法華玄義
(ほっけげんぎ
) 関連語句 智顗
。法華玄義釈籖 十巻。具さには『妙法蓮華経玄義』といい、『法華玄』『妙玄』『玄義』『玄』とも略称される。天台大師智顗(538~97)説、章安潅頂(561~631)記。『法華経』の深い趣旨は妙法蓮華経という経典の題名の中に包含されているという観点から主に経題を解釈しながら、『法華経』の優秀性とその根拠などを明示しようとしたもの。『法華経』の一文一句を解釈した『法華文句』とは一具となるところから、「玄・文」と略並称される。また、智顗が『法華経』の根本理念に基づいて仏道修行の方軌を明かした『摩訶止観』と合わせて天台三大部と呼ばれ、天台教学の基本文献として重視されている。 本書は釈名・顕体・明宗・論用・判教の五重玄義を用いて題号の意義を明かし、同時に『法華経』の内容を総括的に摘記している。冒頭の序には私記縁起・序王・私序王・譚玄本序が収録され、その後の全体は大きく通別の二釈に分けられる。まず≪通釈≫では五重玄義の概要を七番共解(標章・引証・生起・開合・料簡・観心・会異)をもって解釈している。第一・標章では五重玄義の名を標示し、第二・引証は『法華経』の文を引いて典拠を示し、第三・生起では五重玄の順序・関連を示し、第四・開合では五重玄の内容を種々分析してその意義を解説し、第五・料簡では五重の一々に問答を設けて考察し、第六・観心は五重玄を己心に収めて観ずることを明かし、第七・会異では種々の異名を五重玄に収めている。この七番共解により五重玄義の概念を示し、次いで≪別釈≫に入って各玄義を詳述している。 ①釈名。妙法蓮華経の五字の経題について詳釈して、本書の大部分(巻一下より巻八上まで)を占めている。まず妙法の二字を釈す。法の字については、法界の一切諸法を心・仏・衆生の三法に収め、衆生法について十如是の三転読文によって三諦円融の義を明かし、百界千如に約して法界の円融平等無碍の理を説いている。妙の字については、まず通じて相待妙・絶待妙の二妙を示し、次いで迹門十妙(境・智・行・位・三法・感応・神通・説法・眷属・利益)と本門十妙(本因・本果・本国土・本感応・本神通・本説法・本眷属・本涅槃・本利益)を説き、その間に六重本迹(理事・理教・教行・体用・権実・已今)を述べる。次ぎに蓮華の二字については、権実不二の妙法に喩える譬喩蓮華と『法華経』の法門が清浄で因果微妙である旨を顕わす当体蓮華の二義を示し、迹本二門それぞれに三喩を設けて開顕の妙義を説いている。また、仏界の十如是と迹門十妙・本門十妙を蓮華でもって喩え、妙法の説明には蓮華の譬喩が必要である旨を論じている。 ②顕体。従来の一乗や真諦などを体とする解釈を斥けて、境に約しては諸法実相、智に約しては仏知見を経体とする。 ③明宗。単の因果を宗とする光宅法雲の説を斥けて、迹門では開権顕実・迹因迹果、本門では発迹顕本・本因本果という二門の因果を宗要とする。 ④論用。妙法蓮華経の功徳力用を説き、迹門の十重顕一、本門の十重顕本による断疑生信を力用とする。 ⑤判教。南三北七の諸師の教判を斥け、五時八教判を立てて妙法蓮華経が五味(乳・酪・生蘇・熟蘇・醍醐)の中で最高の醍醐の経であると説いている。 本書の末尾には筆録者である章安潅頂の雑録があり、本文中にも明らかに潅頂の増補と見られる部分があり、本書すべてを智顗の講説と見ることはできないし、またその両者を判別することも困難である。冒頭の「私記縁起」の記述から、本書は開皇十三年(593)荊州玉泉寺における講義筆録であることが知られる。本書の詳しい注釈書として、妙楽湛然の『法華玄義釈籖』十巻がある。 |