音 海 

                           

 

岬に立てば人生を遠望できる。道を探す旅人が岬を訪ねるわけだ。

 音海小中学校の校門付近から若狭湾のパノラマが見れる。晴れた日には海の彼方に銀嶺の白山が一望できる。美しく伸びる若狭湾の半島たち。大島半島、内外海半島、常神半島、敦賀半島。この国の形が遠望できる場所だ。

 学校前の海岸には、南海からの多くの漂着物が流れ着く。漁具や容器など生活用品が主だが、特にハングル文字で表記されたものが多い。潮流を実感できる。古来より大陸から人やものがこの潮に乗って渡ってきたのだろう。海岸の斜面にはタブノキ、シイなどが繁茂しており、6月にはビワの黄色い実が青い海に映える。

 音海半島は福井県の西端にある。内浦湾は青葉山の火山活動でできた旧噴火口で、音海半島は外輪山であると聞く。日本海の荒波を受けて浸食された様々な格好の岩が織りなす風景は美しい。中でも音海の断崖は必見の場所である。滝谷山(330メートル)の山頂から急角度に岩肌が海に潜り込んでいる様は圧巻である。

 小泊にある風島の周辺も絶景である。島の周りを海鳥たちが舞う。ゆったりした風景の中で海の時間を満喫する。ころびの花が咲く頃は磯でメバルがよく釣れる。

 音海の集落から岬に向かって坂道を2キロ程登ったところに押回鼻の灯台がある。ここからの眺めは最高で、若狭湾が一望できるポイントである。西は丹後半島の経ヶ崎、東は越前の経ヶ崎までぐるりと見渡せる。その海のただ中、丹後半島の沖に冠島が浮かんでいる。この島にはオオミズナギドリが生息している。自然保護のため上陸禁止になっているが、年に一回解禁されている。若狭湾沿岸の漁師、小浜や高浜の漁師さんたちが豊漁、海上安全を祈願してお参りする。若狭湾の他の沿岸からも、いい天気の日には海上遙かに望める。韓国から船で帰って来たとき、この島を見て若狭湾に来たと知った。湾の入り口にあり若狭湾の標識のような島である。

 大きな息をしてゆったりと海を遠望してみませんか。忙しい忙しいと道行くわたしたち。音海半島から海を眺めてみませんか。潮騒を聞きながら、ふと忘れかけていた自分自身を取り戻せる場所になるかも知れません。

                                                   大森和良