M:tG 経済学入門(!?)

 最近掲示板の方で“ M:tG (フレッシュパック)の日本国内での価格設定”に関する話題が出ています。ただどうもそういう話題って“買う側”からしか見ない場合が多くて、“売る側”の事情も知っている私のような人間から見ると、より実状にあった論議にはなかなかならないという印象があります。そこで今回はその辺の話と「 M:tG はいくらで売るのがよりベターなのか?」も含めた私なりの持論を書いてみます。

● 日本での M:tG の実勢価格

 今回の話は日本での M:tG の流通に関する基礎知識がないと理解し難い話なので、本題に入る前に“基礎講座”から始めます。

 日本での M:tG の実勢価格は地域によってまちまちのようです。大都市圏やインターネット等での無店舗販売では、最近では並行輸入による安い英語版を販売する店舗が増えているようで、そのためフレッシュパックの値段はかなり安くなっているようです。1BOX=14000円程度、あるいはそれ以下という店も見られます。1パックに換算すると400円を切るかどうかが1つの分かれ目(中には1パック=300円という店もチラホラ)というところかな。ただ日本語版に関しては1BOX=14400円(1パック=400円)を切るのはなかなか難しいと思います。無店舗販売等で諸経費を極限まで切り詰めればいけそうですが、デュエルルームやイベント等でサービスやサポートをしようと思うと、流石にそれでは厳しくなります。

 これに対して大都市圏以外の中小都市の普通の販売店では、やはり定価売りが一般的です。規模もそれ程大きくない上に仕入れ上の問題もあって(詳細は後述)、値引き販売は非常に厳しいです。言い換えると我々地方のデュエリストは既に日本国内で“価格差によるハンデキャップ”を抱えています(笑)。そりゃ安い店で買いたいのはやまやまですが、でも地元の店も大事にしないといけないし・・・という感じです。そういった販売店の協力無しでは我々は M:tG を楽しめない訳ですから。

● 一般的な M:tG の仕入れの仕組み

 販売店が代理店に「 M:tG を扱いたい。」という連絡をすると、代理店から問屋を1件紹介されます。(大抵はTRPG時代から代理店と付き合いのある問屋のようです。)ただその問屋が品薄になる事もあるため、販売店は大抵それとは別の問屋とも取り引きをします。(なぜか向こうから仕入れの打診が来ます。 (^^; )すると“掛け率(定価に対する卸売価格の比率)の高い問屋からもフレッシュパックを仕入れざるを得ない”という問題が発生します。例えば掛け率が60%と70%の問屋があったとして、いつもは60%の問屋からだけ仕入れてそっちが品切れになったら70%の問屋から・・・と、そう世の中甘くはないのです(笑)。ですから取り引きを継続するために両方の問屋からコンスタントにフレッシュパックを仕入れる事になり、自動的に販売店から見た掛け率は高くなるのです。これは例えばおもちゃ屋等も同じ問題を抱えていますが、業界全体がそういう体質になっているため、もはや仕方のない事のようです。 (^^;

 こういう柵は“購入者が英語版をメインに買うようになると一気に解決する”問題です。英語版ならこっそりと並行輸入業者に頼んで仕入れれば、日本国内の流通価格より遙かに安い値段で仕入れる事が可能だからです。ただ地方のデュエリスト達はやっぱり日本語版をメインに買うため、どうしても仕入値の高い日本のルートから買うしかないのです。逆に言えば代理店が日本語版を積極的に売りたがる理由の1つがここにある訳です。日本語版を安定的に仕入れるための“顔つなぎ”のために、英語版も同じルートから仕入れてくれるからです。

 あと地方の書店等が M:tG を扱う際は“本当の目的が M:tG にはない”場合もあります。 M:tG の取扱店になると、代理店が発行する出版物が優先的に入荷する仕組みになっているそうで、それ目当てに M:tG の取扱店になる書店も少なくないようです。ただそういう書店は日本で M:tG を普及させるための戦力にはなりそうもないので、この際無視してもいいかな?、とは思います(ぉ。

●  M:tG で儲けるには?

 さて、基礎講座はこの位にして本題に入りましょう。

 今日本国内での M:tG のフレッシュパックは、定価で1パック=500円(税別)となっています。言うまでもないですが、税込みだと525円です。 (^^; 実はこの値段は消費者に取っては非常に取っつきの悪い物です。何よりも“ワンコインで買えない”&“1000円で2パック買えない”のが致命的でして、その割高感から日本の M:tG の売れ行きは鈍っていると私は公言して憚らない位です。それで1度M福井時代に店長にお願いして最新の基本セット/エキスパンションを税込みで1パック=500円にしてみたところ、明らかに売れ行きが変わって結果的には売り上げがアップしました。簡単に言ってしまうと「今まで1パックしか買わなかったお客さんが2パック買ってくれるようになるケースが増えた。」という事です。まあ実際それで売り上げが2倍になる程世の中甘くはないですが(爆)。

 しかし、このやり方がすべての M:tG 販売店に適用できない事情があります。それが先程書いた“掛け率”の問題です。例えば掛け率=65%で定価売りの場合は1パック当たりの粗利(諸経費を含めない単純な利益額)は175円ですから、税込み500円にしてもまだ152円の粗利が残ります。ところがこれが掛け率=75%の問屋から仕入れている店では定価売りの時点で粗利が125円に落ちていて、更に割引をするとこれが102円に落ち込んでしまいます。掛け率=65%の定価売りの店と比べると粗利が59%足らずしかありませんから、これを数で補おうとすると約1.7倍も売らなくてはいけなくなります。従ってどう考えても普通の日本の M:tG 販売店が値引き販売をするのは“馬鹿馬鹿しい”という結論に至るのです。流石にたった25円の値引きでお客さんが1.7倍になる訳もないしねぇ。 (^^;

 ところがここで定価を税別で1パック=400円にしたとすると、例え掛け率=75%の問屋から仕入れたとしても粗利は1パック当たり100円あります。つまり販売店が1パック=500円の時代に頑張って25円の値引きをした時とほとんど変わらないのです。しかも販売価格が税込み420円になる事で売上数量は確実にアップしますから、結果的に販売店は頑張り次第で M:tG で潤うようになるのです。 M:tG がその販売店の主力商品となれば、今まで何もして来なかった販売店も何らかのサポートやサービスを考えるでしょうから、結果的にその地域の M:tG 全体が活性化するのです。私が「日本国内での M:tG の『定価』を下げましょう!」と言っているのはそういう理由からなのです。

 余談ですが、最近 M:tG のフレッシュパックの掛け率は低めに抑えられる傾向にあるようです。ただこれは「 M:tG の人気が一時期程ではなくなっていて、高い掛け率を提示しても誰も仕入れてくれない。」という、業界にとってはネガティブな理由による物のようです。こういうのってイベントのダフ屋と同じで (^^; ある意味で“その業界が元気が否かのバロメーター”な訳です。ただ実際はそこに“メーカー/代理店の出荷調整”等というドロドロした話が絡んでくるのですが、それは折りがあれば次の機会にでも(やるんですか!? (^^;;; )。

● 日本での M:tG の適正価格

 それでは具体的に“日本での M:tG の適正価格”っていくら位なのでしょうか?。流石に私個人ではそれを厳密に求めるために必要な情報収集(サンプリング)は無理なので、ここは私個人の経験の基づく主観レベルで書いておきます。

 フレッシュパック1パックの値段に関しては、私は経験的に“1パック=税別400円(つまり税込み420円)”という数字を持っています。最近の日本の M:tG 人口が低年齢化している事を考慮すると、現在の価格設定は明らかに高すぎます。でも今は1パック=300円で英語版が買える時代なので人によっては「そんなの高すぎるって!」とおっしゃるかも知れませんが、日本の販売店が M:tG でそれなりの利益を出しつつサービス等もしていこうとすると、逆にこれ未満にはできないでしょう。あとここから更に50円程度値段を下げても、経験上店側の負担が大きい割には売り上げにはあまり影響しないです。

 あとBOX買いの事を考えると、この価格設定なら1BOX=14400円(税別)となります。一見するとまだ並行輸入の物に比べて割高感を感じますが、例えば販売店側で“2000円分の金券をサービスする”といった方法を取れば、並行輸入のカードにも十分対抗できます。この程度の差ならわざわざ安いカードを買うために輸入や通販といった物のリスクを背負う必要はあまり感じられなくなりますから、今そちらに流れてしまっているお客さんを呼び戻す事も十分可能でしょう。

 つまり私から見て M:tG の価格には“理想と現実の間に100円のギャップがある”という事です。ただいわゆる無店舗販売等で経費を切り詰めている(言い換えると何のサポートもしない)販売店であれば、ここから更に例えば税込み350円なんて価格設定をして頂いても面白いかと思います。この位の価格帯になると各販売店もその店の独自色を出した販促等が活発にできて、業界そのものがかなり面白くなる気がします。私に言わせると1パック=400円は“頑張れば売れる(販売が伸びる)”価格なのですが、逆に1パック=500円は“頑張っても売り上げは伸びない(新規ユーザーの獲得が非常に困難な)”価格になってしまっているのです。

● “100円の払い方”にも色々ある

 あと私個人はこの“理想と現実の間の100円のギャップ”に関して、単純な値引き以外にも“払い方(還元の方法)”があるだろうと考えています。それがいわゆる“サポートやサービス”と言われる物です。

 はっきり言ってしまうと、我々がメーカーや販売店から適正な価格で商品を提供してもらう場合、それ以上のサポートやサービスは(修理やメンテナンスといった最低限の物を除いて)必要ないのです。だって我々はその値段でその商品が買える事で既に満足している訳ですから。しかし、私が得ている感触では今の日本の M:tG の価格に満足しているデュエリストなんて(皆無とは言いませんが)極少数です。だってそうでなければ、こんな片田舎に住む人間の書く“ M:tG に関する戯れ言”を読みに、1日100人以上の人達が来たりはしません(笑)。またそれは販売店にしても同じはずです。まあお店の方々は様々な理由からそれを口には出さないけど。(私が喋りすぎてる、とかいう話はこの際忘れましょう《爆 (^^; 》。)

 今までずっと見てきた様子だと、代理店は何があっても M:tG を値下げする気はないようです。でも、このままでは間違いなく日本の M:tG 販売店は並行輸入による安いフレッシュパックに押されて潰されてしまいます。だから私は「日本での M:tG の販売価格を“購入者が納得する適正な物”にして、日本国内の販売店が M:tG の販売を続けられるようにして下さい。」と言っているのです。「HJがあくまで1パックに500円払わせる気であれば、購入者が並行輸入の300円のパックを買わずにそちらを買う事を納得できるようにして下さい。」私は一貫してそう言っている訳です。これって単なる消費者の我が儘なのでしょうか?。

 実は私も今は1パック=300円を切るような値段でのフレッシュパック入手が可能になっています(最近私は買わないようにしていますが)。そこをあえて1.6倍ものお金を出す事を納得させるのはかなり至難の業です。それこそ“WoCやDCIすらやっていないようなサポートやサービスが必要になる”と私は思うのです。私がHJやDCIJに辛口の苦言を書き続けるのはそこなのです。それができないなら販売価格を米国並にしないと、そのうち日本人は誰も日本国内でフレッシュパックを買わなくなりますよ!。少なくとも今日本のデュエリストがHJから受けているサポートやサービスは、明らかにWoCが米国で行っている物より劣ります。何せ日本では情報誌は有料で(笑)、救済プログラムは実施されず、アリーナ・リーグみたいな面白い企画もなく、おまけにフォイルのセラすらもらえないんだもん(結局それかい! (^^; )。

 あと「サービスやサポートは販売店も責任を負うべきだ。」という考え方もありますが、私は今日本の M:tG 販売店(特にHJ経由でしかカードを仕入れていない店)にはそんな体力はないと感じています。1パック525円のフレッシュパックはそんなに数売れる物ではないですから、やはり店としてはそこまで力は入れないでしょうし、入られないというのが現実だと思います。1回のイベント開催に1万円かかるとして、それだけの経費を捻出するのにどれだけ販売店が大変な思いをするか・・・。少なくとも定価売りで細々とやってるような販売店にはどう転んだって無理難題なのです。

● “三方一両得”な世界を築くために

 私も M:tG に色々な形で携わっている人間なので、メーカー・代理店/問屋・小売店/そしてデュエリスト達全員が M:tG という物で恩恵を受けるような環境を日本に作りたいのです。そういう観点から日本の M:tG 市場を見ると“今の M:tG はコスト・パフォーマンスを満たしていない”という結論を出さざるを得ないのです。だから日本の M:tG には元気がない、私はそう考えています。

 江戸時代の大岡越前の名裁きを象徴する言葉に“三方一両損”という物があります。私は今の日本の M:tG って“目の前にある金を誰かが独り占めしようとするが故に話がおかしくなっている”という気がしてなりません。ですがこういう趣味の世界は誰が損しても駄目だし成り立たないです。 M:tG に関わる人達すべてが笑って M:tG の話ができる世界、いわば“三方一両得”な世界を築かないと駄目だと私は思っています。私は別にWoCやHJに「 M:tG で儲けるな!」と言っている訳ではありません。むしろ逆で「もうちょっと工夫すれば、更に儲かるのになぁ。」と考えていて、そのための提案を素人なりにしているだけなのです。

 例えばの話、発売されて半年も経った基本セットやエキスパンションって、間違いなく市場での人気は下がっています。そういうカードって買う側も手が出しにくいし、従って販売店側も仕入れにくいのです。そういった物を卸売価格の段階から値下げする事すら代理店はする気がないのですかねぇ?。それが実現されれば、販売店に取っても購入者に取ってもかなり M:tG というTCGが“付き合いやすい遊び”に変わると思うのですが。お金が無いなら値下がりするまで待てばいい訳だし。

● 頑張れ!“日本の M:tG ”

 本音を言ってしまうと、今の日本で M:tG を続けようと思うと、どう考えても“英語版に手を出して並行輸入業者から安く買う”のが賢い選択なのです(爆)。ただそれでは近所のデュエルルームが無くなったりして不都合が起きる、でも今はそれを食い止めるための策が何一つ取られていないのです。販売店の頑張りにも限度という物はありますし、ましてやきちんとしたサポートを考える販売店はその分経費がかかるので尚更辛いのです。もうそろそろ日本国内の M:tG 業者が、安い輸入カードに対する明確な“対抗手段”を提案/実行すべき時期が間違いなく来ています。それもメーカーと組んで圧力をかけるといった公取委に睨まれるようなアンフェアなやり方ではなくてね(爆)。

 しかも代理店の一連の販促って、結局は“日本語版を買わせる=自社の利益を最優先した販促”しかしていないのです。日本の販売店の事を配慮しているようで配慮していないと私には思われます。もうちょっと販売店とお客さんが一体になれる(一緒になってその話題で盛り上がれる)ような販促プランを出して欲しいのですが。代理店がキャンペーンを始める度に店に“ゴミ漁り”が現れるのでは困るのですよ(嫌爆)。そういうキャンペーンの具体的なアイディアですが・・・う~ん、代理店がその辺の話に聞く耳を持っていそうな会社だったら真剣に考えてもみるのですがねぇ。 (^^;;;;;

● 蛇足 ~こんな販売店なら無くなった方がまし~

 ちょっと蛇足になりますが、最近ある方からS県にあるPという M:tG 販売店の情報が入って来ました。この店は「初心者のお客さんを騙して、人気筋のレアカードをコモンカードとトレードする。」「アンソロジーのアーナムジンの枠を黒く塗ってトレード&販売する。」「コレクション目的でカード価値の分からない女性に親切心を装ってカードを押し付け、後で2万円程請求してみる。」という行為を働く“店員”がいるそうです(爆)。私は過去の記事を一貫して「 M:tG 販売店のスタッフは信用できる(頼れる)存在だ。」という前提で書いているので、それを崩されるこういう店員(販売店)の存在はかなり許せません。

 実際私の周囲にも“評判の悪い店”はあります。はっきり言いますが、私はそういう店まで M:tG で儲けて欲しいとは微塵も思いませんし、むしろ私個人は「そういう店は無くなればいい。」とさえ思います。ですが私が ぎゃざる でそういう店の実名を公開して営業妨害をする事には法律上の問題があるので、私としては“その周囲にある『やる気のある販売店』をサポートする”という形で、結果的にそういう店に猛省を促していこうかと考えています。実は今密かにそれに向けての準備を進めているので、近々福井県以外の M:tG 販売店に我々のオリジナル商品が並ぶ事になるでしょう。


   
なお、このページの内容に関する文責はすべて私 あいせん にあります。