卵を産まぬニワトリたち 
 
 今回は“ Magic の売上とDCI認定トーナメントの相関関係”というお話を書いてみます。

○ 相関関係を見るためのデータ

 私が調べた限りですと、日本はおろか世界的にも Magic では“売上額と認定トーナメントの開催数は反比例する”という、何とも有り難くない相関関係が成立するようです。まず世界的に見た Magic の売上は、あくまで私個人の推定値ですが以下のようになっています。

☆★☆ MAGIC:the Gathering の全世界での推定売上額 ★☆★
年   度2000年3月期2001年3月期2002年3月期2003年3月期
推定売上額325~370億円440~490億円250~290億円135~155億円
ピーク時との比較約74%---約57%約31%
(個人的な推定値につき、データの転載は禁止します。)  


 これはWoC自身が販売店向けに提示した“世界のTC&TCG市場規模”のデータから、他のTCGで売上データが公開されているタイトル(遊戯王OCG/ポケモンTCG/デュエル・マスターズ)の分を差し引いた残りの一定割合(8割~9割)という形で推定しています。以前はその世界の市場規模というデータが無かったため予想値はかなり不正確な物になっていたのですが、WoCが発表した数値のおかげでデータの精度はそれなりに上がっています。(それでも多少大雑把な推定であることは間違いないですが。特にポケモンTCGの年度毎の売上額があまり正確ではないもので。)ただ計算上 Magic 以外のTCGの売上はかなり低く見積もっているので、 Magic の市場実勢がこれを大きく上回るという事はあり得ないと思います。

 この推定売上額の中で最も精度が高いのは、残念な事にデュエル・マスターズの売上額がはっきりしている2003年度分です。この年度の遊戯王OCGとデュエル・マスターズを除いたTC&TCGの売上額は約170億円程度しかありません。もちろんその“その他”の中に Magic を含む(デュエル・マスターズを除く)すべてのWoC製品、そして(遊戯王OCGを除く)すべての国産TCGが含まれます。ですから繰り返しになりますが、この推定売上額は“これでもかなり高めに読んでいる”とご理解下さって構いません。あと私個人の推定では“日本の Magic の市場規模は全世界の1/6程度”と見ています。これはWoCとHJが過去に発表した Magic 人口のデータに基づいていますが、少なくとも2000年3月期の売上は実際にまあそんな感じです。ただ、その1/6を今や“誰が”売っているか・・・という問題はありますが。 (^^; 

 2003年3月期の推定売上額ですが、実は遊戯王OCGが2003年3月期に日本を含むアジア地域だけで売り上げた額(135億円)とほとんど変わりません。アジア地域での遊戯王OCGの売れ行きはかなり下り坂というか、今や“落ち目になった”と断言して構わない位です。 Magic は今や全世界での売上を合わせて、ようやくその額と肩を並べる事しかできていません。あまつさえ全世界での遊戯王OCGの売上(380億円)は、それこそ Magic のそれを倍以上も上回っていますし。
 さて、では同時期のDCI認定トーナメントの開催数はどうなっているのでしょうか。

☆★☆ DCI認定トーナメントの開催数 ★☆★
 構 築 戦限 定 戦ヴィンテージ合   計1999年との比較

1999年1486825182329---
2000年21761615123803約163%
2001年2984270085692約244%
2002年3467246095936約255%

1999年6039975869016487---
2000年122341211275625102約152%
2001年1523014775113331138約189%
2002年1611514239160131955約194%
(WoCのWebサイトにて検索。)  


 ・・・というように、これがおっそろしい程に増えています(笑)。総数で比較すると、日本での認定トーナメントの開催数は2002年は1999年の実に2.5倍以上。米国でも1.9倍以上の伸びです。確かに1999年~2000年にかけては Magic の売上と認定トーナメントの開催数が共に伸びているという理想状態が見られるのですが、その後の状況は何とも惨憺たる有様です。要するに“DCI認定トーナメントの開催数が倍ほど増えているのに、逆に市場規模はピーク時の1/3になっている”という事です。さすがに私自身も計算した結果を見て顎が外れましたが。 (^^; 言い換えると「 Magic の市場規模の拡大にDCI認定トーナメントは役に立っていない。」という一部デュエリストの主張が、こういう形で具体的なデータによって証明されるに至った訳です。

 それとこれだけもの凄い勢いで認定トーナメントの開催数は増えているのですが、逆に認定ジャッジの数は日本・米国共に減少傾向にあります。特に日本の認定ジャッジの減少はちょっと凄い勢いかもしれません。これを書いている現時点では100名ちょうどだそうなので、下手すると次回の資格更新時期には100名を切るという事態になり得ます。平均すると1つの都道府県辺り2名を切る、そんな可能性もなきにしもあらずなのです。この認定ジャッジの減少って、実はデュエリストそのものの減少をある部分で象徴しているんじゃないか。私個人はそんな気がしています。

 特に推定売上額を算出した根拠ですが、ご希望があれば私が持っているすべてのデータをメールにてお送りします。ただし私の方からお願いした“データ”を取得してお渡し頂ける方を優先します。(私の直接の知り合いとか掲示板の常連さんなどはこの限りではありませんが。)興味がある方は一度お問い合わせ下さい。 m(__)m あと認定トーナメントの開催規模については、WoCのWebサイトで誰でも調べることができます。

○ なんで、こうなっちゃったの?

 「今更終わってしまった過去の話をほじくり返してもしょうがない。」というご意見も多々あるでしょうが、今回は過去の歴史についてもうちょっとだけ掘り返して考えてみる事にします。一度この辺でほじくり返しておかないと、読まれた方々にそれなりの危機感を持ってもらえないのも事実でしてねえ。 (^^; 

 最近思うのですが、競技プレイヤーって結局のところ“おんどり”なんじゃないかと思うのです。確かに Magic という世界を形成する上で、おんどりの存在は欠かせません。でも今の Magic にはカジュアル・プレイヤーとかコレクターといった“めんどり”の存在、要するに卵を産んで(=外の世界からニューカマーを招き入れて)人口を増やしてくれる働きをしてくれる人がどんどん減っているのです。だから一見するとニワトリ小屋は賑やかなんだけど、実はいつまで経っても中のニワトリの数が増えないのです。

 しかも一部の“おんどりもどき”は「俺達が主流派!」とばかりに、めんどりを無理やり性転換させておんどりにしようとしたり、我が物顔で暴れてめんどりを小屋から追い出そうとする。あまつさえWoCやHJまでがおんどりにしかエサを与えず、「エサが欲しけりゃおんどりになれ!」と無理難題を言い出す。これが恐らくは今の Magic の現実でしょう。そのうちおんどりが寿命で死に絶えて小屋が空になるまで、皆さんは今小屋の中で何が起こっているか気が付かないのです。でもそういう傾向が見えてからでは既に遅いでしょう。だってその頃には既に小屋の中には1匹たりともめんどりがいなくなっているかも知れません。皆さんはおんどりだけになったニワトリ小屋で、どうやって卵を産ませてニワトリを増やす気なのでしょうか?

 率直に言ってしまうと「少なくとも販促をほぼ完全に競技イベントに依存する、今のやり方は改められるべきだろう。」と思います。この数年で「そういうやり方には無理があったし成功し得ない。」事がデータで証明されてしまっているのですから。しかも現実は、遊戯王OCGの世界大会はマスコミが取り上げても Magic のそれは取り上げてくれない、それが現実のようですし。(確か ZDNet Japan って、その少し前にGAMES内に Magic の特集コーナーを設けていたはずなんですかねえ。 (^^; 所詮は広告料をもらってコーナー置いていただけで、 Magic への思い入れとかは金輪際無かったようですね。)確かに競技プレイヤーや認定ジャッジ、あるいはイベント・コーディネイター諸氏は頑張っていると思うのですよ。でもこれだけ結果が出ていない、というか、むしろ逆効果になってしまっている。そういう事実はやはり厳粛に受け止めるべきだろうと思うのです。別に私はその事を批判したい訳ではありません。ただ「このままだと本気でじり貧なので、何とかしたらどうですか?」と言いたいだけです。

○ 今からできる打開策はないの?

 さて・・・このエッセイは言うまでもなくここからが本題です。現状を愚痴ってもしょうがないので、こうなってしまった今からでも可能な打開策を私なりに考えてみます。

 少し前に囲碁の世界は、例のヒカルの碁の影響で多くのニューカマーを獲得しました。そして囲碁の世界は碁会所とか各地方に張り巡らされたネットワークによって彼らを受け入れ、多くの新規囲碁打ち (^^; の定着に成功しているようです。そういうマンガやアニメといった“ Magic に手を出すきっかけ作り”は、それこそ(我々一般のデュエリストには実行不可能なので)WoCなりHJにやってもらうとして、我々はそれで Magic に入ってきた方々をいかに受け入れ定着してもらうか、そういう点を考えてみたいです。簡単に言うと囲碁や将棋に見られるようなプレイヤーのネットワークを Magic でも構築しよう。そういう事になるでしょうか。

 まず少なくとも都道府県単位で Magic 販売店が連携を取る必要があると思います。1つの都道府県の中に Magic のコア・ショップと呼べるようなお店を最低1箇所は作り、そこをその都道府県内で Magic を広めるための拠点にする訳です。そのショップは十分な規模のデュエルルーム、公共施設などを借りてのイベント開催のノウハウ、そして Magic の知識に長ける店員を備えている事が理想、というか必須条件になるでしょう。あと“あまり必要以上に競技 Magic に傾倒しない”事も重要かも知れません。特定の常連に占拠されたデュエルルームは販売の役には立ちにくい。これも Magic の歴史が教えてくれている教訓ですので。

 では、そういう拠点ショップとそれ以外の販売店はどう連携するのか。それはそんなに難しい問題ではありません。例えば拠点ショップが開催する大きなイベントに、他のショップが協賛店として参加するのです。あるお店で開いたイベントの優勝者をその店の代表としてコア・ショップでのイベントに派遣し、その参加費はお店が負担する。そういう簡単なやり方でも各販売店はコア・ショップの開くイベントに関われますし、またコア・ショップ側もイベントの参加者が安定確保できて助かるはずです。

 こういう話を書くと「それじゃあ結局のところ、他のお店のお客が全部コア・ショップに取られちゃうじゃないか。」とおっしゃる方が少なからずいます。でもそれって言っちゃうとお店側の自助努力次第ですよね。しかもコア・ショップ側はそれだけの投資をして Magic をバックアップしようと言っているのですから、そこにサポートの報酬として多少の売上が流れるのはむしろ当然なのです。それが嫌なら自分のお店をコア・ショップにすればいいし、そこまではできなくても良い常連さんを定着させてサポートを手伝ってもらう。やろうと思えば方法はいくらでもあります。

 ただ・・・このお話にはある決定的、あるいは致命的な問題が幾つか存在します。1つは「それだけのコア・ショップを作って、販売店はそれに見合う利益を回収できるのか?」という問題。これについては現時点ではかなり難しくなっていると言わざるを得ません。少なくともこのご時世に“ Magic 専門店”を開いても、まあ1年持つかどうかという感じでしょう。それともう1つは「じゃあそのシステムが受け入れるニューカマーを、そもそもどうやって獲得するの?」という問題。これについてはやはり現在競技イベントに費やしている資金を減らしてでも、マンガやアニメによる話題性の確保を始めるしか手はないと思います。ただ現在遊戯王OCGやヒカルの碁といった成功例を我々は幾つか見ている訳で、それの後追いと言われようがパクリと言われようが (^^; その手法を真似れば一定の成果は得られるだろうと思います。特に Magic はプレイヤーの平均年齢が高い事がゲームシステム維持の大前提になっていると思われ、やはりヒカルの碁方式を真似るのがベターじゃないかと思います。これなら大学生や社会人が見ても安心できるだろうし、やりようによってはじっくり Magic に取り組んでくれる地に足が着いたデュエリストを確保できる可能性があるからです。

  Magic の世界には、WoCやHJがニューカマー獲得の施策を取らない(特にマンガやアニメによる若年齢層デュエリストの獲得に動かない)事を、むしろ歓迎する動きもあるようなんですよ。「そんな子供が来てもデュエルルームがうるさくなって荒れる。」「競技 Magic のレベル向上に取って戦力にならない。」「カード購入量が少ないからデュエルやトレードの相手にならない。」といった辺りがその理由として挙げられるようです。ただ以前から書いているのですが、TCGというゲームは市場やユーザー数がある一定規模を下回ると、そもそもゲームシステムが維持できなくなって一気に瓦解します。大会を開いても十分な数の参加者が集まらない。デュエルルームに行ってもデュエルやトレードの相手がいない。そういうTCGは遊べないのです。それは最近ですとアクエリ辺りの急速な落ち込み振りを見ても分かると思うのですが、今や Magic もその限界点の一歩手前、あるいは一部の地域では既に限界点に足を踏み込んでいるかも知れません。(実は福井にも既にそういう傾向が見られるのですが。)立て直すならなんとか踏ん張ってる今が最後のチャンス、そう考えておいた方がいいでしょう。別に私は必要以上に危機感を煽るつもりはありません。ただこれを読んで日本の Magic の先行きに何の危機感を感じないという方は・・・いや、まあそういう楽観主義を持てる事が、最近ではある意味うらやましいと思う事も多々あるんですけどね。 (^^; 

あいせんの“本音の部分”

 まあこれだけ書いて、それでも何も変わらないのであれば、さすがに私も諦めます(笑)。

   

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