――忍――

 

 

 中忍選抜の為の会合時、彼の口から出た言葉が信じられなかった。

 

『サスケ、ナルト、サクラ………以上三名、中忍選抜に推薦します』

 

 それは、時期尚早もいいところで。

 本来なら、中忍である自分が口出しすべきではない上忍達の意向に、

 俺は考えるより早く、異議を申し立てていた。

 

『受験はまだ早すぎます!もう少し場数を踏ませてから………!』

『私が中忍になったのは、ナルトより六つも年下の頃ですよ』

 

 その静かで冷淡な声色に、ぐっと喉をひいた。

 それは確かに……彼が、忍として最も優秀であることを意味している。

 だが、

 

『ナルトとあなたとは違う!あなたはあいつを潰す気ですか!?』

 

 どうして、そう教え子達を谷に突き落とすような、そんな残酷な教訓を与えようとするのだと。

 暗に叫んだその台詞に、彼は僅かに目線を落として、 

 

『大切な任務に、あいつらはいつも愚痴ばかり……一度痛い目を味あわせるのも一興、潰してみるのも面白いと思いませんか?』

 

 無茶な揶揄に、状況も忘れて愕然とした。

 その後、すぐに冗談ですよと返されても、彼の眼光は明らかにそれを裏切っている。

 

『あなたの言いたいこともわかります、腹が立つのもね………しかし』

『…………っ……』

『口出し無用。あいつらはもう、あなたの生徒じゃない……私の………』

 

 私の、部下です。

 

 

 確かな感情が籠められた、俺の言い分を切り捨てるような言葉。 

 つまり、もう俺が口挟むような真似は許さないのだと。 

 理性ではそう理解しつつも、ギリ、と歯は知らず鈍い音を奏でていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん~………やっぱり怒ってます?」

 そんな事があって、やりきれない思いを抱えたまま迎えた夜。

 いつも通り窓から侵入してきた男から、知らぬ振りで顔を背けて、また書類に眼を落とした。

「別に……それより何の御用ですか?こんな夜中に」

「うわ、冷たい声ですねぇ………用なんて、聞くだけ野暮でしょうが」

「生憎と、今はそんな気分じゃありません」

「俺はそんな気分なんですよ。ほらほら、いい加減仏頂面はやめてください」

「ちょっ……と………!何するんですか!?」

 がたんっ!と唐突に書類ごと座卓を払われ、抗議の声をあげるより早く畳に押し倒される。

「やめてください!」 

 冗談じゃない。俺の今の心情がわからないのだろうか、この男は。

「勿論わかってますよ。………可愛い教え子が潰されるかもしれないのを、指咥えて見てろだなんて………確かに、あなたには辛いでしょうねぇ」

 くすくすとまるで他人事のように、怒りを笑いで返され、カッと頭に血が昇る。

「誰、のせいで………!あんたはあの子達が可愛くないのか!?」

「ん?そんなの可愛いに決まってるでしょう。愚問をどうしたんです?」

「はぐらかさないでください!………俺だって、あなたの考をわかってないわけじゃありません」

 

 そう。決してわからないわけじゃない。

 謀略や裏切り、富や名声に対する欲望が跋扈する裏の世界を生き抜いていく為には、真綿のなかで慈しみ甘えさせて育てるだけではいけないのだということ。

 ………子供の遊び感覚から、信念を持って行動を起こすに至るまで。

 彼がそれを、ナルト達に望んでいることぐらい………

 

「わかって……るんです………でも………」

 

 それでも、俺には耐えられない。

 まだあいつは幼い頃のあなたのように、闇の世を悟っているわけじゃない。

 ………辛いんですよ。

 あいつの瞳から、夢を追い求める無垢な光が消えてしまうこと。

 

「優しいですねぇ、イルカ先生は………まあ、昼は俺が言い過ぎました。あなたが、ナルトに闇を知ってほしくないこともわかります………
 ………でも、それじゃ忍がやっていけませんよね?」

「………………はい………」

「……俺は確かに、ちょっと人に言えないような過去を送ったから、随分とさめたガキだったんですよ。だからさっさと中忍になれたって言っても過言じゃありませんが………も少し、あいつのこと信じてやったらどうです?」

「え?」

「大丈夫ですよ。言ったでしょう?尊敬するあなたに追いつくぐらい、あいつは力をつけてるって。………ま、賭けに見えるかもしれませんが、必ず試験を機に成長しますよ」

 

 だから、あんまり気負わないで待っててください。

 あなたが命をかけて守った子は、俺が立派に育ててみせますから。

 

「………カカシ先生………」

「さ、これで真面目なお話はおしまーいvさっさと大人の時間といきましょう」

 言うが早いか、器用な指先でばっと上衣を取り払われる。

 流されていた所為で抵抗が遅れ、気づいた時には身動きできないような体勢を取らされていた。

「………!?! な、あ、あんたは何でそう……っ!」

 

 ―――脈絡がないんだっ!!

 

 と、叫べればまだよかったのだが、いかんせん口を塞がれた状態ではいかんともしがたい。

 巧みな口づけに朦朧となりながらも、往生際悪くもがいていれば、愉しそうな気配をともなって相手の唇が離れた。

「っ………ごほっ………」

「あなたは固すぎるんですよ………もっと肩の力抜いちゃどうです?きっと楽になりますから」

 

 ねぇイルカ先生。

 でもナルトの奴、一番大好きな人を俺に取られてるって知ったら、一体どうなっちゃうんでしょうね。

 もしかしたら、俺を殺そうとするかもしれないな。

 

「な………に、言って………」

「本気ですよ。………それだけ、アイツにとってあなたは重い存在なんです」

 

 ………ま、俺としても、あなたをみすみす譲るような真似はしませんけどね。

 

 何にせよ、日々を気楽に過ごすことができたなら、そんなに嬉しいことはないじゃありませんか。

 

     

 

 

<了>


ジャンプを読んで感想を書きつつ、その場で突発的に仕上げた代物です(汗)もろにシリアスが崩れております;
下書きなしに書いたのなんて初めてかもしれません……いやぁ、だってあんまりにもヨかったもので(何が?)
これは原作の会話をほぼそのままお借りしてまいりました。後半は勿論夜白の妄想(暴走)ですが(笑)
いやぁとっても楽しかったです。またお二人の会話があれば書きたいですねぇ。

座卓(ざたく)…畳部屋で使う和室用の机。
跋扈(ばっこ)…思うままにのさばること。

 

ひとつ戻る