大井荘司入道御書

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大井荘司入道御書の概要

【建治二年二月、大井荘司入道、聖寿五十五歳】 
柿三本・酢一桶・くぐたち・土筆給ひ候ひ畢ぬ。
唐土に天台山と云ふ山に竜門と申して百丈の滝あり。此の滝の麓に、春の初より登らんとして多くの魚集れり。千万に一も登ることを得れば竜となる。
魚、竜と成らんと願ふこと、民の昇殿を望むが如く、貧なるものの財を求むるが如し。仏に成ることも亦此くの如し。
彼の滝は百丈、早き事、合張の天より箭を射徹すより早し。此の滝へ魚登らんとすれば、人集て羅網をかけ、釣をたれ、弓を以て射る。左右の辺に間なし。
空には■・鷲・鵄・烏、夜は虎・狼・狐・狸何にとなく集て食ひ噬む。仏になるをも是を以て知りぬべし。
有情輪廻生死六道と申して、我等が天竺に於て師子と生れ、漢土日本に於て虎狼野干と生れ、天には■鷲、地には鹿蛇と生れしこと数をしらず。
或は鷹の前の雉、猫の前の鼠と生れ、生ながら頭をつつ(啄)き、ししむら(肉)をかまれしこと数をしらず。
一劫が間の身の骨は、須弥山よりも高く、大地よりも厚かるべし。惜き身なれども、云ふに甲斐なく奪はれてこそ候ひけれ。
然れば今度法華経の為に身を捨て、命をも奪はれ奉れば、無量無数劫の間の思ひ出なるべし、と思ひ切り給ふべし。穴賢穴賢、又々申すべし。恐恐謹言。
建治二年丙子  日蓮花押 
大井荘司入道殿 

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