遺跡回ってクワで修復

町跡の紺屋に残る割れがめにオタマジャクシが群れ遊びたり

城内のいにしえ偲ぶ糸桜 淡き緑にパステル模様

   あれこれと

見回りといえど山城遠かりし車と歩きで一時間なり

日直の朝から晩まで長いこと特にやることない場合には

定年で再任される気楽さよ気分はすでに若き日にあり

通院に畑作業に孫迎え休みといえどやること多し

退職を満喫したる週休日 時間の流れ変わったような

買い物に行けば目立つよ高齢者以前と違い親しみがわく

この歳で大きい車要らないよ年金もらいは小さな車

軽トラのオーディオデッキも意味がある豊かな老後の準備のひとつ

退職で古きレジアス活き返るひとりの時間過ごす為にて

退職も釣りや絵画に手が行かぬ興味関心急に変わらず

旅よりも畑作業に満たされる歳がさせるか銭の都合か

   東北へ

東北を目指しキャンパー走らせる気になる田圃横目に見ながら

日焼けした駐車場の案内員 親切丁寧東北の人

会津来て最初に入りし歴史館 石器に始まる東北を知る

公共の大江戸温泉立派だが土日以外は夕食摂れず

朝もやの猪苗代湖の素晴らしき還暦夫婦の心を洗う

白鳥が泳いで居たり猪苗代 船もボートもみんな白鳥

美しき湖に似合わぬ亀の船 先発なれど乗船見送り

残雪が湖面に映る磐梯にいつか登ると心に決める

デッキにて船から望む磐梯山 先月見たる富士にも負けぬ

   鶴ヶ城

鉄筋で再建したる鶴ヶ城 石垣の面弾跡残し

連休と好天候で人多く 列を連ねて天守へ上る

主代えて歴史重ねた鶴ヶ城 会津の街を寡黙に見つめ

随一の難攻不落の城郭も新生政府の軍には勝てず

純朴で一本気なる東北の気質そのまま青年の隊

白虎隊会津の空に花と散り 悲劇多くの物語生む

   結婚式 

駅前の式場ならばホテルだと思い込みあり館が分からず

人前の結婚式は初めてよ宗が違えばこの手がありか

新しき白一色の式場で新郎新婦が幸せ誓う

披露宴ならではの品フルコース赤ワイン手に舌鼓打つ

白衣着た裸踊りは初めてよ研修医らの宴の出し物

宴会の最後を飾るいつもの手新婦の手紙で母を泣かせる

   五月の野菜

元肥にその根を延ばすトマト株葉の濃き色でそのことを知る

九株の転作田のカボチャ苗調査済むまで生き延びてくれ

衝動でツルムラサキの苗買うも植え方分からずネットを探る

粘り気で夏を乗り切るオクラ苗値段高くて数減らしたり

二回目の肥料を入れて土掛けるツボミふくらむ馬鈴薯畝に

真夏日の萎れ対策必要と植えしカボチャに日陰を作る

軽トラに肥料と鍬と苗を積み朝六時には畑へ向かう

   早朝田植え

植物に元気をもらう畑作り損得だけで作っておらぬ

毎朝の作業それなり有意義で心も身体も健康志向

六時から一人で植えるコシヒカリ前日の予定雨で流れて

田植え機の上で摂りたる朝食はポケットから出す一切れのパン

気分よくすべて済ませて時計見てまだ間に合うと職場へ走る

箱洗い田植え機洗浄親任せ何もせぬよりそれも良しかと

   田植えの2

粗起こしならしに田植えすべてやる定年後の田んぼデビューよ

手伝いに身が入らない我が親父出てくる話は昔の話

田んぼまで歩いて来れぬ老いし母箱の洗いを手伝うというが

来年は家族総出でやるつもりどうせ損得見ずの田んぼよ

脈打って回転決まらぬ田植え機は来年までに分解修理か

車ほど経費がかかる田植え機よ半町作では新車が買えぬ

   農作業あれこれ

定年に畑作業に田植えまで4月5月はストレスの月

心臓に違和感おぼえ目が覚める薬代わりにアマチャヅル飲み

まとまった雨が降りたる次の朝畑の作業は山ほどにある

仕方なく使っているが除草剤存在だけでストレスの元

芽を欠いて枝を整理し結わえ付けトマトの世話はこれが楽しみ

肥をやらず素植えをしたるサツマイモ手間隙かけず何処まで採れる

一斉に花を付けたるエンドウの収穫時期も一斉となる

馬鈴薯の草勢だけは負けないぜ芋の出来栄え不明だけれど

透明のホットキャップに保護されてすくすく育つウリとスイカよ

   雨上がり

この雨で野菜育つも草も増えクワと機械で全力除草

花跡に小さなトマトと初キュウリ夏の収穫予感がしたり

バッサリとネギの坊主を切り倒す今年主役の新芽期待し

植付けし五本のキュウリ順調も細きネットは蔓が絡まず

いつまでもスタート切らぬオクラ株毎年悩む夏の野菜よ

青虫と対決になる夏野菜ブロッコリーと夏キャベツなり

   初夏の朝倉

ウグイスと川のせせらぎ聞こえ来て史跡管理に精出す吾よ

心地よく頬をなでたる初夏の風窓辺に置きしパンフを散らす

猪の荒らし水路の修復に精根込めどまた荒らされる

木陰にて休憩したる吾が耳にかすかに届く草刈機音

   五月の出来事

芽を出した放ったらかしの里芋を休耕田に慌てて植える

今春の乾燥続きニンニクに病が付いて肥大進まず

肥の過多で先に倒れた玉ねぎをカレーライスで大試食会

意を決し二度目に植えたサツマイモ先と変わらず縮れてきたり

我がキュウリひと朝ごとにでかくなり1本2本と手で持ち帰る

朝日受け大きく広がるキャベツ葉の青虫探す目を皿にして

水遣って蔓を整理のウリスイカ何処まで生るか自信が持てず

ここへ来て動きを見せるカボチャ株されど隣家のそれには負ける

ゴムを履き動散かつぎ田を歩く還暦男の真剣勝負

   野菜達

道沿いに隣が植えたズッキーニどんな育ちか興味を引きし

お隣は蔓をまくりしエンドウが我が家何故か二番生りする

枯れかけたメークイーンの株元を素手で探れば新芋がある

摘心し葉数増やしたマクワウリ子づる孫づるどれがどれやら

足元に曲がった奴がごろごろと栄養不足の我がキュウリなり

   毎日の畑

毎日の畑作業に田の管理 退職すれど忙しき日々

うどん粉の病広がるカボチャ葉に牛乳吹きかけ延命図る

水温を維持するための夕仕掛け 水ひとつでも頭を使う

手抜きした代掻き作業がここに出る上と尻とで高さが違う

苦労する溝切り作業もあとで効く水の管理が格段にらく

初めての中干し作業に悩まされ株元眺めいつから干すか

本業の田圃管理に気疲れしちょっと手抜きの畑の野菜

太陽とともに働く古代人退職の身も同じ日課よ

市役所の有象無象に興味なし作物だけが一日の糧

わが親父水が抜けぬと水落とす干し終え吾が水張り済ますも

楽しみの畑の隅のビオトープ 草がひどいと刈り取る母よ

   畑それぞれ

巨大なるスイカに育ち気が迷う採取早すぎ白地が混じる

雑草にその実を隠すマクワウリ救出せねば底から腐る

鈴なりの自慢のトマトに虫が付き無念なりしも半分捨てる

薄暗きジャングルに生るミニトマト採集好きにはこれが堪らぬ

うどん粉が広がり来たるカボチャ蔓負担減らせと早めの採取

順調に数を付けたるナスの株 茎に得体の知れぬ虫

毎年に虫に食われるモロコシは苦労多くも満足を得ず

見落してヒョウタンなりし大キュウリ持ち帰らずに株元捨てる

   お疲れの日々

週休に車で走れど眠くなりドライブ自体に面白みなく

道沿いの路肩に停めてひと眠り若き時には有り得ぬ話

毎朝の畑仕事に田の管理夕の支度と慢性疲労よ

尽きるまで尽くしてやろうホトトギス我が心境もここまで来たか

手術にて伸ばして貰えた我が命世の為ならば惜しくはないぜ     

   キャノンの一眼レフ

定年の記念品にとカメラ買う一眼レフでも底値のキャノン

広角と準望遠のズーム付き全てオートの入門機なり

パナ製と画素数ほとんど変わらぬがバックがボケる画像は貴重

どんな画もきちっと撮れるカメラには元広報のプライドがある

どっしりと我が手に馴染むニコン製写りも良いが価格も良いぜ

要求にそれなりこなすパナ製に今となっては感心したり

その昔一世風靡の一眼も今の時代は万能でなく

旅先の記念写真と動撮は手持ちのスマホで十分こなす

   海の日

梅雨明けて人で賑わう海の日は一人静かに日直業務

定年後何も変わらぬ生活にこれで良いかと自問自答よ

物買えど満たされ切れぬ我が心 まなこを閉じて己に聞きし

美しき景色も酒も通り過ぎ老いし心の底は動かず

白色は全ての色を含む色我が心境はそれにも似たり

   ネギ掘り

早朝のネギ掘り作業に油断ありひねった腰にピリリと走る

前日に遠乗りしたる付け回るいつの間にやら腰に負担が

干しネギは九条ネギの京の技ひと月干して活性化する

隣家から教えてもらったネギの技半信半疑も効果抜群

   干しネギ

干しネギをネットで探せば其々で2週間とかひと月干すとか 

納屋床にひと月干したネギ見れば葉が枯れ上がりラッキョウのよう

放任のひと月ぶりのネギの株早く植えねば完全消滅 

堀り上げと植え付け方法変えてみるネギの栽培まるで実験

色々と経験できるネギ作り昨春貰った葱坊主から

   キャノンのレンズ

生命の瑞々しさの表現に丁度良いかもキャノンのレンズ

解像は今ひとつでもキャノン製生き物写せば命が宿る

3万の一眼レフのおまけでも背景ぼけて空気が写る

画素数の少ないことが幸いか輪郭よりも表情が出る

猫撮りやポートレートはキャノンだと撮れば撮るほど評価を上げる




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