海は人をつなぐ

(語り イメージ詩)

 

浜に立ち沖に目をやれば

空から光のカーテンが差し込めて海を照らす

うち寄せる波がくりかえし歌う

あの日 帆柱が折れ 行く手を見失った船は

風波にもまれてこの村に着いた

国境を越えて出会った人たち

別れの浜で 袖を絞るほどに泣き別れた人たち

戦争の渦中でも 国境を越えて心をつないだ人の道

 

ハングル文字の漂着物が いつものように流れ着く

若狭湾の魚は自由に 東海の磯を泳ぎ回り

鳥たちは自由に 国境を越えて飛び交う

人だけが自由に 行き来できない北の海

海の母の悲しみ 寄せては返す波

くりかえし 波が歌う

人は海を分けても 海は人を分けることはない

 

なつかしい感じがすると思ったら

母のふところのようだった

両手を広げて包んでくれる小浜湾

おだやかな 入り江の風景 

この海から連れ去られ

二十四年ぶりに帰ってきた人たち

母呼ぶ子らの声 子を呼ぶ母の声

 

人が分けた海なら 人がつなぐことができる

国よりも権力よりも尊いものは 人のいのちと安らぎ

分けてしまったのは誰ですか つないでくれるのはだれですか

 

真野湾を見ていたら

母の両手に抱かれているような気がした

母の両手のようにのびる岬

目をつむっていたら

母が歌ってくれるような気がした

 

磯にうち寄せる波の音  自由に飛ぶ鳥の声

どこへ行くのかあの雲たち

雲の切れ間から光が差し込めて 導いてくれるのか

分けられてしまった海の嘆き

砂浜に打ち上げられた貝殻が歌う

 

人のいのちのあるところに母がいる

母の声が聞こえる

海は人をつなぐ 

海は人をへだてない

大きな母のような海

 

あれから百年の歳月が流れ

海を望む墓に眠る人たち

美しい風景の中にこどもたちは遊び 祖先の魂も遊ぶ

やがて私たちも祖先となって この風景の中に遊ぶ

鳥たちは舞う

子どもは遊ぶ

風は歌う

ムクゲが微笑む

 

海を越えて 船で往来する若者たち

この村を訪れ碑をなでる

人の心に熱きものが流れ きっとつながる海の道

地球郡アジア村 海の母は子らを抱く

海は人をつなぐ母の如し  海は人をつなぐ母の如し