蟻地獄(前編)










最初、自分が何処にいるのか分からなかった。
確か太乙の洞府に来て、太乙と一緒に茶を飲んでいたのに。
玉鼎は、首を巡らして、周りを見回した。床に寝転がっているらしい。
手足が鉛のように重かった。
力を込めても、のろのろとしか動かない手を、玉鼎は呆然と見つめた。
「気が付いた?」
部屋の隅から声がした。
重い首を上げて、声のした方を見ると、太乙が壁に寄りかかっていた。
腕を組んで、自分の方を楽しそうに見つめている。
「太乙?」
(これは一体?)
問いただすような目で見ると、太乙がゆっくりと近づいてきた。
「フフフ……動かせないでしょう? 私の薬も結構いい出来だねえ」
満足そうに太乙が笑う。
「薬だと?」
「そう、…よく効いてるみたいだねえ」
そう言って、また笑う。
「どうして?」
事態がつかめず、玉鼎は不安を感じた。
「どうしてってー、そりゃあ、ね?」
「ーーー?」
「体、動かせないでしょ? 普段の君にはとても手が出せないけど、…今ならね? 何でもできる。ーーほら、こういうこともーー」
太乙は玉鼎の前に膝をつくと、玉鼎を上から見下ろした。
黒い瞳が楽しげに煌めいている。
玉鼎はその瞳に映る自分を見た。
驚愕の表情が凍り付いている。
「玉鼎……好きだよ」
瞳の中に映る自分の姿が大きくなると共に、唇に生暖かく、柔らかいものが吸い付いてきた。
(ーーー!)
太乙の舌が玉鼎の唇を割って中に入り込む。
竦んで逃げようとする玉鼎の舌を捕らえると、ねっとりと絡みついてきた。
その感触に玉鼎はぞくっとした。
「ーーああ、美味しい……。想像してたよりずっと…」
瞳を閉じて、うっとりと太乙が呟く。
「こちらは、…どうかな?」
すい、と腕が動き、太乙の指が、玉鼎の下肢をなぞり上げた。
「太乙! やめろ!」
自身を掴み上げるようになぞられて、玉鼎は大声を上げた。
「フフフ……いい顔するね、玉鼎ーー。君のそんな顔を見ると、ますますそそられるよ……」
玉鼎の声にも一向に動じた様子もなく、太乙は声を上げて笑った。
するりと衣の下に手を入れ、まだ柔らかく震えている玉鼎自身をやわやわと揉みほぐす。
「いい加減に、ふざけるのはやめろ!」
太乙の手の動きに狼狽して、玉鼎は叫んだ。
「ふざけてなんかいないよ。ーーーねえ、楊ゼン?」
(ーーー!)
意外な名前を聞いて、玉鼎は驚愕した。
太乙が目を上げて、部屋の隅を見る。つられて玉鼎も目を向けると、そこに、見慣れた人物を発見した。
「ーーそうですよ、師匠」
(ーーー楊ゼン!)
悪戯を考えついたみたいに、目を輝かせて、楊ゼンが立っていた。
玉鼎は絶句した。
「楊ゼン、君も唇、食べてごらん。美味しいよ」
太乙が楊ゼンを呼ぶ。
呼ばれて近寄ってきた楊ゼンは吸い寄せられるように、玉鼎の上に覆い被さった。
愕然としている玉鼎に微笑みかけると、そのまま玉鼎の唇に自分のそれを押しつける。
蛭のように吸い付いてくる感触と、角度を変えて何度も擦りあわされる執拗さに玉鼎は全身が震えた。
「ーーー本当ですね。ーーなんて美味しいんだろう…」
熱っぽい声で囁く。
「…よせ! 楊ゼン!」
ともすれば掠れそうな声を玉鼎は必死に振り絞った。
「僕が怖いですか…師匠。ーー困ったな。やっぱり僕の気持ちには気付いてくれてなかったみたいですね」
玉鼎を覗き込みながら楊ゼンが言う。
「それはしょうがないさー、楊ゼン。玉鼎はほんとに鈍いんだから」
側で玉鼎の様子を眺めていた太乙が言う。
呆然としている玉鼎を見つめて笑いながら続けた。
「私が何百年も君のことを好きだったなんて、君、知らなかったでしょ? ーー本当は、君に抱かれたかったんだけど、君、そういう気、全くないようだからーー。だから、私が君を抱くことにしたんだ。……楊ゼンはね、最初から君を抱きたかったんだって。ね? 楊ゼン」
「ええ」
太乙の問いかけに答えて、楊ゼンが嫣然と微笑む。
「師匠、あなたと、ずっとこうしたいと思っていました」
そう言うと、また自分の唇を玉鼎に押しつけた。
玉鼎の唇を味わいながら、両手で襟を開き、玉鼎の胸に、手を這わせる。
「玉鼎、私も…ね?」
太乙が玉鼎に優しく話しかける。
そうして、玉鼎の服を剥ぎ取っていく。瞬く間に全裸にされて、玉鼎はただ呆然とするばかりだった。
「楊ゼン、今日は君に譲るよ。最初にやりたいでしょ?」
太乙がしょうがないか、というように、楊ゼンに話しかける。
「すいません。太乙真人様」
楊ゼンが嬉しそうに言う。
太乙と体の位置を入れ替えると、楊ゼンは玉鼎の体を俯せにひっくり返し、その脚の間に割って入った。
そして、引き締まった双丘を両手で掴むと、ぐいと上に持ち上げた。
信じられないような格好をとらされて、玉鼎は屈辱に目の前が霞んだ。
「はい、これ。よく慣らしてあげてね」
太乙が楊ゼンに香油の小瓶を渡す。
とろりとした油を指で掬い上げて、楊ゼンは、それを玉鼎の双丘の中心に塗りつけた。
びくりと玉鼎の体が痙攣し、蕾がきゅっと引き締まった。
「師匠ーー」
人差し指をつき入れて、蠢かしながら、楊ゼンが囁く。
「夢のようです。こうして、あなたの中に指を入れているなんて…。指だけじゃない……僕の……」
そこまで言うと、楊ゼンは指を抜き、おもむろに、自分の屹立したものを取り出し、玉鼎の後孔にあてがった。
そして、玉鼎の腰を掴むと、勢いよくその昂ぶったものを挿入した。
「僕のものを入れることができるなんてーー!」
ぐいっと根本まで突き入れて、ほぉっとため息をつく。
名残惜しそうに引き抜くと、さらに勢いを付けて、突き入れた。
「あぁ、師匠、あなたの中に入ってますよ。すごく、熱い。熱くて……気持ちがいい……」
うっとりとした声で呟きながら、楊ゼンは腰を動かした。
だんだんと早く、熱に浮かされたように、陶酔しながら、叩き付けるように激しく。
その度に繋がった部分から淫猥な粘った音が響いた。
弟子にいいように犯されているという認識が、玉鼎の全身を震わせる。
恥ずかしくて、情けなくて、屈辱感に身が灼かれるようだった。
貫かれている部分からの熱が、痛みと共に体中を駆けめぐる。
「師匠……いい…!」
玉鼎の腰をぐいと持ち上げると、楊ゼンはさらに激しく腰を打ち付けた。
その勢いに体を支えきれなくなって、玉鼎の肘ががくんと崩れる。
そのまま突っ伏してしまおうとしたところを、思い切り髪を引っ張られた。
「ーーーー!」
髪が引きつれる痛みに、知らず涙がこぼれる。
涙の溢れる目を開くと、眼前に太乙の顔があった。
面白そうに玉鼎の顔を覗き込んでいる。
「ふーーん、君って色っぽい表情するんだね」
そう言って、嬉しそうに笑った。
「ぞくぞくするよ、玉鼎ーーー」
言いながら、太乙は、玉鼎の顔に自分の怒張したものを擦り付けた。
優しげな風貌に似合わぬ、赤黒く太く天を向いているそれに、玉鼎はぞっとした。
擦り付けられて、ぬるっとした、なま暖かい感触に総毛立つ。
思わず顔を背けたところを、乱暴に元に戻された。
引っ張られた髪が頭皮を持ち上げて鋭く痛んだ。
「だめだよ、玉鼎ーーー、私にも、………ね? してよ……」
鼻をつままれ、息苦しさに耐えきれず口を開いたところに、ぬるりと太乙のものが入り込んできた。
喉の奥まで突っ込まれ、口一杯にびくびくと脈打つものでふさがれる。
吐き気がこみ上げてきたが、同時に、楊ゼンが後ろから激しく突き上げてきて、意識が後ろに行く。
その隙に太乙は、自ら腰を動かして、玉鼎の口腔の粘膜を味わった。
「すごくいいよ……玉鼎…」
上擦った声を上げて、太乙の動きが激しくなる。
「僕もいいです……師匠…」
楊ゼンも譫言のように呟く。
前と後ろから蹂躙されて、玉鼎はすでに頭の中が真っ白になりつつあった。
もう、今の自分がどんな痴態を晒しているか、どんなに屈辱的な目に遭わされて、恥も外聞もなく奴隷のように服従させられているか、考えることもできない。
ただ、二人の動きに合わせて、少しでも楽になろうと、無意識のうちに太乙のものをくわえ、楊ゼンを締め付けていた。
どうしてこんなことに……。
何が間違っていたのだろう……。
もう分からない。
二人の狂気に取り込まれて、自分も狂い始めているのかも知れない。
頭の芯が痺れ、下半身の疼きが玉鼎の体を撓らせる。
がくがくとゆさぶられ、真っ逆さまに奈落に落ちていくような眩暈がした。
目の前がすっと暗くなる。
たとえようもない快感ーーー。
白い飛沫が前と後ろから玉鼎に浴びせかけられる。
それをうっすらと感じながら、玉鼎は意識を手放した。


















あとがき

 太乙が変、楊ゼンも変……だけど、相手が玉鼎だからいいか(死)。

 

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