日本語版は“本当に”必要なのか?

 第9回国民投票の結果を踏まえて「日本語版は“本当に”必要なのか?」を再度考察してみます。

● 日本語版の実態

 私が知る限り、今まで日本国内ではデュエリストの何割位が日本語版ユーザーであるかという統計結果が出た事は無かった気がします。日本語版はご存知の通り並行輸入の英語版に比べてかなり高値設定になっていて、そのため統計を取るとメーカー側に不利な結果が出る事を嫌ってあえてリサーチをしていなかったとすら思われます。そして今回(私が知る限りでは始めて)ある程度信憑性のある統計データが出たと思われるのですが、その内容は「実は日本語版を買っているのは日本人デュエリストの半数程だ。」という結果になりました。また英語版をメインに買っていると思われるデュエリストを合わせると、実に7割のデュエリストが日本語版に依存せずに Magic を遊んでいるという結果になりました。今まで我々は「日本語版は日本国内での Magic 普及には必要不可欠な物だ。」という意見を持ってきました。これに関しては私自身も異議を唱える物ではありません。でも今回の投票結果は明らかに、そういう我々が持っている常識を疑ってかかるべきだと言っています。恐らく英語版をメインに Magic を買っている方々も、積極的な理由で英語版を選んでいる人達ばかりではないでしょう。でも結果的には7割の人間が英語版をメインに Magic を遊んでいて、それでちゃんと事足りているのです。

● 見直されるべき常識

 これは少し前に日本語版の件が話題になった時に私が書いた意見の繰り返しになりますが、要するに「我々はなぜ日本語版が必要だと感じるのか?」をもう1度見つめ直すべきだと思います。日本語版に関してよく言われる意見としては「初心者が英語の壁を超えるのは大変だから日本語版があると便利だ。」という物です。確かに我々の視点から見るとそうなのかも知れません。しかしそれじゃあ我々が初心者に日本語版を勧める事は、彼らに取って本当に親切になっているのでしょうか?。

 もう耳にタコ状態の方も多いでしょうが (^^; 日本語版は並行輸入の英語版に比べてかなり割高です。我々が1パック¥300で Magic を買いつつ、それで初心者に1つ¥500のパックを勧めるというのはある意味本末転倒なのではないでしょうか?。だって初心者に日本語版を勧める人の何割が、ご自身で日本語版を買ってますか?。それで自分では買わないという方は、その主な理由は「高い!」なんじゃないですか?。そうやって自分では買わない物を人に勧めるのはやっぱり変です。ちなみに私個人は現在では絶対に日本語版は買いませんし、従って絶対に初心者にも勧めません。自分で買いたくなるだけの魅力の無い商品を人に勧めるのはあまりに無責任だと思うからです。

 それと時々書いている“余剰カード”の問題もあります。初心者に取ってはタダで Magic が始められるならこんなに良い話は無い訳で、それ故我々は自分では不要なコモンカードや基本地形も箱にストックしておいていつでも再利用できるようにしてあるのです。当然日本語版を買うよりも(並行輸入の安い)英語版を買った方が余剰カードは大量に出ます。それを初心者に渡して Magic を始めてもらうのと、いきなり「初心者はまず Standard だ!」と言って日本語版をBOX買いさせるのとでは、どちらが初心者に取って優しいかなんて議論する必要性すら私は感じません。

 要するに“現状の価格設定の日本語版なんて誰に対しても勧められる物じゃない”という事です。それで日本人に物凄い英語アレルギーがあって Magic 普及に重大な支障が出る可能性があるならともかく、実際には7割のデュエリストが英語版をメインに Magic を楽しんでいるのです。私に言わせると、むしろ現状の日本語版があるから日本の Magic 普及は遅れているのではないか?、そういう気さえしてしまうのですが。ただしこの話は決して日本語版をメインに Magic を楽しまれている方々を差別する目的を持たない事だけは付け加えておきます。日本語で書かれたカードが良いから高くても買う。これはこれでデュエリストとしてちゃんと考えた上での選択になっているのです。

● 日本語版が招くライトユーザー化とその弊害

 それと日本語版(の価格設定)が“日本人デュエリストのライトユーザー化”を招いていると私は感じています。これはメーカー側から見るとあまり影響が無いかも知れないのですが、販売店側から見るとかなり大きな影響を受けます。

 例えばある販売店に、毎月¥1000分の Magic を買うお客さんが100人いたとします。このお客さんから得られる毎月の売り上げは10万円になりますが、これでは到底店が維持できる訳がありません。ところが万が一この店が16席程度のデュエルルームを持っていたとすると、恐らく週末はこの100人のお客さんが入れ替わり立ち替わりやって来て常に一杯になります。つまり店は毎月数万円の維持費を負担して10万円しか物を買わないお客さんのサポートをしなければ行けなくなるのです。私が前から「メーカーがライトユーザーを相手に商売をする事にはメリットが無い。」と書いている理由がまさにこれです。

 つまり店側としてはお客さんの数を100人から1000人に増やすよりも、1人のお客さんが買ってくれるカードの量を¥1000から¥10000にしたいのです。しかしここで日本での価格設定が邪魔をします。ちょっとでも割高感を感じた商品に我々は気軽に投資できないのです。これは私も実際に Magic を売っていた経験があるので分かるのですが、1つ¥500のパックは1つしか売れなくても、同じお客さんが1つ¥400のパックを見ると2つ買うのです。ついでに言うと1つ¥300のパックは3つ4つと売れるのです。これがいわゆる“デュエリストのヘビーユーザー化”の第一歩になるのですが、日本の Magic にはこれができていないのです。

 確かにメーカーの視点から見れば、 Magic という商品がより多くの人達に購入される事は喜ばしい事なのかも知れません。マスコミには「 Magic は日本でも○○○万人に親しまれている!」とか大々的に宣伝できるのですから。しかしその購入者に直接対応する販売店側はそれこそ青息吐息です。しかも日本国内の価格設定は販売店毎の競争すらさせてくれませんから、他店との差別化で客を独占する事も難しいのです。つまりライトユーザーを主眼に置いた今の Magic の売り方は、販売店に「死ね!」と言っているのに限りなく等しいのです。ちなみに言うと私が最近のカードイラストを問題視している理由の1つもここにあります。あのイラストではコアユーザーとなりうるコレクターが現れないからです。あと「 Magic は小中学生向きの遊びじゃない。」等といった意見も、その根元はここにあったりするのです。

 またデュエリストがライトユーザー化するという事は、イコール“競技 Magic のレベルが上がらなくなる”事も意味します。確かに雑誌等で煽れば皆“勝利至上主義”に走って強力なカードを欲しがるでしょう。しかしそういう動機付けで Magic を遊んでいる人間がそれこそ世界に通用するようなトッププレイヤーになれるなんて私には到底思えないです。何よりもそういうデュエリストは「あのカードには手が出ないから止めた。」になると思います。あるいはそれこそ並行輸入に手を出して“日本国内の市場に全く貢献しないコアユーザー”になるかの2択でしょう(笑)。

● 市場原理という話

 これから書く意見は私の“日本語版不買運動開始宣言”では決してない事を最初にお断りしておきますが (^^; 私としては是非とも日本語版ユーザーの皆様に「自分は今後も日本語版を買い続けるつもりなのか?」を今一度考えて頂きたいです。また日本語版を例えば初心者に勧める方々にも「本当に日本語版を勧めて良いのか?」を見つめ直して欲しいのです。はっきり言っちゃいますが、1パック¥500の日本語版がこの先も売れ続ける限り、間違いなくWoCが日本語版の値下げを決断する事はあり得ません。つまり現状を変えたいのであればまずあなた自身が変わるしかないのです。

 「でも日本語版(=国内ルートで流通しているパック)を買わないと近所の店との関係が気まずくなる。」そういった危惧はあるでしょう。そういう時に最近私は「自分が知っている並行輸入ルートやシングルカード購入のルートを知り合いの販売店に開示してしまう。」という方法をお勧めしています。要するに自分がいつも買っているサイトを知り合いの販売店に教えてパックやカードをそこから仕入れてもらい、自分はそれを販売店を通して買うのです。そうすれば確かに自分は今までよりもちょっと割高な買い物をする事になりますが、でもそういうサイトの安いカードの恩恵をその店のお客さん全員で受けられます。(実際には販売店がまとめ買いする事で意外と安くなったりするはずです。)何よりも自分が住む地元の販売店とこれ以上深い連携はないでしょうから、ひょっとすると今までに無かった新しいサポートやサービスを受けられるようになるかも知れません。まあ万が一並行輸入で仕入れた英語版を¥500で売るような店があったら、そういう店とはとっとと縁を切る事をお勧めしますが(爆)。

 「この意見のどこが“不買運動”じゃないねん?」という大阪弁の突っ込みを食らいそうですが (^^;;; この話の最終目標は“我々がより買いやすい日本語版を手に入れる”所にあるのです。要は日本国内で売られる英語版の一般的な価格を今よりも遙かに引き下げてしまうのです。多分こういう形で英語版の値段が下がると、ほぼ自動的に日本語版ユーザーだったデュエリストも英語版に手を出すようになります。そうすればいずれ(WoCという会社がバカでなければ)日本語版も“市場実勢に見合った適正価格”になるはずなので、そうしたら皆で買い始めればいいのです。ただその際も「また値上げしたら英語版に戻るからな!」という脅しは常にかけておく訳ですが。 (^^;;;;;

 私が見ている限り、小学生であっても英語版カードを案外器用に使いこなしています。我々は自分自身の経験から「後進のデュエリストにも英語アレルギーがあるに違いない。」という先入観を持ってきた訳ですが、でも実際には皆さん何とかやっているのです。こういう時に日本には良い言葉があるじゃないですか。「案ずるより生むが易し」ってね。

● 小さな事からコツコツと

 ・・・まあ、要はそういう事です(笑)。とにかくWoCに「日本人デュエリストは賢く Magic を遊んでいるんだぞ。」という所を見せる事なのです。それは例えば私がこういった意見をインターネット上で発表したりするのと基本的には同じです。自分達は Magic が好きだ。でもWoCに対して言うべき事は言うし、自分の信念に従って行動する。だから我々に日本語版をもっと支持して欲しければ、WoCもそれ相応の対応をしなさい。そういう事なのです。

 多分一部の方には、私が書く意見がかなり過激な物に映るかも知れません。でも実際には多くの販売店や個人が(結果的には)私が今文章で書いた行動を既に実行に移しているのです。そして今はそれが日本の Magic 全体の流れになりつつあるのです。ただ私はそういう中でも“デュエリストと販売店との共存共栄”を図りたい訳です。販売店のサポートが無い Magic は本当に遊びにくい物です。だから私としてはデュエリストと同じように販売店にも Magic で潤って欲しいのです。

 そしてこの話は、実はWoCに取っても悪い話ではないのです。だって結果的に Magic は売れてるんだから(笑)。というか、下手するとWoCから見た日本での Magic の売り上げって以前よりも増えるかも知れない訳です。ただ並行輸入業者が仕入れる Magic って、ちゃんと日本国内で消費されたという認識がWoCでなされているかが不明ですが。 (^^;

 日本人デュエリストの中には Magic 普及に志ある方々が多くいらっしゃいます。ですから日本語版が安くさえなれば、それで多少メーカーからのサービスやサポートが減っても何とかできるだけのバイタリティがあるのです。ただ残念な事に現状の価格政策は明らかに日本のデュエリストと販売店の体力を奪い去る物にしかなっていません。私は単にそういう現状を変えたいだけなのです。


   
なお、このページの内容に関する文責はすべて私 あいせん にあります。