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日本選手権(予選)を考察するためのデータ
に関するコメント
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○ 総括

 まず最初にこれを読まれている皆様にお伺いしたいのですが、こういう資料ってメーカーとか競技 Magic を推進されているWebサイトなどで、関係者から自発的に提供されている物があるのでしょうか。いや、言うまでもなく私はそれが見つけられなかったので自分で作ったわけですが。 (^^;

 今年度の参加者総数は1543名。昨年度の実績を数にして219名、率にして12%以上割り込みました。今年度は予選全体で招待枠が8席増やされている事実から見ると、総括として「主催組織は今年度に、予選会場の追加による参加者増を目論んでいたが、これに関しては目標を達成できなかった。」と見て差し支えないかと思われます。これを以て成功か失敗かという結論はなかなか出ないと思いますが。

 ただ、過去4年間の参加者数の推移を見てみると、実はこれでも参加者数の減少率はここ数年で最も少なくなっていると思われます。最近の日本選手権・予選が毎年大きく参加者を減らしてきた。このデータは多くの関係者に周知であるはずですし、知っていなければ変でしょう。この事実を一般のプレイヤーにひた隠しにするために、この手の資料が意図的に作られてこなかったとすると、こういう発想こそが過去 Magic の世界で起こってきた、様々な問題に関する諸悪の根源なんじゃないでしょうか。

 少なくとも言えるのは、今年度の参加者数減少の要因は、一部で言われている“代理店公式サイトでの告知の遅れ”なんかでは決してないということです。それこそ濡れ衣もいいところです。過去に起こってきた参加者の減少を関係者が放置し、参加者側もそういうやり方を黙認してきた。だから今年もそのままの流れで参加者が減った。これが紛れもなく事実であり真実だと思います。


○ 販促企画としての日本選手権への評価

 この問題を考えるためのデータの提示から。2005年6月末現在、日本国内でDCIのデータベースに登録されている“構築戦プレイヤー人口”は、約9100人ちょっとになります。これに対して米国の構築戦プレイヤーは約5.2万人あまりだそうです。米国と日本の人口比はおおよそ5:2のはずなのですが Magic の競技人口に関しては今や6:1に近い開きがあります。このデータだけを見ても、昨年度の国内選手権の賞金総額が米国の7万ドルに対して日本が5万ドルという、この設定がかなりイレギュラーな状況になりつつあることが理解できるかと思います。プレイヤー数が単純にパックの売り上げに比例すると考えると、日本は今や国内選手権の賞金総額を2万ドル程度に減額されても仕方のない状況なのです。

 次に Magic 全体のユーザー数の推定をします。かなり以前に旧代理店から「日本の Magic 人口は約130万人である」というアナウンスがありました。代理店の Magic に関する売り上げが当時の1/5〜1/6程度に落ち込んでいる状況を考慮すると、現在の Magic 人口もその1/5〜1/6程度、すなわち20万人台半ばほどになっていると見ていいかもしれません。タカラは株主向けの決算資料において「2005年度は日本で Magic を10億円売りたい」という目標を発表しています。つまり現状はそこまで売れていないと考えるべきかとも思いますが。そうすると計算上、プレイヤー1人当たりの Magic 年間平均購入額が約4000円(ただし出荷額ベース。実売価格は8千円を少し切るくらいでしょうか。)となります。これはかなり実勢に近い数字なのではないかと思われますので、この推定はそんなに大きく的を外してはいないでしょう。

 以上のデータを元に単純な試算をしてみると、現在日本のDCI認定トーナメントは、実は Magic 人口全体の4%未満のプレイヤーにしか参加されていません。しかも日本選手権に至っては Magic 人口の0.7%未満しか利用していないことになります。 Magic は国産TCGのような一般の認定トーナメントへの支援をほとんど行っていませんので、この手のプレミアイベントがほぼ唯一の“販促”になっていると見てもいいかと思います。でもそれにしてはなぜか有料で、しかも参加費は安くないのですが。 (^^; 日本国内での Magic の売り上げが10億円とすると、そこから支出し得る販促費用は、総売上の3%に当たる3千万円ほどが適正値になるようです。ただし実際の売上はおそらくその10億円を割り込んでいるので、実際に使える販促費用はもっと少ないでしょう。その販促費用の相当部分、単純計算で約20%を賞金として支出されている日本選手権が、販促として日本の Magic 人口の1%にも利用されていない。これはユーザーほぼ全員が恩恵を受けられる、無料販促物の配布やアニメ放映などに比べると、販促としてはあまりにも効率が悪すぎる気がします。

 ただし競技的な意味合いの強いこの手のイベントに、これ以上の参加者がそう安易に見込めないのも事実です。決して安いとは言えない渡航費や参加費を負担できるプレイヤーはそんなに多くはないでしょうし、そもそもの話として“そういうイベントに参加できるだけのデッキ構築にもお金がかかる”からです。しかも不用意に参加者を増やして予選に人を押し込めると、今度は日本選手権の競技イベントとして見た質の低下が危惧され、逆にこれが理由で日本選手権の維持が難しくなる可能性もあるのです。そうなると今後は“ギャラリーに対するサポートの充実”や“直接的な参加ができないユーザーをイベントに巻き込む工夫”を模索する必要があると考えられます。このうちギャラリーの増員は、メインの競技イベントにおける不正防止にも貢献しますので、今後何らかの形で施策が実施されることを期待したいものです。ただし、だからといって追加の予算措置が取れるほど現状には余裕がないのも事実なので、その辺をどうするかが頭の痛いところですが。

 ついでにこういう機会なので、別のデータも提示しておきます。昨年度に日本国内で申請があった認定トーナメントは Constructed / Eternal / Limited の合計で1万件あまりです。この申請や事後処理の事務手続きにWoCやDCIが1件当たり1千円の事務負担を負っているとすると、全体では1千万円ほどの経費がかかる計算になります。使える販促費用が全体で3千万円未満という状況で、認定トーナメントの事務処理と国内イベントの賞金だけで2千万円近く、日本国内で開催されるグランプリの賞金を含めるとそれ以上が支出されている。これで「他の販促もちゃんとやってくれ」は、もはやかなり無理な相談だろうと思われます。計算上そんな予算はもうどこにも残されていないからです。しかし実際には Magic では今でも、競技イベントと平行してメディア向けの広告やPRイベントも実施されています。そうなると「プレミアイベントの賞金が、今やデュエル・マスターズの売り上げから捻出されている」という見方が、かなり現実味を帯びてきます。ただし、こういう状況は“デュエル・マスターズから Magic へのプレイヤーの流出が期待されている”今だから可能なわけで、おそらく今後そんなに長く続けられるものではありません。やはり代理店経由での Magic の売り上げを増やし、文字通り Magic が自活する道を模索しない限り、今後の競技イベントに対するサポートの縮小が検討されるのは時間の問題ではないかと思います。


○ 招待枠の適正化

 今年度の予選のデータを昨年度と比較すると、ちょっと面白いというか不思議な傾向が見て取れます。

 昨年度の予選で“招待率(=招待枠/参加者数)”が最も低かった、すなわち最も激戦になったのは関東二次で、次が関東一次です。決勝前日のオープン予選を除く、全国で開催された予選のうち、この2つの予選は招待率が5%を切っています。参加者20名に対して用意された招待枠が1席未満だった計算になります。ここで普通に考えれば「今年度の招待枠が増やせるならば、真っ先に増やすべきは関東の枠である。」という判断がなされるだろうと思います。ところが今年度は招待枠が全体で8席増やされているのですが、その枠はどういう訳か東海と近畿に4席ずつ割り当てられました。しかも更に東京の予選は千葉と神奈川に招待枠を分散され、今年度は招待率が更に悪化しています。東京二次が3.08%、東京一次に至っては2.80%しかありません。その一方で今年度は招待率が10%を超える予選が3ヶ所もあったのです。参加者10人に対して1席以上の招待枠が用意されていたわけです。

 更に今年度と昨年度を比べた地域ごとの動員の増減を見ると、招待枠を増やされなかった関東が前年度比93.5%であるのに対し、招待枠が増えた近畿が前年度比82.3%、同じく東海が前年度比91.7%になっています。つまり結果として“関東よりも動員を減らした地域に招待枠が増やされた(関東は Magic のプレイヤー人口維持に頑張ったのに、その報いを得られなかった。)”ことになります。また招待率の最も少ない地域と最も多い地域には、今年度は4.6倍もの格差が発生しています。ちなみに昨年度はこの差が1.7倍ほどで収まっています。実は去年の招待枠の振り分けは、かなり実勢に近い理想的なものだったようです。それで参加者はどこも同じ参加費を払っている。これは普通一般の感覚で見れば不公平ですし、この部分に関しては主催側の読み違えというか方針のミスがあったと言っていいかと思います。1つの見方としてあるのは「日本の Magic 人口は東高西低の分布になっているのに、そのサポートの手厚さは逆に西高東低な傾向になっている」というところでしょうか。この辺は予選の主催・運営者というか、認定ジャッジの力関係による部分が大きいと想像していますが。

 それで、できるだけ地域間の不公平が起こらない招待枠の割り当てをシミュレーションしたのが、資料にある“より適正な招待枠数の試算値”の表です。この表では予選の招待枠を4の倍数として算出しているので、これでもまだ多少ばらつきが出ます。(当然「2の倍数」にするとこの差はかなり小さくなります。)ちなみに去年の試算値は、招待枠を96席にして試算しているのですが、データ処理の過程で切り上げが発生して、その合計は100席になってしまいました。1つの方向性ですが、国政選挙の比例代表制のように、各地域の招待枠に固定部分と可変部分を設け、各予選の参加者数を見て最終的に招待枠を振り分けるような仕組みにはできないものでしょうか。予選の開催期日をある週の土日に集約すれば、そういう運営も可能かと思うのですが。(どうせ同じ参加者が複数の予選には参加できないのですし。)というか、そもそも今年招待枠を増やす余裕があったのに、それがなぜ関東に割り当てられなかったのか。私にはこのデータのどこをどうひっくり返しても、結論はおろか自分を納得させられる推論すら出てきません。ただ個人的には「日本選手権の本戦が、2年連続で大阪開催になったことと関連があるのではないか?」と見ていますが。この辺のお話は憶測で公には書けないので、興味がある方はメールでお問い合わせください(笑)。


○ 地方での予選開催について

 昨年度に比べて動員を減らした地域のうち、少なくとも北海道と北陸では予選の開催地が変更になっています。四国予選は四国4県を毎年ローテーションしているようなのですが、今年度は参加者を4割以上増やしています。やはりグランプリ松山の開催で盛り上がっているのでしょうか。参加者の便宜といった点はともかく、こういう開催地変更なら歓迎されるでしょうか。

 北陸予選についてですが、参加者数に関する評価は、新潟への動員をどう見るかで評価が分かれるので、ここでのコメントは控えます。下手すると新潟の動員が北陸と甲信越で二重計上される可能性もありますが。 (^^; ただ福井で開催された予選において、福井勢はベスト8に1名も入れなかったようです。もっと言うとベスト8のうち6名が石川勢で、招待枠4席も石川勢が独占しています。ここに石川&福井両県の昨年度の都道府県選手権の動員、あるいはここ数年開催されている認定トーナメント数といったデータも加えて客観的に判断すれば、今の時点で「来年も予選は福井で・・・」という発想には、普通ならないだろうと思います。(これに関する具体的な補足データは既に取得済みですが、今回は公開を控えます。あまり一度にネタを撃ち尽くしたくないので。 (^^; )

 北海道予選は、人口180万人程の札幌市から、10万人程の室蘭市に移っています。それで参加者が前年度比4割減。これは「それでも動員が4割減ほどで済んでいる」とも見て取れるわけで、この辺は北海道の Magic コミュニティの健在振りが垣間見えるかと思います。ただ、この結果を地元の Magic 販売店は間違いなく見ていて、そのデータが販売店の今後を決める指針になる可能性があります。これは北海道に限った話ではないのですが、どうも今回の顛末は、選手権の予選開催が“維持される”ことにだけ主眼が置かれ、今後に向けて“発展させる”という視点が無くなっている気がします。そこまでの余裕が既に無くなっている、そういうことなのでしょうか。

 日本の地方都市を代表する、もっと言うと“北海道と北陸という2つの地方の間違いなく中心である”都市で Magic のプレミアイベントが開催されない、あるいは開催できない!?状況になっている。実際GPT新潟も石川県では開催されませんでした。(こちらの方は札幌市でも開催されているようです。)この状況は普通に考えれば異常ですし、今年度の予選全体の動員減に少なからぬ影響を与えているはずです。来年以降正常化するための検討や取り組みは行われるべきだろうと思います。今から始めれば時間はたっぷり1年近くあります。できないはずはないでしょう。


○ 今後への影響とまとめ

 以前にも書きましたが、このまま日本選手権が“前年度比1割強の減少”という状況を放置すれば、3年後には参加者数は今の7割弱に、更に5年後には5割ちょっとにまで落ち込む計算になります。実際このままのペースで行けば、来年度には参加者数が2002年度の半分未満に落ち込むわけです。また“前年度比1割強の減少”という結果が、そのまま例えば都道府県選手権辺りの動員にも影響を与える可能性はあると思います。あと競技人口が減っているということは、普通はその競技を支える人口も減っている事を意味します。そうなるとイベント主催者や認定ジャッジの輩出にも悪影響を及ぼし、いずれ競技 Magic 全体が回らなくなる危惧もあります。というか、さすがに総数が2000人という大台を割り込んだ2004年の時点で、本来なら関係者が何らかの警鐘を鳴らしているべきだろうと思うのですが。

 特に今年大きく参加者数を減らした地域に関しては、今後 Magic そのものの拡販も含めて、何らかの梃入れが必要になるでしょう。認定トーナメントは仕組み上、主催を含めて9名集まれば何とか維持できますが、ここから1人でも欠けた途端に不成立になります。今までは1イベントの平均参加者数が20人から10人に落ちたレベルだったので何とかなっていたが、それが今年はついに8人を切って・・・そういう状況になるということです。地方のプレイヤーが感じる Magic の衰退感が決定的となり、地方を中心に更に大規模な Magic 離れが起こる危惧もあります。そしてそれが積算されて“日本選手権の賞金総額の減額”等という事態に陥れば、それを期にモティベイションが低下した競技プレイヤーが都市部でも大量に Magic を離反し、地滑り的に日本の Magic 市場が死に絶える危険すらあるのです。

 そして、実はその兆候は既に別のデータに表れています。昨年度の日本国内での認定トーナメントは、申請件数において一昨年度をわずかながら下回りました。一昨年度が10886件なのに対し、昨年度は10680件となりました。ただし率にすると2%弱の減少なので、統計上の誤差の範囲と見ることもできるかもしれません。ところが参加者不足などで成立しなかった大会が相当数あるようで、実は成立数では大きく前年度割れを起こしています。一昨年度が8056件なのに対し、昨年度は7470件となりました。率にして7%以上の減少で、これはもはや誤算の範囲では済まされないでしょう。おそらく日本の Magic の歴史において、これは初めての事態ではないかと思われます。特に構築戦に関して言うと、昨年度は全申請件数の7割未満しか成立していません。申請件数が6434件だったのに対し、成立した件数は4367件です。正確には全体の67.9%ほどです。そういう状況も正しく認識すれば、少なくとも「今までのやり方で全然問題ない」という発想にはなり得ないです。なお、この認定トーナメントに関するデータの詳細は、また別の機会に改めて提示したいと思っています。

 今年度の日本選手権に関して、その成否を語るのは意味がない気がします。主催組織はおそらくは開催前から“今年も大成功!”というコメントの素案を用意し、その中の空白に実際の参加人数を埋めて既に原稿を完成させてしまっているのですから。ただ国内総代理店がその売上を1/5とか1/6に減らしている、そんなゲームをいくら“成功している”“流行っている”と囃し立てても、現実は更に思わしくない方向に進むだけです。あまつさえ来年はその代理店が他社と合併し、更に売上やサポートに対する査定や監査が厳しくなると予想されます。今年の日本選手権を客観的に振り返り、イベントそのものや Magic の市場全体の拡大に結び付く提案を出す。これは何よりも日本での Magic そのものの生き残りのために必要な措置なのです。今までのような“身内でシャンシャン手打ちレベルの内輪ネタ”で終わらせるのではなく、それこそタカラやトミー、あるいはインデックス社の上層部に見せても恥ずかしくない分析や提案を公開すべきでしょう。さもなければ日本国内のすべての Magic 関係者が困窮する、深刻かつ最悪の事態が訪れる可能性すらあるのです。


このコメントに関する文責は、すべて私 あいせん にあります。
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