好きなものは好きでしょうがあるまい    


 

    「スース、今日の夕方どっか時間空いてねぇ?」

こうして天化が太公望を誘うのは毎日の事だ。

そしてこれを断るのもいつもの事。

「悪いが仕事だ。」

天化の方を見向きもせず、全然詫びれもなく断る。

しかしそれは、いつもこの後天化がもう一押し声を掛けると知っているから。

だが、何故か今日の天化は黙り込んで何も言ってこない。

「天化、どうしたのだ?」

つい気になって声を掛ける。

「あっ、えっ?なんでもねーさ。そうか…ダメなんさ。」

深い溜め息を吐く。

「じゃあ、仕方ねーさ。また、今度さ。」

そう言って部屋を後にする。

「て、天化?」

…何だというのだ、一体。

今日は午後から仕事が空くから相手でもしてやろうと思っていたのに。

ふぅ、と今度は太公望が深い溜め息を吐く。

その途端にまたドアが開く。

「天化…!?」

と期待も虚しく部屋にやって来たのは書簡をたくさん抱えた楊ゼンであった。

「何だおぬしか…」

「悪かったですね…、天化君でなくて。」

明らか面白くなさそうにする相手を見て楊ゼンは言った。

「ところであやつどこかおかしくなかったか?」

「天化君ですか?…そう言えば今すれ違ったんですけど何か思い詰めたような顔してたような。」

「そうか…。」

「また、師叔がきつい事言ったんじゃないんですか?」

楊ゼンはいつもの太公望と天化のやりとりを知っているのだ。

そして楊ゼンは天化の味方である。

「またとはなんだ、またとは。」

「だって師叔いつも天化君が自分に惚れてるのに甘えて意地悪ばっかしてるじゃないですか。」

「だぁ、わしはそのような事せんわ!」

わしとてそのような事したくてしておる訳ではないのだ。

「まあ、いいでしょう。でもあまり虐めないで上げて下さいね。 そんな事してると僕が貰っちゃいますよ。」

書簡をどさどさと机にのせる。

「なっ、何を言うておる!天化はわしのものだ!!」

勢いよく机を叩いて強調すると書簡が床に散らばる。

「それを本人に言って上げて下さいよ。」

楊ゼンは呆れて言ったが、直ぐに表情を変えて言った。

「でも僕は本気ですからね。師叔が素直にならないなら本当に天化君貰っちゃいますから。」

と言うと楊ゼンもまた部屋を後にした。

太公望は床に落ちた大量の書簡を見つめながら本日二度目の溜め息を吐く事となった。

 

 

      素直になれと言いながら、わしの環境は自由な時間を与えてくれそうに無いのだがどうしたものよのう。

このままでは本当に楊ゼンに奪られてしまいそうだ。

 

 

          焦りを感じたからか太公望は夜遅くだというのに天化の部屋の前に立っていた。

ノックをしようとして中から話し声が聞こえて手を降ろした。

こんな遅くに一体誰と?まさか楊ゼンとか?

そう思うともう勢いでドアを開けていた。

中にいたのはやはり楊ゼンであった。

二人はベットに並んで腰を降ろしていた。

太公望は慌てて二人を引き離しに間に割り込む。

「なっ、何をしておるのだ!?こんな夜中に!?」

それを聞くと楊ゼンは微かに口元に笑いを浮かべている。

「オレっちたち別に…」

「師叔こそこんな夜更けに何の用ですか?」

天化の言葉を遮って変わりに楊ゼンが聞き返してくる。

「わ、わしはおぬしに用があってだな。」

誤魔化そうとつい嘘の言葉を紡ぐ。

それを聞いた楊ゼンはにこりと笑って素直にドアの前へと移動する。

「僕に用があって天化君の部屋に来たんですか? いい加減素直になったらどうです。」

楊ゼンは何でもお見通しといった顔をして立っている。

「うぬ、おぬし、まさか…昼間の事は全て演技…。」

「?…何の話してるさ?」

天化は事情が飲み込めず一人頭に疑問符を浮かべている。

楊ゼンはまたも微笑んで天化の方を向いて言った。

「天化君、後は師叔から話を聞いてね。 じゃ、僕は武王が待ってますんで。失礼します。」

と、一礼して部屋を出て行く。

後に残された二人はしばし沈黙を守る。

お互い気になる事があってなかなか口を開けない。

そして先に口を開いたのは天化からだった。

「スース、楊ゼンさんに用事じゃなかったんかい?」

天化は太公望は楊ゼンの事を好きだと思っているのだ。

太公望は天化の言葉を無視して自分の質問を投げかける。

「おぬしは楊ゼンと何をしていたのだ?」

「何って?気になるさ? …別に楊ゼンさんが王様との事を相談しにきてただけさ。」

「あやつ姫発とできておったのか。」

だから武王が待っていると言ったのか。

「で、スースは?」

ライバルがいなくなって安心したのも束の間すぐに自分に質問は返された。

「わ、わしは昼間おぬしの誘いを断ってしまったから…」

「…それだけ?」

自分より背が高いくせに窺うような顔をされて自分の心が隠せなくなる。

「うぅ……、わしは…、お…おぬしを好いておる。」

太公望が目を逸らして小さな声で呟いた。

少しの間があって不安になった太公望が目を上げる。

「えっ…!?……えっーー!!??」

天化は動揺して太公望の肩を掴んで大きく揺らす。

「だ、だってスースいつもオレっちの誘い断って、 それにいつも冷たい返事しか返してくれないのに?」

「そう言われると困るのだが… まぁ、…好きなものは好きでしょうがあるまい。」

天化はそれを聞くと優しく太公望の体を包み込んだ。

 

    「そういうことはもっと早く言って欲しかったさ。」

 

 

          その頃楊ゼンは廊下を歩きながら一人呟いていた。

「あーあ、うまくいったかな。師叔は不器用だから僕が機会作らなきゃ一生あのままだっただろうな。

なんか僕も寂しくなっちゃったよ。本当に武王の所に行って来ようかな♪」

と足取りは迷わず姫発の部屋の方へ向いていた。    

 


はふぅ。なんか無理矢理文章つなげちゃったよ。

どうしてもあのスースの言葉を使いたかった。

だからかなり展開に無理があるかも… まあ、多くは語るまい。                   みづき  

 

ありがとうございました~~っ!天太で、そこはかとなく楊天も……(早合点)

アップが遅くなって申し訳ありません(TT)いつも素敵なお話を有難うございますっ!

私的にタイトルがかなり好きだったりするのですが………(笑)

 

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