「だぁっ、もうこの暑いのに 体合わせる気になんてねーさ!」

数日前から執拗に体を求めてくる楊ゼンにいい加減嫌気がさした天化は きっぱりと言い放った。

しかし楊ゼンが体を求めてくるのもそのはず、実は一ヶ月程前からあんなこんなで色々とお預けを食い、
彼の中ではもう限度一杯、我慢の限界なのだった。

けれど天化の方は夏の暑さで汗が噴きだしてべとべとしているのにする気になどなれないのだった。

「でも天化君、そんなこと言ったってずっとしてないんだよ。」

「けどオレっち明日から合宿なのにしたんじゃ、本調子で臨めないさ。」

そう天化は高校一年生でバスケ部所属。

夏休みに入った次の日からはもう地獄の特訓が待っているのだ。

楊ゼンとの出会いは六月。天化のクラスに楊ゼンが教育実習生としてやってきたのだ。

その時楊ゼンは担任の道徳にバスケ部の手伝いを頼まれ、
それがきっかけで仲良くなり付き合うようになり。やがて家が近所だということを知った。

互いの家に行くこと数回、楊ゼンは教育実習が終わるまでに天化と深い関係になったのであった。

さて話をもとに戻そう。

「天化君、僕は君が部活で忙しいって知ってたから夏休みまでって我慢してたんだよ。」

「仕方ねーさ。オレっちだって部活があるんだから。」

冷房の苦手な天化の部屋は少しでも涼しくしようと窓を全開にしてある。

しかしその為南向きに誂えられた天化の部屋には夏の日差しが容赦なく差し込む。

その時つと天化の細い首に一筋の汗がつたう。

楊ゼンはそれを見ると我慢できなくなり、天化の口を無理矢理ふさいだ。

ただでさえ暑いのにそれ以上に熱烈に舌を絡めてくる楊ゼンの舌を天化は軽く噛んだ。

「つっ~、」

「何するさ!オレっちはやだってのに!そんなにやりたきゃソー〇゜にでも行ってくるさ!!」

そう言った天化の目には薄く涙さえ浮かんでいた。

「天化君・・・」

少し悪気を感じた楊ゼンはすまなそうに名を呼ぶ。

「もう楊ゼンさんなんて、知らねーさ!!とっとと帰るさ!」

そう言われてしまえば最後、楊ゼンはふらふらと黄家をあとにした。    

 

 

  夏は開放的になるなんて誰が言ったんだろう?

半ば関係無い事を思いつつ、楊ゼンは道を行く。

天化を泣かせてしっまたショックに未だ立ち直れない。

しかしふと一つの恐ろしい考えが楊ゼンの頭の中を過ぎった。

・・・天化君はどうして一ヶ月もしてないのに大丈夫なんだろう?

まさか他に恋人が?いや、天化君が僕を裏切るだなんてことは。

・・・ということは誰かに無理矢理?

そういえば実習に行った時、担任の道徳先生が異様に僕の天化君を見つめていたような。

天化君は明日から学校に泊り込みで合宿と言っていたけど・・・

はっ、僕の天化君が危ない!!

そう思った楊ゼンは天化の合宿が終わるまで道徳の手から天化を守るのだと決意したのであった。

つまり張り込み。

 

 

        合宿初日。

朝早くから封神学園の体育館裏ではセミがせわしく鳴いている。

体育館に集合した天化はもといバスケ部員たちはランニングを始めている。

その様子を楊ゼンは外からじっと眺めていた。

暑い。けど我慢だ。これも天化君の貞操を守るため!

真夏だというのに楊ゼンは変装用に帽子とサングラスあまつにはコートまで着込んでいた。

帽子から覗いた長い蒼い髪は一目で楊ゼンのそれだと判る。

その為、楊ゼンが勝手に決めた最大の敵である道徳が楊ゼンに向かって近づいてきた。

「楊ゼン、ここで何をしてるんだ?」

敵はそう言った。

何故ばれたのだろうと思いつつ、帽子とサングラスを取る。

「えっと、少し懐かしくなったのでそっと覗くつもりだったんですが。」

しらじらしくも楊ゼンは答えたが、敵は気が付かなかったようだ。

「そーか、久しぶりだな。だったら中に入って皆に会っていったらどうだ?」

穏やかに見えつつも互いに火花を散らしていると楊ゼンは勝手に思った。

「そんな少し覗きに来ただけですから。」

「ここまで来たんだから挨拶だけでも・・・」

「そうですね。」

内心天化を近くで見られると喜びつつ同意する。    

 

 

「今日は懐かしく楊ゼン先生が見学に来たぞ。皆覚えてるか?」

と道徳が皆を集めて言ったが天化は不機嫌そうに外を向いたままだった。

・・・やっぱり怒ってる。天化君を道徳先生の魔の手から救うために来たのに・・・

「久しぶり。」

と小さく一礼すると運動部らしく元気に声が返ってきた。

「じゃあ、練習を再開だ。」

いざ、練習が始まると天化は真剣そのものだった。

IHが終わり高三が抜けたので新レギュラーの争奪に必死なのだろう。

しかし天化の早さに誰もついていけない。

彼が上手すぎるのだ。

その為紅白試合の中ではやけにミスが目立った。

「天化!一人でプレーしてるんじゃない。味方にパスを出せ!」

と何度も道徳に注意された。その度天化は素直にハイと返事をした。

天化君がこんなに真剣に部活をしているのにそれでも僕は道徳先生との仲を疑ってしまうなんて・・・

だってあんなに素直に返事をする天化君を僕の前では見たことが無いから・・・

僕の前ではそっけない返事ばかり。

紅白の後、十分休憩になった。

体育館の中は暑いので外に風にあたりに行く者が多かった。天化もその一人だった。

楊ゼンが天化の様子を眺めていると顔を洗ったばかりの道徳がタオルで顔を拭きながら
スポーツドリンクを差し出して言った。

「・・・天化か。あの子は周りの者とは抜群にかけ離れた才能を持っている。勿論本人の努力もその賜物だ。
しかしその為周りの者がついていけなくてプレーが孤立するんだ。
あの子には団体戦は向かないかもしれない。それよりも何故こんな地元の高校に来たのか不思議だよ。
あの子ならもっと強い学校にでも行けたはずなのに。ここでは正直あの子を潰してしまう。
・・・本人は一生懸命なのにな。
けど、まあ他の選手も天化にライバル意識を持って頑張ってるからチームにはいい影響かな。」

楊ゼンも昔スポーツをしていた時期があったので道徳の言ってる意味は解かる。

「そうなんですか。」

しかし楊ゼンにはこれしか返せなかった。

「さてと、これからどうする?」

一缶一気に飲み終わった道徳は楊ゼンに尋ねた。

天化の一生懸命さを見ているとつまらない理由でここに来た自分が情けなく思えてきて、
もう帰ろうかと思っていた。

が、まだこんな顔の天化を見ていたい気持ちもある。

「もしこの後何にも用事が無かったら少し手伝ってもらいたいんだが・・・。」

「手伝わせてください。」

楊ゼンはぜひと頼んだ。

その後は一日マネージャーをすることになった。

 

練習の後楊ゼンは一人自宅へと帰っていった。

天化に挨拶することなく・・・どちらにしろ天化があの状況では仲直りも難しいだろう。  

 

  楊ゼンはあの後道徳との仲を疑うにもバカらしくなってきて天化の様子を覗きに行くことは無かった。

ただ合宿が終わって天化からの連絡が来るのを待っているだけ。

そんな状態が一週間も過ぎた。

楊ゼンが家にいると突然電話が鳴り出した。

誰からの電話かは楊ゼンには瞬時にわかったが何故か電話に出るのをためらった。

呼び鈴が十回程鳴ったところで楊ゼンはようやく受話器を取った。

「もしもし?」

相手は沈黙したままだった。

『・・・・楊ゼンさんのバカ。』

携帯からなのか音声がクリアではないがやはり相手は天化で声は不機嫌だった。

「天化君?」

『いるなら何でもっと早く出ないさ?』

「・・・ごめん、今手が離せなくって。」

つい嘘をつく。

『どうでもいいから早く玄関開けるさ。』

「えっ、今来てるの?わかったすぐ開けるよ。」

電話を切り、楊ゼンが玄関の鍵を開けると帽子を深くかぶり、大きな荷物を抱えた天化が立っていた。

「どうしたの?その荷物?」

「今、合宿終わって部活三日間休みになったから、今日からここに泊まるさ。」

「えっ?」

「なんかまずいことでもあんのかい?」

「ないよ、大歓迎だよ!」

げんきんなもので先程まで落ち込んでいたのだが天化が顔を見せると満面の笑みをこぼして喜んだ。

「ただ・・・条件があるさ。」

「なんだい?」

楊ゼンは少し心の準備をする。

「1、冷房を切ること。
2、今すぐ冷たい飲み物用意すること。
3、Hなし。 以上の事を守ってくれるんなら、この間オレっちの意見無視した事と学校まで会いに来た事、
それからこの一週間連絡くれなかった事と
・・・オレっちに淋しい思いさせたこと・・・許してあげてもいーさ。」

「随分と多いんだね。それに3って・・・」

「なんか文句あるさ?」

「ないよ。じゃ、上がって。」

      守れるかどうかはわからないけど、合宿が終わってまず一番に僕の所に来てくれた君の為なら
                                    がんばってみようかな。                              

 

 

 

終わり  


《筆者様の一言》
ははっ、少し季節は早いけどまあ、こんなもんです、オイラの小説なんて。
昨日の深夜考えた話なので文章も内容もぶっ飛んでますがね。
しかし紅白試合って運動部以外でもわかるのかしら?

天化携帯なんて持ってたのか(自分で書いておきながら)、番号教えてくれないかな?

楊天♪甘いと思うのですが、まあニュアンスだけでも伝わってくれればそれだけで満足です。
天化の日常~♪天化ぁぁっ、大好きだぁ!!

では、さらばじゃっ!

《管理人の蛇足》
楊天っ!しかもパロディっ!蒼月はパロディが全然まったく書けないので、
嬉しくてたまりません。しかもこれまた書けない優しい楊ゼン君……いいなぁ(TT)
こういう日常のほのぼのとした一コマって大好きです。              
それにしても楊ゼン君、この後どうなさるのでしょうねぇ。非常に気になります(笑)

 

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