ささやかな睦言
「よーうけーえ、あーそーぼ」
「……天化、君はこの書簡の山が見えてないのかな?」
こめかみをヒクつかせながら、楊ゼンは言う。
「ん――ん、俺っちまだ視力は衰えてないさー」
「じゃあ僕が今どういう状況にあるか解ってるんだろう?」
「書簡の処理に追われてる?」
「解ってるなら遊ぼうなんて言わないでよ」
「(む)だって楊兄と一緒にいたいんだもーん」
「だもーんて、君ねえ……」
あまりの子供っぽさに、楊ゼンは頭を抱えたくなった。
「だったらそこで、じっとしててくれれば…」
「ヤ ・だ」
「……………」
楊ゼンに残された手段は、ただ一つ。
「天化」
「?」
首を反らせて天化を見上げ、顎をくいっと引き寄せる。
「…楊兄、キスだけじゃ俺っち満足しないかんね?」
「(ぎく)…そう?じゃあキスしない」
顎に触れていた手をぱっと放して、体勢を元に戻す。
「えぇっ、それってなんか違うさっ」
「何がどう違うって言うんだい?」
「俺っちはキスだけじゃやだっていったのに、キスまでやめるなんてヒドイさっ」
「文句言ったから」
さらりと答えて、再び筆を手に取る。
「……………(ぶすっ…)」
しばらくムスッとして楊ゼンが筆を走らせるのを見ていた天化は、悪戯を思いついたようにニヤリと笑った。
つつつっと楊ゼンの背後に歩み寄って、勢いよくがばぁっと抱きついた。
「ぅわぁっ!!」
危うく筆を落としかけて、何とか落とさずに済んでほっとしたのも束の間、
ぺろっ。
「ひゃっ!?」
突然首を舐められて、楊ゼンは今度こそ筆を硯へ落とした。
「ふーん、楊兄って意外と感じやすいんだ」
「ば、バカ!いきなり首筋舐められて驚かない人間がどこにいるっ」
「あ、そっか」
納得したようにぽんと手を打って、天化は言った。
「…って、そんなことはどうでもいい!なんでこんな事するんだっ」
「楊兄が構ってくんないから」
「~~~子供じゃないんだから…っ」
「今は子供さ♪」
ぎゅううううっと抱きしめてくる天化に、楊ゼンは本気で呆れた。が。
するっ・・・
「わ、ぁっ!!ど、どこに手入れてんの、天化っ!!」
ばしぃっとその不届きな手をひっぱたいて、楊ゼンは慌てて衣服を正す。
「んー?そんな怒るホドのコトさー?楊兄がいっつも俺っちにするコトじゃん」
はたかれた手を振りながら、天化はしたり顔で言う。
「ぐッ…」
事実だけに言い返せず、楊ゼンは言葉に詰まった。
「たまには俺っちにさせてくれてもいーさー?」
「い、今は仕事中だろうっ!」
「シゴトチュウ、ねぇ……そいじゃーお聞きしますけど?俺っちが夜の見張りだった時、楼上ってきて俺っちとヤったのは、どこのどなたでしたっけ?」
「ううっ!!(;;)」
これも事実だ。
「でっ、でもっ、今は昼…っっ」
「へぇーぇ?俺っちがそー言った時、確か楊兄はそんなんどーでもいいとかのたまって結局最後までやったよな?」
「…っ、天化っ!君、性格歪んだんじゃないのかっ!?」
「そりゃーアンタの恋人やってりゃ、歪みもするさ。なぁ、天才道士サマ?」
楊ゼンの肩に腕をのせて、にぃっと笑ってみせる天化。
「……昔はあんなに純粋で可愛い子だったのにねぇ」
「そんだけダマしやすかった、ってコトっしょ。それに、俺っちをこんな風にしてくれたのは楊兄、アンタさ」
「そう言えば、そうだね……」
諦めのような、納得のような吐息を漏らすと、楊ゼンは身体の力を抜いて、椅子にもたれかかった。
「さっすが楊兄。俺っち、楊兄のそーゆートコ、大好きだぜ」
楊ゼンの座っている椅子の後ろから手をのばして、胸のジッパーを下ろしながら、天化は言う。
「それはどうも。…大変な恋人を持ったものだよね、お互いにさ」
「ああ、全くさ」
恋人のせいで、純粋さを失った天化と、
そのしっぺ返しをくらった楊ゼン。
うわべだけの、身体だけが重なり合う行為。
「感謝してるんだぜ楊兄、俺っちにこんなコトまで教えてくれてさ」
楊ゼンの白い肌に手と舌とをはわせながら、天化はぼそりと呟いた。
<了>
〈作者様あとがき〉
なんか、送ったあとで「ああっ、楊ぜん受けなんて送ってしまってよかったのか!?」とビクついておりました。
だって蒼月さんの楊ぜんは最強(え?)だから(笑)←笑うな
でもこうして蒼月さんのHPに名を残す事ができて私は幸せです!はい! それでは!!
蒼月さん、これからも最強な楊ぜんさんを書き続けてくださいね♪(何だそりゃ)
〈管理人のあとがき〉
ううーっ!とんでもないです!蒼月は自分で書けないだけで(おい)楊ゼン受け大好きです!
いいですよねぇ、攻め気な天化君……たまには仕返しをしなくては(笑)
それにしても、こんな勝手な題名をつけてしまってごめんなさいです……(TT)