闇色の面影
「普賢真人サマ……!これどういうことさ!?」
じゃらり、と金属の渇いた音が、澄んだ薄闇のなかに反響を繰り返す。
ある一室の寝台の上。
鎖に四肢を拘束され、怯えた叫び声を放つまだ年若い少年。
……黄天化。普段は屈託ない笑みの浮かべられているそれに、今はもはや顔色は無い。
震えを否めない身体を必死にひた隠し、彼はただ暗い虚空に向かって呼びかけを続けていた。
自分をこんな有様にした……十二仙に向かって。
「………何が?」
やがて、ゆるり、と闇から溶け出したように姿を現した……者。
柔和な顔にたたえられた、穏やかな笑顔。
どこかつくりものめいたそれが……天化には恐怖でしかなくて、
「何が……って……!ふざけるのはいい加減に……っ!」
「ふざけてなんかいないよ……それなら、別に君を相手にする必要も無い」
君を相手に……する必要なんて……
「……っ…………」
酷く引っ掛かる物言い。
まるで、自分と言う存在に最初から価値などないような。
「何……言ってるさ……?」
天化は困惑する以外何も出来なかった。
わからないのだ。こんな仕打ちを与えられる理由が。
……ただ今日は、師に頼まれてここに来て……
宝貝を受け取り、茶を飲んで、それで帰る筈だった。
それなのに、
「君は綺麗な眼の色をしてるよね」
「ッ!」
突然顔を近づけられ、目の縁をなぞられて、天化の身体は大げさなほどにびくりと跳ねた。
眼前の白い美貌が、確かな狂気を秘めて笑い続けている。
天化は、身体の内がすぅっと冷えていくような感覚にとらわれた。
怖い、と。
戦闘などとは全く異種の、初めて感じた戦慄……
「碧色……うん、海に似てるね……川じゃなくて……そう、深い海の、色」
なめらかに言葉をついで、普賢の指は次第に天化の頬を滑り、顎を伝って下へ降りてゆく。
細い指先。まるで氷みたいに冷たくて。
……それに、また恐怖を煽られる。
「普………サマ……も、離し……」
喉から上手く声が出ない。
ともすれば呼吸困難に陥ってしまいそうだ。
身体に叩きつけられる負の感情。それの底は深すぎて、天化には汲み取ることが出来ない。
……ただここにはいたくないと、それだけは痛いほどに感じていた。
そして、離してくれ、と再度呻きかけたとき。
「……でも、ちょっと違うなぁ」
「え?………なっ………!」
「彼は、空の色だから」
喉元にあてがわれた掌が、突然自分を締め付け始める。
驚くほどの強力に、天化は一瞬にして体内から空気を奪われた。
「………っ………!」
びくりと身体が竦み上がる。抵抗をしようにも、重厚な鎖に繋がれた手足は少しも動かすことが出来ない。
「………ぁ………はっ……かはっ………」
不規則になっていく胸の上下動に伴って、天化の視界は薄い灰色に濁り始めて、
………何で。
どうして。
この人は……こんな……
「普………真っ………やめっ……!」
真っ青になった唇で哀願を絞り出せば、ようやく、す、と手が離れた。
「…………!」
天化は即座に身体を折って、ごぼ、と鈍い咳を繰り返す。
苦しさのせいか、知らぬうちに幾筋もの涙が頬を伝い濡らしていた。
「細い、首だね………でも筋肉はある。肩とかも筋張ってるし」
「普……げ……」
こちらの苦しみと混乱などに心の欠片すら貸さず、虚ろな眼で普賢は再び天化の身体に指を這わせだす。
それは胸元から腹筋へ、意図を持って滑らされて、
「でも、きっと彼はもっと細いね……多分、君よりも華奢だ。中身は凄いのに……可笑しいなぁ」
くすくすと、相変わらず彼から笑みは絶えない。
何を叫んでも、まともな返答なぞ戻ってこず、天化は震えながらも、されるがままになるしかなかった。
首の筋がずきずきと疼痛を訴える。
もしかして自分を殺す気なのか……と考えてぞっとした。
今となっては、そんな滑稽な思いすら否定することが出来ない。
そして………
「な……にを………っ!」
天化は今度こそ蒼白になってふためいた。
普賢が机上から手へと移した、それ。
鈍銀の……短剣……
「や………!」
意味なく身をを捩ったとき、ビッと己の薄い上衣が切り破られた。
「ごめんね。手を縛っちゃうと脱がすことが出来ないからさ」
そんなことを平然と呟いて、また衣服に剣をあてがう。
不快な音が顎の下から響き、すぐに天化の上半身はあらわにされた。
「…………っ………」
がたがたと乱れた心と共に身体が震える。今から自分が何をされるのか、考える気すら起きなかった。
「そんなに怯えないで……ああでも、その表情もいいね……僕の好きな、顔だ」
陶然としたまま、普賢はするりと天化の頬を撫でた。怯えを煽るように、ゆっくりと普賢の身体が覆い被さってくる。
そのまま、つ……と天化の頬に舌が這わせられた。
「………!何………!」
叫ぼうとする唇を指で阻み、普賢は執拗に天化の肌を舐める。頬から顎、額に鼻梁………まるで何かを確かめてでもいるように。
そして最後は、指で抑えていた唇を塞いだ。
「ん………ぅっ!」
喉に引っ掛かった呻きを天化は漏らす。指で開かれた口腔に冷たい舌が入りこんできて、背に異様な怖気が走った。
歯列をゆっくりと嬲られ、唾液の絡まり合う音がやけに大きく耳に入る。
「ぁ………ふっ………」
不条理にも隠しようのない快感と、それに没頭する事を許してくれない恐怖と困惑。
自分にこんな理不尽な行為を強いられている、という以前に、酷い違和感を覚えるのを禁じえなかった。
首を締められたときも。
剣で衣服を破られたときも。
……今こうして口づけをかわしている時でさえ……
彼の眼は、自分を映してはいない。
この己の碧眼を透して、誰か他の者を見ている。
……一体……誰、を…………
「嫌……さっ……な、んで……!」
「君って本当に正直な顔してるよね。まっすぐな眼差しと、曲がったことの大嫌いない意志の強さ。……僕とは正反対だから……だから、こんなに好きなのかな」
天化の拒絶に応えることなくひとりごちたまま、普賢の手は天化の下衣に滑る。
何か言葉を吐く前に、毟る様にしてそれを剥ぎ取られた。
あまりのことに、天化は呆然としたまま普賢を見上げて、
「………誰、のこと言ってるさ……?」
……やはり自分を通り過ぎている穏やかな眼に、掠れた声を投げた。
途端、普賢の頬が僅かに強張る。眼の色も幾分か冷えて……
「何が?………僕の君のことを言ってるんだよ」
「違う……さっきから俺っちを誰かと比べてるさ……!眼の色とか身体つきとかっ………ぁ、痛……っ!」
「煩いよ………」
ぎり、と手加減なく天化の腰に爪を立てられる。
赤い筋が、そこを細く流れ出した。
それを指で拭うように濡らして、天化の肢の間にそれを摺り寄せる。
「っ………な、何を………」
「少し痛いと思うけど……我慢してね」
言葉少なに語られ、ズッと三本の指が無理に天化のなかに押し込まれた。
「っ………ひ、あぁっ………!」
急な激痛に、天化は重い鎖を揺らして身体を竦ませる。
信じられないようなトコロに、酷い痛みを伴った異物感。
ぐり、とそれを無遠慮に突き動かされて、また新たな痛覚が天化を襲った。
「痛……い……さっ……!抜いてっ……!」
「そうだろうね……本当に狭いや。少しぐらい血で濡らしたって駄目かな」
「な……ぁ、ああっ………!」
ぐ、ずっ……
そう呟きつつも、普賢の指が根元まで天化の秘部に容赦なく埋めこまれる。そのまま引っ掻くように掻き回されて、あまりの痛みに天化の視界は混濁と歪み出した。
「あ、ぁ………痛、いっ……!」
「そのうち慣れるよ」
ぞんざいな慰めの言葉を囁いて、普賢はもう一方の指で天化のソコを開く。それに天化がひくっと息を詰まらせたとき、ズルリと奥を刺激していた指が抜き出された。
………それにようやく、天化の荒い安堵の溜め息をつこうとしたとき、
「ぇ……?や……ぁ、ぅ、あぁっ………!」
何か異質なものが秘部を押し広げるようにして侵入してきた。先程の指など比較にならないぐらい、固くて大きくて渇いたもの。
何の潤いも施されていない挿入に、天化の苦痛は頂点にまで達した。
「や………痛ぁっ……!」
雑に慣らされた内壁が引き攣るような激痛に、天化の眼から涙が溢れ出す。次から次へと……それは止まることを知らなかった。
「………綺麗だね」
ぽつり、と何も変わらない冷静な声が痛みに震える耳朶に寄せられる。
「……何……やめ、も嫌ぁっ………!」
ズ、と渇いた注挿が繰り返される。そのたびに天化の身体はびくりと跳ね、眦から涙をこぼした。
「………ぅ……ぁ、ぅ……」
「本当に綺麗だよ、君の泣き顔………もっと見せてよ」
そう言うと、一層深く天化の最奥を突き上げた。その拍子に、つぅっと紅い液体が天化の内股を伝い出す。
「う……ぅー……っく……」
ぶるぶると、普賢の衣服を皺寄るほどに握り締めた天化の指が痙攣する。意志とは関係なく揺さ振られるからだの所為で、涙は飛び散り、顔中が妖しく濡れて光っていた。
秘部から流れ出た血が潤滑となり、普賢は動きは次第に滑らかになっていく。だが天化は苦痛は和らぐどころか益々酷くなるばかりだった。もう呼吸さえも竦む喉の所為で満足に紡ぐことができない。
ずちゅずちゅと淫猥に粘る音が鼓膜を支配する。聞きたくないと、耳を塞ぐ腕もない。
「辛そう……苦しそうだね……彼も、きっと君みたいなカオするんだろうなぁ……」
笑いながら、麻痺した下肢を更に大きく割られて、普賢はより深い繋がりを求めてくる。
白い肌にはりつけられた、無機質で清楚な笑顔。
そのしたには、一体どんな感情が隠されているのか……天化は朧い意識に翻弄されながら薄くそんなことを思っていた。
誰か、の代わりに抱かれている自分。
押し殺した情欲の捌け口なんて、冗談じゃないと思った。
そんな扱いをされる。そんな扱いに軽く選ばれた己がどうしようもなく惨めで。
………この人を嫌いじゃなかった……寧ろ好きだっただけに……余計苦しくて……………価値のない存在だと気づいたとき、自嘲以外何も湧き上がってはこなかった。
「ふ・・・・・・げ、ん真人サマ……っ……も、う辛、ぃっ………」
ひくりとしゃくりあげて、天化は涙声でどうにか哀願をこぼす。
だが、彼の反応はやはり冷たいもので、
「辛い?そう……そうだろうね。そういう風に抱いてるんだから」
「…………っ…………」
「怒った?……君は色々表情が変わって面白いね……もっと、たくさん見せてよ。君の顔は、一番彼によく似てるから………」
「ぁ………ぁぁあああっ!」
「見ていて……とても楽しい」
腰を高く掲げられ、抉るような律動を繰り返されて、天化はたまらずに悲鳴を上げる。灼けるような激痛にどうにかなってしまいそうだった。
次第に、自分を貫いているものが硬度を増してくる。
普賢の息も、僅かだが乱れを見せて、
「………ぅぁ、あああ……っ……!」
びくん、と体内のソレが一際大きく脈打った。
熱く疼いていたなかに飛沫を吐き出されて………そこで天化の意識は、白く途切れた。
「……気絶しちゃったか」
弛緩して、泣き声も上げなくなった天化の身体を、普賢は無言で優しく抱く。
その体勢のまま、体液と血で汚れた彼の肢体を、眉ひとつ動かさず見つめて、
「………天化、君……か」
愛する人の、一番近くにいる者。
一番近くにいて……一番愛されている者。
そんな君が疎ましくて……そして羨ましくて仕方ない。
「ごめんね……でも、彼はけして僕を見てはくれないから……」
だからせめて、彼の面影の残る君を、この手で狂わせてみたかった。
己の内に溜まる醜い感情が、行き場を無くして壊れる前に………
「やあ普賢、こんな朝早くから悪いなっ」
予想通り、朝霧の快い早朝、来客があった。
普賢はそれをゆったりとした笑顔で迎えて、
「あれ、どうしたの?……珍しいね、君が僕の洞府に来るなんて」
「うーん、あのさ……天化がここにこなかったか?お前に預けておいた宝貝をとってきてくれるようにって、洞府を出したんだけど……まだ帰ってこないんだ」
「そう……悪いけど、来てないよ。……どこかに遊びに行ってるんじゃない?」
「そっかぁ……うーん、じゃあその辺探してみるか」
そういって頭を掻く彼を、普賢は曖昧な表情で見やりながら、
「………心配なんだね、天化君が」
小さく、言う。
彼はそれにん、と頭をあげて、
「そりゃあなっ。可愛い愛弟子だからな!」
溌剌とそう言いつつも、太陽にも似た笑みを顔いっぱいに浮かべた
澄みきった空が溶け込んだような瞳。
大きな衣服に隠された細い身体。
純粋で実直性格に……明朗な笑顔。
心に暗い影を持つ自分とは逆の………
………惹かれてやまない、存在。
「………君は綺麗に笑うね、道徳………」
君の弟子は、君にとてもよく似ていた。
きっと、この男の泣き顔も、彼と同じように綺麗なんだろう。
ぎゃ〜っ!あ、愛がない……私にこんな話が書けるなんて……(意味不明)
うう、オレンジさまリクをどうもありがとうございました……それなのに……もお、いくらでも蹴ってやってください!(TT)
それにしても天化君可哀想すぎでした……
更に普道、っつーのも無理があるだろ、私(汗)