問注得意抄
| 問注得意抄の概要 【文永六年五月九日、富木常忍他、聖寿、真筆−完存】 土木入道殿 日蓮 今日召し合せ御問注の由承り候。各各御所念の如くならば、三千年に一度花さき菓なる優曇華に値へるの身か。西王母の薗の桃、九千年に三度之を得たる東方朔が心か。 一期の幸何事か之に如かん。御成敗の甲乙は且らく之を置く。前立て欝念を開発せんか。 但し兼日御存知有りと雖も駿馬にも鞭うつの理之有り。今日の御出仕、公庭に望ての後は、設ひ知音為りと雖も傍輩に向て雑言を止めらるべし。 両方召し合せの時、御奉行人、訴陳の状之を読むの尅、何事に付けても御奉行人の御尋ね無からんの外一言を出すべからざるか。 設ひ敵人等悪口を吐くと雖も、各各当身の事、一二度までは聞かざるが如くすべし。三度に及ぶの時、顔貌を変ぜず、麁言を出さず、軟語を以て申すべし。 各各は一処の同輩なり。私に於ては全く遺恨無きの由、之を申さるべきか。 又御供の雑人等に能く能く禁止を加へ、喧嘩を出すべからざるか。是くの如き事、書札に尽し難し。心を以て御斟酌有るべきか。 此等の矯言を出す事、恐を存すと雖も、仏経と行者と檀那と三事相応して一事を成さんが為に、愚言を出す処なり。恐恐謹言。 五月九日 日蓮花押 三人御中 |