初めて会った時から美しい人だと思った。
そして、いつか必ずこの手に堕としてみたいと思っていた。
degrade desire
最初、何が起きたのかわからなかった。
寝台の脇から伸びた鎖に繋がれた腕と、倦怠感の酷い四肢。
それが己の弟子によってなされたのだと頭では理解しようとも、玉鼎真人は暫くその事実を信じることが出来なかった。
「……楊……ゼン………これは、一体何の真似だ?」
こんな有様になるまでの経緯が少しも理解できずに、彼は惑乱する思考を抑えつつ、傍らの男に掠れた声音で問い掛けた。
肘を折って身体を起こせば、煩わしい金属の擦れ合う音がする。
紗のかかる視界は、ただ粘る漆黒に塗り潰されて、
「そんなこと、言わなくてもお判りなんじゃありませんか?」
薄ら笑うような第一声が、それだった。
玉鼎真人の内に、黒い不安が生まれる。
強張った背筋に、冷たいものが走った気がした。
「………何、だと?」
ギッ、と鎖をしならせ、玉鼎真人は上擦った詰問を繰り返す。質の悪い悪戯には変わりないが、ここでやめるなら許してやろうと思っていた。
………まだ、冗談で済ますことが出来る。
しかし、彼のそんな思いは甘い期待でしかなかった。
「師匠………」
名を囁きながら、楊ゼンがギシリ、と寝台に膝をついてくる。そのままゆっくりと身体を近づけられ、玉鼎真人の顔には困惑と焦燥とが浮かんだ。
彼の指が、静かに耳朶に触れてくる。
玉鼎真人は恐怖を散らすようにその行為を咎めようとした。
「楊ゼン……いい加減に………」
「貴方を抱きたいんです」
だが。
甘く吹き込まれた、調子の崩さぬ感慨の無い声。
「な………」
「抱きたいんですよ、師匠………ずっと、我慢してたんです」
闇の向こうから、冷たい光を宿した紫眼が自分を見据えてくる。
玉鼎真人はただ呆然となるしかなかった。
少しも冗談と受け取れないその言葉から、今すぐに眼を背けてしまいたい衝動に駆られる。
「……何、をふざけたことを………私が、お前に?」
「ええ。僕は嘘を言っているつもりはありませんよ……まあ、今からそれはお判りになるでしょうが」
虚勢を張った、渇いた呟き。
躊躇いひとつ見せることなくそれを肯定されて、玉鼎真人はハッと息を吐き出した。
からからに枯れた喉が辛い。
酷い裏切りに、意識せず涙が零れ落ちそうだった。
「………私が、大人しくお前に従うとでも?」
それでも胸を引き裂かれるような痛みに耐えて、玉鼎はどうにか牽制を返す。楊ゼンの仕打ちが堪え兼ねるほど辛いものであったとしても、彼の玩具になるつもりなど毛頭なかった。
だが、楊ゼンは玉鼎真人の射るような視線にも全く怯むことなく、寧ろ愉悦をもってくすくすと笑みをこぼし、
「さすがは僕の師匠………こんな状況だって言うのに強気ですね。……勿論、そういう誇り高いところ、大好きですよ」
くっと、玉鼎真人の頬を両手で包み、引き上げた。
楊ゼンの眼が、激しい情欲に歪む。
思わず背に震えが走るほどの、鮮やかな漆黒の美貌。
………永い、永い昔から、ずっと手に入れたかった……
……そう、この美しい人に、自分を弟子としてではなく、男として見て欲しかった。
例え、その時に向けられる感情がなんであれ………
楊ゼンはくすっと可笑しそうに笑みを噛み殺すと、
「………でも確かに、僕ひとりじゃあ貴方を完全に服従させることなんて出来ませんから………だから、彼にお願いしたんですよ」
「…………な、に………?」
訝しがる玉鼎真人ににこりと笑いかけ、彼はスッと暗闇に顔向けた。
そして、暫しの静寂の後、
「…………!」
足音を反響させながら現れた人物に、玉鼎真人は眼を見張って絶句する。
逢った事は、数えるほど。
それでも、やけに鮮明な印象の残っていた………
「よぉ、久しぶり。玉鼎真人サマ」
ぱしゃり………
浅瀬に踏み入れた靴底が、軽やかな水飛沫をあげる。
山奥にある、小さな川原。
そこのほとりにある白い大岩に向かって、玉鼎真人は静かに剣を振り下ろした。
………ガガラァッ………
規則正しく切断された破片が、均衡を崩して盛大に水辺の地を穿つ。
いつのまにか日課になってしまった、剣術の鍛錬。
それを終えて、鞘に剣を収めようとした時。
「やぁ、見事見事」
突如、背後でぱちぱちと小さな拍手が起こった。
僅かに驚いた表情で、玉鼎真人は髪を乱して振り返る。
大木から突き出た枝に、見覚えのない道士が腰掛けていた。
「………君は?」
その行為に悪意がないことを悟って、玉鼎真人は柔らかな誰何を投げる。
それに男は微かに反応したかと思うと、すぐにひょいと樹から飛び降り、
「ん?俺は韋護ってーんだけど……あんた、玉鼎真人サマだろ?」
人懐こい笑顔で、いきなりそう切り出してきた。
玉鼎真人は小さく首をかしげて、パチンと斬仙剣をしまいこむ。
永い現のなかで曖昧になってしまった記憶を、出来る限り掘り返してみるが、彼の顔は全く覚えがなかった。
「………何故、それを?」
「あー、いや、師匠から聞いてたから……長い黒髪と黒眼の……すげぇ美丈夫な仙人サマだって」
その直球な物言いに、一瞬玉鼎はきょとんとした。初対面にしては、随分とものをはっきり言う道士だ。……それが不思議と親しみを持てるのだから面白い。
「でも、さすがに強ぇーなぁ。あんたみたいな師匠持ってる弟子が羨ましいぜ」
「……そう、か?それは有難う」
かかかっと豪快に笑う男に、玉鼎も知らず口元を緩めた。どうやってここに入りこんだのか、それは知れないが、別にそんな事を詮索するつもりもない。
韋護は、その玉鼎真人の笑顔に一瞬だけ黙すると、
「なぁ、いつもここで鍛錬してんの?」
「?ああ、大体は……」
「そっか。なら、また来てもいいか?」
いいか、と尋ねてくる割には決め付けた口調だ。
「……それは構わないが……何も面白いことは………」
「いや。俺、あんた……玉鼎真人サマみたいな綺麗な仙人には始めて逢ったからさ。見てるだけで充分。な、いいだろ?」
帽子の下からそう強く請われて、玉鼎真人は僅かに苦笑する。そこまで言われて否と応えるのも気が引けた。
「ああ……好きにすればいい」
それから、幾度となく彼はその川原に現れた。
他愛のない世間話をして、自分が愛想のない相槌しか打てぬことなど、少しも気に止めた様子がなく。
…………どこか悟った感のある、そんな道士で。
そして玉鼎真人も、いつしかその友との会話を楽しむようになっていた。なのに………
「……何故……君が………」
呆然と玉鼎真人の口をついた言葉に、それでも彼は変わりなく笑ったままだ。
普段は安らぎを覚えていたその笑顔にも、玉鼎真人は不気味な戦慄を感じて肌を粟立たせる。
彼らの真意がわからない。
お願いだから、ただの悪戯なのだと言って、笑い飛ばして欲しかった。
………こんな風に震えてしまう自分を認めたくはなかった。
だが、
「何故も何も今更だろ?………こいつに、ひとりじゃあ手に余るから手を貸してくれって言われたんだが……あんたを抱けるなんて嬉しいなぁ。……ああ、そんな顔しないでくれよ。尚更俺を煽るだけだぜ?」
笑いと情欲を含んだ声で囁かれ、玉鼎真人はびくりと肩を揺らした。胸をつく激しい怒気すらも、渦を巻く混乱にすべて飲み込まれてゆく。
「………や………め………」
ガシャ、と鎖を鳴らして引こうとした身を楊ゼンに阻隔され、そのまま荒々しく寝台に叩きつけられる。
「………っ!」
すぐに誰のものともつかぬ腕が衣服に伸びてきた。枷のない肢は強い力に抑えこまれ、ぴくりとも動かすことが出来ない。
薄い藍色の生地が、耳に障る音を伴って乱暴に引き裂かれた。
「やめろ!」
ほとんど悲鳴じみた怒声に、しかし返されるのは楽しそうな二つの笑い声だけだ。
「いい顔ですね、師匠……すごくそそられますよ」
もはや、申し訳程度に肌に纏われた服の残骸もそのままに、楊ゼンは玉鼎真人を後ろ抱きにしながら、彼の両足の間に身体を割り込ませた。
「な………」
性急も過ぎる行為に、玉鼎真人は息を乱しながら青ざめる。
立たされた膝が、がくがくと恐怖に震えた。
「あーあ、楊ゼン。もう少しゆっくりしてやれよ。………こんなに怯えちまってるじゃねえか」
さしたる咎めも含んでいない声色で呟くと、韋護は玉鼎真人の正面に跪いて彼の頬をそっと撫で上げる。俯いた顔は色を失い、細波のような震動を繰り返していた。
それを暫く無表情で眺めていたが、すぐにくっと玉鼎真人の顎を持ち上げると、彼はその唇に小瓶の口を押し当てる。
冷たい硝子の感触に玉鼎真人は首を捩ろうとしたが、髪を掴まれて引き戻され、
「ぐ………っ」
その中身が唇に容赦なく注がれた。粘りを持った甘い液体が、ぼたぼたと胸元や腿に落ちてゆく。
その感覚は身震いするほど不快なものだったが、玉鼎真人は必死にそれを口に入れることを拒んだ。どうせ……ろくな代物ではない。
「ほら、ちゃんと口開けて……あー、もう入らねえじゃねえか。仕方ねーなぁ」
呆れたように韋護は溜め息をつくと、ぐっと自分で小瓶の中身をあおった。そして、濡れた玉鼎の唇を指で強引にこじ開け、一滴残らず彼にそれを飲み干させる。
「ぅっ……ぐ、ごほっ……」
「飲んだ?大丈夫、ただの弛緩剤だからよ……そんな強情張ってると、後が辛いぜ?」
笑いながら窘めて、韋護は玉鼎真人の白い肌に液体で湿った舌を這わせていく。
その怖気立つような不快感に抗おうとして、びくんっと喉を反らせた。
「ぁ……やめ……楊、ゼン……!」
「嫌だなぁ、僕のこと忘れないでくださいよ……でも狭そうですねぇ、師匠のココ………これじゃ、相当辛いかな」
くすくすと笑い声をもらして、楊ゼンは韋護とは別の小瓶に浸した指を数本、玉鼎真人の秘部に無理矢理捻じ込んだ。
「っ………痛、ぁ………!」
がくん、と全身を引き攣らせて、玉鼎真人は喉を詰まらす。初めて与えられた酷い痛覚に、一気に意識が暗転しそうになった。
だが、
「駄ー目。ちゃんと起きててくれよ……なぁ」
ぐい、と韋護に再び顎を掴まれ、そのまま口づけられる。半開きになっていた唇から舌が滑りこんできて、玉鼎は思う様口腔を犯された。
同時に、下で楊ゼンの長い指先が抜き差しされる。痛みと、秘部が濡れたような感覚が気持ち悪くて、いくら拒絶のかぶりを振ろうと……呻き声ひとつ、もらすことは許されない。
「ぅっ……ぅ、ぁ………」
ようやっと息が解放され、玉鼎真人は激しく咳き込む。呼吸不足の所為か、意識が吐き気すら伴う混濁を見せた。
「お辛そうですね、師匠……でも、大分こちらは慣れてきた様ですよ」
ちゅっ…と隠微な音を立て、楊ゼンは根元まで埋めこんでいた指を引き抜く。玉鼎真人は下腹の圧迫感が消えて、ようやく大きな呼吸をすることが出来た。
だがそれも束の間。不意にまた口元に伸びてきた弟子の指に、彼はぎょっとする。反射的に逸らそうとした顎はまた韋護に捕われて、
「舐めてください……きれいにね」
「ん、ぐ………っ!」
薬でぬめった指を、無遠慮に口の中に突き立てられた。苦いのか甘いのか判別しかねる……それでも生理的に受け付けない異物に、急激な嘔吐感が喉元をせりあがってきて、
「………っ!」
ガリ、と皮膚を破る嫌な音がした。玉鼎の口内に、苦い鉄錆の味が広がる。
「ぁ…………っ」
ハッと玉鼎真人は顔を強張らせる。
思わず楊ゼンの指を噛んでしまったのだと気づいて、彼はなおいっそう顔色を後退させた。
楊ゼンは僅かな紅の滴る指を、ぺろ、と無言で舐め取ると、
「痛いなぁ……イケナイ口ですね、師匠」
その呟きに玉鼎が何か返す前に、楊ゼンは彼の腰を強く引き寄せる。
その内股に当たった硬い感触に竦む間もなく、玉鼎は楊ゼンに欲望に深々と貫かれていた。
「ぁ………ぁあっ!」
突然の衝撃に、眦が壊れた様に涙を溢れさせる。脊髄をかけた激痛故に、喉をついて出た悲痛な叫びは、しかしすぐに韋護の唇に吸い取られて、
「ぅ……ぅぅっ……」
がくがくと乱暴に腰を揺さ振られ、玉鼎真人はくぐもった呻きをもらす。先程飲まされた薬の所為か、身体は意志に反して、淫らなほど貪欲に楊ゼンの欲望を飲み込んでいった。
「は……ぁ、はっ………」
「随分良さそうだなぁ………そんなカオ見てると、こっちも我慢できなくなってくる」
楊ゼンを跨がされたまま繋がり、悔しそうに喘いでいる玉鼎の媚態を、韋護は顎をしゃくりながら見つめると、不意に億劫そうに立ちあがった。
やまてくれるのか、と微かな期待を眼にたたえた玉鼎真人を、彼はくっと喉の奥で笑うと、無造作に衣服の前をくつろげる。
引き出されたソレは、既に痛いほど張り詰め、先端からは先走りの蜜を零していた。
「な………」
「ほら、銜えてくれるだろ?」
そんなとんでもない台詞にぞっとする玉鼎真人の前髪を強く引き掴み、韋護は彼の唇に自身を擦りつける。
そのおぞましい感覚に、憔悴した玉鼎真人の気はおかしくなりそうだった。
知らず知らず、彼はぐっと唇を固く閉じたが、
「あっ………ぁぁぁっ………!」
背後から膝を抱えられて、殊更強く突き立てられ、玉鼎は悲鳴を上げる。その隙に小さく開いた唇に捻り込むようにして、韋護の欲望を銜えさせられた。
「………ぐ………!」
熱い塊が咽頭にまで突き刺さってくる。信じられない行為に、玉鼎の眼からはまた一筋涙が弧を描いて布に零れた。
息が苦しくて、ひくりと喉が上下する。強引に開かされた顎が鈍く痛んだ。
「泣いたって無駄だって。………銜えるだけじゃなくてさ、ちゃんとしゃぶってくれよ。ほら……できるだろ?」
鎖で縛られたまま硬直している玉鼎の手を引き寄せると、韋護は高ぶった自身にその指をまとわりつかせる。びっくりしてして玉鼎は手を退けようとしたが、無駄なことだった。
そして、さらに容赦ない命令が頭上から落ちてくる。
「舌使って……指も。俺を満足させてくれなきゃ、いつまで経ってもこのままだぜ?」
嘲ら笑うような脅しに、玉鼎は一度ビクンと震え、やがて観念したようにぎゅ、と強く眼を閉じた。そしてがくがくと怯えつつも、ぴちゃ……と韋護の欲望に辿々しく舌を這わせ始める。
「やればできる、な………でもこのくらいじゃ、解放してやれねーなぁ………」
「っ………ぅ、ぐっ………」
絶え間なくせり上がってくる強烈な吐き気を堪えて、手指で根元を扱きながら、舌と唇を無理に使い、玉鼎は韋護の欲望に痛々しい愛撫を繰り返した。
あまりの気持ち悪さに視界が歪む。
早く………こんなことを終わりにして欲しかった。
「ん………ぅ、うっ………」
口内が苦しいほどの体積で満たされる。舌を使うことも辛い状態のときに、楊ゼンがわざと激しい律動を与えてくる所為で、歯を立てないようにするのが精一杯だった。
口端を伝っては落ちる唾液を拭うことも出来ず……やがて、玉鼎真人の意識が限界に近づいたとき。
「ん………なかなかよかったぜ、玉鼎真人サマ」
韋護が小さく呻いたかと思うと、今までより更に強い力で頭を掴み寄せられた。同時に玉鼎の口腔に収まっていたものがびくびくと震え、白い飛沫を喉に叩きつけられる。
「ぅ………ぅ、ぐぅっ………!」
「駄目。………ちゃんと飲んで」
苦悶の表情を浮かべながら、韋護のものを吐き出そうとする玉鼎真人の顔を拘束して、彼は残酷に命令を囁く。できるわけがない、と霞んだ眼で訴えようと、軽く首を横に振られるだけだった。
口の中が、どろりとした粘つく感触に支配されている。
もう何でもいいから、早くこの拷問のような仕打ちから解放して欲しかった。
そして、その願望に対する選択肢は、一つしか残されてはいない。
「………っ…………」
ぶるぶると全身を小刻みに震わせながら、ごく……と白い液体を何とか喉に通す。
異端なものを嚥下した胸がむかついて、どうしようもなく惨めだった。
ポタポタと皺寄るほどに閉じられた瞳から、透明な涙が溢れかえる。
「よくできました。まあまあ気持ち良かったぜ」
言って、笑いながら韋護は身体を引く。口内からようやくぬるりとした感覚が去り、玉鼎ははぁはぁと喉を痛めるほど、涙混じりの咳を繰り返した。
が、
「おや、師匠。また降参なんてしないでくださいよ………僕は終わってないんですから」
くくっと可笑しそうに笑んで、楊ゼンは玉鼎真人の腰を乱暴に前に押し出した。
「ぅ………ぁ………っ!」
予期せず、突然状態を変えられた為、耐え切れずに玉鼎は鋭い悲鳴を上げる。四つん這いのまるで獣のような体勢に組み敷かれて、耐えがたい屈辱に眼前が赤く曇った。力ない拳を、それでも血が滲むほどに握り締める。
穢された身体が、たまらなく煩わしくて疎ましかった。
「動きますよ、師匠」
静かに呟いて、楊ゼンは困憊している師に構わず、ぎりぎりまで濡れそぼった己を引き抜いては、また淫猥な音をわざと大きくたてながら、玉鼎真人を執拗に犯した。
「あ………ぁっ……う………!」
薬の所為で全く拒めない楊ゼンの欲望を、されるがままに最奥まで受け入れるしかない。玉鼎真人はその激しさについてゆけず、ただ寝台に顔を埋めて必死で嗚咽を噛み殺していた。
薬と体液の掻き回される、ぬちゃぬちゃといういやらしい音が、いっそう玉鼎真人を激しい恥辱に陥れる。
「は……ぁ、ぁぁっ………」
制御できない身体は、突き入ってくる彼自身を強く締め付けてしまう。それがまた自分を苦しめることも承知の上で。
「ん……ホントによく効く薬ですね……酷く男慣れしているみたいですよ、師匠」
「ぅっ………ぅ、ぁ………」
霧散していく思考は、玉鼎真人から正気を奪い取ってゆく。
屈辱も恐怖も葛藤も全て削がれて、残ったのは薬に与えられた偽りの悦楽だけ。
既にまとまった感情を失った玉鼎真人は、その感覚だけを求めて無意識に腰を揺らす。
艶のある黒髪を真珠の光沢にも似た白い肌にくゆらせ、誘うように紅色に濡れた唇。楊ゼンはそのあまりにも妖しい様に、ぞくりと背を情欲に撫で上げられたような気がした。
更に、玉鼎真人の身体に飲み込まれている欲望が質量を増す。
その感覚にびくりと竦んだ彼の背に、隙間もないほど楊ゼンは密着すると、また緩急をつけて腰を揺らし始めた。
「あ………ぁ、あ………」
玉鼎真人は濡れた声で甘く啼く。
楊ゼンは彼の堕ちた艶姿に吸い寄せられるように、細く息を乱したまま、幾度も激しく突き上げて、
「…………!」
哀れな徒人の身体が一際大きく仰け反る。
どくんっ……と内に叩きつけられた欲望の果てを感じて、玉鼎真人は今度こそ完全に気を失っていた。
疲弊しきった師の身体を綺麗に清め、寝台にそっと横にする。擦過傷の残った手首を、楊ゼンはそれでもい愛おしそうに両手で握り締めて、じっと彼の寝顔を見つめていた。
その横で、湯を浴び髪を拭いていた韋護は、
「なあ楊ゼンよ。そんなにそのお師匠様が好きかい?」
「ええ」
「んならもーちょっと優しく扱ってやりゃいいのによ……なんだって俺なんか呼んだんだ?見た目通りの潔癖な仙人サマなんだろ………いきなりであれはキツかったと思うぜぇ」
ま、人の事は言えねーが、と嘆息する韋護に、楊ゼンはくっと笑うと、
「さぁ……何故だろうね。………でも多分、君が居ればもっと師匠が泣いてくれると思ったからじゃないかなぁ」
「はぁ?」
「僕は師匠の涙がすきなんだよ……屈辱に満ちた顔もね。そんなカオをしているときのこの人は、本当に綺麗だから……」
誇り高くて潔癖なお師匠様。
もっと堕ちて、快楽に穢れてほしかった。
そうすればきっと、僕と同じ処から、僕を見てくれるだろうから。
「災難だなぁ……お前や俺みたいなのに好かれてさ。いや、そもそもあんたを弟子に取った時からが災難か。師匠を食うなんて、とんでもねえ考えだもんな」
呆れたように溜め息をつき、腕組をする韋護に、楊ゼンは軽く首を振ると、
「それは違うよ……僕は別に『師匠』が欲しかったわけじゃないから………」
そうして、歌うように言葉を紡いだ。
ああ成程、と肩を竦める韋護を笑顔で一瞥すると、また玉鼎真人の方に向き直り、
欲しかったのは『師匠』じゃない。
やっとこの手に堕ちてきた、愛しくて美しい人。
……もう二度と、離しはしないから。
「…………師匠。早く、起きてくださいね…………」
…………(既に夜逃げ体勢)
み、み、みかさま。韋楊玉&ダーク&裏裏?というリクエストをあ、有難う御座いました………(だくだく)
三人遊戯……や、やっちゃいましたね、ついに……何てゆう内容でしょう、これ。
しかも題名が初英語にして「堕ちた欲望」ときたもんです(病院行くか、自分)
うう、こんなんで、誰がホントは健全書きだって信じてくれるでしょう…(無理だろ、それは)
それにしても、段々裏裏がそれっぽくなってきてますねぇ(わははっ)←逃避